俺達は帰宅する。帰宅というよりかは宿に帰っただけではあるが。
「へいらっしゃい」
そう、宿屋の主人が言ってきた。
「あんたは、そうだな。連泊だったな」
そう。宿屋の主人が言う。どうやら顔を覚えられていたようだ。ちなみにラグナは剣の状態になっておいてもらった。
「はい。そうです。またお世話になります」
「気をつけろよ」
「・・・・・・何がですか?」
「最近、何かと物騒だからな。スリや強盗も多い」
「そうですか・・・・・・昼間にも見ましたよ」
「国王が変わってからと言うもの、どうにも治安が悪くなってな」
そういえば、昼間もそんなような事を聞いた気がする。
「前の国王は評判がよかったんだが、命を落とされてな。表向きは病死だったがどうやら内乱があったらしい。それで、大臣の男が国王に就任したんだ。だが、どうにもきな臭い匂いがするってもっぱらの噂だ」
「へー・・・・・・・そうですか」
ーーとはいえ。俺は部外者だ。というか本来はこの世界の住人ですらないのだ。この国の政権などというものは縁遠い。
「ともかく、気をつけろよ。特に最近はこの宿でも盗みに入られる事も多い。窃盗の被害もよく起きているらしい」
「わかってます。気をつけますよ」
そう言って俺は自分の部屋へと向かっていった。しかし、この時の俺はまだどこかで、他人事だと思っていたのだろう。そうかもしれない。現実世界での日本は比較的治安がよく平和な国だった。だから、意識のずれは未だに直っていなかったのかもしれない。
夜の事であった。皆が寝静まった夜。深夜。静寂の中、抜き足差し足で一人の人物が徘徊をしている。明らかに不審な人物だった。周囲を警戒している。そして、ひとつの部屋へと行き当たった。当然のように鍵がかかっている。しかし、それは安宿の鍵である。高級な宿であるならば強固なセキュリティが施されている。そう、物理的、非物理的なセキュリティが存在する。しかし、安宿だったら問題ではない。そう。安宿だった。
先ほど言っていた非物理的なセキュリティ、といったのは魔法の事である。そう、この世界にも魔法は存在する。魔剣が存在するくらいであるのだから別に不思議ではない。
しかし。魔法と言っても単に炎を出したり、氷を出したり、攻撃に使用したり、はたまた怪我を癒す事だけが魔法ではなかった。
その不審者が使用したのは『アンロック』。簡単に言えば鍵をはずす魔法である。勿論、攻撃には使えないし、守りにも使えない。事、戦闘においては全く役に立たない代物ではあるが、それでも多いに役に立つ。そう、このように夜、盗みを働く時には得に。
不審者はそこの住人が高鼾をかいて熟睡している事を確認する。荷物らしきリュックを漁る。さして金目のものは入っていないようだった。
しかし、不審者は確認をした。壁には剣が立てかけられていたのである。
それも見るからに値がはるであろう高級そうな。
そう。そして不審者はその剣を手にし、懐に入れた。こうして、夜の中に消えていったのである。
そう。そしてその持ち主、宿主はただ高鼾をして熟睡しているのである。
光が射し込んでくる。朝だ。
「はぁ~・・・・・・・」
俺は大きく欠伸をして伸びをした。素晴らしい朝だった。久しぶりに熟睡できた。可憐な美少女がいつ寝床に入ってくるかわからない、となると傍から見ると実に羨ましいラノベなどでよく見る展開ではあったが、いざ当事者となると精神的に落ち着かず、夜も満足に眠れない。
そう、久しぶりに俺は快眠できたというわけだ。
素晴らしい朝だ。頭がすっきりだった。
しかし、その時俺は不審に思う。奇妙だった。静かだ。そう、静かすぎる。
「おーい。ラグナ。どこにいるんだ?」
俺はそう声をかける。しかし、返事はなかった。確かに、俺は自らの精神上の健康の為に『夜は剣になっている事』という約束をした。
しかし、それは夜のうちだけの事である。
「ん?」
というか、壁に立てかけておいた剣がなくなっている事を気づく。さらにはドアが開かれていた。
・・・・・・・・しばらく考える。状況的に考えられるのはひとつだった。
俺は魔剣ラグナロクを盗まれた。ショックのあまり声も出ず、放心状態になった。