プロ棋士はスクールアイドル   作:フユニャン

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時間の進み方が違う二つの作品を上手く合わせて書くって、大変だなぁ。

もう直ぐ二つとも2期が始まるから、今から楽しみ!


Chapter9 晴季

ピピピピピピ

 

カチッ、バタン

 

「んっ、ん・・・・・」

 

僕は何時もの様に、目覚ましに起こされた。

 

「うっ・・・・・・、眩しい・・・・・」

 

カーテンの隙間から漏れている太陽の光は、凄く眩しくて、僕は苦手だ。

それでも僕は、カーテンを開け、ガラス戸も開けた。僕の部屋には、開けると庭に出られるガラス戸があり、其処から出入りすることが可能だ。

僕は軒下(のきした)にある腰を掛けるスペースに座った。

 

「・・・・・・・・・・」

 

今日の対局は、獅子王戦の6組トーナメント。相手は二海堂晴季。プロになってからは、今日が初対局だ。

 

 

僕は、少し昔の事を思い出すことにした。

 

 

夏休みになると、デパートの屋上等で、毎年子供将棋大会が催された。奨励会に入る前、全国の強い子供達は、こういった小さな大会で何度も顔を合わせる。

晴季も僕も、そういうイベントでは常連になっていて、既に何度も顔を合わせていた。

あれは何年生の頃だったろう。恐ろしく暑いイベントで、僕と晴季は準決勝で顔を合わせた。その日は本当に酷い暑さで、暑いのが苦手な彼女は、赤鬼の様に真っ赤っかで、酷く辛そうで、見ているこっちまで苦しくなった。

 

午後になると、風が止み、気温は益々上がって、多分貧血を起こしているのだろう、彼女の顔はどんどん青白くなっていった。

 

 

『ふっ・・・・・・、ふっ・・・・・・』

 

 

傲慢(ごうまん)な考えかもしれない。でも僕は、何とか最短まで詰み迄持って行く道を探していた。一刻も早く目の前の子を、冷房の効いた涼しい場所で休ませねばと思ったのだ。

しかし、彼女は、負けが濃くなった終盤、有りっ丈の持ち駒を自陣に投入して、必死の抵抗を始めたのだ。

 

『ふっ・・・・・・!ふっ・・・・・・!』

 

汗まみれの真っ青な顔からは、声にならない叫びが漏れ出していた。

 

『(負けたくない・・・、負けたくない・・・、負けたくない・・・、負けたくない・・・、負けたくない・・・)』

 

その瞬間、僕は自分の思い上がりを恥じた。

 

『(負けたくない!)』

 

目の前の人間が、こんなに汗まみれでふらふらになってまで此処に座っているのは、勝ちたいからなのだ。

それはもう、どうしようもなく、僕と同じに。

 

 

長い戦いになった。もう僕の勝ちだった。それでも彼女は一手一手、もがく様に見えない道を、探して指し続ける。

 

しかし、遂に指す手が無くなる時が来た。

どんなに目を凝らしても、もう何処(どこ)にも自分の(ぎょく)の生きる道が無い。

 

『・・・・・負けました』

 

そう呟くと彼女は、漫画みたいな大粒の涙をポロポロと零し始めた。

僕はそれを、蝉の声と、デパートの屋上のBGMの中で、(ただ)黙って見詰めていた。

多分、この先何十年も向き合うかもしれないその顔を。

 

 

 

 

 

 

プロになるという事は、止まらない列車に飛び乗るようなものだ。

もう二度と降りることは出来ない。負けて転がり落ちる迄は。

この小さな宇宙の中で、気が遠くなる程の、勝ったり負けたりを繰り返すのだ。

 

負けたくないと、喘ぎながら。

 

 

 

「おう、桐山。ちょっと覗いてみろ♪」

「お前のライバルが、素晴らしい気迫で待ってるぞ♪」

 

将棋会館に着き、対局室の前に来ると、其処(そこ)には何故かご機嫌なスミス先輩と、一砂さんが居た。

 

「(えっ?)」

 

襖から覗いてみると、其処には無駄に決め顔な二海堂が居た。僕は思わず、その場で両手両膝を付いてしまった。

 

「はぁ・・・・・・」

「なっ?何かもう気合入りすぎて、ほぼ別の漫画になってるだろ?」

「なんつーのこう、『事後、詰むや詰まざるや』、みたいな?羨ましいな、桐山~。見ろよあの気迫、全てお前の為なんだぜ、終生のライバルだって言ってたぜ、彼女~」

 

 

その後、何とか立ち上がると、一旦自分を落ち着かせた。

 

落ち着け、まずゆっくり息を吸い込む。浅い息は視界を狭くする。

そして落ち着くと、僕は対局室に入った。

 

「遅いぞ桐山、待ち草臥(くたび)れたぞ」

「僕は時間通りに来た。早く来たのは二海堂の方だろ、もう」

「そっか。うむ、気持ちが(はや)ってしまってな」

 

「さあ、始めようじゃないか」

 

 

 

二五桂、来た。二四銀。

 

 

三五歩。同銀。

 

 

一五歩。

 

 

強くなっている。じわじわと、でも揺るがずに攻めてくる。

駄目だ、受けてばかりでは埒が明かない。

 

流れを変える・・・・・!

 

 

 

そうして、時間は過ぎて行った。

 

 

 

ポタッ・・・・・・

 

はっ、汗・・・・。あの時と同じだ。顔色が悪い。二海堂の様子が可笑(おか)しい・・・・!

 

「すいません。空調効いてますか?」

「すいません。如何(どう)もエアコンの調子が良くないみたいで・・・」

 

僕も何かしようと立ち上がった。

すると、二海堂から声が掛かった。

 

「いいよ桐山!あのデパートの屋上に比べたら天国だ」

 

二海堂は駒を持つと、こう言った。

 

「続けようぜ・・・・・!」

 

 

 

 

五七香。歩切れを突いて来たか。ならこうだ。七六歩。

すると二海堂は、ある場所に銀を指した。

 

はっ・・・・・!はっ・・!えっ・・・・!

 

六八銀・・・⁉金取りを放置して、銀打ち⁉

何だ・・・・・⁉何だこれ・・・・・⁉

 

 

僕は眼鏡を少し直す。

 

うん、負けたくない。負けたくないよね。

 

落ち着け、息を深く、視野を広く。冷静にさえ行ければ・・・・・。この局面、僕の方が良い筈なんだ。

落ち着いて、指し続けろ・・・・・!

 

 

 

 

対局は夜まで続き、僕は晴季の粘りを振り切り続けた。

そして・・・・・・

 

「ありません。負けました・・・・・・」

 

ああ、そうだ。この顔、同じまんまだ。子供の頃と。ちっとも変っていない。二海堂も、そしてきっと僕も。

 

きっとこのままずっと。ずっと。

 

 

 

ずっと。

 

 

 

 

 

「晴季様」

「花岡!」

 

対局後、晴季が下に降りると、其処にはメイドの花岡が居た。

 

「グリーン休暇、世界一周は如何したんだ?80日間帰って来ないんじゃなかったのか?」

「大奥様に代わって頂きました。私は10日間で十分です。船旅は満喫させて頂きました。正直晴季様と離れている方が、心配で、心配で。もう不整脈とか起こしかねない危なさでありましたよ」

 

 

その後、晴季は車に乗せられ、病院に向かった。

 

「病院の方へ行っていませんでしたね。()(まま)、森川先生の所へ行きましょう。もう連絡はしてあります」

 

晴季は苦しそうにしながら、タオルを口に当てていた。

 

「晴季様、お辛いですか?また、腎機能が低下しているのでしょう」

「すまない・・・・・」

「申し訳ありません。私が居ない間、食事も無茶なさったのでありましょう」

「すまない、花岡・・・・・」

「いいんです、分かります。病院食ばかりでは、ストレスが溜まります。それも、子供の頃からです。どんなにお辛いか、花岡はずっと見て参りました。

大丈夫、花岡が付いております。焦らず少しでも、体調を戻しましょう。

桐山様は・・・、対局は、如何でしたか?」

「負けた・・・・・。強かった・・・・・。あんなに強くなってるなんて・・・・・。でも・・・・・・」

 

「次は絶対に負けない・・・・・・!」

「はい・・・・、勿論ですとも、晴季様」

 

 

 

「それに、もう直ぐ彼奴(あいつ)にもっと近付けるしな・・・・・」

 

 

 

 

 




最後の晴季の言葉が意味する事とは・・・・・?
次回はサンシャイン!!回と、少しオリジナルストーリーを混ぜるぞ。
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