僕の姉はチェルシーさん   作:いろすけ

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どうもお久しぶりです、いろすけです

今更ですがアーキタイプブレーカー事前登録開始されましたね。
リリースが待ち遠しいです。

どのキャラを選ぼうか真剣に悩んでおります……(チェルシーさん出ないかなぁー


7話 約束よ

 チェスターが働き始めて一年が経過しようとしていた。最近では仕事が楽しいと思える程になってきた。フローラに迷惑をかけることもチェルシーの手を煩わせることもほとんどなくなっている。それはチェルシーにとって嬉しくも寂しい何とも複雑な心境にさせる。姉というより親目線になってしまうが、手がかからなくなることはそういうことなのである。

 

「お疲れ様。今日のお仕事はこれで終わりよ」

「お疲れ様です。姉様」

 

 手に持っていた豪華なあしらいの洋服をハンガーに掛け、チェルシーはお辞儀をする。今まさに300を超えるフローラの洋服を片したところだ。さすがに貴族の女性当主とだけあってその量は半端ではない。さらに一着一着がどれも高価なもので、唯一無二のオーダーメイド品も少なくない。そんな重要な仕事も今のチェスターになら任せられるのだ。

 

「今週の土曜日なのだけど空いてるかしら?」

「え?まあ、仕事ですけど?」

 

 土曜日と言えど使用人に休みはないのである。もちろん非番だったり、学校の都合で休みをいただくことはある。でも基本的にこの屋敷に住み込みで働いているので明確な休みというものはない。もちろんそれで構わないし、そもそも生活の一部になっているので今更なことだろう。それはチェルシーだって同じであるはずなのに何故そんな質問をしたのか分からなかった。

 

「何かあるんですか?」

 

 何か失言でもあったのだろうか。チェルシーは怒ったような呆れたような表情で溜息をついた。心当たりのないチェスターは自分の今の言葉を思い返してはどこが悪かったのだろう、とアタフタとしている。すると見かねたようにチェルシーが頭を抱えながら言った。

 

「チェットが働き始めて丁度一年よ。だからお祝いにどこかへでかけましょ」

「ええ!?もうそんなに経つんですね!?早いなぁ………」

「はぁ………」

 

 さっきより大きな溜息をつかれる。必死だったとはいえ、もうそんなに経っていたことに驚くと同時に本人すら忘れていたことに気が付くチェルシーは本当にすごい。人としてできている、そんな気がした。考えていることがバレたのかチェルシーの視線が少し冷たいものへと変わった。

 

「女性は記念日というものを大切にする生き物よ。嫌われたくなければチェットも覚えておくことね」

「…それは姉様もですか?」

「もちろんよ」

 

 そうやって笑うチェルシーを見ると妙に落ち着かなくなる。以前同じく使用人として働いている男性から女性はめんどくさい生き物だ、と言われたことがある。脳の構造が男性と大きく異なっているらしい。

 

「それで、どうなのかしら?」

「そ、そんないいですよ。僕なんかのために」

 

 遠慮したらすぐさまチェルシーに肩を掴まれ強制的に視界に割り込まれる。掴まれている肩は若干だが痛く、視線はかなり鋭い。たぶん視線に攻撃力があればすでにヒットポイントは無くなっているんじゃないだろうか。

 

「チェット」

「は、はい」

「遠慮はしてはいけないわ」

「いえ。遠慮なんて――」

「それともお姉ちゃんと一緒に出掛けたくないの?」

「い、いや、そういうわけでも――」

 

 チェルシーのあまりの剣幕に何も言えなくなってしまう。一応フォローをしておくと別にチェルシーと出かけることが嫌なわけではない。二人だけでどこかへ出掛けたことなんてない。そもそも遊ぶために遠出すること自体何年振りか分からないくらいだ。少なくとも両親が無くなってからは一度もないように感じた。だから寧ろ楽しみというのが本当のところだったりする。するのだが、自分のお祝いのためだというのがどうしようもなく照れくさい。こういうときに嬉しいではなく、申し訳ないと感じてしまうのは育った環境のせいだろうか。

 

 そんなチェスターの気持ちを見透かしたようにチェルシーは続けた。

 

「正直なところチェットのお祝いは建前よ。本当は私がどこかへ出掛けたいだけ。それに付き合って欲しいのよ。いいでしょ?」

「…そういうことなら」

 

 もちろんそれは嘘だろう。チェルシーに限ってそんな理由で出かけに行きたいなんて言うはずがない。チェスターにはそれが分かるし、チェルシーだってチェスターが気づいていることくらい分かっているだろう。だからこそチェスターは断れない。チェルシーの心遣いに気が付いていて、それを無碍に扱うことなんてできない。そこまで計算した上での発言なのだから本当に喰えない人だ。

 

「でしたらすぐにでもフローラ様に休暇の申請を――」

「その心配は不要よ」

 

 ほら、やっぱりだ。最初からこうなる前提で行動していたのだから間違いない。とはいえ、先程も言った通り楽しみなのは事実だ。ここはチェルシーの心遣いを受け取っておいた方がいいのかもしれない。

 

「さすが姉様、準備が良いですね」

「チェットの大切な記念日ですもの。当然よ」

 

 女性は記念日を大切にし、それを男性に強要する面倒くさい生き物である。だがチェルシーの場合は少し違うと思う。記念日を大切にし、思い通りに男性を動かす生き物なのだ。字面だけ見たらただの小悪魔なのだが、チェルシーの今の笑みを見ればそれも全くの間違いではないと思う。

 

「ではどこに行きましょうか」

「それもすでに決めてあるわ」

 

 もしかしたら自分が出掛けたいだけ、という発言も嘘では無かったのかもしれない。

 

 最後にチェルシーは全てを見透かしたように微笑んでみせた。

 

 

 

 

 

 

 はたきで埃を落とし、掃除機をかける。吸い残しは箒で集め、最後に雑巾で丹念に磨くように拭く。

 

 最近ではお掃除ロボットが勝手に掃除をしてくれるがやっぱり人の手でする方が丁寧だろう。少なくともチェスターはそうチェルシーに教えられたし、自分自身そう思う。それでも最新技術は素晴らしいもので人と何ら遜色ないのも一つの事実と言える。フローラも二人の負担を減らそうと考えたのかロボットの提案をしてきたことがあった。しかし、結果としてチェルシーの意見が通り、未だ人の手で掃除が行われているのだ。チェスターとしてもそれでよかったと思う。掃除が楽しいなどと言うつもりはないが、なんだかんだやりがいのある仕事だと感じているのだ。

 

 そんなことを考えながら黙々と作業をこなしていく。作業のスピードとは裏腹にチェスターは少し浮かれていた。先程は誰かに祝ってもらうことに申し訳なさを感じていたが、時間が経って徐々に嬉しさが勝ってきたのだ。それに何よりチェルシーと二人で出かけるということが嬉しくて堪らない。両親が無くなる前の記憶が曖昧なチェスターにとっては初の家族旅行と言っていい。浮かれない方が無理な話である。

 

「あら?チェスター?もう終わったとチェルシーから聞いたわよ」

「あ、フローラ様。いや、何か落ち着かなくて」

 

 フローラの言う通り今日やるべきことは全てやった。だから掃除をする必要はない。でも部屋でゆっくりしていても落ち着かないので掃除をして誤魔化しているのだ。小学生が遠足の前日に寝ることが出来なくなるアレである。もちろんあと一週間あるのでさすがに持続しないとは思うが。

 

「そんなに出掛けるのが楽しみなの?」

「………は、はい」

「うふふ、別に恥ずかしがることなんて無いわよ」

 

 思っていたことがバレてチェスターは少しだけ頬を赤くする。それを見たフローラは笑みを浮かべた。その笑みはまるで我が子を見つめる慈愛に満ちた大人っぽさで溢れ、それでいて子供がおもちゃを見つけたときのような無邪気さもある。チェルシーとはまたタイプの違った微笑みだ。

 

「…あ、もしかして」

 

 突然何かを思いついたのかこちらへ駆け寄ってくる。すぐ目の前でフローラは膝を折り、チェスターに目線を合わせる。12歳の小柄なチェスターは膝を折った状態のフローラと目線の高さが同じだ。その笑みは先程の笑みとは明らかに違う。大人の側面は完全に消え、子供の無邪気さ100%といったところだ。しかもその無邪気さは悪ガキの類。悪戯を思いついた悪い顔である。

 

「チェルシーちゃんと出掛けるのが楽しみなのかしら?」

「ん?」

 

 とんでもない質問が来ると予感していたチェスターにとっては思いのほか普通の質問だった。目の前にいるフローラはさらに笑みを濃くし、もはやニヤついていると言った方が適切だろう。でも、それがチェスターにはイマイチ理解できなかった。

 

 一般的には遠回しにシスコンだと言っているようなもので、からかわれたと捉える人がほとんどだと思う。しかし、チェスターは残念ながら一般的と呼ばれる常識から少しずれているのだ。育った環境が特殊なのだから仕方のないことではあるが。そんなチェスターにはフローラの質問は痛くもかゆくもない。故にチェスターは何のためらいもなく頷いたわけだが、逆にそれがフローラにとっては予想外だったらしい。

 

「…こうも堂々と肯定されるとちょっと虚しいわね」

「フローラ様?」

「使用人としての技能より…もっとこう、一般的な常識の方を身につけさせるべきだったかしら」

 

 フローラは目を逸らし、何やら片隅でブツクサ言っているがそんなことはチェスターには届かない。不思議そうに首を傾げるチェスターを横目に今度こそ溜息をつくしかないフローラだった。

 

「そう言えばフローラ様はアーノルド様と出かけたりしないんですか?」

「…え?」

 

 ふと、湧いた疑問を口にするチェスター。対するフローラは突然の質問に驚いたような表情を浮かべていた。

 

「どうしたの、突然」

「いや、だってフローラ様とアーノルド様が一緒に出掛けているとこ見たことないな、と思いまして」

 

 フローラは少し思案顔になるとチェスターの頭に手を乗せた。そのまま撫でてあげるとチェスターは困ったような表情を浮かべつつも照れているのか若干耳が赤くなっている。

 

「チェスター」

「は、はい」

 

 照れ臭さのせいか顔は未だに背けたままだったが、なんとか視線だけはこちらに向ける。フローラは照れた表情を微笑みながら眺めつつ、頭に乗せていた手をチェスターの頬にもってくる。優しくつままれた感触がしてチェスターの顔に疑問の色が浮かぶ。するとフローラはその手を思いっきり引っ張った。

 

「いひゃい、いひゃい」

 

 突然頬を引っ張られたチェスターはなんとも情けない声をあげてしまう。

 

「あまり大人を揶揄うものじゃないわよ。そ・れ・に!仕事でお互い忙しいから仕方がないの!」

「いひゃいでふって」

 

 チェスターの必死の降参のポーズもフローラには全く効果がない。数秒だったか数分だったかよく分からないがようやくチェスターは解放される。本人的な体感時間は数時間だったかさすがにそれはないだろう。自身の主であるにも関わらず瞳を潤ませ猛烈な抗議の視線を向ける不躾な使用人にさすがのフローラも呆れるしかない。

 

「…はぁ、もし機会ばあれば、それもいいかもしれないわね」

「え?」

 

 呆れ顔のまま言ったフローラの言葉はチェスターにとってとても予想外のものだった。

 

「なによ、チェスターが言ったのでしょ」

「いや…そうですけど」

 

 目の前の厳格な人物が一度否定したことに素直に賛同したのが信じられないのだ。なによりフローラはアーノルドのことを良く思っていない、なんとなくだが幼いながらに感じていたのだ。だからその言葉は驚愕を与え、同時に「ならなぜ頬を引っ張られたんだ」という疑問も浮かんでくる。それは実はフローラの照れ隠し半分、面白がってやったのが半分というチェスターにとっては理不尽極まりない行為なのだが、それに気が付くほどチェスターは鋭くない。なんともまあ、良いように扱われているのである。

 

「まあ、機会があれば、だけれどね」

 

 そう言うフローラの表情は芳しくない。その訳は別にアーノルドがどう、といった問題じゃない。単純にそんな暇はないだろう、という多忙なスケジュールを想像してしまったせいだ。ただでさえ多忙を極めているというのに最近ではISの件もある。今の世界情勢からみてもISが中心になってきているのは言うまでもない。まさしくIS開発を競って行う時代なのだ。イギリスを代表するオルコット家はそれを取り締まる姿勢を見せている。おかげでフローラは休暇とは無縁の生活を送っているのだ。

 

「何かの記念日に行ったらどうですか。例えば……結婚記念日とか!大切にしないといけませんよ、記念日は」

「あら、紳士なのね」

「当然です!」

 

 つい先ほど姉から言われたことをそのまま言っているだけなのだが、フローラは知らない。それをいいことにここぞとばかりに胸を張るチェスターの今の姿をチェルシーが見たらどう思うだろうか。たぶん呆れて溜息をつくこと間違いなしだ。

 

「なら紳士のチェスターに一つお願いしましょうか」

「なんですかー?」

「あの人に来月の記念日、無理でもその近くの日、開けとくように頼める?」

「僕がですか?」

「ええ、お願い」

 

 フローラの言葉を聞いて一番初めに嬉しいと感じた。これを通して二人が仲良くなってくれれば、いかにも子供の思考らしい純粋な考え。二人が変わればきっとセシリアも変わる。元通りになってくれる。根拠もなくそう信じ切れるのはやっぱり子供特有なのだろうか。それでもこれは一歩前進のような気がする。今はそう思う。

 

(……あれ?………来月って何の記念日なんだ?)

 

 ふと、そんなことが頭を過るがすぐに思考を切り替えて、アーノルドにその旨を伝えに駆けた。

 

「…もう、あんなので大丈夫かしら、あの子」

 

 そう言ってぼやくフローラは言葉とは裏腹に嬉しそうな笑みをその顔に浮かべていた。

 

 あの子には人を変える何かがある。他人を純粋な気持ちにさせてしまう程の彼自身の温かい魅力。願わくばその魅力をいつまでも持ち続けて欲しい。そう考えて思考を止める。

 

「…まだ仕事が残ってたわね」

 

 彼女はいつもと変わらず仕事へ向かう。それはただ今日の分を消化するためか、それとも来月のためか。なんにせよ、自分もあの子に影響されてしまったのは疑いようもない事実らしい。

 

「さて、仕事仕事」

 

 仕事場へ向かう彼女の足取りは心なしか軽かった気がする。

 




実際使用人って休暇はどうなってるんでしょう?
そもそも住み込みの使用人自体現実ではあまりないのかな?

完全なリサーチ不足ですがSFファンタジーなんで大目に見てください!!
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