「王女?」
王女……恐らくは、この王国のお姫様という事だろう。いや、正確に言えば元お姫様、という事だが。彼女は何やら深刻そうな表情でうつむいている。雰囲気と表情から察するに恐らくは本当のようだった。嘘や冗談の類ではないだろうし、そんな事をするような状況でもない。
「……どうして王女さんが盗賊なんかに。というか、何から何までわからない事だらけなんだが」
「……それは、追って説明します。私が王女だったのは数年前の事です」
彼女――エリスは語りだした。
エリスはこの国の王女として生まれた。国王である父と、王妃である母のもとに生まれた。
そう、順風満帆ともいえる家柄のもと、彼女は生まれたのである。
しかし。そんな人生もある日急に風向きが変わるものだった。
大臣としてある男が就任した。男は大臣しては若く、大変なスピード出世だったらしい。また大変な切れ者という事で、重宝されていた。男の名をレオンという。レオンはその知略を持ち、戦争が起これば戦争を納め、また政治にも貢献し、父に尽くしていた。そう、表向きはだった。
それらは全ては父である国王に取り入り、その懐に入るためだった。
ある日、父は病死した。母はエリスを生んでしばらくして病死したため、エリスは両親を失う事になる。
――しかしだった。エリスの見た真相は異なっていた。
「父は病死だったと告げられています。しかし、私の見た真相は違うんです」
エリスはそう語る。
ある日の夜の事。その日、エリスは夜自室を抜け出していた。ふと夜目を覚ましたのである。そして夜、トイレへと向かう時の事だった。
父の自室の近くを通る。その時、音を聞いたのだ。それはうめき声のような音。しかもそれは父の部屋――王室から聞こえてきたのである。
エリスは恐る恐る、その部屋のドアの隙間からその様子を見ていた。
そこにいたのは、血まみれの父。そして、剣を手にした大臣の男――レオンの姿だった。
エリスはその場で震えあがり、悲鳴をあげる事すらかなわなかった。
その後、レオンは権力を握り、王の座に就任した。エリスの言葉など誰も耳を傾けなかった。そう、身の回りにいるのはレオンの息がかかったものばかりだった。また、エリスはまだ幼く、とても王位につける程の年齢ではなかったからだ。しかし、レオンはそれだけでは安心しなかったのだろう。疑い深く、慎重な男だった。彼はありとあらゆる危険性を排除しようとした。ある日の事、数人の男達がエリスの自室へと侵入してきた。厳重な城の警護を潜り抜けれるはずがない。そう、明らかにレオンの息のかかったものだった。レオンは邪魔なエリスを暗殺しようとしたのだ。
エリスは隙を見てその場から逃走する。そう、そして表向きは彼女は死んだという事にされた。
「――それからは生きる事に必死でした。ですが、私は死ぬわけにはいかなかったのです」
素性を明かすこともできず、まともな働き口もない彼女は盗賊に身を落とす以外に方法がなかった。
「このまま私が死んだら、真実を知る者は誰もいなくなってしまう。それだけは避けたかったのです」
彼女はそう言った。
可哀想な話ではある。――しかしだ。俺とラグナの目的は別に人助けではない。可哀想というだけでは、同情だけでは助ける理由として十分ではなかった。
「可哀想な話だけど――」
「わかっています。私は別にあなた達に同情してもらいたいわけではありません。あの男が持っていた剣にあります。あの剣は禍々しいものでした。恐らく普通のものではない。まさしく、あの男が使っていた剣はあなたが所持しているものと同じ。神々の遺産と言っていいものでした」
――神々の遺産。魔剣か。世界に災いをもたらす種。そう、そしてそれは現在もまた災いをもたらしているのだ。
「カズキ――」
ラグナはカズキの腕の裾を引っ張る。
「……わかっている。恐らくはそれは魔剣なんだろう」
つまり、これは単なる人助けではない。自分達の目的と合致しているのだ。俺達の目的は世界に災いをもたらす、魔剣を排斥する為にある。その為に俺とラグナは旅に出る事になったのだ。
「わかった。あんたの助けになろう」
「本当ですか?」
彼女の顔が明るくなる。
「――しかし。どうするんだ? 城の守りは厳重だろう?」
中も外も、相当な守りで固められているはずだ。そう易々と侵入できるものではない。
「……それには策があります」
「策?」
「何にせよ。今日すぐにというわけにはいきません。後日日を改めて説明します」
そう、エリスは言った。今日のところは解散というわけだった。
流石に疲れた。俺達は宿に帰り、眠る事にした。