12月21日。
クリスマスイベントをもう何日か後に控えた寒い日のことである。
俺は予備校に向かっていた。
なんかほんと最近忙しすぎるんだけど……。
働きたくない働きたくないって言いながら結局社畜なサラリーマンってこんな感じなのかもしれない。
学校、イベント準備、学校、イベント準備予備校で授業、学校、イベント準備、予備校で授業…学校…よびこ…頭の中でループする。メダパニ状態。
奉仕部での問題は解決したものの、って思い返すと黒歴史。超恥ずかしい。
今日は、予備校にも行かなくてはならない日だった。しかも今日なんか授業ですらない。
三学期準備ガイダンスとかいうものらしい。
おそらく年末年始のすごしかた的なものを話されるんだろう。三学期良いスタートを切るために!ここ大事だよ!みたいな。
そんなものにはまるで興味なかったが、スカラシップを継続してとるため。知らなかった!?ええ!?嘘!?みたいな情報があってはならない。結構基準が厳しいのだ。
俺は時間ぎりぎりの所で予備校に入り教室を時間割で探す。こういった時間調整結構大事。
二〇一教室なのを確認してから教室へ向かう。
壁に大量にはってある妙に暑苦しいポスターを辟易しながら教室に着くと、教室はもうほぼ満室といった具合だった。
えぇ……なんでこんなに出席率いいんだよ……。
おかげで隣が空いている席もなければ壁際の席も既に埋まっている。ごめん、八幡さっき嘘ついた。やっぱり大事なのは時間調整より前もって時間に余裕を持って行動することだね!
しぶしぶ、最後尾の空いている席に座る。
まぁ、一時間程度だし我慢するか……。と思っていると、視線を感じた。
首の向きを変えずに横目で盗み見る。
そこには、見覚えのある青みがかった黒髪をシュシュで束ねたポニーテイル。弟にメールでもしていたのか携帯を片手に持っていたが、その手には力が入っていなく、落としそうだった。
隣に座っていたのは、川なんとか沙希。
略して川崎だった。
×××
目が合って時が止まったようになる。
これは気まずい。一応なんだかんだで結構な知り合いだから余計に。
えーっと…なにか話さないとこれはやばい。
ガイダンスはじまってしまえば後はこっちのものだが、それまで会話の糸口をなんとか探さないと……。
「き、来てたのか……」
「あ、あんたこそ……」
「あ、あぁ……俺は…来た……」
…………。
沈黙。
なんだ俺は来たって。私が来た!ってヒロアカじゃないんだから。
…………。
えっと、もうこれ無理じゃない?修復不可能じゃない?
開幕10秒で諦めてると川崎がもにょっと口を動かして言う。
「……そ、そう、来たんだ」
まさかのタイムラグ、衛星放送ばりのタイムラグだった。しかしこれはチャンス。こっから繋いで一気に勝つる!
「あぁ……来た……!」
完全に詰んだ。俺バグってるんじゃないの?ちょっと食い気味に言ったせいでなんか勢いついたし。
川崎の方を見ると、目をそらされた。
なんか、もう、いいや……。帰ったら速攻寝て忘れよう。俺はこれ以上やらかさない為にも挙動不審にならないよう気をつけるだけでいい。
俺は、あんなに興味のなかったガイダンスが一秒でも早く開始されることを祈った。
×××
予備校のガイダンスが始まった。
やっとはじまってくれたよ…!
説明する講師はなんか新しく入った人らしく、遅れて入ってきた割になんかこの資料置いてきちゃったとかパワポが立ち上げられないだの異常に手際が悪かったがなんとか始まった。
冊子になった資料が前から配られる。
ひょいひょいと後ろに周り、俺たちのところまで来る。
「全員、行き渡ったかなー?」
講師がなんだか少し不安気に言う。
幸い、渡ってきてませんという声はなく、講師は安堵したようだった。
そうして、説明がはじまる。
「えっと、あまり時間が無いので最初の大学紹介のページは飛ばしますー。後でうちに帰って各自で読んでおいて下さい。それで、次の8ページ開けてー」
最初から飛ばすならそこに載っける必要ないでしょ……。とか思いながらと聞く。
すると、目の端でおろおろしてる奴が目に入った。
見ると川崎は、机の上に筆記用具以外何も出していなかった。え?配られてないの?
配られてないならそう言えよ……。講師がなんとなく不安気にしてたのって部数心配してたのね……。
ありがた迷惑になるんじゃないかと少し迷ったが、おろおろしてるのをただ見てるのも気分がちょっと悪いので、資料をスーッと手でゆっくりスライドさせる。資料なくてもどうせ前のパワポで映し出されるしいいや。
川崎はぎょっとした顔をしてこっちを見てきた気がするが、俺は前を見て顔を合わせないようにする。いや、なんかアレだし。
しばらくすると、視線の端からスーッと手が伸びてきた。
渡した資料。
えぇ……なに?返却?
資料が元の位置に戻される。
えっと……あの、川崎さん?
川崎の方を見ると、川崎は前のパワポの方を見ていた。
二度見するが目が合わない。もしかしてぼく透明人間になっちゃったの?インビジブル?
渡した手前、返ってくると負けた気分になる。
てめぇの施しは受けねぇよ!へっ!って感じ?
それに、川崎は俺と違ってスカラシップとれないと結構本気でやばいっぽいし、また深夜バイトみたいなことになっても困る。
俺は帰ってきた資料をまたスライドさせる。
ばいばいっ!ぼくのしりょう!
資料は川崎の元へ。
ちゃんと今度は行ったかな……。と思い、川崎の方をちらとみる。すると目が合ってしまった。
固まること数秒。
講師の声が急に遠くなる。
まぁ、このままでもまた返ってくるだろうし。
俺は無言のまま、いいから持っとけよと視線で促す。
川崎は冷めた目を尖らかせて、いや大丈夫です。という視線をやってくる。
見つめ合うこと数秒。
ふうっと川崎はため息をつく。諦めてくれたか……。
俺は安心して前を向く。
すると、資料がスライドされる。野郎まだ諦めてなかったか!
ばっと見ると、資料は真ん中に置かれていた。
川崎は、やっぱり前のパワポの方を見ている。
……あぁ、最初からこうすれば良かったのね……。
俺も、パワポの方を向いて講師の説明を聞いた。
講師の声は、やっとちゃんと耳に入ってきた。
×××
ガイダンスが終わり、アンケートを書くと解散となった。
川崎は、「下で資料貰って帰るから」とだけ言うとそそくさと行ってしまった。
教室を出るときぽしょりとなんか聞こえた気がしたが多分聞き間違いだろう。
俺もアンケートを書き終え、教室を出る。
携帯で時刻を見ると、八時五分を指していた。
一階の自販機でマッ缶、買って帰るか……。
マッ缶を買い、一息に飲む。
やけに疲れたガイダンスは、マッ缶が癒してくれた。
やっぱこれだぜ、それはトッポか。
自転車にまたがり家へ向かう。
ヒーメヒメと脳内で歌いながらペダルを回していると突然携帯が鳴る。
「もしもし?」
「お兄ちゃん?今予備校出たとこでしよ?帰り牛乳買ってきて、あー、それとトイレットペーパーも切れかかってるからお願い」
「えぇ…お兄ちゃん疲れてるんだけど……明日、いや明後日じゃ駄目?」
「だーめ!頼むよ!じゃ!」
一方的に切られてしまった。
めんどくさいなぁ……。
可愛い小町のため、愛する家族のため、買って帰るか……。頑張るよ!お兄ちゃん!
まぁ、ただのおつかいなんですけどね。
この近くだとローソンかスーパーになる。
スーパーの方が安いし、そっちに行くか。
俺はスーパーの方へ方向転換をして、自転車を漕ぎ始める。
またしても、会うと知らずに。
読んでいただきありがとうございます!
短編なのでこれで終わりです
最後の文面とタイトル掛けてみました。掛かってない?
次回はなんの短編書くかはまだ決めてません。リクエストあれば受け付けてますので是非。というかされると滅茶苦茶嬉しいです。