俺ガイル短編 彼らの日常は進み続ける   作:ふじ成

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やはり、一色いろはは唐突に現れる。(後編)

「先輩先どうぞー」

 

特に断る理由もないので俺が先行を切る。

 

アニソンとかだと有名なやつ以外は引かれる可能性があるので、当たり障りない曲をセレクト。

かつ、これは点数勝負。点の取りやすい、テンポが丁度いい、かなりガチの曲選だ。

 

 

結果は、86。

 

俺としては良い方だった。

一色の方を見ると「先輩、案外歌えるんですね…」とか言っていた。

 

 

「それでは、次はですねー」

一色が歌い始める。

曲名は知らなかったが店などで流れてくる流行歌だった。

 

 

点数は……93。

 

 

え?

 

「まぁ、こんなもんですかねー」

 

予想してなくもなかったが、一色は上手かった。というか、これ勝てなくない?

前回ちょっと熱い感じで終わったのに、蓋を開けてみればヤムチャとフリーザばりに戦力が違う。ヤムチャは地球人だ。超サイヤ人にはなれない。最近だとゲームで覚醒したりしてるらしいが……。あれどうなってんの?

 

おのれ…一色…!謀ったな…!(なにもしてない)

その後も一色は90越えを連発。

俺はた80後半が行けばいい方だった。

 

結果は惨敗。

 

オチも覚醒もなにもなかった。

俺はため息を吐く。

ほくほく顔で一色は言う。

 

 

「先輩の負けですね☆」

 

ほんと嬉しそうだなこいつ……!

まぁ……ぼく、そのうれしそうなかおをみれただけでまんぞくです。まる。

 

 

 

 

×××

 

 

 

映画の後は、予定通りミスドに向かった。

 

約束通り奢ることになる。

まぁ、ミスドだし、千円程度で済むだろうし。

俺は胸を撫で下ろしつつ、ドーナツの並んでいる棚から選んでいく。

 

「一色、どれにする?」

 

「あの……先輩、私別にそんなに奢ってほしかったわけじゃないんでいいですよ?」

 

 

「別にたいした額じゃねぇしいいから」

 

 

視線でいいから早くと促すと、一色は諦めたような仕草をする。その割に嬉しそうなのは気のせいですか、一色さん。

ポンデリングと…あ、その苺かかってるのと…と言うのを聞きながらトングでひょいひょいドーナツを掴む。

会計を終え、皿に分けると数時間か前に買った小説を読みながらもぐもぐ食べる。

見ると一色は買っていた雑誌を読んでいた。

やっぱ、その雑誌なんかきらきらしたオーラ出てんな。覇王色の覇気でも持ってるの?

 

 

 

「……。」

 

 

 

 

「……。」

 

 

 

 

会話は特にしなかった。しかし不思議と気まずくならない。

時折聞こえてくるのは、ページをめくる音だけだ。俺は文庫本の文字列に集中できる。

 

 

───楽しいなぁ。

 

思わず呟きそうになってしまったのを慌てて抑える。

誤魔化すように息を吸うと、そのまま深く腰掛けた。

 

そして映画までのひと時を、ゆったりとした気持ちで過ごした。

 

 

 

×××

 

 

 

時間になったところで映画館まで移動した。

券売機に向かう。

券売機は、今ではちょっと少なくなった人が受け付けるタイプだった。

 

「で、どこにする?」

 

「前の方にしましょうよー」

 

む、後ろの方と言われたら、そうか俺は後ろ行くから終わったら後で会おうって言おうと思ってたのに……。

 

……いや、もう潔く諦めた方がいいのかもしれないと思ってきた。

まぁ、あの、そろそろわかってるんですよ?俺だって少しは。

潔くっていうか、なんていうか。

脳内であーだこーだと言い訳しながら口を開く。

 

 

「……ここ、二つ空いてるし。それでいいか」

 

 

 

一歩にも及ばないけど、そろそろ進もう。

 

一色は、ほんの少しおどろいていたような顔をしていたような気がする。なんとなく顔を向け辛かったからわからない。

 

 

「はい、いいです」

 

「そうか」

 

なんだかむず痒い気持ちになりながら財布を出す。すると、とんでもないことを言われた。

 

 

「今、高校生以下限定でカップル割っていうのやってるんですけどー高校生だと一人千円なんですが、カップルで来るとペアチケット1700円なんですけど、カップルさんですか??」

 

 

 

はえ?頭が真っ白になる。えっと?なに?カップル?なに、モンハン?それはハプルポッカだ。全然似てねぇななんだこれ。

 

「えっと、あの…」しどろもどろになりながら答える。さっきまでの気持ちやらは一瞬で爆散していた。

 

 

 

「違「あ!そうです!それでお願いします!」

 

 

おい今なんつった?え?突然、腕に柔らかい感覚。見ると一色が俺の腕をつかんでいた。横目でちらっと睨まれる。

ちょ、柔らかい、いい匂い、やめて!

 

「あ、わかりましたー。じゃあ1700円ですねー」

 

「あ、会計別にできますか?」

 

「となると、一人あたり八五〇円ですねー」

 

なんか俺一人を置いてガンガン状況が進む。ナニコレ?

「はーい!ほら、先輩。先輩?」

 

一色がぱっと腕を離し、一人パニック状態になっていたのを戻される。

 

 

おかげで、あ、あぁ、と気持ち悪い声で返事をするのが精一杯だった。

 

財布から金を出し、支払いを終える。

 

……というか、なにより心臓がやばい。

なんとか鼓動を落ち着けようとするが、意識するほどやばいので放っておいた。

 

 

「安く済みましたねー、それより先輩違うって言いかけましたよね」

 

 

急にじとっとした目を向けられる。

 

 

「いや、だってその通りだろ……。……お前だって勘違いされたら、嫌なんじゃないの?」

 

 

なんとか反論すると、つーんと口をとんがらかして言ってくる。

 

 

「別に安くなりますし、そういうところで意地はる必要ないと思いますけど……別に嫌じゃないですし」

 

 

どんどんと声が小さくなりながら一色が言う。照明のせいかこころなしか頬が紅く見える。

最後に小さな声でぽしょりと付け足された言葉をこの言葉は社交辞令だろう。真に受けたら、思わぬ墓穴をきっと掘る。そう思うことでなんとか堪える。そうやって、自分の予防線が叫んでしまい話を逸らしてしまった。

 

「あー、そういやポップコーン買ってねぇし行くか」

 

ちょっと自分でも強引だったかなと思ったが続ける。

 

 

「……先輩は、どうなんですか?」

 

「並んでるみたいだし、映画おくれちゃうから、さっさと並ぼうぜ」

 

「先輩?」

 

「キャラメルか塩どっちがいい?お前の分まで買ってきてやるよ」

 

「き、キャラメルで……」

 

「おう、もう開園してるみたいだし、先座って待っといてくれ」

 

ちょっと困惑気味の一色がスクリーンに向かうのを見送ると、ポップコーンの列に並びぼんやりと呆ける。

もう俺は中学時代のような失敗はもう繰り返さない。メールがきただけで好意を持ってるんじゃね?とか二度と勘違いはしない。たまたま好きな女の子と教室でふたりきりになったとしても運命なんて感じないし、自意識過剰こそが自分をもっとも傷つけることを知っている。

 

一色の好きな人は葉山だ。

 

幸いにして、それを俺は知っている。

ならば勘違いもせずに済む。黒歴史という屍を超えて比企谷八幡は出来ている。

その屍だけは俺の物だ。それだけは俺以外の誰のものでもないし、俺以外に価値のあるものではない。ならば、俺が大切にしなければ誰が大切にしてくれるというのか。

自分を、自分の過去を真の意味で肯定出来るのは自分だけ。

罪咎と失敗も全部含めて、俺なんだ。

一個でも無くせばそれは俺じゃないし、なかったことにするなんて以ての外。

今日も自意識過剰とは真逆のなにかが、心の内で叫びつづける。

 

ふう。

 

幾分か落ち着くとちょうど俺の番になる。

ガラスケースから見る作り途中のポップコーンは肥大化して膨れ上がり、弾けている。

 

 

ぼんやりと見ていると、それはどこかで見たことある光景だな、などと思ってしまった。

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

映画は物凄い出来だった。

特に、クライマックスシーン。

ずっと節約をしてなんとか暮らしてきた慎吾と心を通わせた怪獣が慎吾と入れ替わり、迫り来る隕石を血液凝固剤を使い手足を固めて受け止めるシーンは、涙無しには見られなかった。いや、泣いてねぇけど。ただ本物はガチで泣いた。五回見に行った。三作品合わせて二桁行った。ていうか本物ってなんだ。

 

 

終わり、時間を確認すると十九時を超えていた。

 

 

「一色、これからどうするんだ?」

 

なんとなく目的も終わり、手持ち無沙汰になって質問する。

 

 

「特に予定もないですし、帰りましょうか」

 

そのまま、出口の方へ足を向ける。

ちょいちょい興味のある店を見ながら進む。

途中、小さなゲームセンターが目に入った。

入り口の所にプリクラがある。

 

 

「先輩、プリクラありますよ!折角だし撮ってきませんかー?」

 

「いや、いいだろ……」

 

 

なんか、さっきから全然進んでないんだけど……。いや、俺もなんか小町喜ぶもんないかなーとかちょいちょい見てるから言えないけど。

「そういうのは、アレだろ葉山とかと撮ればいいだろ。まぁ、ほら」

「えー、撮りましょうよー」

「だって、それこそなんかだろ。二人で撮ると」

なんだかうまく言えなくてぼかしてしまう。

 

一色はしばし固まっていたが、なんか思いついたのか、ぱっと構えると俺から一歩距離をとった

 

 

「はっ!もしかして口説いてたんですか、今のはないですプリクラ二人で撮ったからって彼氏面するのはちょっと無理なのでもう少し考えて再チャレンジしてくださいごめんなさい」

 

 

「えぇ…なんでそうなるの……」

 

 

そろそろこいつに振られた回数二桁の大台登るんじゃないの……?もうどうでもいいや……と目を腐らせていると、わかりましたよ、もういいです……と言って一色はむむっと唸ってうなだれた。しかしぱっと顔を上げる。なぜか表情が明るかった。

 

「先輩!」

 

「ん?」

 

「今回で私達の勝ち負けってどうなってましたっけ?」

 

 

そんなのあったの?いつから対決してたっけ……と思いながら答える。

 

 

「えっと、一勝一敗だな」

 

 

「そういう時ってどうします?」

 

 

聞かれてやっと意図がわかった。

「……次が、真の勝負だな」

 

「はいっ!」

一色は満面の笑みで答える。

 

 

こういうのってジャンプとかだと戦って戦って、いつのまにか仲間になってたりするんだよな……。そんな的はずれなことを考えてしまった。

 

 

やっぱ、いつだって少年の心にはバトル漫画。

ならばこう締めくくるべきだろう。

 

 

 

俺達の戦いはこれからだ。

 

 




読んでいただきありがとうございました!
これで前後編終わりです。一色いろは編でした。
次回は誰書きましょう?まだ決まってませんが近いうちにまた投稿すると思います。
ありがとうございますm(_ _)m
もしよろしければ感想貰えると嬉しいです。
これからも引き続き読んでいただけると幸いです。

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