俺たちの伝説の夏   作:草野球児

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5話 天才。マウンドに起つ

 春。快晴。程良い気温。いや、少し暑いかもしれない。

 一年中この気候が続いてくれないかと願いたくなるような、まさに最高の野球日和という素晴らしい天候の下、これから始まる練習試合に向けて体を入念に動かす。

 今日の相手は過疎地域にある学校の弱小野球部。お互いの学校の距離と野球のレベルが近いという理由で何度か練習試合を組んだことがあるが、俺の知ってる範囲では確かこちらの全勝だったはず。

 そして、片野監督はこの試合の先発ピッチャーに久々野を指名した。久々野の事を認めているのは選手である俺たちだけではなかったようだ。ただし、あくまで練習試合なので久々野が投げるのは3回まで。その後を俺と二年生の河崎のリレーで繋ぐことが伝えられた。

 

「ずいぶん簡単に先発の座を奪われたな。元エース」

 試合開始直前、塩谷からヤジを飛ばされたが、俺自身マウンドにそこまでこだわりはない。キャッチャーボックスからグラウンドを見渡すほうが性に合っている。

「元々は捕手の方が本職だしな。それにアイツが一番良いピッチャーなのは間違いない」

「まぁ、そうだよな。俺が監督でもそうする」

 すぐさま肯定されると、それはそれで傷つく。だが言い返すのも面倒なので、塩谷の背中を強めに叩いて内野陣のキャッチボールの和へ送り出した。

 

 規定の投球練習が終わり、1番打者が明らかに動揺しながら左打席に入って構える。

 このグラウンドにいるチームとは不釣り合いなレベルの直球に、相手ベンチのざわめきはまだ収まらない。おいおい、まだ全力は出させていない。8割程度でしかないぞ。

 

 俺は一度息を吸って落ち着く。ストレートのサインを出す。久々野は頷き、モーションに入った。

 綺麗なワインドアップのモーションから、投球練習の時とは段違いの速球が投げ込まれる。

 外角低め一杯に速球が決まった。

「ストライク!」

 球審が高らかにコールした。打者は打ちにいこうとはしたが手が出なかった感じで、すぐさま打席を外し間を取る。

 

 二球目。またストレート投げさせたが空振り。もう一度打席を外してバットを短く持ち直し、素振りをして打席に戻る。

 三球目。外に外したストレートが高く浮いた。が、バットが目の前で空を切る。空振り三振。

 俺は三振に討ち取ったボールを元気よくサードに回した。久々野を見ると、特に表情も変えずスパイクでマウンドを均している。ナイスボール!と声を掛けると帽子に手を掛けて「ありがとうございます」と早口気味に答えた。

 今の一番打者への投球を見て確信した。打たれる気がしない。小手先の技術ではどうしようもないレベルの力量の差、というものがある。相手打線と久々野の関係がまさにそうだ。

 片野監督の前でそれを言えば満心だ、と言われるに違いないが、少なくとも久々野の後ろで守っている味方ナインもそう思っているのではないだろうか。

 

 大丈夫だ、打たれない。そう声を掛けたい気持ちを抑えて、俺は二番打者に対する初球のサインを出した。

 

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