全員が同時に動き出した。
ある者は地を蹴り、
ある者は気弾を放ち、
ある者は空へと飛び上がる。
目で見て、気を感じ取り、僅かな空気の流れを読む。これら全て、この場全体を把握しなければならない為の手段である。
集中攻撃されたならばこの戦場では一瞬の間も生き残れまい。だからこそ、全体に気を配らなければならなかった。
近寄る者を判断出来なければ仲間に誤射してしまうかも知れない。立ち位置が悪く、流れ弾を喰らう可能性もある。
目の前の敵だけに集中、なんて事は出来ないのだ。
「ハッハーッ! 俺の相手はどいつだい?」
真正面から突っ込んで来たのはリクーム。その後ろから飛び出したのはジースとバータだ。
先頭を突っ走ったリクームは固まっていたヤムチャとクリリンに狙いを定めて襲い掛かる。
「リク〜ム……エルボーッ!!」
戦闘力の差もさることながら、その巨体から繰り出される技は危険極まり無い。受け止めようなどと考えたその瞬間、二度と起き上がれない身体とされてしまうだろう。
クリリンとヤムチャは別々に回避。どちらも間一髪であった。
「甘いぞッ!!」
「先の事を考えて行動しなきゃなぁ!?」
そこへ迫って来たのはジースとバータ。
全く同じタイミングでそれぞれに蹴りを入れ、涼しい顔でリクームの横に立つ。
決してその蹴りは軽くない。ヤムチャとクリリンは地面に転がり、力を受け流せずに倒れ込んでしまう。
「はぁ、こんなモンかぁ? もっと足掻けッ! 抵抗してみせろッ!」
「やめろよバータ。奴らはこれでも精一杯頑張ってんだから」
「そうそう。俺たちはエリートだぜぇ? まだ生きてるだけでも奇跡的なモンよ」
強者の余裕をありありと見せつけるギニュー特戦隊の三人。
今の三人の様子は、一人が欠伸をし、一人は屈伸、もう一人は指をバキボキと鳴らしている。しかし、こんな隙だらけの様子でもクリリンとヤムチャの二人に何の策も無ければ
「クソッ! クリリン! まずは俺から攻めるぞッ!!」
そう言うとヤムチャは繰気弾を創り出し、人型へと変化させる。しかし、気を大量に消費する人型の繰気弾はこれで三度目になる。それは確実にヤムチャの体力を削り続け、現に今は肩で大きく息をしている。
クリリンはその様子を見てヤムチャの事を心配するものの、どうやら話し掛ける事すら害を与えかねない程不安定であるようだと感じ取る。
最早他人に意識を回す余裕も無いのだ。
クリリンも自身の事に集中し、目線を敵に合わせる。
「お、いいね〜。そうこなくちゃ面白くない」
リクームが笑う。そして、ヤムチャの創り出した繰気弾と打ち合い始めた。
こちらを甘く見ている為か、隙だらけである身体に蹴りや突きを叩き込む。が、リクームは全く動じていない。
だが、ダメージは蓄積するものだ。
繰気弾の機動力を生かしてリクームからの攻撃を弾き、いなし、受け流す。これまでで一番の動きを見せていた繰気弾が、確かにリクームを押さえ込んでいた。
クリリンは凄い、と思わざるを得ない。遥かに上回る戦闘力の差を技術でカバーしきっていた。
「おうおう、中々粘るじゃん」
「そんじゃこっちも動くとするか」
ジースとバータが余裕の表情でゆっくりとこちらに近付いてくる。
距離を取らねば。そう思ったクリリンは場を離れようとした。
そして気付いた。
ヤムチャが、とっくに限界を迎えていた事を。
ヤムチャのその目は血走っていた。身体が小刻みに震え、鼻からは血が流れ出ている。
これが人型繰気弾の欠点だ。人の脳で二人分の情報量を長い時間
既に、ヤムチャは正常な判断が出来ていない。奴らが近付いて来るのに全く動かず、立ち尽くしたままだ。
「おや、自殺志願者かな? それとも、今になってブルっちまったか?」
「俺たちがこんなに近くにいるのに、全く動こうとしないぜ。こいつ」
そう言って、ジースはヤムチャを殴り飛ばす。無抵抗のまま殴り飛ばされた姿を二人は笑っていたが、ヤムチャは立ち上がりもせずリクームの方だけを睨み付けていた。
その様子に、さっきまでニヤニヤと笑っていた二人の表情が変わる。
「おい、俺たちは眼中に無しかよ」
そう言うと、バータが寝たままのヤムチャに蹴りを食らわす。まるでサッカーボールの様に吹っ飛び、岩に突っ込んでしまった。
「まずは一人……随分とつまんなかったな」
ジースがそう言った瞬間、円盤型の何かが襲い掛かる。
ジースはそれを首だけ動かして避け、バータは上半身をくねらせ「危な~い」とワザとらしく怖がる。そしてその円盤が来た方向を見ると、クリリンが頭に血管を浮き出しながら荒々しく息を吐いていた。
「よくも……よくもヤムチャさんをォッ!!」
怒りに震えたクリリン。不意打ちで放った気円斬を避けられ勝機は殆ど無いのだが、そんなのはもう関係無かった。今のクリリンは今すぐにでも奴らに突っ込んでいきそうな状態だ。
クリリンが玉砕覚悟で突っ込もうとする。しかしその肩を掴み、強引に止める者がいた。その人物とは……
「よせ。代わりに俺が戦ってやろう」
それは皮肉にも一番の親友を奪ったサイヤ人、ベジータだった。
〜〜〜〜〜
「くッ!?」
二人同時に襲い掛かられ、後退しながら攻撃を捌くラディッツ。界王拳を身に纏ったとはいえ、幹部級が二人同時となると中々攻めに集中出来なかった。
「ハッハー! どうやら俺たち兄弟に手も足も出ない様だなァ!!」
「無理も無い、俺たち兄弟のコンビネーションは無敵だッ!!」
そう、ラディッツはアボカド兄弟の連携攻撃に苦戦していた。
隙を突く暇も与えず、互いをカバーするその動きに弱点は無い。ラディッツはただ守りと回避に身を置く事しか出来ないのだ。
暫く回避と防御をし続けるラディッツ、僅かな隙を見つけ、攻撃のタイミングに合わせてカウンターを当てようとする。しかし兄弟の動きはそのカウンターすら惑わせてしまう程である。
「チッ、ポッチャリ体型なクセして妙に疾いじゃねぇか」
「まだそんな口を聞く余裕がある様だな」
「ならば、その余裕を無くさせてやろう!」
アボとカドは一旦ラディッツから距離を置き、怪しい動きをし始める。またあの変なポーズか何かかと思ったラディッツであったが、嫌な予感がし、感覚を研ぎ澄ませながら構え直す。
アボとカドは空中で直立不動となり、片方がもう片方の背後に隠れる。体型や身長が全く同じな為、ラディッツからは完全に隠れた状態になるのだが、次の瞬間驚くべき事が起きた。
「なッ……!?」
なんと、数が増えたのだ。その後も何回か繰り返し、アボとカドがそれぞれ三人ずつに増える。
ラディッツは驚きを隠せなかった。残像拳の類では無く、天津飯が見せた四身の拳の様に気が落ちている訳でも無い。
「「「「「「いくぞォ!!」」」」」」
アボとカドの二人の……いや、六人の声が重なりラディッツに向かっていく。
それに対しラディッツは、どうする事も出来なかった。
アボが蹴りを放ち、アボが顔面へ殴打をかまし、カドが腹に膝蹴りをし、アボが……最早誰が誰だか分からない。全員の攻撃が質量を持ち、それが前後左右オマケに上下に至るまで徹底的に攻めてくるのだ。
こんなのどうやって防御すればいいのだ。冷静さが削られていくラディッツは相手の攻撃を無視し、強引に攻める作戦に出た。攻めなければジリ貧で負ける。少しでも奴らの体力を削り取らなければ、と。
しかし、消える。
突きを、蹴りを、頭突きを食らわせたハズの相手が、まるで幻影を殴っている様だ。
「ずりぃだろ……」
戦場にズルい、汚いなんて言葉は存在しない。しかし、この理不尽な状況が怒りの炎に油を注ぎ、言葉となって表れてしまうのだ。
ゴガァッ!
そして油断。イイのを貰ってしまう。
顔面に思いっきり入り、その後の光景はドロドロだ。映像が歪み、マトモに飛ぶ事すら出来なくなり、底に落ちる。
何か、覆す作戦とかは無いのか。
何でも良い、この状況を変えられるものならば。
(こういう時、親父ならどうすっかな……? ベジータなら、ナッパなら……カカロットなら)
ラディッツは考える。奴らの声が五月蝿いが、恐らく嘲笑っているか罵っているかなので無視だ。
奴らが来るまでの僅かな時間、頭の中をフル回転させる。
「だぁ〜!? 思いつかねぇッ!!」
ラディッツは吹っ切れたかのように復活した。
その様子に、そろそろトドメを刺そうとしたアボカド兄弟もギョッと目を見開き驚愕する。
「な、中々タフじゃねぇか」
「実に壊し甲斐があるってもんだ!」
しかし、流石は宇宙のエリートと言ったところか。動じはするものの直ぐにいつもの調子を取り戻し再度トドメを刺そうと向かっていく。
一方、ラディッツは先程とは全くの別人の様に余裕の笑みを浮かべていた。
「さっさと来いッ! このラディッツ様が相手をしてやる!」
その直後、先程と同じ様にアボカド兄弟がラディッツの周りを取り囲み、一度に突っ込んで行った。これでは逃げ場など無く、全方位からの攻撃である為防御も不可。どう足掻いても絶望的な状況であるハズなのに、それでもラディッツは笑みを消さなかった。
ドゴォッ!!
肉体を叩いた音とは思えない程の鈍い音が辺りに響く。明らかに今までとは違う一撃が繰り出された証拠だ。叩き込まれた部位によっては、相手は悶絶するどころでは無いだろう。実際その一撃は、今着ている戦闘服など簡単に穿つのだ。
しかし、それはラディッツのでは無いのだが。
「「ボワァッ!?」」
ラディッツの両足の蹴りがアボカド兄弟の本体の腹に突き刺さる。堪らずアボカド兄弟はその衝撃の余り顔を醜く歪ませ、口から空気と共に体液を吐き出した。
そんな様子を見たラディッツは、
「よく聞けよ卑怯者共。サイヤ人は戦闘種族だ、この戦闘の最中でも成長するんだよッ!」
余裕の笑み、それでいて獰猛なソレを浮かべたサイヤ人が、そこにいた。
馬鹿な!? と驚く二人。その様子に冷静さなど無く、驚きの色を隠せていない。その姿にエリートの風格はあっただろうか。
〜〜〜〜〜
「ん、よっ、ほっ」
大柄な男、リクームがヤムチャの造った人型の気の塊と打ち合う。その強さはリクームを打倒とはいかないものの、確実に押し留めていた。
長年に渡った武術の理想、その理想が生み出すヤムチャの最大の動きを繰気弾が体現していた。
しかし、地力が余りにも足りない。
戦闘力の差、というものはとても残酷だ。
ヤムチャの作り出した繰気弾。それが生み出せる最大の動きであっても、宇宙のエリートであるリクームには届かない。
現にリクームが戦闘を楽しむべくある程度の加減をしていなければ、たちまちヤムチャが決死の思いで生み出したこの繰気弾であっても霧散させられる事だろう。
「ん? やっとベジータちゃんも動き出したか」
余所見をしながら打ち合うリクーム。それだけでどれだけ余裕なのかが窺い知れる。
このままではジースかバータに最高級の獲物を横取りされてしまう、そんなのは面白く無い。例えそのお詫びに食後のデザートを渡されても納得がいかないであろうリクームは、早々にこのよく分からない気の塊を片付けてベジータの方へ向かっていこうと思った。
「そぉれッ!!」
バータが宇宙一のスピード、グルドが超能力であれば、リクームはパワーであった。
筋骨隆々なその身体からは今まで以上のエネルギーが満ち溢れ、一撃一撃が重くなる。それが打ち込まれるのは言うまでもなく目の前の繰気弾だ。
人型である繰気弾は勿論人と同様の動き方をする。それならば攻撃方法も同じ、受ける構えも同じだ。
「◼︎◼︎◼︎◼︎」
そして、ダメージを受けた後の行動も同じだ。
リクームの拳を防御した繰気弾は、それを打ち破られて腹に直撃する。瞬間、その身体はくの字に折れ曲がり、更に拳が貫通する。
気で造られたモノであっても、その拳を受けたまま反撃に出る事は不可能だ。人型だったそれは貫通した部分から徐々に形が失われていき、消えていった。
「さぁて、ベジータちゃんの為に急ぐとするかァ!」
まだあっちは戦いを始めていない。なら間に合うな、とリクームは笑う。
そうやってリクームが飛んで行こうとした時、
「待てよリクーム。先ずは俺と遊んでいけや」
その声と共に何かが腹に突き刺さり、堪らず後退するリクーム。
この重さ、先程の変な気の塊では無い。そしてこの声、聞き覚えがある。記憶にもそう遠くない。しかしその声の持ち主はダウンしたハズだ。そう思い顔を上げると、
「驚いたか? 俺はタフさが売りなんでね」
ナッパが、そこに立っていた。
乱戦と言いつつもそれぞれ分かれて戦ってしまうことになっちまった。乱戦詐欺だなぁ
突然覚醒(?)のラディッツ。
ラディッツのアボカド兄弟二人に対する蹴りは原作のピッコロと悟空にかましたアレですね。分からない人はアニメを見て下さい。かっこいい兄貴が見れますよ。