この作品はチェルシー好きな作者がチェルシーのために描いた自己満作品です!
チェルシーが好きな人もそうでない人も、この作品を通して少しでも興味を持っていただけたら嬉しいです。
それではどうぞ!
イギリス。それはイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの四つの国からなるヨーロッパ屈指の大国である。それらは主に二つの島に分かれている。
イングランド、ウェールズ、スコットランドの3つはグレートブリテン島、北アイルランドはアイルランド島北東部といった具合に区分される。この2つの大きな島と、その周囲大小の島々をブリテン諸島と呼ぶ。
それらは地形一つとっても様々であり、イングランドの大部分は岩の多い低地からなるのに対し、北アイルランドはほとんどが丘陵地である。ウェールズは山岳地帯が多く、スコットランドは非常に多様な地形をしていると言える。
当然四つの国にはそれぞれの歴史があり、故にイギリスと一纏めに括るのはいささか問題があるかもしれない。統合された経緯を語るにはここはあまりに狭すぎるだろう。
そんな長い歴史の積み重なりで生まれたイギリスという主権国家には名家というものが存在し、その位の高さによって社会的地位を約束された貴族が現在でもそれなりの発言権を持っている。数多くの貴族が存在するイギリスには特殊な貴族も多数いる。例えばオルコット家もその一つと言えるだろう。
オルコット家は女性が当主である。それだけでも異例なのだが、問題はその影響力だ。その分野は政治、医療、工業と多岐に渡り、イギリスでも屈指の名家であることは誰もが認めるところであろう。
「……」
タキシードに腕を通す。その洗練された動きは見る者が見れば息を飲むほどの気品さと上品さがあるだろう。最後に襟元を整え、ネクタイを締め直す。ここ数年にわたって培われた行為はすでに身に染みついており、今更間違うことはない。
姿見で自身の恰好を確認してみる。中性的で少し童顔なとこともあり、尚且つ小柄な容姿のせいで年齢より若く見られるのが彼の悩みだったりする。くせっ気のある髪は赤茶色に染まっている。しかし、それは悪め目立ちするような色ではない。瞳の色と同色で彼自身の容姿として完結しているのだ。全体的に落ち着いた雰囲気を漂わせている要因の一つと言えるだろう。第一印象は大人びた子供、というのが正しいのかもしれない。実際彼はオルコット家に仕える使用人なのだが、歳はかなり若い。15歳。使用人兼学生というかなり特殊な経歴を持っているのは彼の家柄の問題なのだが…。
「チェット」
短いノックの音と同時に扉の向こうから声を掛けられる。
彼の名はチェスター・ブランケット。オルコット家に代々仕える使用人の家系だ。
「はい。今開けます」
すぐさま自室の扉を開ける意思を見せ、声の主に応じる。
彼、チェスターにはチェルシーという名の姉がいる。もちろん姉もチェスターと同じくオルコット家に仕える使用人の一人だ。チェルシーはメイドとしてまさしく完璧な人物だ。基本的な礼儀作法はもちろん、仕事の手際の良さや人当たりの良さ、何を取っても申し分のない絵に描いたような完璧な姉。彼女はもちろんチェスターの自慢の姉であり、それと同時に目標でもあった。
声からしておそらく声の主は彼女であろうと推測できた。まあ、こんな朝早くに自室に訪ねて来る者は彼女しかいないのだが。そう判断するとチェスターの反応は速かった。すぐさま姿見に布を被せ、扉を開いた。
「おはようございます。姉様」
「ええ、おはようチェット」
お互い簡単な挨拶を交わす。昔は挨拶一つでも何かと姉に注意されていたな、とどこか他人事のように考える余裕すらあった。
先程も述べた通り、チェルシーは完璧に近い人物だ。それは容姿に関しても同様のことが言える。チェスターと同様に赤茶色の眼と髪が特徴である。髪は肩にかかる程の長さで、丁寧に手入れをされているのが伺える。スタイルも並のモデルなど比にもならない。出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。スラッと伸びた脚は適度に鍛えられていて、けれど決してそれが表に出ることはない女性らしい綺麗な脚だ。
そんな完璧美人なチェルシーの弟であるチェスターも並以上の容姿をしているのだが、目の前に完璧な本人がいる以上そこまで目立つことはない。
「そろそろ今朝の支度を始めるわよ、チェット」
現在時刻は朝の5時。朝食の用意に屋敷の掃除、庭の手入れに主の今日一日の予定の確認、他にも挙げ出せばきりがない程の仕事がある。使用人としての朝はいつも早いのだ。
「………」
「どうしたの、チェット?」
チェスターに反応がなかったのを不思議に思ったのか心配そうな顔をしてこちらの様子を窺うチェルシー。
「いや、その呼び方は止めてくださいと言ってるじゃないですか、姉様」
「?…どうして?」
チェスターは子供のころからずっとチェットと呼ばれてきた。本来チェットとはチェスターというイギリス人男性のファーストネームの愛称だ。文字で書くと
そんなことはどうでもいいのだ。問題はそれが子供のころからのニックネームであるということ。それがチェスターにとってはムズ痒く、恥ずかしいのだ。そんなチェスターの気持ちを見透かしたようにチェルシーは笑みを浮かべてこう言った。
「あら、私からしたらまだチェットは子供よ」
可愛がるようにゆっくりと頭を撫でるその動作に余計に子供扱いされている気になってしまう。身長差はチェスターが小柄だということもあり、あまりない。なのでなんの支障もなく撫でられているのだが、それがさらにチェスターの機嫌を悪くする。その光景はとても3つしか変わらない姉弟には見えないほど微笑ましいものだった。
「…今日はあまり抵抗しないのね」
「無駄だと悟ったので」
「ふふっ、偉いわ」
もう満足したのか撫でていた手を止め、腕を下ろした。いや、下ろそうとした途中でその手が止まった。ちょうどチェスターの耳元で止まり、そっと癖のある赤毛に触れた。触れられた髪の毛はピョコンと勢いよく立ち上がり重力に逆らおうと必死に抵抗をみせている。
「寝癖…ついてるわよ」
「え!?ホント!?」
予想外の指摘に口調が崩れてしまったがチェルシーは意にも留めない。おそらく昔なら注意したであろうが、今はそんなことは必要ないと思えるくらいにはチェスターのことを認めているのだ。
「直してあげるわ。部屋に入れて」
慌てふためく弟に少しの母性をくすぐられたのかちょっとだけ甘やかしてみることにした。するとチェスターは何かを気にしながら必死に寝癖の付いたところを押さえている。もちろんそんなことでは直りはしないのは彼も分かっていることだろう。
「チェット?」
「えっと、急がないと時間が…」
どうやらチェスターが気にしていたのは時間らしい。チェルシーもそれに倣い時計で時刻を確認してみる。時刻は5時を回ったところ。確かに余裕というわけではないが寝癖を直すくらいの時間はあるだろう。そう判断するとチェルシーはため息交じりに言った。
「そう時間はかからないから大丈夫よ」
「で、でも…」
まだ何かを言いたそうにしているチェスターを無視し、すぐさま部屋へと入る。チェスターもそれ以上抵抗することなく大人しく従った。適当にベッドに座らせ、寝癖の跡がついたところを櫛でとく。しかし、寝癖は思った以上に強情でなおも抵抗を見せ、重力に逆らっている。そんな様子が無性に愛おしくなってチェルシーは無意識のうちに顔を綻ばせた。
だが、時間は有限である。もう少し眺めていたいという気持ちがない訳ではないが仕方がない。寝癖の部分を水で少し濡らし、強制的に髪を寝かせる。あとはアイロンを使って乾かしたら仕上げに櫛で整える。さすがにチェルシーの手際はよく、5分としないうちにチェスターの髪は整えられた。
「終わったわよ」
「…うん、ありがと」
声を掛けると顔を赤くしたチェスターが小さな声で感謝の言葉を呟いた。どうやら抵抗した理由は時間以外にも恥ずかしいからという理由があったようだ。
「ふふっ」
「何笑ってるのさ」
ひたすらに抗議の視線を向けてくるチェスターにチェルシーは悪戯っぽい笑みで返す。年不相応に大人びたチェルシーの笑みは子供のような無邪気さもあれば大人のような包容力もある。そればかりか小悪魔のようなミステリアスな雰囲気すらも感じさせる。それは同性や家族ですら魅了する魅力的な笑顔だった。
「ごめんなさい。ちょっと揶揄いすぎたわ」
「もういいです。…慣れたので」
なんだかやられっぱなしだったので少し困らしてやろうと拗ねたように顔を背けてみる。しかし、チェルシーはそれすらも見通しているようで、優しい笑みを浮かべているだけだ。やっぱり今日も姉には敵わないチェスターだった。
◇
「…ふぅ、完成っと」
タキシードにエプロンといった何とも珍妙な格好をしたチェスターが文字通り一息つく。軽く伸びをするとパキッという小気味のいい音が厨房に響く。そう、ここは厨房である。そこでチェスターは簡単な朝食を作っていたのだ。
もちろんそれは自身の分ではない。自身が仕える主、オルコット家の次期当主になる方、セシリア・オルコットお嬢様の朝食だ。こう見えてもチェスターは料理に関してはそこそこ自信があったりする。仕事なのだから当然と言えば当然なのだが。
オートミールにベーキングパウダーを加え、牛乳でまとめてから軽く捏ねる。レーズンなどのドライフルーツが練り込まれているそれはイギリス全土で愛されている伝統料理、スコーンだ。その隣はポーチドエッグと言われる卵料理が並べられていた。酢を入れた湯の中に卵を加え過熱し、固めたものだ。通常はマフィンの上にのせて食べるのだが、そこはセシリアの好みに合わせてある。最後にマッシュルームとトマトをソテーしたものを添えれば完璧である。
イギリス=料理が不味い。と思っている方も多いかもしれない。確かにそれは否定しようのない事実だ。実際『イギリスで美味しい料理を食べたければ朝食を3回食べろ』という言葉もあるくらいだ。だが逆にそれはイギリスの朝食、フル・ブレックファストを賞賛した言葉であるともとれる。まあ、つまり言いたいのは朝食に関していえば他のヨーロッパの近隣諸国にも引けを取らない程イギリス料理は美味しいということだ。
出来上がった料理を次々とワゴンに乗せていく。すると早くも掃除を終えた様子のチェルシーが顔を出した。
「お疲れ様です、姉様」
「ええ、お疲れ、チェット」
簡単な言葉を交わすとチェルシーは厨房の奥からティーカップを取り出してきた。もちろんそれはイギリス人なら誰もが愛する食後の紅茶である。何も言ってないのに持って来て欲しいものを的確に当てるあたりさすがはチェルシー、と言ったところか。
「はい、これでしょ」
「あ、はい。ありがとうございます」
すぐにカップを受け取ろうとしたところでチェルシーから言葉を掛けられた。
「寂しくなるわね…」
発せられたのはそんな呟き。だが、それだけでチェスターは察することができた。
「そうですね。セシリアお嬢様に料理を作るのも今日でお終い」
「まあ、3年間だけ、だけれど…」
オルコット家次期当主、セシリアお嬢様は今日イギリスを発つ。日本、いや、正確にはどこの国にも所属していない学園。IS学園にお嬢様は3年間通うことになる。それはオルコット家を守るためであり、チェスターたちのためでもある。そのための努力もしてきた。だからこそ笑顔で送って差しあげたいのだが、やっぱり寂しい気持ちがある。それはチェルシーも同様なようだ。二人はセシリアの従者であると同時に幼少からの付き合いだ。砕けた言い方をすれば幼馴染ということになる。
「…それでも寂しいものは寂しいですよ」
「そうね」
セシリアの両親は3年前に事故で他界した。死傷者は数百人にも及ぶ大規模な鉄道事故だった。それ以来セシリアはたった一人でオルコット家を支えてきた。その過程で分かったことがIS適性の高さである。代表候補生になれば国からの補助が出る。セシリアの場合は国籍保持を条件にオルコット家の遺産を守ることで合意した。そんな努力を知らない二人ではない。
「暗くなってはダメよ。こういうときこそ笑顔で送り出しましょ。その方がお嬢様も喜ばれるわ」
「…ええ、そうですね」
チェルシーの言葉に同意する。気持ちを切り替えると今度こそはとチェルシーからカップを受け取る。しかし、チェルシーはカップを握っている自身の手を直前で引っ込めた。当然そうなればチェスターの手は空を切り、何も掴むことはない。
「姉様?」
「チェット、あとは私がしておくからあなたはお嬢様を起こしに行ってくれる?」
「え?あ、はい」
言われるがままに時間を確認してみると時計の針は午前6時を示していた。確かにそろそろ起きる時間だろう。
「では、よろしくお願いします」
「ええ」
チェルシーにあとは任せることにし、セシリアお嬢様を起こしに向かった。向かう途中、昔のことを思い出したのはきっと寂しさを紛らわすためだったのかもしれない。
原作だとチェルシーはずっと敬語だから口調が難しい…。
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