その晩、隼鷹が私に深海棲艦の説明を求めたのは、交戦記録を記入する為だった。
「えーと、じゃあ確認するよ? 深海棲艦とは2回交戦。艦種は・・・・・・駆逐艦。多分イ級。最初の交戦で1隻、次で2隻っと」
「そうだ」
「で、砲撃により回収は困難・・・・・・っと」
「ああ」
交戦記録の情報を参照した媒体には極力、深海棲艦を撃沈した証として一部分は持ち帰ることが推奨と記録されていた。だが、戦艦の砲撃や艦載機の爆撃などにより回収が困難となるケースも存在する為、あくまで推奨と言うレベルに留められている。
「提督さんすごかったぽい! ビャーって撃ったのがどかーんって当たったら全部居なくなってたっぽい!」
「びゃー? どかーん? 提督ぅ、榴弾でも撃った?」
「プラズマだ」
「プラズマ・・・・・・? ま、いっか。今度見せてよ」
「分かった」
「とりあえずあたしと夕立ちゃんが補給する分には燃料と弾薬はOK・・・・・・っと。提督はどうすんの? つーかさ、提督って何食べるの?」
「食物の摂取は不可能だ。だがジェネレータが無事なら世紀単位で活動出来る」
「そっか、呑めないのは残念だねぇ。まぁ、仕方ないか。後は鋼材とボーキだね」
「鋼材は使用不可能な建造物から分別したものがある。ボーキサイトは精錬済みのアルミニウムならそちらも保存してある」
妖精達と共に作業に当たっていた時点で大分解体した建造物や、掘り出した資材が貯まっていた。だが、燃料および弾薬は深海棲艦の攻撃を受けた際に大半が誘爆したので残量には注意が必要だと聞いた。
「でもそれだとジリ貧じゃん?」
「ああ、なので兵站を復活させる為にも一度大本営へ行く予定だ」
この国では連絡をすれば即座に情報が処理されると言う訳ではなく、私が提督と言う立場にあるのも前線での暫定的な処置である。無線、書類などによる連絡、情報源が不確かな場合は責任者を招集する。その上で物資を集積所から輸送する必要がある。なので正式に提督となるには一度大本営に出頭する必要性が出現する。
だが、一般的な提督の戦力の基準が成人した人間を基準としている場合、私を確認した段階で警戒すると推測される。このような状態で補給を大本営に依存するのは、仮に大本営の命令を無視、もしくは反逆する必要がある場合に補給を断たれる可能性がある。なのでなんらかの対策を講じる必要がある。
しかし、いつまでも顔を出さずに居ればそれはそれで疑問を抱かれると推測する。「妖精達が架空の提督を騙り、独断で艦娘を運用している」と。かつて私がラナ・ニールセンとしてあの
そうなれば拠点の確保及び艦娘の運用は困難と判断する。私の現時点での目標はレイヴンズ・ネストの発見、それが不可能な場合、新たなレイヴンズ・ネストの構築及び人類の監視、存続だ。条件付きで人間の感情の学習などの項目に分類する。
「ふわぁぁ・・・・・・提督さん、夕立眠いっぽい」
日没から大分経過している。駆逐艦は見た目の通り幼いらしい。
「隼鷹、そろそろ解散する。お前は夕立と休め」
「あいよぉ~、おっ疲れさん」
隼鷹は夕立を連れ、司令室から退出した。
私は司令室の窓の前で屈んでいた上体を起こし、班長に連絡することにした。
「班長、私だ」
『おう、どうしたよ?』
「警戒を最低限にし、他は休息と隼鷹、夕立の歓迎会の準備を行え」
『そりゃやった方がいいって言ったのは俺だけどよ。空いた分の見張りはどうすんだよ』
「私が代行する。慰問による戦意の維持は重要だろう。それと・・・・・・頼んでいたものは出来ているか?」
『ああ、クレーンの横に置いてあんぜ。俺からも用事があったんだよ』
「なんだ?」
『入渠ん時にまだフジツボ残ってるのが見えたからよ。ついでに落としてやるよ』
「そうか、頼む」
翌朝、焼け残った支柱を加工して作ったらしい硬筆と廃材の表面を削った木板で文字の練習をしつつ警戒をしていた私は浜辺付近に反応があったので班長に一言告げ、向かった先には深海棲艦の幼体が居たが、脅威と見做さなかったので捕獲してから帰還した。
「戻った」
オカエリ。ソレハ?
見張りの妖精達がモールス信号で返答した。
「深海棲艦の幼体らしい。浜辺で捕まえた」
リョウカイ、ヒキウケル。
「任せた」
深海の幼体を妖精達に渡し、警戒と文字の練習を再開し、しばらくすると隼鷹が夕立を連れて宿舎から歩いてきた。
「おはよー提督ぅ~」
「おはよう提督さん!」
「おはよう」
「おっ提督ぅ~、なんか書いてた?」
隼鷹が硬筆を所持している私に対して疑問を抱いたようだ。
「文字の練習だ」
「感心感心」
「見せて見せて」
金属板に木板を留めたそれはクリップボードを参考にしたと聞かされた。私の足元にも数枚の木板が積み重なっている。
「提督案外字がヘタだねぇ」
隼鷹と夕立は興味深そうに木板を見ている。そこには人間用の紙媒体にどうにか収まる程度且つ言葉と読み取れる事がかろうじて可能な文字が記されている。
「見て見て隼鷹さん、提督さんすごく練習したっぽい」
「どれどれ?」
夕立が別の木板を引きずり、隼鷹に見せる。
「えっ? 提督ずっと練習してたの?」
それは凹み、穴だらけになり書類としての用を成さなくなった木板だった。
「あ~、こりゃすごい。むしろ一日でそこまで進歩してたら上出来だよ」
「そうか」
「照れなくていいってぇ~」
「提督さんえらいっぽい!」
隼鷹と夕立が賞賛している。
「・・・・・・ありがとう」
「お、素直になったね。まだ声が硬いけど十分さね」
「・・・・・・妖精達が準備した。食堂に行って朝食を摂って来い」
そこから先の対応が解らなくなった私は、班長に頼まれていた伝言を伝えた。
「可愛いねぇ~。ひひっ」
「提督さんまたねっ」
隼鷹と夕立は連れ立って食堂へと歩いて行ったので私は書き取りを再開する事にした。
修復剤がナノマテリアル方式だと仮定すると入渠前では中身スカスカ。入渠で鋼材が50、弾薬が150近く溶けました。小破未満。
いきゅーは艦娘に限り可食。無鉄砲な割りに簡単に捕れるので貧乏な鎮守府ではよく食べられる。