幻の郷の人造人間 作:古木
「安藝……?」
「……私も連れてって」
「安藝ちゃん?!」
安藝が俺の袖を掴んでそう言った。こいつは……違うのか?
「あのホムンクルス、安藝君に催眠をかけてるぞ!
「なにっ?!」
「嘘もほどほどにしろよクソが……!」
あの研究員はなにがなんでもホムンクルスを敵にしたいらしい。どうせ、お袋からの命令だろうな。
……俺達は自分の子供達じゃなかったのかよ……。
「君達、その力をつかって、あのホムンクルスの手から安藝君を救うんだ!」
「了解!」
ちっ!
「安藝!行くぞ!!」
「うんっ……!」
俺は安藝を背負い、手の出力を極限まで上げる。
「捕まってろよっ!」
貯めたエナジーを爆発させ、その勢いで弾け飛ぶように空を飛んだ。エナジーはそのまま放出したまま、オレンジが失せてきた夕空を飛んでいく。
「す……すごぉい…………」
「一生に一度の景色かも知れねぇから目に焼き付けとけよっ!」
後ろを一瞬だけ見る。…………ついてきてないな
ギュンッ!!
白い光が真横を横切った。スナイパーライフル並みに速いぞあれ。
当たったら死ぬ。直感がそう告げた。
「遠距離武器もってんのか……」
シールドでもギリギリ耐えれるか?……無理か。
「振り切る……っ!」
左斜めに方向を変える。その直後に光が飛んでくる。
左へ右、右へ左、上下に揺さぶり、旋回して避ける。
…………しばらくして、光の弾幕が飛んでこなくなった。今回は諦めてくれたっぽい。少し安堵した。
「…………どこにいこう」
俺にはもう帰る場所がない。宛になる人間なんていない。安藝もホームレスだから、住む場所も家族だって居ないのだ。
「……松谷君の家は?」
「駄目だ。お袋がいる」
「……お母様?」
「俺みたいなホムンクルスを造ったマッドサイエンティスト。それがお袋だ。あの研究所の最高責任者でもある」
「……一番偉い人ってあの教官みたいな人じゃないの?」
「ありゃただの研究員だ」
またはクズ。
「……風と雪を凌げる小屋でもあればいいんだけど……」
「……一つも見つからない」
空いた小屋なんて、この漆山じゃ存在しないも当然だ。あまりにも土地が安いから、みんなこぞって買うのである。
「漆山から逃げるとも考えたが……これみてみ」
「…………回線が切れてる……」
漆山は『次世代都市』としてとてつもない近代化が進んでいる。例として挙がるのは『空間拡張装置』。
次元を歪ませる機械を使って、無理やり空間を広げている。じゃないと都市人口1000万人が収まりきらない。
その空間を越えるためには専用の電子パスポートがいる。これは漆山に住む人達に配布されるものだ。俺も持っている。
問題なのは、お袋によって使えなくなっていること。回線が切断されていたのだ。
ネットワークを遮断された電子パスポートはただの板に過ぎない。スマホと同じようなものだ。
「……じゃあ松谷君は?」
「この空間に穴を開けるしかない。……でもそんなことしたら本物の人殺しになる」
広げた空間は、例えるならゴムのようなもの。この漆山の約80%が伸ばした空間の中で成り立っている。
俺が考えたのは、ほんの数秒だけ空間に穴を開けること。その数秒があれば、俺は外に出ることができる。
「……空間圧縮……」
俺が穴を開ければ、安藝の言う『空間圧縮』が発生する。
外の圧力を半ば無視して広げているこの空間は、傷がつくと一瞬にして不安定になる。
広げられていた空間が外の圧力に耐えれなくなり圧縮する。
それは、伸ばしたゴムを放すようなこと。
金沢と同じくらいの土地面積を持つ都市が、どこにでもある石ころ位の大きさになるのだ。
「……俺はバグは殺すけど人間は殺したくない。だから、これは最終手段だ」
「でもそれじゃ……」
「まだ他に何かあるはずだ。考えれば何か…………」
……まぁ……。
「今日は寝床を探そう」
「……うん」
裏路地に逃げ込めば、およそ人間の手は届かない。漆山はいくらでも裏路地が存在する都市だ。バグにさえ注意すればどうにでもなる。
……バグ殺しがバグに救われるか……なんともおかしなことである。