病院
看護師「あっ、翠さん目を覚ましたんですね。医者とご両親を呼んできますね」
エメ「えっ、あっ…」
エメが何か言おうとする前にその看護師は病室を出て行ってしまった
数分後
女「翠!良かった…何日も起きないから心配したのよ?」
男「まあ、今実際に目を覚ましてるんだ。良いじゃないか」
さっきの看護師が両親だと言って呼んできた夫婦にエメはさっぱり見覚えが無かった
というか、翠(みどり)って誰よ
一応、エメに養親となってもらった夫婦がいるが、この二人ではない。そもそもその養子として引き取ってくれた夫婦はとっくに亡くなってる
そんなふうに困惑していると、医者が入ってきた
医者「ご気分はどうかね?どこか違和感がある所は?」
エメ「えっと、大丈夫です。あ、あの…この人達は?」
男「何を言ってるんだ翠?私達はお前の養親だろう?忘れたのか?」
エメ「忘れたもなにも…全く、知らないんですけど…と言うより、翠ってだれですか?」
女「先生?これはいったい…」
医者「もしかしたら、事故のショックで記憶喪失になってるのかもしれませんね」
女「そんな…」
医者「少し、質問をさせてもらうよ?いいかね?」
エメ「え、ええ…」
医者「名前は?」 エメ「エメラルド・マーティンです」
医者「年齢は?」 エメ「17歳です」
医者「住んでいる所は?」 エメ「大阪府茨木市…だったと思います」
医者「親の名前は?」 エメ「養親なら篠原克典と篠原恵美子です」
医者「翠さんの話した内容に何か覚えは?」
男「いえ、まったく…私達の家は富山県の南砺市ですし、養子って言うのは合ってますけど、私達の名前は神崎護と神崎千尋ですし」
千里「私も心当たりがないです。合ってるものって言ったら本人の名前くらいですね。年齢もまだ14歳ですし今は日本名に変えたので翠ですけど」
ああ、そう言う事か。エメラルドだから翠、ようやく意味が分かった。という事は、この夫婦の言ってる事が本当なら、私の今の名前は神崎翠(かんざき みどり)になるんだろうか
医者「ふーむ、記憶の混同でもないとすると、記憶のすり替えなのかな?」
そう言って医者はエメに近付いてきた
医者「ここは富山県にある公立南砺中央病院だよ。何か覚えてないかい?」
エメ「いえ、まったく記憶にないです。と言うより、なんで私は入院してるのかもわからないんですけど」
ダムから突き落とされたり、ナトリウム爆発の中で生きている訳がない
医者「数日前に運ばれてきた時は、山火事に巻き込まれて煙を大量に吸ったと聞いてるよ」
エメ「(なるほど、煙を吸って倒れてただけだから特に外傷が無いのか)」
となると、今までの記憶は意識不明になっている間に見た、ただの夢なのだろうか?
エメ「私は…あとどれくらい入院してなきゃいけないんですか?」
医者「はっきりとは言えないけど、意識が戻ったから今日の検査で異常がなければ明後日にでも退院できるよ」
そう言われてエメは少し安心した
2日後
護「特に異常がなくてよかったな」
エメ「え、ええ…あの…」
千尋「ん?どうしたの?」
エメ「私は、貴方達の記憶が全然ないんですけど、いいんですか?」
護「ああ、そんな事か。気にしなくてもいいよ。養子に貰った時に戻ったと思えばいいんだし」
千尋「それに、養親とはいえ親子なんだから、敬語はやめて頂戴。むず痒いわ」
そう言って千尋さんは笑った
エメ「えっと、じゃあ…父さん、母さん」
こうして、エメラルド・マーティン改め、神崎翠としての私の生活が始まった
翠「(あれ?そう言えば…)」
ふとある疑問が浮かび、ナビに表示されている日付を確認した
翠「(4月10日、私が学校に通っているなら、どこになるんだろう…学校の友達の事もさっぱり思い出せないし)」
そう思い、翠は二人に聞いた
翠「そう言えば、私が行ってる学校の事、どうしよう…友達も全然思い出せないよ」
護「ああ、そのことなら大丈夫だよ。翠は今年度からこっちの学校に転校だから、こっちに友達はまだいないよ」
千尋「ちょうど見えてきたわ。あそこが翠の行く学校よ」
そう言って母さんが指差した方を見た
翠「あれが…私が通う学校…」
少し遠くに自分の通う学校が見えた
すると、道路に会った標識にその学校と思しき名前が書いてあった
[夜見山中学この先1㎞]
翠「(名前は…夜見山北中学、あれは、よみやまでいいのかな?)」
そんなことを思っていると、件の学校の目の前に来た
その建物は少し古びた印象を受けるが、ここから見る感じでは古風と言える雰囲気であった
そして学校を通り過ぎ数分で夫婦の家(私の家でもあるのか)に着いた
その日の夕食は私の中では5年ぶりの家族団欒での食事となった
自宅 夜中
翠は自室をでて、そっと夫婦の寝室に入った
翠「(…よし、二人とも寝てるわね)」
両親が寝ていることを確認した翠は脱衣所に行き、あることを確認するために服を脱いで自分の体を見た
翠「(やっぱり…)」
翠が自分の体を見てみると、顔、腕、胴体、脚その他全ての部位に薄くだが斑模様に肌の色が変わっている事が確認できた
その様子はまるで、一度バラバラに散らばった体を繋ぎ合わせて新しい皮膚で覆ったような雰囲気だった
一か所だけ色が変わっていれば周りも気が付くのだろうが、薄くしか変わっておらず全体が大体同じ色なため、元々の体色なんだろうと勘違いし、誰も変に思わなかったのだろう
しかし、よく見てみるとある一か所を境にして微妙に肌の色が変わっているのだ
翠「(私が記憶がないときに負った傷って可能性もあるけど、こんな全身に跡が残る様な事故なら何かしら後遺症があるはずでしょうし…)」
寝巻を着直しながら、そんな事を考えていた翠だったが、途中からどうでも良くなって、自室に戻ってさっさと寝た
数日後
千尋「翠、学校ではちゃんと先生に挨拶して、早くクラスメイトに馴染めるように頑張ってね」
翠「うん、がんばるよ」
千尋「行ってらっしゃい。車に気を付けるのよ」
翠「いってきます」
そう言って翠は学校へ行った
夜見山北中学
翠「さてと、転校初日だし、一旦職員室に行って私の入る教室を教えてもらわなきゃね」
そう思い、施設内地図を見て職員室へと向かった
数十分後
3-3教室
担任「それでは、少しここで待っていてください」
そう言われ、近藤雄二と名乗った担任の言うとおり教室の前で待った
雄二「はい皆さん、席についてください。今日から転校生が来ています。入ってください」
教室に入れと言われたので教室に入り、教壇の前まで行った
翠「京都から引っ越してきました。エメラ…神崎翠です。1年間、よろしくお願いします」
雄二「えー、神崎さんは一番後ろの窓際の席に座ってください。視力などは大丈夫ですか?」
翠「あっ、はい、大丈夫です」
そう言って、翠は窓際の席に座った
翠「(それにしても…変ね)」
翠はこの教室に…もっと言えば生徒に違和感を覚えた
翠「(誰も笑ってない…と言うか目を見てくれない…誰か一人二人がそうならまだ分かるんだけど、全員となると…何かあったのかな?)」
2限目
雄二「それでは、この紙に書いてある議題について、友達同士で班を作って話し合ってください」
そう言って先生はプリントを最前列の生徒たちに渡していった
翠「(さてと…私はこっちでは友達はまだいないし、人数の少ない所に混ぜてもらおうかな)」
そんなことを考えながら周りを見渡してみると、翠の反対側…つまり最後列の廊下側に座っている生徒が目に入った
翠「(あれ?なんであの子、誰の所にも混ざろうとしないんだろう…内気なのかな?)」
そう思い、翠はその生徒の所へと歩いて行った
しかし、その途中で翠の隣の席の生徒に呼び止められた
宍戸「何処に行くの?」
翠「え?あぁ、ちょっとあの子の所に行こうと…」
そう言って廊下側の生徒を指さした
宍戸「あの子?誰の事を言ってるの?」
翠「廊下側の最後列に居る…確か若林って子ですけど…」
宍戸「…そんな生徒、居ないわよ?」
翠「え?…」
翠は再び先程の生徒の方を向き目を凝らし、名札を見た
翠「(やっぱり、若林って書いてある)」
宍戸「まあ、なんでもいいわ。早く私達の班に加わって議題を終わらしましょう」
翠「…分かりました」
そう言われて私は渋々自分の席へと戻り、話し合いに参加した
3時限目
数学教師「えー、この問題はこの定理を当てはめて考えると簡単に解けます」
翠「(ハァ…つまんない授業ね…)」
これは教師の説明が悪いとか、翠が特段賢いという事ではなく、単に翠が夢の中で高校2年生までの課程を終わらせていて、この内容はとっくの昔に終わっていたところだったからだ。つまり、高校2年生が中学3年の問題を解かされているようなものであり、それは実につまらないものだ
夢の中での記憶など矛盾点があるだろうからと思って序盤は真剣に聞いていたのだが、本来初めて聞く内容であるはずなのに、教科書に書いてある事から何もかもが既に知っている内容だったのだ
一応教師の話は聞いているが、何一つとして新しい事が聞こえてこない。もしかして本当に私は一度高校2年生までの生活を送っていたのではないのか?と言う考えが浮かんだ辺りで授業が終わった
昼休み
翠「(4時限目も何もかも知ってる内容だった…)」
この感じなら余裕で学年上位の点数は取れそうだが、新しい発見が無いとはここまでつまらないものなのかという事を痛感した
翠「(そう言えば、誰もあの人の事を気にしないって事は、あの人は私にだけ見えてるってことなのかな?いや、それなら机が置いてあるわけないか…じゃあなんで?)」
そんな事を思っていると、宍戸さんに呼び出された
屋上
翠「えっと…何か用ですか?」
何となく、屋上に呼び出すシチュって突き落とされるか告白かのどちらかしか浮かばないから、嫌な予感しかしないんだけど…
宍戸「貴女、2限目の時、若林さんって言ってたわよね?」
翠「え、えぇ」
宍戸「あの子に関わるのは辞めて欲しいの」
翠「え?何でですか?」
今の言葉で一つ分かったことがあった。若林さんは幽霊ではないということだ
宍戸「来月になったらちゃんと話すわ」
そう言って宍戸さんは屋上から出て行った
翠「ど、どういう事?」
宍戸さんの言いたい事の真意が全く分からず、取り敢えず保留する事にして、私も教室へと帰った
4月26日
あの日から数日経ったが、教室の雰囲気は全く変わっておらず、若林さんに対する周りの対応も全く変わっていなかった
何日か前には若林さんが授業中に教室から普通に出て行ったというのに誰もそれを気にさえせず先生も呼び止めさえしなかった
それに加え、今日は若林さんが学校を休んだようだ
教師「えーと、今日も誰も休みはいないですね」
そのうえ、先生までも若林さんを居ないものとして扱っているらしい。まさか、教師もグルで若林さんを虐めているのではないのかと思い始めていたが、その割には若林さんは虐められてる様子が全く見てとれないうえに、寧ろ周りの生徒が若林さんを恐れているという意味で避けている雰囲気だった
そんなこんなで今日の学校も終わって、私は帰路についた
その途中で見覚えのある人を見つけた
翠「あれは…若林さん?」
若林さんと思しき姿を見つけ近付こうとするが、若林さんは角を曲がり、路地へと入って行ってしまった
翠「…追いかけてみよう」
走って路地まで入ってみたが、既に違う角を曲がってしまったのか、若林さんを見失ってしまった
近くの曲がり角も探してみたが見当たらず、諦めて帰ろうとした時、ある店を見つけた
翠「『夜見のたそがれの、うつろなる蒼き瞳の。』?すごい名前のお店ね…人形店なのかな?」
個人的に人形やぬいぐるみは好きだし、ちょっと寄っていこうか
そう思い、その店へ入った
人形店
老婆「いらっしゃい。学生さんかえ?」
翠「あっ、はい。そうです」
老婆「じゃあ半額だね」
そう言って来たので入場料の表を見た
翠「(大人100円、学生・子供は50円か。安いんだけど、中途半端な値段だなぁ…そこまでいったら無料にすればいいのに…というか、売る方じゃなくて、展示の方の人形店だったのね)」
そんなことを考えながら展示場へと続く階段を下りて行った
展示場は時間が悪いのか、さして広くないにもかかわらず全く人が見当たらない。少し店内を見て回った後、一番奥にある、棺桶の様な物に腰かけている人形が目に入った
翠「(この人形、若林さんに何となく似てるわね)」
そんな事を思っていた時、翠は後ろから声をかけられた
???「貴女、そこで何をしてるの?」
翠「え?」
振り向いてみると、そこにいたのは若林さんだった
To Be Continued
当初エメは若林がいじめにあっていると思っていたが、他の生徒を観察してみるとどうやらそれは違うようだった。ならなぜ若林は周りに避けられているのか?宍戸の言う「若林を居ない人として扱う理由」とは何なのか?
次回【イナイモノ】