・・・・・・・さて。気を取り直そう。
彼女には服を着てもらった。とはいえ、まともな服がなかったのだ。Tシャツのような衣類とパンツ(俺の)をはいてもらった。
これはこれで偉く犯罪臭がするのではあるがそれは仕方のない事でもあった。明日買いに行くより他になかった。
それより、もっと重要な事があった。彼女は一体何もなのか。そう、俺はこの世界に来てから右も左もわからないままである。彼女は知っているのかもしれない。俺が知らない何かを。
えーと。まず何を聞いておかねばならないのか。そもそも、言葉が通じるのか、という問題もあったが。
「君は・・・・・・・誰?」
「?」
「言葉は通じる。君は一体何者なんだ? あの剣はどうなった?」
「私・・・・私の名はーー」
彼女は語り出した。どうやら言葉は通じるらしい。
「ラグナロク。・・・・・・魔剣ラグナロク」
そう。彼女は語った。
「魔剣? 君が」
こくり。
と、彼女は頷いた。剣が女の子になるなんて、何でもありだな、流石ファンタジー世界。俺はすさまじいまでの順応性で納得した。
「それで、君はどうしてあんなところに?」
「それは今から数百年前の事ーー」
彼女は語り出した。
魔剣戦争。かつてこの世界に、そういう戦争が起きたらしい。そう、神々が行った闘いの末に生み出された魔剣達は世界中の至る所で朽ち、また持ち主を失い、どこかへ眠るようにして地に埋もれていた。そう、魔剣ラグナロクもそのかつての戦争で失われた一振りだったのだ。
「そうか・・・・・・それで俺に偶然掘り起こされた、ってわけか」
「ううん。きっと偶然じゃない。あなたは選ばれた」
「選ばれた?」
「あなたは再び起こるであろう災いを終わらせる為に選ばれた」
「災い?」
「もうすぐ、戦争が起こる。ううん、きっともう起こってる。この世界で戦争が。そう、かつて神々が巻き起こした時と同じような、戦争が」
「・・・・・・そうか」
そんな物騒な事になっていたのか。糊口を凌ぐので必死で理解していなかった。そう、世界の運命よりも前に、自分の命をつなぐ事に必死だったのだ。そこまで頭が回っていなかった。
「そうか・・・・・・・・世界の危機か」
世界の危機。俺に助けを求める美少女(訳あり)。やっとらしくなってきたじゃないか。
くっくっくっく。俺は胸中で笑う。そう、こういう展開を待っていたのだ。そう、まるでアニメやゲーム、ラノベのような展開を!
「どうしたの?」
彼女ーー魔剣ラグナロクは首を傾げる。
「いや。何でもない。つい、嬉しくなってな」
「嬉しい?」
俺は彼女の手をとる。
「俺にできる事があるなら協力させてくれ。俺は君の役に立ちたいんだ」
「ありがとう・・・・・・・それで」
彼女は聞いてきた。
「あなたの名前は?」
おっと。そういえば。自己紹介をまだしていなかったな。
「俺の名前は末藤一樹。カズキって呼んでくれ」
「そう・・・・・カズキね」
「君の事はなんて呼べばいい?」
「好きに呼べばいいわ。私はあなたの剣なのだから」
「そうか。じゃあ、ラグナロクは長いから、ラグナでいいか。ラグナ、よろしくな」
「うん。よろしくね。カズキ」
そう。ラグナは微笑んだ。可愛い女の子の笑みというものは、それだけで男を悩殺してしまえるような、そんな魔力を秘めていた。
こうして。俺とラグナロクーーラグナは世界の危機を防ぐべく、協力関係を築く事になった。そして、ここから始まるのだった。
俺たちの壮大な物語。二人の旅が始まった。
そこはエルフの領地だった。エルフ領。そこはエルフの国だ。現実世界で言うのならば、北海道程度の大きさはあるであろう、広い領地。もはやそこは国といってもいい。そこはエルフの国であり、王国だった。
エルフ領、首都。そしてそこはエルフの城である。
そこには王座があり、男がいた。男は明らかな程の威厳や風格を持っていた。男はエルフの国の王だった。そして隣には后がいて、王の娘。立場で言うのならば、王の娘があった。
「報告します」
そう、一人の男がかしずく。男もまたエルフだった。エルフ、ファンタジーの定番である。人間とほとんど変わらないが特徴はその長い耳。さらには知能が高く、長命である事も多い。
「我がエルフ領の境界に、魔族が出現したとの事です」
「くっ。それは本当か?」
エルフの王はそう聞いた。
「ええ。おそらくは間違いありません」
そう、男は言う。恐らくはエルフの一兵卒だろう。
魔族。かつて、魔族は昔起こった戦争。魔剣戦争の際に滅びたとされる。しかし、それは表向きの事である。
彼らは地の獄で生きながらえていた。そして、力を取り戻していたのである。
「・・・・・・・・お母様」
不安そうにエルフの姫は言った。
「また起こるのですか? 戦争が」
「安心しなさい。セルフィス。あなたの事は私が守ります」
エルフの后はそう言って愛する娘を抱きしめる。
しかし。戦争の匂いはどこからともなく立ち込め、そして、決して消える事はなかった。