朝起きた俺は魔剣がない事に気が付いた。そう、魔剣がないのだ。どうやら盗まれたようだ。大抵の場合、異世界召喚された主人公にはチートなスキルなり、アイテムが与えられる。
そう、それが異世界転生、あるいは召喚もののセオリーだった。俺がよく読んでいたラノベなんかでもそうだ。主人公というのは特別なのだ。それがギフト(天から授けられた才能)であったり、あるいは後天的に努力で身に着けるものかもしれない。何かしらのアドヴァンテージが与えられている。俺にとってのあの魔剣ラグナロクがそうである。
しかし、もしそれが奪われてしまったとしたら。そう、特別な人間から特別な要素がなくなってしまえば、それはただの平凡な人間になる。
そう、俺、末藤和樹は平凡な高校生だった。それがこの異世界に来て、あの魔剣ラグナロクを手にする事で特別になれただけである。そう、元のただの平凡な高校生に戻ってしまった。それどころではない。平凡以下だ。自分は勉強もできず、また女子にモテた試しもない。
そんな自分がチートな武器を手に入れて勘違いしていたのだ。己惚れていた。そう、単に強力な武器を手に入れたというだけで自分自身は何も変わっていなかったのである。
このままではいけない。俺はそう思うようになった。あの魔剣ラグナロクがなければ何もできない人間になってしまう。
ともかく、今は何とかあの魔剣を――いや、彼女を助けなければならない。
しかし、どうやって? 犯人の手がかりもないというのに。
いや。犯人の手がかりならばあった。
そう。宿主から聞いた話だった。最近ここら辺で横行している窃盗事件はある窃盗団が行っているものであるらしい。
しかし。だからと言って、どうするというのだ。魔剣を奪われ、無力な俺に何ができるというのか。しかし、やらなければならない。
なんとしてでも、俺は魔剣を――彼女を救い出さなければならなかった。
その為に、俺は頭を使った。まず情報を集める事にした。
そしてどうするのか。何か案を考える事にした。
「……カズキ」
ラグナはそう漏らす。彼女は両手両足を縛られ、牢屋のような薄暗い地下に幽閉されていた。一体、自分はこれからどうなるというのだろうか?
剣は道具である。この盗賊団のリーダーが言っていたように、剣は使われてこそ意味がある。剣はそれ自体には力はない。道具はそれを使う人間がいてこそ意味があり、価値があった。今の自分は無力だった。
「へっ……調子はどうだい?」
そう言って、男が入ってきた。この盗賊団のリーダーであるロバートとかいう男だった。
「最低な気分……」
「へっ。そいつは結構な事だ」
ロバートはそう言う。
「私をどうするつもり?」
「勿論、売り払う。とはいえ、ちゃんと売らなきゃならない。アンティークは品定めが難しいんだよ。下手な売り方をすれば足元を見られかねない」
「そう……」
さして興味もなさそうに言う。しっかりしている。盗賊団のくせに。いや、だからこそなのかもしれないが。彼らは子供ではあるが、同時に保護されたもとにぬくぬくと生きている子供ではない。そういう意味では大人より大人らしかった。逞しくもなるし、計算高くもなる。そうでなければ生きていけないからだ。
「大手の資産家の何人かにお前を見てもらう予定だ。念のためにこっちも値踏みの為に専用の鑑定士を雇う手筈だ」
「……そう」
さして興味のない風に言う。自分の事なのに他人事のようだった。それは彼女が人の形こそしているが普通の人間ではない事から来ているのかもしれない。
「リーダー……鑑定士の男が来たようですぜ」
一人の男がそう言ってきた。手下の人間だろう。
「そうか。意外に早かったな。もっと時間がかかるかと思ってたんだが」
そう、ロバートは言った。
「通せ」
「へい。リーダー」
そう、男は言った。
まもなくして、鑑定士の男が姿を現す事になる。
その男はローブを被っていて顔がよく見えなかった。一見して怪しい男ではあったが、どことなく、それらしい雰囲気が出ていた。
「どうだ? この女なんだが……」
そう、ロバートは言った。
「へい……こいつが噂の魔剣ですかね?」
「ああ。高く売れそうか?」
男は嘗め回すように、ラグナの鑑定をし始める。どことなく手つきがよろしかった。流石に女の形をしている以上は羞恥心が皆無というわけではないだろう。どことなく涙目になる。
「……けけっ。こいつは掘り出し物でやんすぜ。旦那」
「……ふーん。そうか。いくらぐらいになりそうだ?」
「こいつは1000万、いや、2000万ゼル(異世界の通貨単位)にはなるかもしれないですぜ。けっへっへっへ」
鑑定士の男はそう言って、下衆な笑いをした。ちなみに、大体一般的な市民の月給が20万ゼル程度である。つまりは10年分程度の賃金に相当する。
「そうか……そいつは結構な金額だな」
そう、ロバートは笑みをこぼす。今まで盗んできたものの中でも、これだけ高額なものはそうはなかった。
「……兄貴!」
――と。その時の事だった。慌てた様子で手下の男が姿を現す。
「ん? どうした? 何を慌ててやがる?」
「――そいつ。その鑑定士、おかしいですぜ」
「おかしい?」
「さっき、到着したんですよ。鑑定士って名乗る男が――」
「さっき?」
「今、入口のところにいます」
「入口? ――つまり」
ロバートの顔付きが変わる。
「――そいつは何者なんでしょうか? 兄貴」と、手下の男は言った。
「てめぇ! 何者だ! 鑑定士じゃねぇな!」と、ロバートは険しい顔つきで言った。
「ふっふっふ! はっはっはっはっは!」そう、鑑定士――いや、鑑定士ですらないのだろう。男は笑いだす。そして、着ていたローブを投げ捨てた。
現れたのは自分達と同じ少年の顔だった。
「カズキ!」
ラグナはそう叫んだ。