ある日、司たちが日々の食卓に少し変化をもたらす為、大量にとれた鶏卵でマヨネーズを作っていた。
リリナや村の子供たち、そして子供の相手をしていた暁を交えてやっていた。
そんな中、修斗は葵と一緒に薪割をしていた。
何故、狩りの手伝いをしている葵が居るのかと言うと、彼女は狩猟隊から外されたのだ。
決して葵の戦闘力が劣っているわけではない。
むしろ強すぎたことが問題だった。
強すぎる為、葵はその場にいるだけで剣気や覇気をまき散らしてしまい、獲物の動物たちが怯えて姿を見せなくなってしまったのだ。
これではダメだと村長は判断し、葵は薪割を担当することになった。
修斗はと言うと、来週に勝人たちと共に街に行くまでの間、仕事が無かったのでこうして薪割を手伝っている。
「はぁ~……」
葵は溜息を吐き、黙々と薪を割って行く。
「葵、そんなに落ち込んでも仕方ないだろ」
「しかし、修斗殿!拙者は……拙者は……皆の手伝いをするどころか足を引っ張ってしまったでござる!拙者は………誰の役に立てないごく潰しでござる!うわ~~~~~~ん!」
とうとう泣き出してしまう葵。
そんな葵に修斗は困った様な表情を浮かべ、薪を割る手を止める。
「泣くなって。別に役に立ってない訳じゃないだろ。実際、お前は薪割をして皆の役に立ってる。それにほら、俺がこれだけの薪を割る間に、お前は俺の倍以上の薪を割ってる。そんなお前を誰が役立たずだって言うんだよ」
修斗はそう言って、笑う。
「もっと自信持てよ。お前は十分すぎるぐらいに役に立ってる」
「修斗殿………かたじけない。少しだけではあるが、自分に自信が持てそうでござる」
葵は涙を拭き、少しだけではあるが元気になり、薪割を再開する。
(近いうちに、司の奴にフォローを頼まないとな)
そんなことを考えながら、修斗も薪割を再開しようとする
「なんだいアンタたちッッ!!」
その時、尋常ではないウィノナの怒鳴り声が聞こえ、修斗は手を止める。
「今のはウィノナ殿の……!」
「葵、ここは任せた!」
斧を置き、修斗は怒鳴り声が聞こえた方向に走る。
すると、村の入口に簡素な作りの馬車と四人の剣を持った男がいた。
「ショーニン、何があった?」
すると、司も現れ、勝人に何があったのかを尋ねる。
「兵士の巡回だとさ」
「兵士……にしてはあまり歓迎されてない様だな」
修斗が呟くように言うと、勝人の隣に居た忍が答える。
「男の人らが狩りに出かけてる時にやってきては、お酒や食べ物をせびってくるんだって」
「それでウィノナさんは怒っているのか」
初めて兵士を目にする司は、その姿を注意深く観察する。
修斗はと言うと、腰のホルスターに収めた銃にひそかに手を伸ばし、相手の動きに注意しつつ、監視する。
(……四人の内三人は青銅で作られた兜に、胸当てのみ。後ろにいる一人は青銅の鎧にマントを付けてる……おそらくアレが隊長だろう)
「だから言ってるだろ!この村にはアンタらに飲ませる酒も、食わせる肉もありゃしないって!全部、領主さまに召し上げられてるんだ!どうしても酒が飲みたきゃ領主さまに言うんだね!」
「おいおい女。口には気を付けろよ。ここにおわすのはフレアガルドの《帝国騎士》シード様だぜ?お前らみたいな平民が気安い口を聞いて言いおかたじゃないんだ」
「それに、シード様は親切心で言ってやってるんだぜ?麓の村の民家が盗賊に襲われて、家にいた女やガキは殺された話は聞いてるんだろ?最近ここも物騒だから、男衆がいない間守ってやるって言ってるんだ。偉大なる領主フィンドルフ様の兵士である俺たちが此処にいれば、賊なんて来るわけないからな」
「でも、俺らを追い出したらどうなるかは知らねぇぜ?件の賊は剣どころか鎧まで着てるって話だからなぁ。女子供だけでどうにかなるといいなぁ?」
兵士たちは下卑た笑いをし言う。
「アンタら……まさか!」
その笑いと兵士の目に何かを感じ取り、ウィノナは表情を険しくする。
そこで、今までふんぞり返って話を聞いてるだけだった鎧を着た男がウィノナに近づいた。
「そう怖い顔するなって。俺は帝国の平和を守る騎士としてお前達を心配してやってるんだ。俺たちがお前を守る。その代り、少しもてなしして欲しいだけじゃねぇか。………それに、テメェも旦那に先立たれて溜まってるんだろ?なんなら、俺が直々に相手してやってもいいんだぜ?」
下種な事を言い、男はウィノナの胸に触れようとする。
だが、その手を司が掴んで止めた。
「ご婦人の乳房に遠慮なく手を伸ばすとは、確かに手癖の悪い賊がいるようだ」
司はウィノナを庇うように立ち、兵士の手を強く握る。
「なんだテメェ!」
兵士は司の手を振り払い、怒りを露にする。
「先月からこの村に住まわせてもらってる者だ。兵士諸君、折角のご厚意痛み入るがお引き取り願おう。この村は安全だ。そう、たとえ……兵士の恰好をした賊が四人ばかり現れてもね」
司は騒ぐ兵士たちを冷めた目で睥睨する。
「お引き取りを願おう。どうしても何か食わせろと言うなら、芋ぐらいならご馳走しよう」
「貴様……地を這う獣にも等しい平民の分際で、《青銅騎士》の爵位を持つこの俺を邪険にするか。どうやら立場が分かっていないようだな………」
男、シードはよく手入れされた剣を抜き、叫んだ。
「《帝国騎士》である俺への侮辱はフレアガルド帝国への侮辱!そして、偉大なる皇帝陛下への侮辱である!者ども!この愚かな平民を無礼討ちとせよ!」
「「「オオオオォォォォ!!!」」」
シードの号令に、他の三人の兵士たちも剣を抜き司に襲い掛かる。
「ツカサ、逃げな!」
ウィノナは血相を変え、司を逃がそうとする。
「大丈夫だ。問題は無い」
司は逃げもせず、かと言って迎え撃とうともしない。
兵士が剣を振り下ろしたその瞬間、修斗が間に入りその剣を素手で挟んで止めた。
所謂、真剣白羽取りである。
「なっ!?」
剣を止められ、兵士が驚く。
修斗は、その剣を挟み込んだまま捻り、兵士は剣を離してしまい、そのまま回転するかのように地面に倒れる。
倒れた所を、追い打ちを掛ける様に足で顎を蹴り、脳震盪を起こさせ、行動不能にさせる。
「うおおおおおお!!」
二人目が剣先を修斗に向けながら、突進して来るがそれを避け腕を脇で挟み込み、そのまま特殊警棒を抜き、腕の関節目掛け振り下ろす。
「あぎっ!?」
兵士は痛みに耐えかね、剣を離してしまう。
修斗は警棒を離すと、両手で腕を掴んで、そのまま一本背負いをする。
背中から地面に叩き付けられた兵士は、肺の中の空気を吐き出し、空気を求めて一瞬無防備になる。
その間に、襲い掛かって来た三人目の剣を躱し、警棒を拾うとそのまま脛、鳩尾、脇の順に叩き、最後に顎を目掛け、下から叩き上げる。
そして、咳をして苦しんでいた兵士の首を後ろから叩き、意識を奪う。
「き、貴様ああああああ!!」
シードは自棄になり、剣を振り回しながら修斗に斬り掛かる。
だが、修斗はその剣を躱し、そして、タイミングを合わせて警棒をシードの剣に叩き込んだ。
すると、剣は真ん中から先が折れてしまった。
「なっ!?」
「剣ってのはな、横からの衝撃に弱いんだ。覚えて置け」
そう言い、足を叩き、膝を付かせると、警棒を喉に突きつける。
「司の奴は一々遠回しに言うから分かりにくいだろ。だが、俺は違う。はっきり言わせてもらおう。命が惜しかったら、この村に手を出すな。次は本気で殺す」
シードは一瞬で理解した。
最下級の《青銅》とは言え、騎士爵位を持つ自分に兵士三人を一人で返り討ちにする修斗の実力は本物であることを。
もし修斗が最初から本気で行ってれば自分たちは死んでいたことを。
そして、修斗は自分を殺すことに躊躇いも恐れも無いことを。
「ひ、ひいいいいい!!?」
「た、隊長!?」
「ま、待って下さい………!」
意識を失った兵士を抱え、二人の兵士もシードの後に続いて慌てて馬車に乗り込む。
情けない姿で遠ざかる馬車の姿に、村中から歓声が上がる。
「すごい!お兄ちゃん、凄い!」
「かっこいい!」
「そんな細い体で、男四人を返り討つなんて見かけによらず、強いんだね!」
「これでも鍛えてるからな。それに、この程度脅威にすらならない」
警棒を仕舞い、修斗は言う。
何しろ修斗は警視庁警護課警備部の第零係と言う所の所属で、通常のSPよりも危険な要人護衛任務を任されたりしており、複数人から護衛対象を守ると言うことなど当たり前のようにこなしてきた。
更に、彼は総理専属特別護衛官と言う役職も持っており、旧体制の既得権益者の怨みを一身に集める司の身を常に守り抜いて来た。
司に差し向けられた殺し屋の数は両手の指どころか、足の指を加えたって足りない程だ。
修斗はその殺し屋たちを全員返り討ちにし、時にはその腕を見込んで第零係に引き込んだり、司の護衛役として採用したりしている。
事実、現在、司の護衛役をしている張首席秘書官も元々は司に向けられた刺客だった。
つまり日本に留まらず世界に置いて修斗以上に死線を潜り抜けた者はいないと言っても過言じゃない。
「流石は修斗だ。見事な手際だった」
「この程度、お前一人でもやれただろうが、俺はSPだからな。お前の身を守るのが俺の仕事だ」
「なら、私とついでに村も護ってくれるか、井上修斗特別護衛官?」
「はい、総理の仰せのままに」
「ツカサさん!何を考えているんですか!?」
歓声の中、リルルだけは眉を吊り上げ、怒っていた。
「剣を持った相手に立ち向かうなんて………!シュートさんが間に入らなかったらどうなっていたか……」
「しかし、あの程度の練度の相手なら私でも対処は出来る。修斗の様にスマートとはいかないが、あの程度なら相手にならないさ」
「それでも無茶過ぎます!」
「………心配させてしまってすまない。だが、私の恩人が辱めを受けようとしているのを放って置くことは出来なかったのだ。許してほしい」
「ツカサさん………」
そう言われてリルルは強く責められなかった。
「しかし、平然と非武装の相手に攻撃を仕掛けて来るとはな………貴族なら平民を殺しても罪にはならないのか?」
修斗が尋ねると、ウィノナが答えた。
「そうだよ。罪になんかならないねぇ」
「無礼討ちとか言ったか。そう言えば、日本にもあったな………不愉快な話だ」
「でも、いいのかよ?あんなチンピラでも領兵だぜ。こんなこと、あんな馬鹿共を野放しにしてる領主の耳に入ったら、面倒な事になるんじゃねぇか?」
勝人の懸念は司も考えていた。
だが………
「そのことなら心配しなくてもいい。先んじて手は打ってある」
司の行動は早かった。
司は暁を先程の兵士たちに差し向け、得意のマジックで様々なトリックを披露し、自分達には魔導師の味方が居るように見せ、抑止力にした。
予想は的中し、兵士たちは暁を魔導師だと思い込み、腰を抜かし、失禁しながら助けを請うた。
楔は打ち込まれ、村に訪れた騒動の種は司の機転と暁の手品で見事摘み取られたのだった。
なお、その日から暫く、パンにも野菜にも、シチューにすら、司たちが作ったマヨネーズが使われ、超人高校生たちは精神的な胃もたれに苦しんだそうだ。