「それでは、異世界からやってきた行き倒れの全快を祝して、乾杯!」
「「「かんぱーい!」」」
修斗が目覚めて二週間後。
つまり、彼らがフレアガルドに来て一ヶ月が経過した。
八人を保護したのはエルムと言う小さな山村の村人たちで、今日は八人の全快を祝して宴が開かれた。
最初、司は村人たちに獣の耳や尻尾があることに驚いたが、すぐに受け入れることが出来た。
エルム村の村長、ウルガの言葉を合図に、四十人ほどの村人と主賓である八人がそれに続く。
「しかし、おかしな服を着ているなと思っていたが、まさか別の世界から来た人間だったなんてなぁ!こりゃ驚きだ!」
ウルガは木製のジョッキに注がれた麦酒を飲み干すと口髭に麦酒の泡をつけながら、豪快に笑う。
「アンタたちもさぞ驚いただろうが、俺たちも驚きだよ。目が覚めたら狼の耳と尻尾の生えた人間に看病されてて、司の奴が「ここは地球とは違う異世界だ」なんて言ってやがるんだからなぁ。コイツの頭のネジだけは何があっても外れまいと思ってただけに肝を冷やしたぜ」
「にはは。そうだね、最初にリルルちゃん以外の村の人を見たときはシノブちゃんも頭が変になっちゃったのかと思ったもん」
勝人に追随しながら忍はプラムを口に運ぶ。
「確かに最初、アタシたちの尻尾や耳を見たときのアンタたちの反応は笑えたよ。司は鉄火面だったし、修斗は行き成り反撃して来たけど」
「その件についてはすまなかった。行き成り、あんなことを言われるもんだからつい反射的に………」
修斗は頭を下げて、ウィノナに謝る。
ウィノナはエルム村村長のウルガの娘で、墜落事故で意識を失っていた八人を看護してくれた人でもある。
修斗が目を覚ました後、それを知ったウィノナは修斗も驚かそうと行き成り「お前は私たちの夕食だ~!」と言って飛び掛かって来た。
それに対し、修斗は司たちを守るために飛び掛ってきたウィノナに反撃した。
結局司たちが説得し、ただの悪戯だと知って、その後は平謝りした。
「まぁいいって、いいって。そもそも悪いのはこっちで、シュウトは悪くないんだからさ」
「そうですよ!目を覚ましたばかりの怪我人に「お前は私たちの夕食だ~!」と言うなんて冗談が過ぎてます!」
そう言ってウィノナをしかったのはリルルだった。
リルルはウィノナと同じく八人を看病してくれた人で、エルナ村では耳も尻尾も生えていない人だった。
「いや、でも俺はウィノナさんんもそう言うお茶目大好きっすよ」
「あらあら、マサトだっけ?アンタなかなか女見る目あるねぇ~」
「もう……」
勝人に煽てられいい気になるウィノナにリルルはため息を吐く。
そして、隣に座る桂音に尋ねる。
「ところで、どうですか?もうこの村の生活には慣れましたか?」
「ええ。さすがに一月も経てば異世界に来たと言う現実を受け入れることが出来ましたわ。今思えば、怪我をしていて良かったかもしれません。身動きが取れていたら、パニックのあまりとんでもない行動に出る人もいたかもしれませんから」
桂音は目覚めた時から、一度として崩れることのない笑顔で、大人びた上品なうなずきを返しながら言う。
「まぁ、若干一名、まだ混乱している方もいらっしゃるようですけど」
そう言って桂音は、一人宴の輪に混ざらず、壁に向かって三角座りしている暁を見る。
「ありえないありえないありえないよ。こんなの夢だ。悪夢に決まってる」
暁を除いた七人は多少の戸惑いはあったものの、一ヶ月と言う時間(修斗は二週間)で、非現実を受け入れることが出来たが、技術や発想で非現実を作り出すマジシャンの暁にとってこの事態は受け止め切れていなかった。
「「「がおー!食べちゃうぞー!」」」
「ギィヤァァァァァァァァ!!猫耳ィィィィ!犬耳イヤァァァ!」
やんちゃな子供たちにとって今も新鮮な反応をする暁はいいおもちゃだった。
「アハハハハハッ!」
「おねーちゃん、おもしろーい!」
「なっ!違うよ!僕は男!おにーさん!」
おねーさんと呼ばれたことに、暁は声を上げる。
暁は子供のような顔立ちに加え、身長も低く筋肉の量も少ない身体のため、よく性別を間違えられる。
実際、初見で彼を見て性別を言い当てた人物は人間に対する観察眼に秀でた司と、人の動きからその人物の身体的特徴を知ることの出来る修斗の二人だけだ。
そして、それはこの村も例外なく、村人たちは驚いていた。
「アカツキさんって男の人だったんですか!?」
「あれ?でも、リルル。男供の下の世話はアタシがやってたけど、女の子はリルルに任せてたわよね?そのときに気づかなかったのかい?」
「胸の薄い方だとは思いましたが………体格的にあまり違和感がなかったもので、まったく気づきませんでした………」
「え?つまりそれはあまりに小さすぎて見えなかったと言う………」
「やめろぉぉぉぉぉ!泣くよぉぉぉぉ!?」
「「「がーおーーー!」」」
「ニャアアアアアアアア!!?」
「……暁さん、かわいそう……」
本当に泣き出した暁を見て、林檎は無意識に同情を零す。
「子供に喜ばれてるんだし、エンターテイナー冥利に尽きるんじゃね?」
「ふえ!?」
林檎が言った言葉に、勝人が軽口をたたくと、林檎はびくっと方を跳ねさせ、顔を真っ赤にして顔を伏せる。
もともとの本人の気質と、普段から人と関わる機会がない環境から、林檎は恥ずかしがり屋で人見知りなのだ。
「しかし、その驚き方、本当にビューマがいない世界から来たんだなぁ」
「私たちの世界では人類は猿から進化したと言うのが定説だからね」
「その『チキュウ』と言う場所は、ヒューマだけの世界なんですよね」
「ちょい待って」
そこで忍が待ったをかけた。
「ヒューマとかビューマってなに?」
「俺も気になるな。話の流れからしてこの国にいる人種だと思うが……」
「ああ、そう言えばこの話をしたとき、忍と修斗はまだ起きていなかったか。修斗の考えの通り、人種だ。ビューマはこの村の方々の様に獣の特徴を持つ人類で、ヒューマとは我々の様な人類のことを指すらしい」
「見た目以外にも少し違いがあってビューマは力持ちが多くて、ヒューマは数は少ないですが、ごく希に魔法という不思議な力が使える人がいるらしいんですよ」
「へー!ファンタジーっぽいとは思ってたけど、魔法まであるんだー」
「驚きですわね。ちなみにどんなことができるんですの?」
「えっと、精霊と会話し、火や風を操ったりするらしいんですけど……ごめんなさい。私もウィノナさんの旦那さんに聞いただけで、魔法も魔法が使える人も見たことはありません。何しろ数が少ないようで。でも、だからこそ魔法の素質がある人は、平民であっても貴族として召し上げられるらしいですよ」
「そういえばそんなことを言ってたね………」
「…まぁ、魔法についてはいずれちゃんと調べた方がいいだろう」
誰に言うわけでもなく司はそう呟く。
司はこの一ヶ月で大体の文明基準が地球史で言う大航海時代に相当すると理解できたが、魔法の知識がない為魔法に関しては理解ができなかった。
知っておかねば、元の世界に戻るための探索に支障が出るかもしれない。
そして何より―――――
(私たちの身に起きた非現実的な事象に、解答が得られる可能性もあるのだから)
何者かによる魔法での召喚。
ファンタジー小説の様な話だが、現在で最も一番可能性のある答えである。
「あ、それで思い出した」
するとウィノナが大きく手を打ち、とんでもないことを言い出した。
「実はさ、ツカサたちが異世界から来たって言った時、どこかで聞いた話だなーと思ったんだけど、思い出したよ。昔、結婚する前にアイツが話してたのさ。外の世界からやってきた八人の勇者の話を」
その言葉に、今まで耳を塞ぎ、目を閉じていた暁を含め全員が目を剥いた。
聞き流せる話題ではなかった。
だからこそ、彼らは一斉にウィノナに質問を投げかけようとした。
その気配を察して修斗は他の六人を制する。
修斗自身、その話を聞かせてほしかったが、司の意思を汲み取り制した。
司は修斗に目で礼を言うと、一同を代表してウィノナに頼む。
「すまない。その話、詳しく聞かせて頂きたい」
「ああ……悪いけど、アタシも詳しくは知らないんだ。アタシの夫はエルム村がある北部から南部までフレアガルド全土を渡り歩く行商人でさ、その仕事の道中、南部の方で「大昔、八人の勇者が外の世界から現れ、邪悪な”竜”に支配された大陸を救った」……って感じの話を聞いたらしいんだ。でも、アタシが知ってるのはそれだけなんだよ」
「その旦那さんはここにはおられないのか?」
「……三年前に戦争に巻き込まれて死んじまったよ」
「……すまない」
司は言葉を失い、謝罪を口にした。
「気にしなさんな。元の世界に戻る重要な手掛りかもしれないからね。必死になるのは当然さね。こっちこそすまないね。力に慣れなくて」
ウィノナの言葉を最後に、宴に気まずい空気が流れる。
「バカバカしい!」
その気まずい空気を一人の少年が打ち砕いた。
その少年の名を司たちは知ってる。
名前はエルク。
村長のウルガの孫で、ウィノナの息子だ。
「どうした、エルク?」
「どうした?じゃねぇよ!じっちゃんもおふくろもリルルも村のみんなも、全員どうかしてるんじゃねぇのか!?空飛ぶ鉄の鳥に乗って別の世界からきたなんて、そんな訳のわからない妄言真に受けてよ!しかも、今年は森の実りが少なくて、ただでさえ村の財政がやべぇって時に、宴なんて開きやがって!おかげで冬を前に村の金庫はスッカラカンだ!こんなのでどうやって冬を越すってんだ!うちの村に、こんな無駄飯喰らいどもを八人も養う余裕なんてねぇんだぞ!」
「いいじゃねぇか、めでたいことなんだから」
「金庫番のオレの身にもなれってんだよ!こんな連中、見捨てときゃよかったんだ!」
「エルク、いい加減にしな。エルムの山男がケツの小さいこと言うんじゃないよ」
「ぐ・・・・・・と、とにかく!怪我が治ったならさっさと出て行きやがれ!ここにはテメェらペテン師に食わせる飯はねぇんだよ!」
母であるウィノナに叱責され、たじろいだエルクは敵意をむき出しにしたまま、会場を後にした。
「にはは、出て行けといいながら自分が出て行っちゃったね」
出て行ったエルクの背中を見て、忍は苦笑する。
「すまねぇな。アイツは文字も数字もできて、弓の扱いもピカイチなんだが・・・・・・・・・どうもキモが小さくてなぁ」
「アレの言ったことは気にしなくていいよ。いきなり違う世界に放り込まれて、行くあてなんてないんだろ?帰りの目処がつくまで、この村で生活していけばいいさね」
「んだんだ」「ゆっくりすればいいべ」「みんなで頑張ればなんとかならーな」
「エルム村のご厚意に感謝する」
司は頭を下げ、厚意を受け取る。
「しかし、エルク君の言うことももっともだ。麦も育たない白く痩せた固い土。村には小さなジャガイモを主とした根野菜があるだけ。狩りで捕らえた肉も毛皮も領主に税として収め、手元にはスネ肉などのクズ肉しか残らないと聞く。とても余裕がある暮らしをしているとは思えない」
「それに、いきなり八人もの怪我人を受け入れて、一ヶ月も面倒を見てもらったんだ。なら、村としてはかなりの痛手のはずだ」
「ああ、そうだな。・・・・・・本当に皆さんには迷惑をかけた。私たちも動けるようになったからには、明日からでも村の仕事を手伝わせていただこう。住まわせてもらうからには、相応の働きをしなければ申し訳がないからね」
「いや、相応以上だな。俺は恩も仇も倍返ししないと気がすまねぇ主義なんで」
司の言葉尻を捕らえ、勝人はそう言い切る。
勝人の威勢の良さを気に入ったのか、ウルガは笑う。
「ハハハ!期待してるぜ!じゃ、新たな家族を歓迎して、もう一度乾杯!」
「「「かんぱーい!!」」」
二度目の乾杯が行われ、再び宴は騒がしくなる。
こうして八人の超人高校生たちは、エルム村の家族となった。