幻の郷の人造人間   作:古木

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 冬の寒さに耐えながらオレンジに染まる町中を歩く。

 ビルが建ち並ぶ金沢の大通りからこちらを覗くようにある太陽はとても優しく、美しく、温かい。

 

 わざわざこの景色が見たくて帰り道の反対方向にある金沢へ来ている。

 これに雪でも降れば幻想的な世界が完成するというのに。

 

 人工物と自然が不思議と混じり合わさった景観が物語るのは、この先の人類の未来だったりするのだろうか。

 

 鉄塔の建ち並ぶ夕げの景色。俺には終わりのように感じる。

 

 ともかく、この景色を見れただけで満足だ。さっさと家へ帰ろう。

 

 帰路に着こうとしたその時。

 

 

「…………へぇ」

 

 

 小さな気配が俺の意識をそれへと向けた。

 

 

「この都市にも出るようになったんだ」

 

 

 ビルとビルの隙間の空間。宙に浮く丸い黒点。近くで見ればこれが穴だということが分かる。

 

 しかし普通の人間は近寄っちゃいけない。

 中にいる奴に連れていかれるからだ。

 

 

「パパ…………パパ…………」

 

 

 その穴から這うように出てきた子供。立ち上がりながら、おそらく父の呼称を呟いている。

 

 こいつらは力が半端ない。近寄ったら最後、10tトラックでさえも持ち上げる力で穴へと引きずり込む。

 

 俺は辺りを見回し、行き交う人々を見た。

 

 ………問題ない。一瞬で殺る。

 

 鞄を路地の壁に投げ捨て、子供に向かって歩き出す。

 

 この子供を殺すことがバレたら俺はこの世界で生きていけなくなるだろう。

 

 『ノイズがかった真っ黒』の子供が人間に分類されるのであればの話だが。

 

 

「………『開門』『自在の去腕』」

 

 

 口ずさむは変化の合図。俺の右腕が白くなり、氷のように透き通っていく。

 手首には白い輪が生まれ、手のひらには赤い目が開く。

 とてもじゃないが人間ではない。

 

 ……それもそうだ。

 

 俺はホムンクルス。造られた人間もどき。

 その役目はこいつらから人間を守ること。

 

 都市に残された残留思念……『バグ』から守るために。

 

 

「パパ…………?」

「残念ながら俺はパパじゃない」

「…………パパ…………」

 

 

 うつむく子供。人間らしさが残るこれは、人間らしくてもバグなのには変わらない。

 こいつはいくら幼くともいつかは人間を襲うかもしれない『物』。

 

 消えてもらうしかない。

 

 俺は右手を振りかぶる。腕はそれだけでごく自然なことのように姿を変える。あらゆるバグを引き裂いてきた、化け物の爪へと。

 

 

「…………パパ」

「じゃあな」

 

 

 振った腕は唸りをあげ、子供の体を通過する。黒いノイズが辺りに散らばる。さながら血だ。

 

 残るのはズタズタに裂かれた真っ黒い何か。それもじき跡形もなく消え去るだろう。

 その証拠にノイズが空中にとけだしていた。

 

 バグが死に黒い穴も消えていく。放置しておけば人類を滅ばすかもしれない災害でも、そうなる前に消せば防げる。

 

 ホムンクルスが人間を助ける義理はないが、親が人間だから仕方がない。

 

 

 その場を後にしようと、鞄を拾い上げた。

 ふと目に入る刺繍された名前。

 

 

 『松谷陽太』

 

 

 俺の名前。太陽を反対にしただけの安直な名前。

 

 でも嫌いじゃない。

 

 

 今度こそ路地を後にする。

 

 空は夜と夕の境目であるかのようにグラデーションで色付けされていた。

 

 

「今日は良い夢が見れそうだ……」

 

 

 …………人間が産み出したバグが、人間の首を絞める。毎度バグを殺す度に思う。自業自得だなと。

 

 その人間に造られた俺が言える立場じゃないのは分かってるけども。

 

 それでも人間って愚かだと思う。

 

  伽藍の俺には分かろうとしても分からない。人間の考えなんて。

 

 

「それでも、人間を助けないといけないんだな」

 

 

 俺が生まれた理由は人間を守ること。それだけだ。バグや穴に対する技術が生まれたら俺を含むホムンクルスは用済み。

 

 開発者の人間に心配されたことがあるが、別に悲しいとは思わない。

 それが当然で自然な摂理であることはわかっているから。

 

 そもそもホムンクルスもバグも穴も、生まれてくることがなかったであろう物だ。

 

 こうして生きてるだけありがたいもの。

 

 けど、人間から見てホムンクルスもバグとかと一緒で…………『物』なのには変わらないんだなぁ。

 

 

「……犬だって法律上じゃ物なんだ。生きてる生命体が物と認識されたっておかしくないんだ」

 

 

 歩く速度が速くなっていく。過ぎ去っていく人々の間を縫うように早歩きで歩く。

 鼓動が早くなり、目が潤って視界がぼやける。

 

 

 …………これが悲しみなんだろうな。

 

 

 悲しみの気持ち。ズキズキと心が痛い。目から涙がこぼれ落ちる。顔も泣き顔に変わっていく。

 

 

 ……俺は……どうしたいんだ?

 

 悲しんで何をどうしたい?

 

 

 

 誰も教えてくれない。

 

 俺がホムンクルスなんて、ここにいる人間の誰が知ってるんだ。

 

 俺の気持ちなんて分かるはずがない。

 

 

 1人で螺旋の底へと沈む感覚。

 

 それはとても恐ろしい。

 

 

 

「………………考えるだけ無駄だ」

 

 

 思考を頭から追い出し、暴れる悲しみを押さえつけ帰路についた。

 

 

 

 

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