男の名はレオンと言った。まだ若い。童顔だからか、まるで青年のようだった。どことなく優男に見えるような風貌だった。勿論、表向きは、である。しかし、男はその知略を持って、瞬く間に大臣に就任。そして、ある幸運(と言っていいのかどうか)を持って、彼はこの国の国王へと成ったのである。
彼は城の最上階にある王室から下界を見下ろす。人がまるで蟻か何かのように見える。
まさにこの世の全てを手に入れたかのような光景だった。絶景と言えよう。
「主様」
そんな時だった。一人の少女が声をかけてくる。凛とした表情――どことなく機械的で無機質な印象を受ける少女だった。整った顔立ちもまた人形かなにかのようで作り物めいている。女はメイド服を着ていた。
……しかし、メイド服を着させているのはいわば擬態と言ってよかった。身の回りにいても不思議ではないように。世話人としておけば、近くにおいていてもそう不思議ではないだろう。そう、四六時中一緒だったとしても不思議がられない。
慎重な彼はありとあらゆる可能性を考慮していた。そう、自分の命を狙うものは多い。この地位につくまでに多くの犠牲を出してきた。その分、多くの恨みを買ってきた事だろう。
武器は手放せなかった。護身用の武器というものは常に近くにおいておかなければならない。そうでなければ安心できなかった。
そう、彼女は普通の人間ではなかったのである。そう、彼女は武器だったのだ。神々が残した魔道具のひとつ。魔剣の一振り。
「……なんだ? グラム」
「報告があります」
「……なんだ? 報告とは」
「前国王の娘――エリス様ですが、どうやら生きていたようです」
「……そうか。野たれ死んでいたかと思っていたが、どうやらそうはならなかったようだな」
「はい。それで、いかがいたしましょうか?」
「放っておけ。もはやあいつは王族でも何でもない、ただの娘だ。権力がなくなればただの無力な存在に過ぎない」
ありとあらゆる可能性を考慮しても、実害となるような可能性はなかった。レオンはそう判断する。
「はい。わかりました。後、もうひとつ懸念材料があります」
「なんだ?」
「私と同じ、魔剣がこの国に来ているようです。持ち主もまた一緒のようです」
「ほう。それは本当か?」
「……はい。いかがされますか?」
「それは看過できないな。歯向かうなら殺せ。手に入れれるなら手に入れろ。神々の遺産は総じて有益なものだ。人智を超えた力がある」
「――了解しました」
「些か何も起こらなくて退屈していたところだ。順調すぎるというのも困りものだな」
国王レオンは笑う。かすかな笑み。不気味な笑みだった。
「俗物め。俺を楽しませてくれよ」
レオンは愉悦に塗れた笑みを浮かべ、そう言った。