すると、そこには姿を変えたアーカードの姿が映っており…
指令室
少佐「やあやあ、ようやく直にお目見え出来てうれしいよ!」
部屋に入ると、中央に置かれている椅子が回転し、背が低い割にかなり肥えた男が姿を現した
インテグラ「お前が少佐か…」
インテグラ様はどんどん少佐に近付いて行き、銃で相手を撃った
しかし、相手はかなり強度の強い防弾ガラスで囲まれているようで、全く銃弾が通る様子はない
エメ「インテグラ様、お下がりください」
私はインテグラ様の前に立ち、リキッドでそのガラスを攻撃した
エメ「(思ったよりも強度が高い…しかも、繊維が細かすぎて液体状態のリキッドでも入って行かないわね…)」
少佐「出会い頭に攻撃してくるなんて、穏やかじゃないねぇ」
こちらの攻撃ではガラスが割れないという自信があるのか、少佐は余裕の表情を浮かべていた
少佐「まあまあ、落ち着きたまえよ。これから面白い事が起きるから、モニターを見たまえ」
少佐が手元のリモコンを操作すると、モニターに外の映像が映し出された
エメ「この人は…誰?」
そこに映っていたのは、綺麗な黒髪を伸ばした女性に凄い勢いで血液が吸い込まれていく所だった
インテグラ「あれは、アーカードだ」
エメ「え!?あれがマスター!?」
拘束制御術式を解いた時も歴戦の戦士の様になっていたからある程度は姿を変えられるとは思っていたが、まさか女性にもなれるとは…と言うより、なんで女性に変身してるんだろう
少し映像を見ていると、途中で映像が二つに分かれ、片方にさっきの映像が、もう片方にどこかの塔の上に立つ猫耳を生やした少年が映し出された
少佐「おお、シュレディンガー准尉じゃないか」
准尉「やあ少佐、命令通りに塔の上まで来たよー」
少佐「分かった、それじゃあ計画通りに頼むぞ」
准尉「りょうかーい」
映像の中の少年は軽快に承諾すると、腰元のナイフで自分の首を飛ばして塔から落下して行った
エメ「え!?何で自殺なんか…」
少佐「すぐ分かるさ。すぐに…ね」
少佐が意味深な言葉を言ってから少し映像を見てみると、マスターの様子がおかしくなった
先程まで血を吸っていたマスターから、再び死の河が勝手に溢れだしてきたのだ
インテグラ「少佐!アーカードに何をした!?」
少佐「私は何もしていない…今起きている現象の原因は、シュレディンガー准尉だよ。アーカードはシュレディンガー准尉の命を吸った…それはつまり、シュレディンガー准尉の性質と同化した事に他ならない」
シュレディンガー?もしかして、シュレディンガーの猫の性質を持っているという事だろうか?
確かシュレディンガーの猫って、箱の中に居る猫は生きているかもしれないし、死んでいるかもしれない。でも、箱を開けるまでその背反した二つの可能性は存在し続けるってやつだったはずだ
インテグラ「あの少年の性質と同化?…!まさか!?」
少佐「ああ、君の予想通りだよ。シュレディンガー准尉は自分を認識している限り何処にでもいるし、何処にもいない。その性質と同化したアーカードも同じになる。あの幾万の命に溶けて混ざってしまったシュレディンガー准尉の命を取り込んでしまったアーカードは、もはや自分が誰なのか認識することなどできはしない…そんな者に残されているのは、消える事のみさ」
少佐がそう言い終えた直後、マスターは倒れ込み、消え去った
インテグラ「貴様!許さんぞ!」
インテグラ様はサーベルを引き抜いて攻撃をしたが、やはり防弾ガラスは破れず、逆にサーベルの刃の方が折れてしまった
セラス「インテグラ様、ただ今戻りました!」
後ろから声がしたので振り返ってみると、そこにはセラスさんが立っていた
その手には戦艦にでも乗ってそうな大きな主砲が握られていた
インテグラ「セラス…こいつを撃て…撃て!!」
インテグラ様の命令に従って、セラスさんは主砲を構え、少佐へ撃ち込んだ
すると、流石にこの砲弾は耐えきれなかったのか、遂に防弾ガラスが砕け散り、砲弾は弾道の延長上に居る少佐を撃ち抜いた
直後、室内で主砲を撃った事によって煙が部屋の中に充満し、周りがほとんど見えなくなった
少しの間煙で視界が悪かったが、次第に煙が晴れ、少佐の姿が見えてきた
インテグラ「お前…その姿は…」
姿を現した少佐は砲弾で体の左半分は消し飛んでいた。しかし、驚いたのはそこではなかった
セラス「き、機械?」
消し飛んだ半身から姿を現したのは血肉や内臓などではなく、機械だったのだ
少佐「失礼な事を…言うもんじゃ無い…お嬢さん。私は…正真正銘、れっきとした人間さ」
インテグラ「モンスターだ…お前はモンスターだ!」
インテグラ様は少佐に近付きながら、そう告げた
少佐「いいや違うね。私は人間さ…人間が人間たらしめているのは…己の意志さ。私は弱い!戦争に負け、領地を侵され、敗残兵として逃げてきた!しかし、この世に生を受けてから一度たりとも、あのアーカードの様に血を啜って強くなりたいなんてこれっぽっちも思ったことなどない!私は人間でいることに耐えきれなくなったアーカードとは違う!」
インテグラ「もういい…お前との話は平行線のようだ…終止符を打つとしよう」
次の瞬間、インテグラ様と少佐はほぼ同時に銃を抜き、お互いを撃った
少佐の撃った弾はインテグラ様の左目に、インテグラ様の撃った弾は少佐の額に当たった
エメ「インテグラ様!!」
先程の時点で勝負はついていると思って完全に油断していた為、私はインテグラ様の傍に居るのを忘れていた
すぐにインテグラ様へ近寄り、目を確認してみると、医学の知識がほとんどない私でも左目が潰れてしまっている事ががはっきりわかった
エメ「申し訳ありません!少佐のあの状況を見て、完全に油断していました!」
インテグラ「私が前に出過ぎただけだ、気にするな」
少佐「カッカッカ…初めて…当たったぞ…」
頭を撃ち抜かれてもなお話し続けている少佐を見て私はゾッとしたが、数秒と経たぬうちに、少佐は本当に動かなくなった
インテグラ「ここを出るぞ、じきにここも崩れる」
インテグラ様にそう言われ、私達は足早に飛行船から脱出した
ロンドン市街
インテグラ「全て…失ったな。あいつらも…私達も」
そんな事を呟きながら歩いていた私達だったが、突然何かを知覚し振り返った
エメ「今の感覚って…」
インテグラ「今、ウォルターが…逝った…」
セラス「…はい」
インテグラ「…セラス、エメ、帰ろう…我が家へ…」
セラス「…そうですね」
エメ「…ヤー」
2000年、私達ヘルシング機関は二人の吸血鬼を迎え入れた代わりに一人の吸血鬼と一人の執事を失った
30年後
ヘルシング機関 本部 大広間
大広間で模擬刀を片手に戦っている男女が居た
その二人の戦いは男性の方の模擬刀が弾き飛ばされたことによって、思いのほかすぐについた
セラス「そこまで!勝者、インテグラ様!」
女性の方は、この機関の当主インテグラ様、相手の男性は30年前、円卓会議室で吸血鬼達と一緒に爆死したペンウッド卿の孫にあたる人だ
間久部「見事見事、全く衰えておりませぬなぁ」
インテグラ「おや貴方は十三課の…応接室でお待ちいただくよう申したはずですが?」
間久部「いやぁ、私達も待ってはいたんですけどね?待てど暮らせど貴女は顔を出さないし、茶の一杯も出てこないしで、飽きが来ていたんですよ」
インテグラ「勝手に歩き回らないでいただきたい。部屋に戻っていただこうか」
間久部「はいはい、分かりましたよ。君達、部屋に戻るぞ」
そう言って、付き人二人と一緒に大広間から出て行った
本部 廊下
付き人「相変わらずここの警備は笊です。今なら確実に勝てますよ」
ハインケル「馬鹿者が…お前は何もわかってない。これを見ろ」
そう言ってハインケルは壁に手を当て、何かを引き剥がすように引っ張った
すると、引っ張った所が変形した
ベルナドット「いってぇ!!いてぇだろ!何しやがる!」
何処からか男の声がしたかと思うと、先程引っ張った所がゆっくりと修復されて戻っていった
付き人「こ、これは!?…」
間久部「セラス・ヴィクトリアの影さ。この館を私たちごと包み込んでいるんだ」
ハインケル「まあ、私と局長の二人を犠牲にすれば円卓の半分は取れるがな」
間久部「まだだ、まだ早い。30年前、私達はあまりに多くの物を失い過ぎた。なに、待ってやるさ。500年待ったんだ…あと数百年待つくらいなんてことないさ…」
そんな話をしながら十三課の3人は応接室へ帰って行った
本部 大広間
インテグラ「今日はここまでだ。ペンウッド卿、いい太刀筋でしたよ」
ペンウッド卿(孫)「い、いえ、まだまだで…ありがとうございます」
インテグラ様が応接室へ向かおうとすると、ペンウッド卿がインテグラ様を呼び止めた
ペンウッド卿(孫)「あ、あの、お爺様…いえ、私の祖父も剣技を習われていたのですか?」
何でこの人ずっと顔に冷や汗をかいてるんだろう
インテグラ「貴方のお爺様は…迫りくるナチス兵を千切っては投げ千切っては投げ、まさに英国無双と言う風で、近付く敵を片っ端から真っ二つにし、最終的に全身に爆弾を括り付け敵の飛行船ごと自爆して亡くなられました」
エメ「(爆弾で敵兵ごと自爆したという事しか知らないけど、私の知らない所で無双していたのだろうか)」
そんな事を思っていると、チラッとだがインテグラ様の顔が見えた
エメ「(あっ…あの目は嘘をついてる目だ…)」
ペンウッド卿(孫)「そ、それって、嘘ですよね?」
インテグラ「本当です。本当に本当です。本当です。本当なので、新しいヘリの代金をお願いしますね」
ペンウッド卿(孫)「ま、またですか!?」
インテグラ「お願いしますね?」
インテグラ様の方も少し冷や汗をかいているようだ
ペンウッド卿(孫)「ウ、ウワァァァァァァ!!!酷い!」
インテグラ「オネガイシマスネー」
エメ「(マフィアみたいな手口だなぁ…)」
セラス「あ、あの人の一家は大変ですねぇ…ほとんどマフィアの手口じゃないですか…」
セラスさんも私と同じことを思っていたようだ
インテグラ「私が死んだらあの方達がこの仕事を担うんだ。今の内からしっかりしてもらわんと困るからな」
言ってる事は尤もだが、やってる事はただのたかりじゃないのかとも思ったが敢えて言わなかった
インテグラ「それより、十三課との話が終わったら私はもう休む…些か疲れた」
エメ「え?そのようには見えませんよ?」
インテグラ「今朝鏡を見たらまた小皺が増えてたんだ!しかも、その皺を見ていたら…なんだかウォルターを思い出した…」
エメ「えー…そんなに落ち込まないでくださいよ…」
インテグラ「お前ら二人は関係ない話だからいいかもしれんが、私にとっては皺が増えるのは結構ショックなんだぞ!?というか、アーカードはなーにやってんだ?帰ってくるって言ってぜーんぜん帰って来ないじゃないか!」
セラス「帰ってきますよ!分かるんですよ。だって私達、血吸われてますし」
インテグラ「帰ってくるって言ってもう30年…30年だぞ」
確かにあれからかなり時間が経っている。もしかしたら、本当にマスターは帰って来ないんじゃないかと最近私も感じ始めていた
インテグラ「お前達は吸血鬼だからいいかもしれんが…」
エメ&セラス「小皺も増えませんしね」
見事なまでに私達の声がハモった
インテグラ「お前らは悪い子だ!この口か!?この口が言っているのか!?」
50代とは思えない握力と腕力で頬を抓られた
エメ「いひゃい!いひゃいれす!(痛い!痛いです!)」
セラス「すひはへん!わらひはひがわふかったでふ!(すみません!私達が悪かったです!)」
深夜
インテグラが眠っているベッドの傍らに何者かが立っていた
その男はゆっくりとインテグラに顔を近づけ、口を大きく開けた
その直後、突然インテグラが起き上がり、その男に銃弾を撃ち込んだ
セラス「何事ですかインテグラ様!?」
エメ「敵襲ですか!?」
銃声を聞いたエメとセラスが数秒で部屋まで駆け付けた
電気をつけて相手をよく見てみると、3人はその男に見覚えがあった
???「フッ…フッフッフッフ…手荒い歓迎だ」
その男はエメとセラスのマスターであるアーカードだった
セラス「マスター!!」
インテグラ「…遅い帰陣だな、アーカード…何をしていた?」
アーカード「私自身を私の中で…殺していた。3424867の魂の内、一つの魂以外全て殺し尽くしてきた…だから私はもう、何処にもいないし、何処にでもいれる」
インテグラ「さっき…私の血を吸おうとしたのか?」
アーカード「ああ、なんせ30年間何も食ってないからな。腹が減ってしょうがない」
インテグラ「そうか…」
そう言うと、インテグラ様は自分に指を噛み切り、マスターの目前に突きだした
指から流れ落ちる血をマスターは舐めとった
インテグラ「おかえり…伯爵」
アーカード「ただいま…伯爵」
あの30年前と同じように二人は奇妙な挨拶を交わした
マスターが戻って来てからさらに20年程が経ったある日、インテグラ様が亡くなった
生来処女で居続けたため、息子娘がいるわけも無く、ヘルシング機関は英国が管理する事となったが、マスターは「私達の好きにやらせてもらう」と半ば強引に決定してしまった
今のところは英国との摩擦はないようだけど、いつか大きな摩擦が生まれるんじゃないかってセラスさんと二人でヒヤヒヤしている
50年余り経った今でも、吸血鬼になった私は未だに高校生の見た目だし、異常なくらい体は頑丈だ
吸血鬼の寿命がどれ位のものなのか、そもそも寿命があるのかなどさっぱり見当がつかないが、何気に初の長生きできるチャンスなんだし、この身が尽きるまで頑張ろうと思う
The End
エメはこの後も永い時を過ごす事となるだろう。その中で新しい敵に直面するのは予想に難くない
しかし、どんな難題に直面しようとも、エメは経験を駆使して切り抜けるだろう
だって、エメは4度の人生を過ごした『転生者』なのだから
~次元の壁~
皆さん、この作品を読んでいただきありがとうございました!
今回でこの『転生者』は終幕となります
それではまた次回作でお会いしましょう!