「ひゃー、でかいねぇ」
復興作業をしていると、私の足元に未確認の人間がこちらを見上げていた。
「なんだお前は」
「商船改装空母、隼鷹でーす!」
これが艦娘か。
「そうか。早速だがお前にはやってもらう事がある」
「お、なんだい? 提督ぅ、意外と血の気が多いねぇ」
「班長、案内してやれ」
「おうよ」
私は復興作業に戻った。
「うわーん! 提督ぅ!」
休憩時間中、艦隊司令室の窓から隼鷹が顔を出していた。
「なんだ」
「なんであたしが提督の書類書かされてるんだよぉ!」
「私が持てる筆記用具及び、記入可能な記録媒体が無いからだ」
「・・・・・・あー」
隼鷹は私を見上げて納得したらしい。
「ならしょうがないけどさ。こんなに仕事が溜まってたんじゃ飲む時間もないじゃん! しかも飲もうとしたら酒保潰れてるし!」
酒か。ムラクモの上層部がよく賄賂として要求してきたな。
「班長、酒はまだあるか?」
「ああ、一応俺達が飲む分は掘り起こしてあるけどよ」
「それを隼鷹の休憩時間に届けてやれ」
「分かった。・・・・・・おい! 適当に見繕って届けてやれ!」
「おっ、話が分かるじゃん。さっすが提督ぅ!」
「話は以上か?」
「ああ、後出来るだけ早く応援頂戴よ。長時間物書きしてると手が痛くてさ」
記録によれば以前、隼鷹の製造に物資を全て消費したはずだ。
「班長、物資はまだあるか?」
「あるこたあるけどよ。使っちまったらあの娘っこが食う分無くなっちまうぜ」
「・・・・・・隼鷹、補給が来るまで応援は寄越せない」
「そんなー」
だが、あの
「・・・・・・この作業が終わったらしばらく出撃する」
「戦闘かい? デスクワークでストレス溜まってたんだぁ。ひゃっはー!」
「お前は留守番だ」
「えっ!? じゃあどうすんのさ!」
「私が出る」
『はぁ!?』
隼鷹と班長が驚愕している。
「あんた提督だろ!? どこの世界に一人で出撃する提督がいるのさ!」
「そうだぜあんちゃん。流石にあんちゃんが乗れそうな船はここには無いぜ」
「隼鷹。お前が負傷したら書類作業が滞る」
「いや、その理屈はおかしいってマジで」
現在、提督業を代行可能なのが隼鷹しか存在しない。
「どうやって行くんだ? あんちゃんの身体じゃあ泳ぐのも無理だろ。まさか飛んでいくのかい?」
「そうだ」
隼鷹と班長が絶句している。
こちらの戦力の隠蔽も考えたが、現状ではあまり好ましくない。このままでは遅かれ早かれ露見する。ならば有効に活用すれば良い。
この国の戦力も、誘導性能の無い砲とプロペラ機が主戦力であると記録している。問題は深海棲艦の浸透戦法だが、海上を浮遊していれば察知されるだろう。
「まあなんか考えがあるんだろ。だったらあんちゃん用のドックが出来てからだな」
現在、高速修復剤が枯渇しているとの事で妖精達が私のドックを艦娘のドック横に増設中だ。
「提督は何者なんだい? 書類は艦娘に任せて出撃するとか、その身体とか」
「傭兵だ」
その後幾日か経過し、復興作業が一段落したので自然発生した艦娘を確保する為、私は出撃した。
艦娘は海で自然発生するケースが多々あり、深海棲艦も艦娘及び人間を発見し次第敵対行動を取るので近海で友軍では無い戦闘行為は艦娘と推測出来る可能性が高いとの記述があった。
その為、私は羅針盤と呼ばれるレーダーを所持した状態で鎮守府近海を巡航している。これを所持したままだと変形が出来ないので、緊急事態の場合破棄する事も視野に入れている。
レーダーの示した方向に飛行し続け、自前の生体レーダーにも表示された所でそれの姿を捉えた。
大破壊後でも一部の海域で確認出来たとされる海洋生物に良く似た形状、眼球は発光し、頑強そうな歯をむき出しにしている。
それは私の存在に気付いたのか、口腔内から砲身がせり出しこちらに向けていた。
――システム戦闘モード。
深海棲艦の砲撃。曲射であるそれを余裕を持って回避、私は戦闘速度で接近。次弾を装填中と推測されるそれにプラズマキャノンの照準を向け、ロック、発射。
二次ロックが必要無いと推測される程度の速力であるそれに着弾し、蒸発した。
――システム、スキャンモード。
「・・・・・・艦娘の反応無し」
羅針盤で次の深海棲艦の方向を確認後、巡航速度にて移動。さらに二体の深海棲艦及び艦娘と推測される人型の生物を確認。
深海棲艦は仮称、艦娘と交戦中。プラズマキャノンでは着弾後水蒸気爆発による被害が艦娘に及ぶ可能性がある為、艦娘の距離が離れた瞬間、深海棲艦達を強襲した。
ロック、発射、着弾。ロック、発射、着弾。
一体目の深海棲艦との距離が近かった為、二体目の深海棲艦は水蒸気爆発に巻き込まれ、吹き飛んだ所に追撃のプラズマが着弾、蒸発。その他の深海棲艦の反応確認出来ず。
ピコンと言う正体不明の音声を拾ったが、判断材料が皆無なので無視する。
「大丈夫か?」
艦娘は怯えた目でこちらを見ている。
「――あなたは、何者?」
「この近隣の海域の鎮守府に所属する提督だ」
「提督さん? ほんとに?」
「嘘を付く必要が無い」
艦娘はしばらくの間葛藤していた。
「・・・・・・分かったわ。提督さんって凄く強いのね! 夕立は白露型駆逐艦、夕立。よろしくね!」
「ああ」
艦娘が確保出来た以上、この海域に留まる必要は無い。
「夕立、お前を鎮守府に案内する。乗れ」
「はーい!」
小破している夕立ではそれほどの速度が出せないと推測。羅針盤を所持している反対の腕部へ夕立を乗せ、鎮守府へと帰投した。
「提督、無事?」
鎮守府へと帰投すると、直立した状態の隼鷹が待機していた。
「無傷だ。隼鷹、仕事はどうした?」
「「仕事はどうした?」じゃないって! 心配して手に付かなかったから待ってたんだよ!」
「そうか」
「そうかじゃないよもぅ~!」
隼鷹はそう言うと、脱力して座り込んだ。
「提督さん、夕立降りたいっぽい」
「分かった」
夕立を降ろす。
「お姉さん、大丈夫?」
「・・・・・・うん、大丈夫」
「提督さん」
「なんだ?」
夕立は憤慨している。
「お姉さんは提督の心配してたっぽい。なのに提督さんはちょっとひどいっぽい!」
「それは無意味だ」
「提督さんは凄く強いけど艦娘じゃないから心配してもしょうがないっぽい」
「・・・・・・そうか」
私は感情を持て余した
「隼鷹」
「何? 提督」
隼鷹は座り込んだままこちらと視線を合わせず返事をした。
この場合は謝罪するのが最善なのだろうが――。
「私に感情を教えて欲しい」
「は?」
「この場合は謝罪すべきなのだろう。だが、私はお前達が抱いている感情が分からない。故に謝罪した所で意味など成さない・・・・・・だが」
「私はお前達の持っている感情を知りたい。それを理解した時、改めて謝罪しよう」
「――そっか。しょうがないなぁ、提督は!」
隼鷹は立ち上がると嘆息し、そう言った。
「夕立ちゃん、怪我してるみたいだから治してこよ。いいっしょ、提督?」
「ああ」
「じゃあいこ! 提督、後で撃破した深海棲艦の事、教えてね?」
「分かった」
「それと提督! 提督も一応入渠しておいて方がいいぜ!」
「ああ」
隼鷹は夕立を伴いドックへと歩いていった。
――その晩。
「隼鷹、深海を倒した時に発生する音はなんだ?」
「へぇ、提督も練度が上がるんだ」
艦娘と深海凄艦のキルレシオが同等だとして、人間の操舵する軍艦と艦娘の戦力比はACに例えるとアームズフォートとハイエンドノーマルくらい。でも深海凄艦は海中から突然現れる上、畑から取れる国の兵士より数が多いので割ときつい。尚、霧の艦隊はネクストクラス。