「……本当に大丈夫か?」
城内を俺達は闊歩する。もはや隠れる事などしていない。内心穏やかではなかった。
「こういうのは堂々としていればバレないものなんです」
そう、エリスさんは胸をはって言った。
「そういうものなのか?」
正直、不安は拭えなかった。
と。その時だった。人に行き会う。同じ使用人の服を着た人だ。女性なのでメイド服を着ていた。
「ちょっと! あなた達」
そう、声を大きくされて呼び止められた。
ビクッ。
とした。一瞬バレたのかと思った。
「何をぼうっとしているのよ。仕事しなさいよ。仕事を」
「仕事?」
「……ベッドのシーツを代えたり、色々あるじゃないの。色々。全く、ぼーっとしてるんじゃないわよ。ぼーっと」
そう言って、メイドの女性はその場を去っていった。メイドと言っても勿論、若い人ばかりではなく、中年の女性もいるようだった。そこには同じ使用人でも序列というものが存在する。恐らく彼女はメイド長とでもいうのか。人に差指示をするポジションのようだ。口やかましくいうのが彼女の仕事なのだろう。
ともかく、バレてはいないようだった。
「行きましょう。上です。上に王室があります」
そう、エリスさんは言った。俺達は上を目指す。そこに、あるのかもしれない。ラグナと同じ、魔剣が。
「……あそこです」
そう、エリスさんは言った。豪勢な扉があった。明らかに王室といった様子。かと言って、そう簡単に忍び込めるような場所ではないだろう。
そもそも、現国王であるレオンが現在王室にいるとも限らない。
「どうする?」
俺はエリスさんに尋ねた。
「城内の事はわかっても、あの男――国王という呼び名すら口惜しい盗人の事まではわかりません」
そう、エリスは言った。まあ、それもそうである。彼女だってなんでも知っているわけではないのだ。他人の動向まで把握しきれない。
「とにかく、行ってみるしか」
王室へと向かう。慎重に、誰にも見つからないように。恐る恐る――といった様子で王室の扉を開けた。僅かな隙間から、中の様子を伺う。気配がない。どうやら、いないようだった。空振りだった――と。
その時だった。
「僕の部屋に何か用かい?」
突如、背後から声が聞こえた。思わず身構える。見るとすぐ近くに男がいた。それと使用人と思しき少女がいた。無機質な印象を受ける人形めいた少女。
それなりに警戒していたはずなのに、声をかけられるまで全く気付かなかった。
「あっ……ああ……」
驚愕の表情と共に、声にならないような声をもらすエリスさん。そう、言葉にして確認するまでもなかった。俺は察する。
この男がそうなのだ。この男が自らの父を殺し、その地位を略奪した張本人。
現国王であるレオンだった。彼はまるで優男のような風貌をしていた。想像よりもずっと若く、青年と言っても過言ではない風に見える。ただ、その含みのある笑みにはどこか裏がありそうで、冷徹な印象を受けた。
「そうか……僕の部屋のベッドシーツを取り換えに来てくれたのか。ご苦労様だね」
そう言って、彼は部屋に――王室に、使用人の少女と共に入っていった。
気付かれなかったのか。エリスさんの口ぶりからするとレオンとは面識があるはずだ。ただ、それも幼少期の事ではある。気付かなくても不思議ではないのかもしれない。
あまりに虚をつかれた故に、臨戦態勢に入る事すらできなかった。
「全く! 何をしてるのよ! そこの連中!」
そう言って年配の使用人。女性なので一応メイドというのだろう。さっきの廊下ですれ違った女性だ。
「こっちに来てちょっと手伝ってちょうだい。仕事は山ほどあるのよ」
そう言って、強引に腕を引っ張られる。
「いっ。いてて。腕を引っ張らないでくださいよ」
今はまだ正体をバラすわけにはいかない。そう、俺達は仕方なく、そのメイドに従う事になった。