俺たちの伝説の夏   作:草野球児

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16話 俺たちの求めるもの

「なぁ末広、どう思う」

 同じカウンター席で隣に腰掛ける千島が、顔をどんぶりに下ろしたまま聞いてきた。千島の向こうで福寺がラーメンを啜っているのが見える。いつもと同じ3年生帰宅組のメンツだ。

 

 俺達が今いるのは、神高からほど近い運動部行きつけのラーメン屋。いつも「ラーメン屋」としか呼んでいないので、正式な店名は忘れた。

 放課後のこの時間帯は部活帰りの神高生徒が大勢押し掛け、店内にはモヤモヤとした汗臭さが籠っていた。

 

「何がどう思うって?」

「日曜日にある垣田商との練習試合だよ」

「あぁ、長坂が言ってたヤツか。とりあえず、なんでそこ相手に試合すんのか訳がわかんないわ」

「やっぱりそうだよなぁ、この前に岐阜一商にボロ負けしたから、あんまり強いところとやりたくないんだよね」

 

 なんとも面倒な話だ。強いトコとやってレベルアップを計ろうなんてのは分かるが、実力差がありすぎてまともな試合になるかどうかも怪しい。

 まぁ、大敗して塩谷らガチ勢が意気消沈してくれるならそれも悪くないか。

 ガチ勢はそっちだけで勝手にやってほしい、俺は俺達と同じくらいの弱小校と試合をやって、勝つか負けるかのスリルを味わう方がよっぽどいい。

 

「点差がヤバイことになりそうだな」

「確かにな、垣田商打線は抑えられないだろ。久々野も前回はボコボコに打たれてたし。

 そういえば垣田商業はセンバツで17対0なんて試合やってたよな?俺らとなら30対0とかあり得るんじゃないか」

「いや、久々野はなんやかんやで結構凄いからな。取られるとしたら15点くらいじゃないか」

 

 とにかく、勝負はもう決しているようなものだ。

 

『結果の見えている試合ほどつまらないものはない。』

 

 そんな、とあるプロ野球選手の言葉を思い出す。今回の試合はそういうことだ。

「何であいつらあんなに必死にやるのかね。頑張れば甲子園に行けるとでも思ってんだか」

 

 どんぶりの中にもう麺が残っていないことを箸で確認すると、スープを喉に流し込んだ。

 完食。

 ただ、まだ若干小腹が空いている。

 隣の千島を見ると完食間近だったので、今から餃子やらを注文するのは気が引ける。財布を確認すると手持ちもそう多くない。

 店内を見回すと、ほとんど神高の運動部で埋め尽くされる中で一組、神高ではない制服の男女がいた。男子生徒の方は俺と同じラーメンを注文していたが、随分小柄な女子の方は杏仁豆腐をなんとも幸せそうに食している。

 腹の減りが深刻になる。デザートを食べる腹を決めた。

「大将!杏仁豆腐ひとつ」

「はいよ!」

 

 俺にとっては手の届かない甲子園よりも、今から手元に届く杏仁豆腐の方が楽しみだ。

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