商業都市エルス。
そう。ここが俺たちの来た目的地だった。商業都市エルス。前にいた俺達の街よりも随分と活気があるようだった。
その都市は人口が多く、また商売も盛んであり、市場などでは大勢の人たちが活気のある商売をしていた。都市といっているが、その規模は大きく、国と言っても差し支えない。
当然の事ではあった。俺とラグナは二人で市場を見ていた。
この都市に来たのには、何も買い物に来たわけではなかった。少なくとも俺はそう聞いている。勿論、隣にいる少女、ラグナからだ。
「匂いがするの」
彼女はそう言っていた。
「何の?」
「食べ物の匂い」
「それはするだろうな」
「それだけじゃなくて、別の匂いがする」
「別の匂い?」
「不吉な匂い。ここにあるのかもしれない」
そう。彼女は言っていた。
「何があるっていうんだ?」
「私と同じ、魔剣が」
彼女はそう言っていた。彼女は言う。昔、神々が行った戦争。その時に生み出された魔剣が世界の各地に散らばっているらしい。ちなみに、それは剣に限らず、ありとあらゆる形状の武器が各地に残されているらしい。
そして、その魔剣により災いが起きる、そう彼女は言っている。他ならぬ魔剣ラグナロクである彼女自身がそう言っているのだ。
間違いはないのだろう。
そんな時の事だった。
「きゃー! 泥棒よ!」
女性の悲鳴が聞こえる。太った女性。もといふくよかで裕福そうな女性だった。彼女はどうやらひったくりにあったようだ。
「あらやだ。ここの市政が変わってから物騒だわね」
そう、暢気そうに傍観しているおばさんがいた。
みると彼女のバックをひったくったと思しき少女が走っていく。
「どうする?」
ラグナはそう聞いてきた。迷うまでもない。こういう時、俺が読んできたラノベの主人公やアニメの主人公だったらどうするか。
『あーかったり。見なかった事にしよー。あーめんどくせー』
と頭をかきつつ言うだろうか。いや、言うわけないだろう。
「勿論、追いかけるさ」
俺はそういって、走り出した。
盗人は路地裏へと消えていく。
「待て! この野郎!」
そして叫びつつ走り、何とか追いつめた。
「てめぇ! 盗んだものを返しやがれ!」
俺はそう言い放つ。
ーーと。彼女は振り返った。整った顔立ち。粗野な格好をしているが雰囲気がどことなく高貴な印象を受けた。短くし、ローブでかくしているであろう金髪も本来であったのならばもっと美しく見えるのだろう。着飾っていればきっともっと美しく見えるのだろう。しかし、彼女はそれを隠しているかのようだった。
なぜだろうか。美人程得というのか、一瞬、なぜこんな人が盗人のような真似をしているのか。何か理由があるのではないかと思った。
そう。そこに隙が生まれた。
その一瞬のうちに、彼女は民家の屋根によじ登り、瞬く間に姿を消していった。
「くっ! 待て!」
とはいえ、地の利のないどころかこの世界に全く不慣れな俺では追跡にも限界があるだろう。
あのおばさんには残念ながら盗まれたものは取り返せなかったようだ。
やれやれだった。骨折り損に終わったか。
その時だった。
「ぐー」
おなかの音がした。
「お腹がすいたわ」とラグナ。先ほどの出来事など彼女からすれば全く興味のない問題だったのだろうか。緊迫した空気は一気に崩れる。
「魔剣もお腹がすくのか?」
「すくわ」
そう、彼女は言った。
・・・・・・・そうなのか。素人なのでわからない。
「そうか・・・・・・・。市場で何か買ってそれから宿に帰るとするか」
「うん。そうする」
ラグナは頷いた。その後、先ほどの事件と関連してよからぬ事が起こるとは思ってもみなかった。