あの夜から時間が過ぎ、現在は早朝。コナンはいつも寝起きしている小五郎の部屋で何時ものように起きれば、小五郎はベッドで寝る姿はなかった。そこから結局、彼はアレから帰らなかったのだと理解した。そして着替えをし、歯を磨き、室内でリフティングしながら考える。今回の事件の容疑者である村上のことを。
(それにしても、村上は丈はなぜ自分の犯行だと分かるような手掛かりを残したんだ?おっちゃんと警察に挑戦してるつもりなのか?だが、村上は服役中にどうやっておっちゃんの知り合いを調べ上げたんだ?奴は蘭の母さんの好きなチョコの銘柄まで知っていたーーー)
そこまで考えた彼は近くの書類を入れる棚を見上げた。其処には小五郎の知り合いである辻のサイン入り写真が置かれていた。
(辻弘樹……辻……っ!)
そこでコナンは理解する。次に狙われる人物が小五郎達が護衛している十和子ではなく、プロゴルファーの辻であることを。それを蘭に話し、蘭経由で目暮に説明してもらった。
『辻弘樹?あのプロゴルファーの?』
「はい、コナンくんが気付いたんですけど、辻の字にも『10』が入ってるんです!」
すると携帯の向こうでどうやら白鳥が辻の字を書いたようで、確かに入っていると声を出したのが聞こえ、それを聞いた彰は直ぐに小五郎を呼びに行った。
「今、辻さんの家に連絡したら30分前に家ヘリポートへ向かったそうです!」
『分かった!』
そして連絡を切った目暮はすぐに所轄へと連絡しすぐに張り込みの交代を寄越すように白鳥に指示したのだった。その間のコナン達はといえば、蘭から自分達も行こうと言われ、一瞬キョトン顔となるコナンだったが、直ぐに力強く頷いた。そして直ぐにタクシーを捕まえヘリポートへと直行する。其処には既に目暮達が到着していた。
「おとうさーん!」
その声に気付いた小五郎は顔に怒りの表情を浮かばせる。
「こらっ!お前達、何しに来た!!」
「『何しに来た』はないでしょ?私たちだって事件の当時者よ?お父さんの娘なんだから!」
その言葉に小五郎は反論出来なくなった。その間に辻は目暮から事情説明を受けていたため、現在、自分が狙われている可能性があることも理解した。その上で大丈夫だと自信を持って言う。
「そんなに心配なら、毛利さんと警部さんが一緒に乗られたらどうです?」
それに高所恐怖症の小五郎は拒否する。高い所は彼には怖いのだ。
「ところで、今日のフライトはどちらへ?」
彰がそう問えば、途中、色々と回るが最終目的地は東都空港まで行くと答えられる。
「フライトプランはいつ提出に?」
「えっと、確か一昨日、空港事務所に」
それを聞き、白鳥は村上が東都空港で待ち伏せしている可能性があると言いう。それを聞き、目暮は彰と白鳥に東都空港へと向かうように指示する。そして警部は毛利に同乗するように言うと、蘭に帰るように言う。
「え、でもっ!……分かりました」
「警部殿、私も白鳥警部と車で……」
「行くのに3人もいらねーよ。覚悟決めて乗るんだな」
「自分だけ逃げるつもりか!」
目暮が小五郎の肩を掴みヘリコプターへと連れて行くのを、白鳥はキョトン顔で、彰はニヤニヤと笑いながら見送った。その間に辻もヘリコプターに乗り込み、其処で目薬を使う。
「け、警部っ!私まだ死にたくは……」
「ええいっ!死ぬ時は一緒だ!」
その目暮の言葉に小五郎は悲鳴をあげる。そんな小五郎の姿を目暮はジト目で見やる。そこから辻が操作し、飛んで行く。それを見送り、白鳥と彰が蘭に声をかけて去って行く。それを聞き、蘭もコナンを連れて帰ろうとすればそのコナンがいない。
「あら?どこ?……まさかっ!」
そこで彼女はやっと思い付く。コナンがヘリコプターに隠れて乗ったこと。しかし飛んで行ったヘリコプターを止めることは、彼女には無理な話である。
ヘリコプター内部では小五郎が羊の数を数えてやり過ごそうとしていた。
「羊が一匹!羊が二匹!」
「それって落ちないおまじない?」
そこで二人にとってはとても聞き覚えのある声が聞こえ、直ぐに前座席を見ればそこから顔を覗かせているコナンがいた。
「コナンくん!」
「お前いつの間に!」
「僕、一度でいいから操縦席の隣に座ってみたかったんだ〜!」
コナンが嬉しそうな声で言えば、辻も嬉しそうな表情をする。
「ようこそっ!我がコックピットへ!君が住む米花町の上も飛ぶ予定だよ?」
「わーいっ!やったやったーっ!」
その様子に目暮は仕方ないと諦める。今更戻るわけにはいかないのだ。
「その代わり!騒いだら放り出すぞ!」
それを聞き、辻は悪い顔でヘリを傾けながら降下する。それに恐怖で騒ぐ目暮の小五郎。それを聞くと直ぐに傾きを直せば、小五郎はネクタイを緩めて大袈裟に呼吸する。それを見て辻はコナンに親指を立て、コナンはそれに笑顔を返す。それから暫くして、コナンはヘリコプターの中をキョロキョロと見渡す。特別変な仕掛けはどこにも付けられていない。
「なに見てんだ?折角ヘリコプターに乗ったんだ。外を見てみろよ」
辻はコナンにそう言い、前を見る。すると其処で目に違和感を覚え、慌てて擦る。それに気付いたコナンが聞けば、辻は別にと答えた。
「ねえ?さっき目薬差してたよね?あれいつも差してるの?」
「ああ、車を運転したり、ヘリコプターを操縦する時にはね」
「ふーん」
「もうすぐ米花町だぞ?」
それを聞き、コナンは嬉しそうな表情で下を見る。
「毛利くん、君の家も見えるぞ?」
「見たくありません!」
その間、分かりやすく辻の様子が明らかに変わった。先程までの余裕な様子は何処にもなく、少し目の当たりに皺が寄り始めた。そして雲が晴れ、太陽の光が漏れ出た時、辻はそれを手で遮るような動作をする。それにコナンが引っ掛かりを覚えた時にはもう遅い。さらに雲が晴れ、太陽を見た辻は目を閉じ、操作不能になった。勿論、その様子は直ぐに目暮が気付く。
「どうしましたっ!?」
「眩しくて目が開けてられない!!」
「なんだって!?」
(まさか、あの目薬っ!)
そして操作不能となれば、このヘリコプターの行く道は東都でも米花でもなくなる。ーーーそう、地獄への片道切符だ。
ヘリコプターはそのまま左に流れながら落ちて行く。それをコナンが辻に伝えれば、辻は目を瞑りながらもなんとか操作をする。何年も使っていたからだろう、何処に操作機があるのか分かるようだ。
「毛利くん!君は操縦できんのかっ!!」
「出来るわけないでしょ!!」
コナンはこのまま飛び続けるのは不可能だと判断し、自分のベルトを外し、席を立ち上がる。そして進む先を見据えれば、帝丹小学校が見えた。
(帝丹小学校?……よしっ!)
そこでコナンは直ぐに操縦席に移動し、辻が持っていたヘリのハンドルを掴む。それに前が見えない辻は反応する。誰が持ってるか分からず、しかも彼からしたら『無謀にも操縦しようとする』人がそれを掴んだと思ったのだからこの反応は普通だ。
しかし今から操縦する子供はーーー普通ではない。
「今から校庭に着陸するから、おじさんはペダルとコレクティブ操作を!」
「馬鹿っ!や、やめろ!!俺達を殺す気か!!」
「大丈夫!餓鬼の頃、何度も模擬操縦してっから!」
「い、今だって餓鬼じゃねえか……」
小五郎のその最もなツッコミにコナンは返事をせずに辻に話し掛ける。
「おじさん、このままじゃ墜落するだけだ!協力して!!」
それに辻は少し間逡巡し、しかし覚悟を決めて了承する。それに小五郎はあり得ないと言いたげな声で「マジ?」と呟く。それを気にせずコナンは指示を出す。
「コード300フィート、速度40ノット……いいよ!」
それを聞き、辻は座席近くにあるコレクティブ・レバーを下に下ろす。そうすればヘリコプターは下へと降りて行く。
「コード200フィート、速度30ノット……右ペダル10度踏んで!」
その指示に今度は右のラダー・ペダルを踏めば、そのまま右へと方向を変える。すると、まっすぐ校庭へとヘリコプターは向く。その距離500フィート。mで言えば152.4m。そして校庭へと真っ直ぐ向いた事を辻に伝え、コナンは次に探偵団バッチを使う。
「おい咲!聞こえるか!」
『……コナン?』
「今からヘリコプターを緊急着陸させる!皆んなを避難させろ!」
『ヘリコプター?……!分かった!任せろ!!』
その指示を受けた咲、そしてその周りに集まっていた元太達は首を傾げて咲が一度見ていた方を見れば、ヘリコプターが自分達に向かってきていることに気付いた。それを見て慌てて逃げ出す3人と、周りの子供に呼びかけ続ける咲。しかしそれよりも元太の「ヘリコプターが落ちる!」という叫び声の方が子供をより早く逃すことができ、これには咲も元太に感心した。
(落ちるかよ!)
コナン自体は落とさない自信があるようで、そのまま荒ぶるヘリコプターを操縦する。
「左へ回転する!右ペダルを強く!」
なんとか安全に着陸しようとしたコナンだが、しかしそこでヘリコプターは前方が下に向いてしまった。
「しまった!ダウンウォッシュに入った!」
その言葉とほぼ同時に地面とぶつかり、ヘリコプターの片足が壊れ、ヘリは右に横たわったまま地面を滑る。そしてそのヘリコプターはそのまま運動場の真ん中で土煙を巻き上げながら止まった。
「すげー……本当に落ちたぞ?」
「元太のあの声のお陰で全員、怪我なく避難させることが出来た……お手柄だ」
咲が笑顔で元太を褒めれば、元太は照れながら「流石は俺だな!」と胸を張る。それにクスリと笑う咲を他所に歩美はコナンを心配する。落ちたヘリコプターには彼女が好意を抱いてるコナンがいるのだから当たり前だ。
少ししてヘリコプターの後方から扉が飛び、小五郎がヨレヨレと出てくる。そしてその後に目暮も続き、コナンも扉を開け、そのコナンを目暮が抱き下ろす。そしてその次に出てきた辻を下ろしているとき、コナンがヘリコプターの燃料が漏れていることに気付いた。
「燃料が漏れてる!!」
その声は先にも届く。そう、つまりこのあと待ち受けるものを理解し、彼女は直ぐに耳を塞いだ。耳の良い彼女には明らかにダメージが来る音が待っているのだから。
そしてコナン達もまた直ぐにその場を走り去れば、少ししてヘリコプターが爆発。コナンはその爆風で飛ばされ、学校の窓ガラスや玄関扉のガラスもまた割れる。
「ば、爆発しちゃった……」
「ヘリコプターって高いんだろ?」
「ローターだけでも一千万ぐらいするんじゃないですか?」
「うな重、何倍分だ?」
その質問に光彦の肩の力が抜け、呆れた表情を浮かべる。そして咲はと言えば、耳を塞いでいても全部は防げなかったようで、頭をクラクラさせていた。
その話を聞いていた博士が全員無事で良かったと言えば、元太はコナンはズルいと言う。
「自分だけ本物のヘリコプター操縦しちゃってよ」
「元太、そう言う問題じゃない。一歩間違えれば全員お陀仏。あの場に死体が四つ出来てたぞ」
咲が冷たい声でそう言えば、流石に肝が冷えたようで、ごめんと小さく言う。
「その事なんだが、やはり辻さんが差した目薬は、ビタミン剤から散瞳剤にすり替えられていた」
「散瞳剤?」
「仮性近視の治療に使われとる、瞳孔を開かせる薬のことじゃな?」
「なるほど……それで太陽の光に目が眩んだんだな」
博士の説明で小五郎が理解をすれば、目暮はただの散瞳剤ではなく、虹彩炎という目の病気を治すための薬だと説明した。
その説明に蘭は違いがわからなかったようで目暮にどう違うのかと質問にすれば、それに目暮が答える。。
「仮性近視に使われるものは目に差してから5分ほどで切れ出し、瞳孔が元に戻るのも早い。しかし虹彩炎の方は効き出すのに時間が掛かり、元に戻るのも時間がかかるな」
「時間が掛かるって?」
「個人差があるが、10日から二週間、瞳孔が開いたままらしい」
それに小五郎は目を開いて驚く。そう、つまり彼は木曜から始まる全米オープンには参加出来ないことを意味するのだ。それを理解し、小五郎は罪悪感からか顔を曇らせる。コナンも顔をしかめていたが、そこで一つ疑問が浮かぶ。
「ねえ、いつ目薬はすり替えられたの?」
「その事なんだが……辻さんは今朝、車庫から車を出したあと、目薬を差したそうだ。その直後にガラスが割れる音が聞こえ、目薬をセンターコンソールに置いたまま一旦家の中に戻ったんだ。どうやら石を投げ込まれて窓ガラスが割れたらしい」
「石?阿笠博士の時と同じだっ!」
「ところが辻さんは子供のイタズラだろうと思い、お手伝いさんに後を任せて戻り、出掛けたんだ」
「となると、石を投げ込んだのは犯人になるな。その辻さんという奴を離れさせるために。そして離れた隙に目薬を変えたんだろうな」
その咲の考えに目暮もコナンも頷く。そこで白鳥と彰が入って来た。そして白鳥の報告は犯人が村上で間違いない、という事だった。彼が見つけて持って来たのは『スペードの10』。
「毛利くん!次に狙われるのは9だ!君の知り合いで9の付くものはいないのか!」
「それが、思いつかないんです。8ならいるんですが……」
「8?」
「ソムリエの沢木さんです。彼は名前を『公平』さんと言いまして、『公』の上の部分は『八』なんです」
それを聞き、目暮が沢木に会いに行こうという。咲はその間、『犯人』の視点で考えていた。彼女に舞い込む情報は少ないが、予想ぐらいは出来る。
(邸に帰って調べたら村上という奴が出所し、この事件が起こったのは一週間だ。その短時間で調べれる程の情報網と知識と観察眼があるなら、捕まるようなミスはしないはず。……いや、もっと言うなら何故そいつはあの弁護士の好みを知っていた?……それを話した場所に偶然いて聞いていたからか?なら捕まえた本人であるこの探偵が気付かないわけがない。なら盗聴か?……いや、ありえない。そんなものを仕掛ける奴がいたら店の奴が怪しむ。そんなことすれば復讐などする前にまた檻の中だ。……となると、村上という奴には無理なのではないか?)
そこまで考えて頭を抱える。やはり情報の少なさが決定打を出せないのだ。
(さて、どうする江戸川?君のお手並み、拝見させてもらおう)
そんな咲の考えは誰にも知られることなく、少年探偵団たちとはそこで別れ、コナン達は沢木の自宅にやって来た。そして事情を説明すれば、沢木は理解してくれた。
「つまりその村上という奴は、毛利さんへの復讐の為に毛利さんの知り合いを次々と襲ってるんですか?」
「はい」
「それにしては毛利さん、随分落ち着いてらっしゃいますね」
それに小五郎は自分は『5』だから襲われるにはまた当分、間があると答えた。その話の間、コナンは椅子から立ち上がり、ワインが保存されている棚へと歩き出す。
「へ〜?ワインだ」
「それはワインクーラーと言ってね、ワインを適正温度で保管するものだよ!」
「へ〜!いっぱい入ってるんだね!」
そこで小五郎が、沢木の実家が山梨で果樹園をしていること、そこのワイン村には数百本のワインを保管していることを話す。
「そうでしたよね?」
「ええ、まあ。……将来、自分の店を開く時のために」
「私、ワインには目がない方で、ちょっと拝見してもいいですか?」
白鳥が珍しく目を輝かせて聞けば、沢木は快く許可してから、白鳥はワクワクしながらワインの方へと近づいていく。それと入れ替わりでコナンが戻れば、そこでフローリングが傷付いていることに気付いた。その傷は沢木によれば最近、ワインを落としてしまったらしく、それで出来た傷とのこと。コナンは現在、スリッパを履いていない。つまり一番、怪我をしやすいのだ。そんな会話をしている時、白鳥がワインの種類を口にし、沢木を褒める。しかもそれらは全て高級ワインらしい。
「そういえばなんて言いましたっけ?沢木さんのお宝のシャトー……」
「シャトー・ペトリュスもあるんですか!?」
コナンと彰はその名のワインを知っている。それは『アガサ・クリスティ』の『ナイル死す』という作品中で『エルキュール・ポアロ』が飲んだワインである。
「あったんですが、この前飲んでしまいました」
「あれ?でもアレは飲み頃になるまで数年掛かるって……」
「つい我慢出来なくなりましてね」
そのワイントークについて行けない目暮は沢木にそのトークは次に回してくれと頼み、今日の予定を聞けば、都内で十数軒のレストランを経営している実業家『旭 勝義』と会うと話した。それを聞き、小五郎は旭とは仕事を受けた時に会ったことがあると話す。
「確か、今度東京湾に出来る海洋娯楽施設『アクア・クリスタル』をオープンするとか……」
「はい、そこのレストランを一見任せてくれてもいいとおっしゃってくれて、その件で3時に約束が」
そこで彰が気付く。
「……目暮警部、まさか」
「『9』だ!『旭』の字に『九』が入ってる!」
その白鳥の言葉で次に狙われるのは旭だという目暮に小五郎は彼からペットの猫探しを受けただけで知り合いというほどではないと言う。しかし目暮は村上はそう思ってない可能性があると言った。
「取り敢えず、沢木さんのガードも兼ねて旭さんと会ってみよう。……よろしいですか?沢木さん」
それに沢木は急な展開について行けないようで少し驚きながらも了承した。そして目暮がずっと黙っていた蘭にコナンと共に帰るように言おうとしたが、それを蘭は遮って行くと言う。
「いい加減にしろ蘭!これは遊びじゃないんだぞ!!」
「そうよ!お父さんのために何人もの人が襲われてるのよ?家でなんか待ってられないわ!」
その言葉に小五郎は反論出来ず、口籠る。そしてそんな蘭を見ていた目暮は困ったように眉を下げ腕を組み、彰は小さく溜息を吐き、頭を抑えた。
そして全員でアクア・クリスタルまでやってくれば、テレビ越しで見るものとはまた違う綺麗で派手な建物が建っていた。
「派手な建物ですな〜」
その時、乱暴な運転をする赤い車が全員の目の前に現れ、それに驚いて一度全員下がれば、その間隙間にこれまた乱暴に入り込むその車。その車から長い茶色の髪を軽く振って出て来た女性、モデルの『小山内 奈々』は停めた車の後ろを見て、線から出ているのに気づき、掛けていたサングラスを外す。
「ちょっとズレたか。でも、まあまあだね」
そんな奈々に小五郎が怒鳴れば、奈々は何が悪いのかと言いたげな態度で「何が?」と返す。それに小五郎は更に文句を言おうとしたがそこで別の車の音が聞こえ、其方に顔を向ければ車が3台やって来る。そして降りて来たのは宍戸、仁科、ピーターだった。
「よぉ!奈々ちゃん!君もか」
「あら?宍戸先生も旭さんに呼ばれたの?」
「失礼ですがお嬢さん、貴方方は?」
目暮がそう問いかければ、奈々はあり得ないとばかりに目を見開く。
「えっ!?オジさん、私のこと知らないの?」
「目暮警部、彼女は小山内奈々さん。今とても人気なモデルです」
「そして彼方の3人は向かって左からエッセイストの仁科稔さん、カメラマンの宍戸永明さん、そして……」
「ピーター・フォードです。其方の3人は警察の方ですか?それから貴方は確か有名な探偵さん……」
「えっ、あの有名な眠りの名探偵さん?」
それに小五郎が咳払いを一つして肯定を示せば奈々は大喜び。その小五郎と腕を組み、宍戸に撮るように頼み、宍戸はその写真を喜んで撮ってくれた。そんな二人を見て蘭とコナンはジト目。小五郎の先程までの怒りは全て吹き飛んでいた。そのやり取りの後、白鳥が他全員の自己紹介をすれば、仁科が蘭を見て嬉しそうな笑顔を浮かべる。彼女、仁科とは彼のサイン会で会っているのだ。
「おや、貴方は『これからも美味しい本を書いてください』とおっしゃった……」
「わぁ!覚えていてくれたんですか!!」
「ふっ、ワインも女性も美しいものは人の心に残るものなんです」
その言葉に彰は確かにと同意した。確かに蘭は美しい女性だ。それは見た目だけの話ではなく、その心も。
(彼女は本当に優しい子だからな……あまり、事件とかの場所にいて欲しくないものだ)
目暮がそこで全員、旭に呼ばれているのかと聞けば、全員3時に呼ばれたと言う。そして刑事がいる事で察した宍戸が代表して事件でもあったのかと聞けば、目暮がそれに肯定する。
「ええ、実はですな……」
そこで奈々が3時になってしまうからと急かし、目暮が腕時計を確認すれば確かにそろそろ時刻は3時になろうとしていた。
「本当ですな。取り敢えず、レストランに行きましょう」
そこでコナンはとあることに気付く。そう、ここに集まった四人全員の『共通点』を。
しかしそれは伝えられることなく、アクア・クリスタルに行くためにモノレールに乗る事となり、全員で乗り込む。しかしモノレールには運転手はおらず、スイッチを押すだけで済むことにコナンが気付き、全員乗り込んだ時を見計らってスタートボタンを押した。すると、モノレールの扉が閉まり、アクア・クリスタルに向けて動き出す。そのモノレールは海上の上を通って行く。その光景はとても綺麗なもので、此処に雪菜や咲がいたら写真を撮り、瑠璃は感動して窓にへばりつき、梨華は修斗と共にそんな瑠璃を見てクスリと笑い、雪男はそんな姉を見て呆れながらも小さく笑い、景色を楽しむのだろうと考えた。
(これは瑠璃だけでも呼んどくべきだったか……まあ今はあいつ、松田と殆ど行動してるし……帰ったら怒られる覚悟はしておくか)
そんな彰から離れた場所では、小五郎が顔を俯かせている仁科と話していた。
「いや〜、仁科さんも宙を浮くものは苦手ですか?」
「いえ、私は水が駄目なんです。カナヅチで……」
そんな小五郎を、蘭は後ろからジッと見ていた。彼女はずっと小五郎を観察している。その理由は昨夜、電話を掛けてきた幼馴染の新一に『小五郎が英理を撃った』事を説明した時に言われた一言が原因だった。
ーオジさんがオバさんを撃ったのは『事実』でも、それがイコール『真実』とは限らねえんじゃねえか?ー
そんな蘭の視線に小五郎は気付き、振り向く。すると蘭がその視線から顔を背け、小五郎はバツが悪そうに元の位置に顔を戻す。
そんな雰囲気の中でもモノレールは目的地のアクア・クリスタルに辿り着く。そしてそのままエレベーターに乗り、海の中にある部屋へと降りて行く。そしてエレベーターから降り、魚がガラス越しから見れる通路を通れば、辿り着いたのは海中レストランだった。
全員がそれに少し驚き、奈々は大喜び。しかもそのレストラン内には赤のフェラーリF40が置かれており、さらに奈々ははしゃぐ。その様子がなんとも瑠璃に似ており、彰は微笑ましいものを見るような目を向けていた。
「旭さんが見当たりませんが……」
「変ですな。客を招待しておいて……」
「まさかもう村上に……」
その白鳥の言葉が聞こえた宍戸はその言葉の意味を問い返せば、目暮が話の説明をしようとする。そこで彰、白鳥、小五郎が館内の様子を見に走り出す。それと共にコナンも走り、小五郎と白鳥、彰とコナンの組み合わせで館内を探り始めた。
「……なんでコナンくん、君も来てるんだ?」
「えへへっ、一人じゃ大変かなって思って!」
「……まあ、一人であのレストランに帰らせるのも、村上がいる可能性を考えると心配だし……仕方ない。けど、絶対に離れないでくれよ?」
「はーい!」
そのコナンの良い子の返事を聞き、彰は扉を開く。その開いた先は執務室のような部屋で、中には誰もいなかった。そうして次々部屋を確認し、最後に行ったのはワインセラー室。しかしその部屋だけ鍵が掛かっていた。
「なんでこの部屋だけ……」
彰とコナンがそれに少しの疑問を持つが、取り敢えず戻る事にした。その時にはどうやら説明が終わっており、数字の6は宍戸が自分のことかもしれないと言う。そう、『宍戸』の『宍』には『六』が入っているのだ。それに声をあげた目暮警部たち3人。そこで帰ってきたコナンが他の3人にもあると言う。『奈々』は『7』、『仁科』は『2』、『フォード』は英語で『
「確かに。あとは『3』と『1』がいれば全員揃う」
「『3』ならいるぞ?君の目の前にな」
その言葉に小五郎は驚く。そう、白鳥の名前は『白鳥 任三郎』。これで残りは『1』だけとなる。
「しかし、さすがに『1』はいませんね」
「新一」
その蘭の言葉に刑事3人組が目を向ければ、『1』は新一のことではないかと蘭が言う。
「く、工藤くん、ここに来るのかね?」
「いいえ。でも、フッとそんな気がしたんです」
しかし本当は、もう既に数字の名前を持つものは全員揃っていた。コナンの元の姿は新一だ。しかし、その事を知るのは今この場では本人のみだ。
(確かに。俺が小さくなってなきゃ、当然この事件に興味を持って一緒について来た筈だ。……てなると、『1』はやっぱり俺のことか)
「皆さん、一応お聞きしますが、村上丈との関係は?」
その目暮の質問に奈々とフォードはないと答えたが、仁科はあると言う。曰く、エッセイストになる前は犯罪ルポライターをしていたらしい。その時に村上の事件を取り上げたことがあるとのこと。そして宍戸も以前、『殺人者の肖像』という写真集の仕事を手掛けたことがあり、その時に会ったらしい。しかしその時にトラブルはなかったと言う。と、その時に奈々は何か考えるような仕草をしそれに気付いた目暮が何かと聞けば、その人が8日前に出社したかと聞いてきた。それに目暮が肯定すれば、なら関係ないと言う。そしてそこで全員が真面目な雰囲気を出している事に気づき、この話を止めようと切り上げた。そしてそのまま立ち上がり、仁科に指差し声をあげる。
「あんただろ?『パリのレストラン』とかいうダッサイ本出したの。あれに乗ってたオススメの店、超不味かったよ!あんた本当に味分かってんの?」
其処で仁科も反論するために立ち上がる。
「失敬な!分かっているに決まってるじゃないですか!」
「だったら証拠見せてよ」
「証拠?」
其処で彼女が、旭へのお土産のために買って来たらしいワインを、味だけでなんのワインか当ててみせろという。
「ブラインド・テイスティングですか。良いでしょう」
その時、奈々が悪い顔をしていたことに彰は気付き、溜め息をついた。
(なーんでこういう時だけ俺は修斗並みに鋭いんかねー……絶対あの人、なんかやらかすぞ)
そしてその予想は大当たり。仁科がワインを一口飲み、感想を伝える。
「この優雅な菫の香り、ビロウ染と舌触りと喉越し……かのフランス皇帝、ナポレオンが愛したワイン、シャンベルタン……」
其処まで仁科が言った時、奈々が大声で可笑しそうに笑い出す。それに仁科はキョトン顔。奈々は「引っかかった!」と笑いながら言う。
「私がそんな何倍もするワイン、お土産に買うわけないじゃない」
「じゃ、これは……」
そこで奈々は持っていたワイングラスを沢木の前に置く。沢木はその落ち着いた顔で奈々を見やれば、奈々は「ソムリエならインチキエッセイストに答えを教えてあげて」と言う。沢木はそれを聞き、ワインを優雅に掲げ、まずその色を見る。そして香りを嗅ぎ、一口飲む。そして答えをいう。
「ボジョレーのムーラン・ナ・ヴァンですね」
「大正解!」
その答えに仁科はあり得ないという顔をするが、そんな仁科に優しい笑顔を向けながら説明をする。
「ボジョレーは質のいいのを長期熟成させると、ブルゴーニュの高級物のような味と香りが出るんです」
奈々は仁科に見下し、蔑む視線を向ける。
「これで分かったろ?早いとこ、グルメエッセイストの看板は下ろした方がいいよ?」
その奈々の言葉に悔しそうに歯噛みしながらも何も言えなくなった仁科は俯く。
「ナンだかボクもワイン飲みたくなっちゃっタナ」
「じゃあ皆んなで飲もう!」
「じゃあ俺はビールを。厨房はどこだ?」
宍戸のそれにコナンがあったと指差せば「小僧、案内しろ」と言い、コナンはそれに笑顔を浮かべながら内心で「誰が小僧だ」と悪態を吐く。そして厨房に着き、宍戸が冷蔵庫を開ければビールの他にジュースもあった。
「おお、あるある。喜べ小僧!ジュースもあるぞ!」
その声に声を震わしながらもなんとか子供のフリをやり遂げ、しかし内心でまた小僧はやめろと言う。しかし宍戸の様子では小僧呼ばわりを止めることはないだろう。
そして飲み物を抱えて持って来た時、仁科は離れた席に座り、機嫌も底辺に落ちていた。それをコナンは一見し、通り過ぎる。触らぬ神に祟りなしである。そして持って来たジュースを蘭に渡したが、そこでコナンは誤って残り二本のジュースを床に落としてしまう。そのジュースは机の下に転がっていき、慌ててそれを拾いに潜れば、そこで小五郎がジュースを謝りながら掴む。
「すまんな」
「え?おじさんビールじゃないの?」
「あったりまえだ。いつ村上が襲ってこないとも限らないんだぞ?」
そうしてジュースは小五郎に取られ、目暮が飲むことになり、コナンは新しいジュースを取りに行く。それを小五郎はあまりチョロチョロしないように注意するが、奪い取らなければ彼はこんなに早くチョロチョロする事もなかっただろう。
そして厨房へ行けば、沢木がスパイスを舐めていたようで、それを棚に戻したところでコナンに気付いた。
「ミネラルウォーターなら冷蔵庫の下の引き出しだよ!」
「ああ、ありがとう。珍しい調味料なんでちょっと味見してたんだが……コナンくんのジュースは上かな?」
それにコナンは頷く。そして沢木もミネラルウォーターを持って席に戻り、コップに一杯入れて飲む。そこで遂に奈々が今いない旭へ遅いと言い出した。その時、急にワインを飲んでいたフォードが急に苦しみだし、その場が緊迫する。
「な、なによ!どうしたのよ!」
奈々が心配そうに声を上げれば、突如として笑い出すフォード。そう、これは彼の冗談だった。それに白鳥が注意をする。そこで目暮が全員、なんの用があって呼ばれたのかを確認した。
「秘書の人から呼び出されたんですよ。旭さんが俺のファンで、一度会って話がしてみたいって言ってましたよ。多分、この施設の宣伝でもして欲しいって事じゃないか?」
それはどうやら誘い文句まで全員同じだったらしい。奈々だけはそれに付け加えてプレゼントとしてマニキュアも贈られたと言う。それもフランス製のもので高級な物だ。そこで奈々はそのマニキュアを使ってワインのコルクに絵を描き出した。それを見た宍戸は狸かと笑いながら問えば、奈々は意地悪と返し、猫だと言う。
そんな時、フォードが足元に落ちていた紙を拾い、それが沢木宛だったらしくそのまま彼に渡した。その内容は『沢木公平様 遅れるかもしれないのでワインセラーのM-18番の棚からお好きなワインを取って来て、皆さんに出しておいてください。鍵はレジカウンターにある袋の中に入ってます。よろしく。 旭勝義』とあった。
(ん?さっきジュース拾った時、あんな紙あったっけ?)
そこで奈々がワインセラーを見たいと言い出し、それにフォードと宍戸も乗る。それで全員一緒にワインセラーへと向かえば、沢山のワインが貯蔵されていた。それに感嘆の声を上げる小五郎と目暮、彰。蘭がその部屋が涼しいと感じてそのままそう言えば、沢木はコレでも暖かすぎるぐらいだと言う。
「温度は10度から14度ぐらいがワインを貯蔵するのに理想的な温度なんですが、ここは17度と高すぎますね」
そこで白鳥が希少ワインであるロマネコンティ、ラターシュ、ルパン、コートロティなどの名を上げて行く。その間に沢木が目的の棚の場所へと行き、コナンもその後を追う。そして辿りついた時、足元にブービートラップがあるのに気付き声を上げる。それにすぐに気付いた沢木が驚いて後ろに重心を移動したおかげで彼に当たることはなかったが、そのままその先にあるワイン樽に刺さる。
コナンがすぐに目暮達を呼べば、目暮達は走ってやって来た。そして刺さったものを確認してみれば、それは目暮の脇腹に刺さったものと同じ矢。そしてボウガンはその直線の向かい側のワイン棚に隠されるようにして置かれており、其処には『スペードの8』も置かれていた。そこでさらに村上の疑いが白鳥達のなかで強くなる。勿論、それは彰も同じだ。
「だとしたら、なぜ村上は『9』を飛び越えて『8』の沢木さんを……」
「……まさかっ!!」
そこで一度全員で建物から避難しようとしたが、扉は全て閉まっていた。
「あれ?入り口はここじゃなかったかね?」
「いえ、そこであってますよ警部」
目暮の問いに彰がそう答え、その間に奈々が着てきたコートを取りに席に戻る。その時、奈々はあるモノを見て叫び声をあげる。それに全員が気付き其方をみれば、レストラン内の水槽内に旭が『スペードの9』を胸に付け、魚や海藻と共にユラユラと漂っていたのだった。
ヘリの部分だけちょっと体験してみたいと思った私は、絶叫系が好きなんだなと思った今日この頃でした。