人形店
翠「若林さん…いったいどこから出てきたんですか?」
若林「何処って、そこに裏手に繋がってる扉があるから、そこから入って来ただけよ」
そう言って渡辺さんはカーテンの向こうを指さした
翠「何でそんなところから?」
若林「何でって言われても、私の家なんだし、何処から出て来ようとも勝手だと思うんだけど」
翠「あぁ、この人形店は若林さんのお家だったんですか」
若林「えぇ、私のお婆ちゃんと母さんが作った人形達を展示しているの」
翠「そうだったんですか」
翠は受け答えをしながら、ある事を聞くかどうか悩み、決心した
翠「あの、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
若林「聞きたい事?何かな?」
翠「えっと…何で若林さんは学校で皆から幽霊みたいに扱われてるんですか?」
若林「あれ?宍戸さん辺りから聞いて無いの?」
翠「理由は来月話すとは言われたんですけど、どうしても気になってしまって」
若林「そう…じゃあ、話してあげる」
そう言って若林さんは話し始めた
若林「今からちょうど50年前、夜見山北中学にみさきっていう生徒が居たの。その生徒は頭も性格も良くて皆に好かれていたんだけど、3年に上がってすぐの頃に事故にあって亡くなってしまったのよ。皆はすごく悲しんでいたそうだけど、そのうちの一人が『みさきは死んでない。あそこにいる』って言い始めて、三組ではみさきさんは死んでいないってみんなで言い聞かせるようになったの」
翠「ときどきそう言う事ってありますね」
若林「えぇ、それで、卒業式も校長の計らいでみさきさんの席が用意されたの。でも、卒業式の後に撮った集合写真を見てみると、死んだはずのみさきさんが写っていたの。綺麗な笑顔でね」
翠「怖いですけど、いい話じゃないですか」
若林「ここまでは本当にいい話だった。でも、ここからは違う」
翠「ここから?」
若林「その時の3年3組は何の問題もなく卒業して行ったらしいわ。でも次の年の3年3組から問題が起こったの」
翠「何が…起こったんですか?」
若林「毎年、生徒が増えた記憶もないのに生徒の机が…一度だけ先生の机だった時もあったみたいだけど、一つだけ足りなくて、毎月1人、多いときはそれ以上、人が死ぬの。これは生徒の家族も例外じゃないわ」
翠「過去にそんなことが…」
若林「でも、その呪いのような現象を起こさせないようにする方法が一つだけあるの。それが3組の生徒の一人を『イナイモノ』とすること。それに選ばれた人が一年間役目を全うした年は誰も死ななかったのよ。でも、イナイモノの人が途中で役割を投げ出したりした年は途中から死人が出たらしいわ」
翠「つまり、若林さんはそのイナイモノに選ばれたんですか?嫌じゃなかったんですか?」
若林「んー、どっちかと言ったら嫌だったけど、正直周りと話は合わないし、元から居ない様なものだったし、どうでも良いわ」
翠「ら、楽観的すぎませんか?」
その時、後ろにあった人形が落ちて足元へ転がった
その人形を元の位置に戻して再び振り返ると…若林さんはいなくなっていた
翠「神出鬼没すぎる!」
思わず叫んでしまったが、すぐに冷静になり、家へと帰ることにした
4月27日
今日は若林さんが学校に来ていた
翠「(相変わらず、みんな若林さんをイナイモノとして見て避けてるわね)」
どうにか打開策が無いものかと考えたが、考えがまとまらず何もできなかった
そしていつの間にか3限目になっていた
翠「(ちょっと、体の調子が悪いな…)」
そう思った翠は教師へ申し出て、保健室へ行った
保健室
保健室教諭「うーん、熱はないみたいだけど、どうする?ちょっと休んでいく?」
翠「いえ、大丈夫です。また具合が悪くなったら来ますね」
保健室教諭「そう、分かったわ。無理はしないようにねー」
翠「気を付けます」
そう言って保健室を出て、教室へと帰ろうと廊下を歩いていると
翠「あれ、若林さん?授業サボり?」
若林「まあ、そんなとこかな」
翠「認めちゃうんだ。意外とやんちゃですね」
そう言ってすれ違おうとした時、後ろから走って来た教師とぶつかってしまった
体育教師「おっと、すまん!だが今ちょっと急いでるんだ!」
そう言って3年3組へ走っていき、扉を開け何かを言っているようだ
その教師が何か言い終わった直後、生徒が飛び出してきた
翠「(あの人は…富岡さんだっけ?)」
富岡さんが一瞬こちらを見てギョッとした顔を浮かべたが、すぐに目を逸らし走っていってしまった
翠「何かあったんですか?」
翠が先程の教師に話を聞くと
体育教師「詳しくは言えんが、富岡の父親が事故にあったそうだ」
そんな風に少し話を聞いていると
ガタン!ダダダダダン!ゴキッ!
さっき富岡さんが下りて行った階段からすごい音がした
翠「えっ?何の音?」
そう思い階段を下りて行くと、二階と一階の間にある踊り場に富岡さんが転がっていた
体育教師「富岡!大丈夫か!」
叫びながら体育教師が駆け寄っていき、富岡さんを抱き起した
しかし、その時富岡さんの首がこんにゃくのようにグニャッと曲がり、富岡さんの虚ろな目と目があった
雄二「どうかしたんですか!?」
そこへ担任が走って来た
体育教師「先生!救急車の手配お願いします!首の骨が折れてる可能性が高いです!」
雄二「わ、分かりました!」
そう言って担任は急いで救急車を呼んだ
数分後救急車が来て富岡さんを運んでいったが、あの雰囲気から見て多分手遅れだろう
4月28日
雄二「えー、皆さんには残念なお知らせをしなければなりません。昨日、病院で富岡さんが亡くなった事が確認されました」
担任のその言葉を聞き、教室内はより一層暗い雰囲気に包まれた
雄二「それと、神崎さんは少しお話があります。朝の会が終わった後に進路室まで来てください」
そう言って担任は朝の会を終わらした
進路室
翠「それで、私に話ってなんですか?」
雄二「翠さん、貴女は若林さんと何処かで話をしたり、関わったりしましたか?」
翠「とある人形店でちょっと会話したくらいですけど」
あえて昨日廊下で若林さんと話したことは伏せた
雄二「そうですか…」
そう言って担任は何かを考え込んでしまったが、少し黙った後に再び口を開いた
雄二「もしかしたら、明日から…早かったら今日、教室に戻ってからクラスメイトから無視を受けるかもしれませんが、気にしないようにしてくださいね」
翠「それってどういう…(つまり、私もイナイモノとして扱われるかもしれないという事なのかな?)」
一応、何も知らない振りをしておこうと思い、無知を装った
雄二「とにかく、クラスで決まった事は絶対です。分かりましたね」
翠「なんだかよくわかりませんが、まあ頭に入れておきます」
そう言って進路室から翠は出て教室へと戻った
3-3教室
翠「すみません、遅れました」
そう言いながら後ろの扉から教室へ入った翠だったが、若林さん以外誰一人として翠の方を向かず、教科担当をしている教師も一瞬こっちを見ようとしてすぐに黒板へと向き直った
翠「(あらら、早かったらとは言われたけど、本当に今日からイナイモノにされちゃってるわ)」
そんなことを思いながら無言で自分の席へ座った
その後、教師含め翠に話しかけてくるものはいなかった
昼休み
屋上
翠「母さんに早く友達を作りなさいって言われたけど、この感じじゃまず無理ね」
そんな事を呟いていると、後ろから声をかけられた
若林「イナイモノになった気分はどう?寂しい?」
翠「うーん、確かに少し寂しいですけど、何となくすっきりした気分です」
若林「すっきりした気分?どうして?」
翠「だって、これからは若林さんと普通にしゃべっていいんですよね?イナイモノ同士ですし」
若林「…フッ、ハハハ、なにそれ変な人ね」
翠「何気に初めて若林さんが笑ったところを見た気がします」
若林「あらそう?」
翠「ええ、いつも人形のように静かですし、前に話した時もずっと無表情でしたよ」
若林「表情筋が固まっちゃってるのかしら?それとも人形ばかり見てるから自分も人形みたいな表情になっちゃったのかしら?」
翠「まあとにかく、今までみたいにコソコソする必要もないですし、ゆっくりお話しませんか?」
若林「そうね。あっ、そう言えば、貴女が転校してきた時点で私はイナイモノになってたから私の名前、知らないわよね?」
翠「えぇ、苗字も名札に書いてあったので分かっただけですしね」
若林「なるほど、名札を見たから私の苗字を知ってたのか。まあいいわ。私は藍、若林藍(わかばやし あい)よ」
翠「藍さんですか」
藍「そうだ、同じイナイモノになったんだし、放課後に私の家でいろいろイナイモノについて話してあげようか?知らないことがたくさんあるでしょうし」
翠「そうですね…お願いします」
こうして皮肉にも他の同級生と友達になる機会を捨てた事で藍さんと友達になることができた
人形店
藍「ここを通って私の家に行くのよ」
そう言って藍さんは店内のカーテンの一ヵ所を開いて、エレベーターのある廊下のような場所に案内してくれた
翠「店の中が自宅に通じてるって防犯的に危なくない?」
藍「大丈夫よ。上に上がれるだけで、開けないと家の中には入れないし」
そんなことを言いながら藍さんは家の鍵を開け中に通してくれた
若林家
藍「ただいまー」
藍さんがそう言うと、家の奥から左目に眼帯をした女性が出てきた。藍さんのお姉さんかな?
女性「あら藍おかえり…その子は?」
藍「最近友達になった神崎さん」
翠「神崎翠です」
そう言いながらその女性にお辞儀した
女性「あら、藍にお友達なんて珍しいわね。イナイモノに選ばれたって聞いた時は今年は友達出来そうにないと思ってたのに」
その女性は驚いていた
翠「実は、私もイナイモノにされちゃったみたいで、いろいろと話を聞かせてもらおうと思いまして」
そう聞いた瞬間、女性の表情が固まった
女性「二人目のイナイモノに選ばれたって事?」
翠「ええ、どうやらそうみたいです」
私の返答を聞いて女性が何か考えているような顔をした
女性「まあここではなんだし、リビングで話をしましょう。私も同席して良いかな?」
翠「え?別に構いませんけど」
そう言うと、女性は私をリビングへと案内してから、何かを取りに行って、すぐに戻ってきた
女性「お待たせ、じゃあ話をしましょうか」
そう言って女性が持ってきた物を広げた
翠「これは…卒アルですか?」
女性「ええ、私が夜見山北中に通っていた24年前のね」
翠「(あれ?って事は、この人はお姉さんじゃなくて、藍さんのお母さん!?)」
当人の知らぬところで大きな勘違いに気がついたが、敢えて黙っておこう
女性「これが私よ」
そう言って女性が指差したのは3年3組に在籍していた美崎鳴という生徒だった
藍「あれ?母さんも3年3組だったの?」
鳴「逆に今まで知らなかったの?あと言うと、私もイナイモノだったわけだけど」
藍「全然知らなかった…」
私は学生時代の鳴さんの写真を見て疑問に思った
翠「あの、失礼を承知で聞きたいんですけど、この写真を撮った頃から既に眼帯をしてるみたいですけど、何かあったんですか?」
鳴「ああ、これは実際に見た方がいいわね」
そう言って鳴さんは眼帯をはずし、私にその下を見せてくれた
翠「これは義眼…ですか?」
鳴「ええ、小さい頃に眼に腫瘍ができて、左目を失くしちゃってね。私の母さん…藍から言ったらお婆ちゃんが人形の目を義眼として作ってくれたのよ」
翠「そうだったんですか」
鳴「それで、翠さんは二人目のイナイモノに選ばれたって言ってたけど、誰か亡くなったの?」
藍「クラスメイトが階段から落ちて首が折れて死んじゃったの」
鳴「なるほど、翠さんが藍に話しかけた可能性があるからって理由が妥当かしらね?」
翠「ええ、おそらく(まだ詳しい話を何も言ってないのに言い当てられちゃった…)」
鳴「はぁ、私達の年と似てるわね…」
藍「どういうこと?」
鳴「私達の年にも私に話しかけてきた子がいたのよ。榊原君って言うんだけど、その直後にクラスメイトが亡くなったから、榊原君もイナイモノに加えられちゃったの」
翠「確かに今の私の状態と丸々同じですね」
鳴「ええ、でも榊原君がイナイモノになった後もクラスメイトの事故死は絶えなかったわ。始まってしまった災厄は基本止められないのよ」
翠「基本…って事は、何か止める方法があるんですか?」
鳴「ええ、あることはあるんだけど、かなり難しいわ」
藍「どんな方法なの?」
鳴「『死者』を死に還す事よ」
翠「『死者』を…死に還す?」
鳴「ええ」
藍「えっと、どういう事?」
鳴「どういうことも何も、そのままの意味よ」
翠「クラスメイトに既に死んでいる人が混ざっているということですか?」
鳴「そういう事よ。藍、今年は教室の机が足りなかったの?」
藍「えっと、うん。教室の机が転校生が来るって言ってたのに元の人数ぴったりしかなかったよ」
鳴「じゃあ、大方死者はクラスメイトってことになるわ。本当に偶然用意し忘れたって可能性もあるけどね」
翠「(なるほど、本来いないはずの人がクラスメイトに入っているから机の数が毎年足りないのね…)」
藍「でも、どうやって死者と普通の人を見分けるの?」
鳴「私が学校に行けば分からない事もないんだけど…部外者は学校に入れないし…」
芽以さんが学校に来ればわからなくもない?どういう事だろう
そんな事を考えながら、翠はあることを思い出していた
翠「(私が見ていた夢がもし本当のことだとしたら…もしかして、その死者って私?)」
藍「翠さん、どうかしたの?」
翠「え?…いや、何でもないです」
鳴「…藍、ちょっと翠さんと話をしたいから、席をはずしてくれない?」
藍「え?まあいいけど…」
そう言って藍さんはリビングを出て行った
翠「あの、私に話ってなんですか?」
私がそう言うと、鳴さんは私の耳元に口を近づけとあることを告げた
翠「……そう…ですか」
私は鳴さんの話を聞いてから家に帰った
To Be Continued
若林同様イナイモノとして扱われ始めたエメは気を落とすどころか藍と気兼ねなく話せる好機と考えていた。
鳴は藍に席を外させた後エメに何を話していたのだろうか?
次回【夏季合宿】
~次元の壁~
富岡についての死因は上手く思いつかなかったので、原作通りになってしまいました(汗)