幻の郷の人造人間 作:古木
翌日。検査が終わった翌日は高確率で怠さが襲う。そこまでひどくないが、数時間はベットに縛り付けられた。
……怠さを思い出すとまた怠くなってくる気がする。もう考えないでおこう。
今はリビングでフルーツグラノーラを口に頬張り、朝のニュースを右から左へ流すように見ている。
この朝のゆったりとした感じが、1日のなかで最も癒される一時だ。これがずっと続けば良いのになと思う。
朝食を食べ終え、リビングのカーテンを開ける
「良い天気だな」
ニュースでも言ってたけど、今日は稀に見る快晴の日らしい。雪も雨も10%以下の日だ。
予報が正しければこの状態があと一週間続くという。
それも石川だけ。
…………あー……うん。
「異常なしだな」
「んなわけあるかバカ息子」
お袋がぶち開けるかのごとく勢いでリビングの扉を開けて入ってきた。
……その入りかた、ドアの留め具が壊れていくので止めてほしい。てか止めろ。
俺の他にも100体近くのホムンクルスがいるなかで、なんで俺んちばっか来んだろな。今月で15回目だぞ。
この間、久し振りに会ったホムンクルスの友達にその事言ったら『なにそれ羨ましい』とか言われて殴りかかってきた。
……こんなマッドサイエンティストの親のどこが良いんだ。
「うわ……居たのかよ」
「なによその反応。人を厄病神みたいに」
「だって厄病神じゃん」
「言うようになったじゃない……」
お袋の額に青筋が入る。顔も笑顔だが目と鼻の辺りが暗くなっていってる気がする。
だってお袋が来る度に部屋が散らかるから嫌なんだよ。何をどうしたら食器棚と冷蔵庫がひっくり返えるんだ……。
異常な出費だったのに賠償金もねぇのは訴えても良いと思う。
「……なんでいんだよ」
「そりゃもちろん『バグ討伐の命』を言い渡すために決まってるじゃない」
バグ討伐の命。
通常のバグよりも強い個体が生まれた時にお袋から命ぜられる指令。
ファンタジー小説でいえば、魔物の大群が来てるからギルドからの依頼で行かなきゃならねぇ……みたいな感じ
つまり結構ヤバめなわけだ。
……でもやらない。
お袋の割った皿の恨み……忘れたわけじゃないんだからな。
「なによその目は」
「別に………それで、いつ?」
「今日」
「予定あるから無理」
「あんたの部屋の予定帳見たわ。予定なんてゼロじゃない」
……ちっ。
規則なんて大っ嫌いだ。
「あんた、私に似てがさつだけど規則は守る質だもんね。私はそれが嬉しいよ」
「うっせ」
ホムンクルスの規則。月1の検査でやる記憶レポート提出の際に、それを裏付けるものが必要である。それが予定帳だ。
これを書かないと記憶の確証が取れない。規則破りとして処分される。
しかし……お袋に褒められると……なんか歯痒い。
「…………」
「なにあんた顔赤くして……結構可愛いとこあるじゃない」
「ちっ……!」
俺をにやけながら見るお袋をぶん殴ってやりたかった。
「あ」
お袋は何か思い出したようで、唐突に持ってきた荷物を漁り始める。
……あーあー……もう散らかってるし。
一昨年の旅行写真か?なんでまだバックの中に入ってんだよ。
今度は…………水着か?片付けろよ。
ドライヤーにコテに何時のか分からないお菓子にエトセトラエトセトラ。
片付けれない親って嫌だなぁ……。
…………てか、ブラジャーやらパンツやらまで出てきたぞ。それに着替え、歯ブラシまで持ってきてやがった。
……俺んちに泊まる気なのか。お袋よ。
「泊まるなら一泊10万な」
「あんたの家に泊まるのにそんな価値はないでしょ」
「あそ。なら外で」
「馬鹿野郎!この時期外で寝てみなさいよ、絶対死ぬわ!」
「死んだらお袋の人生はそれまでだったってことだ」
「なにこの子……ドライすぎ……」
……バッグ漁りながらコント始める辺り焦ってねぇな。何か考えでもあるのか?
「……なに探してんの。そこまで大きくないキャリーに何をてこづって……」
「あった!」
あったんかい。
……うわ。お袋を中心として約半径5メートルの範囲が荷物のやまになってる……。
「これ、なにか分かる?」
「……なん……だと……」
お袋の手に握られていたのはお袋のせいで壊れたはずの皿だった。
しかも一番のお気に入りの皿である。
「任務を遂行してくれた暁には」
「やっぱやる」
「よろしい」
……目の前のニヤニヤしてるお袋は、俺のことを単純だと思っているかも知れない。
だからどうした。皿が手にはいるのだ。単純だろうとなんだろうと構わない。
その皿が手にはいるならば。
俺はバグの場所を聞き、玄関を飛び出した。