幻の郷の人造人間 作:古木
向かった先は金沢のとなりにできた街、漆山。
金沢のとなりにあるため人の行き交いが激しく、鉄塔のようなビル群が建ち並ぶ。
土地の値も安いと噂で住宅街とオフィス街、金沢に続く表通りに商店街など、金沢のドーナツ化現象が加速している。
……あ。
「そこのお姉さん、コロッケ1つ」
「最近の高校生は口も軽くなったもんだね……150円だよ」
「どうぞ」
「あいよ。毎度どうも」
ここは最近見つけた美味しいコロッケ屋さんだ。漆山に来たら絶対と言って良いほど通っている。おすすめは普通のコロッケ。飽きたらメンチカツ。どれもこれも美味しいから、しばらくは飽きはこないだろう。
店番してるおばちゃんが可愛らしいので、少しでも長生きしてもらおうと『お姉さん』と呼んでいるのだ。
田舎のおばちゃん嘗めたらあかんぞ?怒っとヤベェことになるかんね。
誰がどう見ても寄り道してるけど穴は逃げないから大丈夫。
でも中から出てきたバグは……はぁ……。
「やっぱ急ぐか」
コロッケを頬張りながら人混みのなかをあるいていく。
歩きながら食べるのは行儀悪いけど仕方ない。なにか起こったあとじゃ遅いし。
人通りが多い表通りにはバグは発生しにくい。生き物としての気力が、バグの発生源となる穴を遠ざけるためだ。
結果として人気が少ない裏路地や、ビルの隙間に存在する隙間に穴が出来やすい。
今回指示された場所も裏路地。そこはホームレスの集団がいる場所らしい。ものごいをされるのは勘弁……だと思ったのだが。
「『集団失踪』か……」
2日前にうちの研究員が死亡者がいないか調査しに入ると、約20名のホームレスが消えていたという。
バグに喰われたな……と俺は思った。
研究員が死体を探す理由?新たなホムンクルスを造るためである。
正規の死体を用意するのは金も時間も掛かるので、ホームレスの死体を回収しているのだ。
住民票はどうせ親が抹消してるだろ。
裏路地に近づくにつれ、俺の気配察知がバグの気配を感じ取り始めた。居るのは間違いないだろう。
そして……強力な気配も感じている。
喰ったホームレスを糧として、バグが強化されているからだ。
強力な個体は人間のような姿をしないことが多い。
本能のままに体を変化させるため、その環境に応じた姿に変形する。
この暗い裏路地に応じた姿……ここ結構湿気ってるし……ナメクジとか?蛙とか?
「蛙はいいけどナメクジは……」
塩とか持ってくるべきだった……。
でもバグに塩は効かないけどな。
「手で殺らんと駄目か……手を変えても感覚はそのままだから嫌だなぁ」
裏路地に気配を探って、徐々にバグとの距離を縮めていく。
バグについての定義を確認しておこう。
バグは人間を『穴』に入れることによって、生きる気力が全て抜けた、言わば『抜け殻』のようなもの。
その抜け殻には人間の感情は存在しない。
元は人間といえど、今は化け物である。殺さない義理は俺には無い。
穴のエネルギーで作られた『純粋なバグ』も存在しているようだが、今回は現れないだろうな。
今回は人間を『直接喰った』、強化版のバグだろうから。
曲がり角を曲がる……のを留まる。気配がすぐそこにある。
角から見つからないように、ゆっくりと覗く。
「…………見っけた」
ホームレスが居たところとは少し違う場所にいたが、正真正銘あのバグだろう。
蝸牛……カタツムリだ。おおよそ20メートルの真っ黒な巨体を、腹足で引き摺るように歩いている。
その後にはネバネバとした透明の粘液が付着し、足場は悪そうだ。
体から突き出た2本の触覚。おそらく目だろう。最初は目から攻めるか?それとも殻か?
そして注目を引く禍々しい障気を放つ殻。たぶんあれは弱点。それと同時に、爆発寸前の爆弾。刺激したら爆発すると、頭が何故か認識している。
本能的な危機察知能力が警鐘をならす位ならば、相当ヤバいものだろう。
効果範囲がどのくらいかは分からないが、殻への攻撃は最終手段にしておく。
「殻以外の弱点……」
手を使って頭と体を両断を図る……いや、レーザーで撃ち抜くか?
もしあれが死んだときに、自動で殻が爆発されるように仕組まれているんだったら……ということも考えると、攻めようがなくなる。
どれだけの規模の爆発が起こるのか分からない状況で、リスクは背負えない。
キシャァァァァァア!!!
「もう少し考えさせてくれてもいいじゃん……『開門』『自在の去腕』」
口から吐き出された粘液を展開したシールドで防ぐ。
右手はホムンクルス特有のエネルギー、『エナジー』を自在に操ったり作ったり、体外へ出すこともできる。おかげでホムンクルス友達にサンドバッグにされるけどな。
今のところ、それによって怪我はしたこと無い。以外とシールドは強いのだ。
粘液は地面に当たるとジュワッと音をたてる。
その場所は爛れ、凹んでいた。即効性で殺傷能力もある。
右手以外で当たりたくないな。
「とりあえず目を……」
俺は走りだし、接近するなかで手をブレードに変形させる。蝸牛は予測して酸を放ち、その予測の裏をかかないとやられる。
「頭がいいのか……」
人間20人以上喰ってるもんな。単純計算して20人分の脳ミソがあるわけだから頭いいのは当然か。
こりゃ長引きそうだな……。