幻の郷の人造人間 作:古木
世界中に現れる黒い穴。そしてバグ。
今のこの時にも世界のどこかで生まれている。
それらの駆除をするべく、親は俺のようなホムンクルスを大量に造った。
そのおかげで地球が滅ぶのは免れている。
……バグを産み出したのも人間だから釈然としないけど、ホムンクルスの存在価値はバグを殺すこと。それ以外にない。
そんな感じで、限りなく人間に近いように造られたホムンクルス達は様々な検査に引っ掛かることなく世界中で暗躍している。
そのなかで未成年として設定された俺は、学校へいくことを余儀なくされた。
日本の法律は厳しい。
そんな日本の法律でも、ホムンクルスであり『生体兵器』でもある俺を押さえつけることはできない。バレることがないからだ。
見つからなければなんでもして言いわけじゃないが、人間を救うための兵器なら文句はないだろう。
そんなことはさておき。
何故普通の人間のこいつらに俺が逃げ切れないのかを親に聞きたい。
「がはははっ!松谷!俺たちから逃げ切れると思っていたのか?甘いぞ松谷!その甘さを叩き直してやるぞ松谷!」
「名字連呼しすぎです。俺そんなにいません」
暑苦しいぞコラ。肩に担ぐんじゃねぇ。筋肉裂くぞ。
「そんなに急がなくとも神はどこへも行きませんよ?あ、こちら浄土真宗への加入パンフレットです」
「大丈夫です。というか仏教もしてらしたんですね」
パーフェクトシスターの名は伊達じゃないってところか。退魔術覚えてきたら厄介なことになりそうだな。
女連れてきたハンサムは却下で。
「何故だぁ!?」
「てめぇに聞けバカ」
俺が何故こいつにだけ冷たいか。
その理由は単純。モテるからである。
次に出てきたのはチビ。窓からライドオンするとはなんともアクロバティックなチビである。
腰からはずしたふろしきを無表情で渡してくる。
「これ……」
「……これは?」
「トリカブト」
こいつは俺に恨みでもあるのだろうか?
ほどいたふろしきの中身は明らかに致死量を越えた『トリカブト混ぜお握り』が入っていた。
そして申し訳程度の漬物。
「この漬物は?」
「青酸カリを注入したたくあん。時間がたつと消えるから早く食べて」
「すいません。昼には重すぎます」
「重いの?!食えないじゃなくて?!」
黙れハンサム。そして失せろハンサム。
「ねぇ松谷君~。お昼一緒に食べよ~?」
話しかけてきたのは金持ち女。
宇宙から帰って来て1日しか経ってないのに学校これる筋力が、その細足にあるとは思えない。
こいつホムンクルスだったりするのか?
宇宙空間での実験は完了してないはずだから違うはずだ。
「すいません。また今度で良いですか?」
この間受けた鳩尾へのグーパンがトラウマになった今、こいつとは一時の時間も共にしたくない。ホムンクルスにある種の恐怖を植え付けるようなグーパンを持つ女。
こいつにホムンクルスの道理は効かないのか?
だとしたらこいつらは俺を越えるほどの超人であることには間違いないだろう。
どっちにしろあまり関わらない方がいい。
人間と親しくなるために存在している訳じゃないからな。
「そんなつれないこと言わないでよ~」
そう言って後ろから抱きついてくる女。
背中に当たる2つの肉の感触。そして広がる花の香り。もがくともっと強く抱き締めてくる。
こいつもこいつでうざってぇな……。
「……ちっ」
「笑顔で舌打ちする人初めて見た」
「怒ってるの?でもそんな松谷君もいいね~」
あぁ……めんどくせぇ……。今日もさっさと帰るに限るな。
授業が終わり、鐘が下校を知らせる。今日はあの景色を見ることは叶わないだろう。
なぜなら今日は身体検査の日だからだ。それもホムンクルス専用の。
ホムンクルスは通常の人間とは比べ物にならないくらい強化された人間もどき。ちょっとした怪我なら数秒で治る。
もし手足がもげたとしても再生可能だし、首が飛んでもくっ付けれれば死なない。普通の日常を送る中で死ぬことはないだろう。
これだとホムンクルスは不死のように感じてもおかしくない。俺を造った研究者も最初はそう思ってたらしい。
しかしホムンクルスは物理的に頑丈なだけであって死ぬときは死ぬ。
一番多い死因はやっぱりバグによる『消失死』。バグが出てくるあの穴に引きずり込まれると、そいつの情報が全世界から消え去る。
こうして知らないホムンクルスの名前が見つかったときは『消失死』として処理する。
名前は消失死による抹消で消え去れないように、特殊なコーティングがされている。その紙のお陰で
どんなに死にづらい体を持っていても、この世界のどこかに『居た』ことを消されてしまったらどうしようもない。
もちろんこれは普通の人間にも関係する。穴に引きずり込まれたら存在は消える。
ごくたまにそれに気づく人間もいるようだが、どうしようも出来ず、そのまま世界に順応していき忘れてしまう。
そうして消えたやつらの末路は『バグ』となり、その近辺ではあるが別の場所に出現するという。これに関しては本当かどうか調査中だ。
帰り支度を済ませ教室を出ようとするとチビが立ちはだかった。
「……まて勇者よ」
「突っ込みませんからね安藝さん」
「それは悲しい」
……俯いてないで用件を言えや。
「何かようですか?」
「……これあげる」
そう言って差し出されたのは白い石だった。ただの白い石に見える。
「家の庭にある白石。災いから守ってくれるって」
ただの石だろそれ。目をそらしても無駄だ。
「なんでこの石くれたんですか?」
「女のカン」
「…………」
意味が分からなさすぎてため息が出そうになる。が、グッとこらえる。
仕方なしに石を受けとるとチビは微笑む。その瞬間俺は固まってしまった。
そして何を思ったのか窓から飛び降りた。
「おいっ!」
ここは四階。普通の人間が飛び降りれば怪我は免れない……はずなんだ。
「……誰もいない」
慌てて下を見たが、誰もいなかった。痛みで蹲ってるチビとか想像してた。
あいつ何もんなんだ……?
それについては調査するとして。
「……笑った?」
無表情なチビでも笑うんだな。見たことなかったから新鮮だった。
なんだか珍しいものが見れたような気がする。