僕の姉はチェルシーさん   作:いろすけ

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オリキャラが二人登場します。



3話 目標を決めなさい

 チェスターが正式にオルコット家に仕えて数日が経過した。まだ慣れたとは言い難いがそれなりに仕事もこなせるようになってきた。それもこれもチェルシーの教育のおかげだと言える。本当に良い姉を持ったと感謝しなければならない。

 

「では、よろしくお願いするわね。チェルシー、チェスター」

「はい、お気をつけて」

「お、お気をつけて」

 

 ビシッと綺麗なお辞儀をする姉、チェルシーとそれに少し遅れてチェスターも頭を下げる。フローラは優しく微笑むと数人の使用人と共に車へ向かう。明らかに高級そうな濃い漆黒の車はすでに庭園の中に敷かれた車道を通り、すぐ近くで停まっている。当然のように使用人の一人が黒い高級車の後部座席を開け、フローラは黙って中に乗り込む。チェルシーとチェスターはもう一度頭を深く下げ、それをフローラを乗せた車がいなくなるまで続けた。

 

「フローラ様、ここ最近特に忙しそうじゃない?」

「ええ、そうね。あまり無理をなさらなければいいのだけれど…」

「…そう――」

「チェット、口調が乱れてるわ。気をつけなさい」

「――ですね」

 

 フローラはここ最近、いつにも増して忙しそうにしていた。理由は使用人見習いであるチェスターにはイマイチ分からないが、チェルシー曰く発表されて間もないISというものが関係しているらしい。

 

 なんでもISは宇宙空間での活動を想定して作られたものなのだが、その実、現行のどんな兵器をも凌駕する危険な発明らしい。オルコット家、つまりはフローラはかなり早い段階からこのISというものの危険性を提唱し続けてきた。

 

 しかし、そんな想いも空しく、とある事件が起きた。白騎士事件と呼ばれる出来事だ。世界中のミサイルが同時にハッキングされ、照準が日本に定められた。当然世界はパニックに陥り、誰もが絶望を感じた。その事態を救ったのが、のちに白騎士と呼ばれることになるIS1号機だ。そのISはミサイルを完封しただけでなく、その後白騎士を危険だと判断し、攻撃を仕掛けてきた現行の兵器すらも赤子のように扱った。たった数時間でISは世界の軍事バランスをひっくり返したと言っていい。フローラの予感は最悪の形で的中したと言える。

 

 そして現在はISによる変革の間最中というわけだ。今後、世界がどのように傾くかは分からない。誰も想像することが出来ないような事態が引き起こるかもしれない。それ程にまで、今の世界は不安定だと言える。

 

「早く、僕もフローラ様の役に立てるようにならなくちゃな」

「あら、チェットにしては珍しくいいことを言うのね」

「珍しくは余計だって……ですよ」

「ふふ、今のはおまけで見逃してあげるわ」

 

 フローラはチェルシーにだけ語ったことがある。今後の行く末は前述した通り誰にも分からない。だが、フローラはあることだけは確実な未来になるだろうと予想していた。女尊男卑だ。ISという兵器の欠点として女性しか扱えないことが挙げられる。つまり必然的にISを扱える女性が優遇される未来が来ると感じていたのだ。もちろん確信はないが、チェルシー自身もどこかでそうなるだろうと直感している。

 

 もし、本当にそうなれば女性であるチェルシーやフローラ、もっと言えば、いずれオルコット家を継ぐことになるセシリアにとっては都合がいいと言える。しかし、男性であるチェスターはどうだ。おそらく生きづらい世の中になるだろう。そう考えると不安でいっぱいになる。たとえ自身や自身の仕える主にプラスになってもチェスターにとってマイナスになるようなことでは意味がない。チェルシーは他でもない、弟であるチェスターに幸せになって欲しいのだ。

 

「うっし、もうひと頑張りですね、ねえちゃ――姉様」

 

 そんなチェルシーの気も知らないで呑気に笑うチェスター。いつも通りの笑顔。その顔を見ているとチェルシーはなんだか難しく考えている自分が馬鹿らしく感じた。それはきっといい意味で。

 

「はぁ、2度目は流石にどうかと思うわ」

「ご、ごめん…じゃなくて、ごめんなさい!」

「学習しない子にはお仕置きが必要よね?」

「ヒィッ」

 

 半分命をあきらめたチェスターは反射的に目を閉じる。しかし、いくら待てどもお仕置きが来ることはない。不思議に思いつつ、恐る恐る目を開けるとそこには予想外に笑みを浮かべたチェルシーがいた。

 

「チェット」

「へ?」

 

 チェスターが素頓狂な声を上げたのも無理はない。何しろ突然腕を引かれ、そのままチェルシーに体をあずける形で抱きしめられたのだ。

 

「ね、姉ちゃん?」

「チェット、あなたは私が守る。絶対、絶対守るから」

「と、突然どうしたの!?」

 

 チェルシーはそれ以上何も言わなかった。ただ優しく、それでいて力強く、チェスターのことを抱きしめ続けた。相も変わらず状況を飲み込めないままでいるチェスターだが、彼もまた、狼狽えることを止めた。今まで見たことのない姉の姿に言葉を失ってしまったのだ。でも、それだけではない。初めて見る弱気な姉を前に狼狽えるなんてできなかったのだ。

 

「じゃあ………姉ちゃんは僕が守るよ」

 

 不思議とそんな言葉を口にしていた。

 

 

 

 

 

 

 オルコット家の当主であるフローラ様が留守にしている今こそチェスターたち使用人がしっかりしなければいけないと思う。思うのだが、仕事にどこか打ち込めない様子のチェスターがいた。

 

 姉、チェルシーの先程の表情が頭から離れないのだ。あんなに弱気な姉をチェスターは知らない。一体何がチェルシーをあそこまでさせたのか、いくら考えても答えは出ない。チェスター自身が何かしたとは考えられないし、第一それでチェルシーがああなるとも思えない。思考の海に半ば沈みかているチェスターを叱咤の声が呼び戻した。

 

「チェスター君!ボーっとしながら花瓶を換えないでください。見ていて冷や冷やします」

「…ああ、ごめんなさい」

 

 意識が戻ったチェスターはすぐさま非を認める。その様子に違和感を感じたのか、メイド服に身を包んだ女性は心配するような目をこちらに向けた。

 

 彼女はチェスターとチェルシーの先輩にあたる人物だ。名をハーティ・エヴァンス。その容姿は如何にもそうな眼鏡をかけ、髪は後ろで一つにまとめられている。髪色はセシリアやフローラと同じ金髪だが、比べるとかなり落ち着いているのが分かる。表記するとすれば栗色というのが一番しっくりくるだろう。

 

 ハーティはチェルシーと同じくらい厳しい人だがその分面倒見が良かったりもする。年齢は彼女曰はく25歳らしいが、さすがにもうちょっといっている気がする。もちろん怖いので直接は言わないが。

 

「こちらは片付けますから、花の方をよろしくお願いします」

「は、はい」

 

 年上の人から敬語を使われるのはどこかムズ痒い感覚になる。ましてや目上の人でもあるハーティに対してならなおさらだ。それでも彼女は敬語の方が楽だから、という理由で止めてくれない。彼女のように使用人としてのキャリアが長いと、どうしてもそうなってしまうようで敬語が抜けない人は意外にもたくさんいる。その点で言えばチェルシーはやっぱり特殊なのかもしれない。

 

「で、何かあったのですか?」

 

 花瓶を受け取ってそのまま去るかと思いきや、こちらを振り返り、見かねたような視線でそんなことを投げかけてきた。正直、相談しようかどうか迷った。それはハーティのことを信用していないわけではない。むしろチェスターはハーティのことを信用している。尊敬と言ってもいいくらいだ。でも、今回は理由が理由だった。なんだか素直に口に出せない恥ずかしさと、そもそも何を相談すればいいのか分からない、そんな曖昧な気持ちがあったからだ。

 

「別に無理に言えとはいいませんけど」

「ご、ごめんなさい」

「謝る必要はありませんよ。聞いたのは私の方ですから」

「は、はぁ」

 

 答えられずにいたチェスターを気遣ってハーティはそう言ってくれた。相談できないもどかしさと気を遣わせてしまった申し訳なさでチェスターはさらに萎縮してしまった。

 

「悩みが何かは分からないのであまり具体的なことは言えませんが、一つだけ」

「はい」

「あなたに分かることなんてあなたが思う以上に少ないんですよ」

「え?」

「あなたはまだ子供ですから、分からないことは分からないでいいと思います」

「え、でも―」

「私はこれで」

 

 チェスターの言葉も遮って、ハーティは足早に立ち去ってしまう。具体的なことは言えないと言っておきながら、的確にチェスターの考えていることを当てられてしまったかのような感覚になる。去りゆく彼女の後姿はかっこよかった。女性を褒める時に使うのはどうかと思う表現だが、それ以外の言葉はしっくりこないとチェスターは心の中で呟いた。

 

「深く考えすぎるなよ、ってこと?」

 

 ならばそうしよう、と割り切れないのが人間だけれど、そうしていこうと改めることはできる。チェスターもすぐには割り切れそうにないが、そういう風に考えていこうと決意した。そのための第一歩として、とりあえずは目の前の仕事に集中しよう。

 

「よし、お掃除頑張りますよぉ!」

 

 すでにハーティは去った後で周りに人はいない。まあ、いたらとても叫ぶような真似などできないが。

 

 すぐさま花を花瓶に差し替えると、チェスターは庭の手入れをするため方向転換を行う。数分前とはうって変わって軽快な足取りで歩を進める。ロビーの中央階段を下っている最中にある人物と出くわした。

 

「おはようございます、アーノルド様」

「ああ、おはよう、チェスター」

 

 優しそうな雰囲気の男性。見る者が違えば頼りない、と感じる人もいるかもしれない。そんな男らしさとは対極に位置するこの男性こそがフローラの夫である。アーノルド・オルコット。オルコット家に婿入りした彼は夫という肩書とは裏腹に屋敷内での立場は低い。もちろん直接本人に告げることはないがアーノルド自身もそう感じているだろう。事実、他人の様子ばかりを窺うアーノルドにフローラが鬱陶しそうな顔をする場面は多々あった。

 

「今日はいい天気だね。外で遊んだら気持ちがいいんじゃないかな」

「ダメですよ。僕には仕事があるんですから」

「子供は遊ぶのが仕事なんだよ」

「子供じゃないですってば!」

「あはは、偉いね、チェスターは」

 

 しかし、チェスターはアーノルドのことが結構好きだったりする。みんなは頼りないとか、情けないとか言うけれど、チェスターはそう思わなかった。面倒見がよくて、誰にでも優しい。フローラのような厳しさは確かにないけれど、それでもチェスターは彼を嫌いにはなれなかった。そのことをチェルシーに話したときは驚いたような顔をしていたけれど、すぐにチェスターの言う通りだ、と言ってくれたのをよく覚えている。

 

「アーノルド様はフローラ様と一緒に行かないんですか?」

「ああ、フローラは優秀だから私なんていらないんだよ」

 

 きっと今のは質問したチェスターに非がある。しかし、それも仕方のないことだろう。正装こそしているが中身はまだ年端もいかない子供なのだ。11歳の少年の純粋な疑問を誰が責められる。

 

 でも、チェスターは聞いて後悔をした。笑顔をつくってはいるがどこか悲しそうなのだ。そして、不意にチェスターは自分とチェルシーのことではないかと思い至ってしまう。完璧な女性と、不出来な男性。

 

「…」

「ごめんね、今のは忘れてくれ」

 

 すでに普通の笑顔に戻った様子のアーノルドがそう言った。そのまま立ち去ろうとするアーノルドをチェスターは呼び止めていた。なんだかここで聞いておかなければいけないような気がしたのだ。また、その答えによってはチェルシーという姉の存在が自身の重荷になると受け止めなければならないのだ。

 

「フローラ様のこと、好きですか?」

 

 突然のことに驚きを隠せない様子のアーノルド。無理もない。こんな小さな子供からまさかそんなことを聞かれるとは予想できなかっただろう。しかし、アーノルドはすぐに表情を戻して言った。

 

「…あぁ、もちろんだよ」

 

 もちろんアーノルドがフローラに対しての好きとチェスターがチェルシーに対して思う好きは意味合いがまるで違う。でも、本質は同じだ。だったら何も問題はない。アーノルドがフローラのことを好きだというのなら、チェスターだってチェルシーのことを好きでいられるはずだ。そう思うと安心できた。

 

 そして同時に目標が変わった。今までは完璧な姉のようになることを目指していたが、そうではない。この人のようにチェルシーの側にいようと、例えチェルシーが自身のことをこの先どう思おうとも。その覚悟を持って、チェルシーを支えようと。今この瞬間、チェスターにとってアーノルドこそが目指すべき目標となったのだ。

 

「ありがとうございます、アーノルド様」

「?………別にお礼を言われることはしてないと思うけど」

 

 当のアーノルドはよく分からないと訴えているが、もういいのだ。

 

「仕事の方に戻りますね」

「あぁ、無理せず頑張ってね」

「はい!」

 

 なんだかんだあったが結果いいように転んだ気がする。それにこれ以上考えたところできっと今のチェスターには分からない。ならそれでいい。何も問題はないのだから。とにかく今は自分の仕事を終わらせよう、そんな気持ちで庭の手入れに取り掛かるのだった。

 

 

 

 




チェスターとチェルシーの先輩にあたるハーティ・エヴァンス。
セシリアの父親のアーノルド・オルコット。

以上の二人がオリキャラとして登場しました。


セシリアの父親は原作に忠実に作っていきたいですね。とはいえ情報がなさすぎるので半分妄想で書いていきます。
もし、オリキャラについてご意見、ご感想、アドバイス等がありましたらよろしくお願いします。


もっとセシリアとチェルシーを書きたい…。
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