そこには細身な中年男性がいて…
『今回もダメだったよ…』そんな言葉がふと頭に浮かんだ
エメ「(本当に私の人生、何処でもすぐ死ぬなぁ…死神でも憑いてるのかなぁ…)」
そんな事を考えていると、背中に衝撃が走った
エメ「痛っ…またあの空間に戻ってきたのかな?」
そう思い目を開けてみると、そこは黒い空間ではなく、たくさんの扉がある廊下の様な所だった
エメ「あれ?いつもの所じゃない…」
エメが不思議に思っていると、少し向こうに机に座って新聞を読んでいる人が居る事に気が付いた
エメはとりあえずその人に話を聞くために近付いて行った
エメ「あの…ここはいったい何処ですか?」
すると、先程まで新聞を読んでいた男がチラッとだがエメの方に目線を向け、書類の様な物に何かを書いたかと思うと再び新聞に目を向けて反応が無くなってしまった
エメ「(えぇ…全く会話が成り立たない…)」
もう一度エメがその男に話しかけようとした瞬間、エメの横にあった扉が開き、エメはその扉の中に吸い込まれてしまった
荒野
寂れた荒野に突如扉が出現し、その中からエメが転がり出てきた
エメ「いったぁ…もう、何なのよ…」
誰という訳でもなく毒づいたエメは、とあることに気が付いた
エメ「…あれ?私の右腕が…ある」
そう、エメが失ったはずの右腕があるのだ
エメ「まさか……やっぱり」
エメの予想通り、エメが右腕を変形させるイメージを浮かべると、右腕がイメージした物の形に変わった
エメ「何でリキッドごと…まあ、そっちの方が助かるんだけど」
何故リキッドが腕に寄生したままでこちらの世界に来ているのかは分からなかったが、とりあえず自分が今どこにいるのかを確認しようとエメは立ち上がって辺りを見渡した
エメ「…近くには数年使われてないであろう廃城だけね。しかももう夜だし…」
とにかくあそこで一夜を明かそうと決めたエメは廃城へと歩きだした
廃城
エメ「へぇ…案外綺麗なものね」
そんな事を呟きながらエメは自分が寝れるようなベッドが残っていないか探した
その途中、どこからか声が聞こえてきた
???「…ら、な…よ!」
???「…や、関係…る」
エメ「(あれ?誰かいるのかな?もしかしてホームレス?)」
とりあえず、声のした方へ向かった
すると、そこには青年男性と大男が対峙していた
エメ「(え?明らかにホームレスじゃない雰囲気の人が居るんだけど…どういう状況?)」
そんな事を思っていると、青年の方の男が私に気が付いたようだ
男「おい、そこの女!ちょいと面貸せや!」
そう言って男はエメの腕を掴み、身動きをとれなくした
エメ「え!?ちょっと、離してください!」
男「うるせぇ!ちょっと黙ってろ!」
大男「おいおい、いい大人が女を盾に逃げようなんざぁ、ちょいと格好悪くはないか?えぇ?」
そう言って大男はカスタムしていると思われる銃を私達の方へ向けた
男「黙れ!数少ない生存者を殺されたくなかったら、俺の言う事を聞け!」
大男「はぁ…どこまでも腐ってやがるな。呆れてものも言えん」
エメ「(うわぁ…まさかの人質にされちゃった…)」
正直言うと、エメが右腕を変化させてこの男を攻撃する事自体は簡単にできる。しかし、何となく今の状況はかなりレアな境遇であり、仮にも女子であるエメもロマンチックな展開は好きなので、もう少しこの状況を楽しんで、やばくなってきたら攻撃しようと決めた
大男「嬢ちゃん、ひとつ聞いていいか?」
何やら大男の方がエメに聞きたいことがあるようだった
男「誰が勝手にしゃべっていいと言った!?」
大男「いいじゃねぇかよ、質問位させてくれたって罰は当たんないぜ?」
エメ「な、なんですか?」
大男「お前……処女か?」
私はその質問を聞いた瞬間、顔が熱くなるのをはっきりと感じた
エメ「な、何聞いてるんですか!?」
大男「いいから答えろ」
今の大男の質問でエメの中のロマンティックは崩れ去った
エメ「…そ、そうですよ!それが何か!?」
エメがそう言いきる前に、大男のトリガーは引かれ、エメの右肩ごと男を撃ち抜いた
男「なん…だと…こいつ、女ごと俺を撃ちやが…た」
男は倒れ伏し、灰になった
エメ「(いったぁ…この人私ごと撃ったよ…でも、右腕ならまだ再生できる…)」
とりあえず腕を再生させた
大男「ほう…驚いたな、人間ではなかったか…」
そんな事を呟きながら大男の方が近づいてきた
エメ「(あっやばい、出来るだけ目立たないようにしなきゃいけなかったのに、思わず再生しちゃった…逃げた方がいいよね?)」
そう思い今来た道を引き返して走った
大男「逃げる事ないじゃないか、別に危害を加えようって訳じゃ無いんだぜ?」
しかし、大男に回り込まれてしまった。危害を加えるつもりはないって、ついさっき危害を加えられたばっかなんだけど…
エメ「(何で前から…さっきまで私の後ろにいたはずなのに)」
エメは一瞬戸惑ったが、その大男を攻撃するのに躊躇はしなかった
エメ「退いてください!」
エメの一撃は大男の首を的確にとらえ、斬り飛ばした
エメ「え!?何でこんな簡単に…と言うか、殺っちゃった!?」
人殺しをしてしまったことに戸惑いを隠しきれないエメだったが、大男に違和感を感じた
エメ「(あれ?この人、血が出てこない?)」
すると、大男の首が再生して、なにごとも無かったかのようにしゃべり始めた
アーカード「おいおい、急に攻撃してくるなんて、ちょいとばかし酷いとは思わないか?私は話をしたいだけだぜ?」
だが、先程の事もある為、少し警戒をして話を聞くことにした
大男「お前、名前は?」
エメ「他人に名を尋ねる時は自分から…じゃないんですか?」
大男「はっはっは!なかなか気の強い嬢ちゃんだ!まあいい、私の名前はアーカード、殺し屋さ」
エメ「…エメラルド・マーティンです」
アーカード「そうか、で?その腕はどういう事だ?灰にならなかったという事は、吸血鬼やグールではなさそうだが?」
おそらく私の右腕の事を言っているのであろう
エメ「ああ、これは少し前に腕を落とされた時に寄生されて、腕代わりになってもらってる無形の落し子という生物です」
アーカード「無形の落し子?聞いた事のない名だな」
エメ「(まあ、別世界の生き物だしね)」
アーカード「ところで、さっきの攻撃、油断していたとはいえ、なかなかのものと見受けたんだが、私についてくる気はないか?」
エメ「貴方に…ですか?」
アーカード「ああ、もちろん決定権は貴様にあるから、無理強いはせんがな」
エメは少し迷った
今の自分は衣食住がままならない状況だ。そんな中、組織に(もしかしたらこの人だけかもしれないけど)は入れたなら全てが確保できる。今攻撃してこない所から見ても、今は敵意が無いものと見て間違いないだろう。しかし、さっきこの人が言った事が本当なら誰かを殺したりしなければならない可能性が高い。さっきの様な悪人ならまだいいが、罪のない人を殺すのはさすがにエメの良心が許さない
エメ「さっき、殺し屋と言いましたけど、それは依頼されれば誰でもなんですか?」
アーカード「場合によってはそうかもしれんが、うちの組織はほとんど自分勝手に人を襲う吸血鬼やグールを殺す方が多いな」
エメ「そうですか…なら、ついて行かせてください」
アーカード「分かった。さっそく少しばかり血をいただくぞ」
エメ「(あれ?血をいただくって事はこの人も吸血鬼?)」
正直既に化け物の様なものなので、さして抵抗する気は無い
アーカード「…抵抗せんのだな。変わった奴め」
つまらなさそうな顔をした後、アーカードはエメの首元に歯を立て噛みついた
アーカード「…?ほとんど血が出てこんぞ」
エメ「え?なんで?」
エメは自分の首へ手を伸ばすと、確かに血がほとんど出てこなかった
と言うより、先程噛まれた傷が既に塞がりつつあった
前の世界に居た時はこんな事は無かったはずだ
エメ「もしかして、血の大部分がリキッドで置き換わってる…とか?」
アーカード「まあいい、少しでも吸えればドラキュリーナには出来るからな」
そう言ってアーカードは再びエメの血を吸いだした
アーカード「これでお前も私達と同じ夜の種族だ」
エメ「…なんか全然変わった感じがしないんですけど」
アーカード「まあ、そのうち実感も持てるようになるさ」
そんな話をしていると、向こうの方から女性が走って来た
アーカード「婦警、ターゲットは?」
セラス「殲滅しました。もう残党はいないかと」
アーカード「そうか、ご苦労だった」
セラス「はい。…ところで、その子供は生存者ですか?」
アーカード「いや、私達の新しい仲間…と言ったところか」
セラス「え?という事は、マスターがその子供を私と同じように吸血鬼に変えたんですか?」
アーカード「ああ、そうだ」
今の口ぶりから察するに、この婦警さんもこの人に吸血鬼にされたんだろう。という事は、私もこの人をマスターと呼んだ方がいいのだろうか
セラス「勝手なことしたら、またインテグラ様に怒られますよ!?」
アーカード「よいではないか、駒は多い方がいい。それに、こいつは私に近しい能力を持っているようだしな」
セラス「インテグラ様に怒られても知りませんからね?」
ヘルシング機関本部
アーカード「ここが私達の主が束ねる組織、ヘルシング機関の本部だ」
エメ「(この人を従える人って相当の化け物な気が…)」
アーカード「我が主よ、今帰った」
アーカードがそう言うと、部屋の中央にある椅子が回転し、凛々しい顔をした女性が姿を見せた
女「ああ、おかえり。アーカード、セラス…誰だその娘は?」
どうやらこの婦警さんはセラスと言うらしい
アーカード「ああ、私の新しい眷属だよ」
女「新しい眷属?やはりお前は若い女を眷属にする趣味があるんじゃないのか?部屋を用意しておけと言ったのはこれが理由か?」
アーカード「ああそうだ。趣味がどうこうと言う方は…そう思うならそれでいいさ。だが、弾除けが居るのはあんたからしてもいい事だろう?」
女「…まあ、お前の考えることだ、何か裏があるんだろう。だが、使えないと思ったらすぐ捨てるぞ。いいな?」
アーカード「ああ、それで構わんさ」
私は一言も喋ってないのにどんどん話が進んでいく…
エメ「えっと…私はここにいさせていただけるという事でいいんですか?」
女「ああ、使えると私が思ったなら…だがな」
エメ「分かりました。お役にたてるように頑張ります」
女「ああ、精進してくれ。そうだ、一応名を名乗った方がいいな。私はインテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング、このヘルシング機関の長だ」
エメ「エメラルド・マーティンです。エメと呼んでください」
インテグラ「分かった。ウォルター、エメの暮らす部屋へ案内してやってくれ」
ウォルター「承知いたしました。お嬢様」
そう言ってウォルターと呼ばれた老人が部屋へと案内してくれた
インテグラ「…それで?あの娘、なんで眷属なんかにした?」
アーカード「セラスの時と同じだ。一時の戯れとでも言うべきか…それより、あの娘のもう一つの特異点に気が付かなかったか?」
インテグラ「もう一つの特異点?」
アーカード「右腕だよ」
インテグラ「えらく血色が悪かったぐらいにしか見えなかったが?」
アーカード「あの右腕、無形の落し子とかいう不思議生物を飼っているそうだ。しかも私がターゲットと一緒に撃ち抜いた腕が瞬時に治るほどの再生能力を持っているようだ」
インテグラ「イスカリオテのヒーリングとは違うのか?」
アーカード「もしかしたらそれに近しい物かもな。だが、それを生身に宿しているようだ。その上、私が吸血鬼にしてやったから、弱点以外の攻撃なら、まず死なんと思うぞ?攻撃の方も、油断していたとはいえ、不用心に近づいた私の首を飛ばしたほどの威力があったしな」
インテグラ「ほう、お前の首を飛ばせるほどの威力と454カスール カスタムオートマチックの弾丸の傷を瞬時に治癒させるほどの再生能力を持つ生物を右腕に飼ってる女か…確かになかなかの上物だ。お前が気に入るのも頷ける」
アーカード「ひとまずは気に入ってもらえた様でよかったよ」
インテグラ「だが、ちゃんと飼い慣らせよ?弾除けに反逆でも起こされたら堪らんからな」
アーカード「ああ、ちゃんとあの二人は手懐けるさ」
寝室
ウォルター「エメ嬢にはこの部屋で寝泊りをして頂きますぞ」
エメ「この部屋…ですか」
エメが案内された部屋は、地下の石部屋の様な所に棺桶と箪笥があるだけの部屋だったが、なかなかに広い部屋であった
ウォルター「何せあまりにも急な要求だったもので、ちゃんとした部屋は御用意出来なかったのですよ」
エメ「いえ、衣食住はしっかりしていますし、この部屋で十分ですよ」
ウォルター「さようでございますか。それならよかったです」
こうして、私の新しい生活が始まった
To Be Continued
新しい世界で転がり込んだ先で早々に吸血鬼にされたエメ
衣食住を気にしていたエメはこの時、後に起こる大戦争を予知などしてるはずもなかった
次回【円卓会議】
~次元の壁~
ヘルシングの世界はOVA版のストーリーとほぼ一緒の為、元の話に毛が生えた程度しか差はありませんのでご了承ください