悲しい哉、私達はこの
この壁を、その隔たりを、超える術を我々は持たない。
故に。
今の人類が囁き、育み、守り続ける愛は幻想だ。
それは無意味で無駄で無惨で無様で────余りにも残酷だ。
男の手記はここで途絶えていた。
後にこの手記の持ち主は中東の紛争地帯でのボランティア活動中に流れ弾を受け、絶命したとされている─────。
赤龍帝。
かつて三大勢力を戦闘の余波だけで壊滅寸前に追い込み、その脅威故に一時的に戦争そのものを停止させた、二天龍の片割れ──
(確か神器に封じられたと聞いたが……まさか所有者がグレモリー眷属になっていたとはな。)
見た所、神器の到達点である
であればこの気配の大きさも納得が行く。だが……
(そう考えると『別の疑問』が浮かぶんだが…)
「それで、君は何者なのかな?」
幹也の思考は赤龍帝の所有者の声に遮られる。
「僕の大切なティアマットに傷をつけたんだ…ただでは済まさないよ?」
「大切なんて…勿体無いお言葉でございます…御主人座…」
先程までの敵意に満ちた顔では無く、恍惚とした、蕩けた表情を浮かべる女性…ティアマット。
(五大龍王の一角か…道理で手強い訳だ…)
眼前で広がる場違いな甘い空気を無視し、思考を再開させる。
だが、またしても邪魔が入った。
「またティアマットばかり贔屓するのね…妬いちゃうわ、イッセー。」
真紅の髪をなびかせながら、月を背に上から悪魔の羽を広げ、ふわりと舞い降りる女性。
「贔屓なんてしてませんよリアス。僕の心はあなたの物だ。」
「…全く、そんな事言われたら怒れないじゃ無い…」
リアス・グレモリー。
この街を治める悪魔の領主。彼女もまた、赤龍帝、イッセーのキザな台詞に頬を赤らめる。
(イッセー……兵藤一誠か⁉︎迂闊だった……俺としたことが見落としていたとは…!)
リアス・グレモリーの動向や町内のはぐれ悪魔の討伐に気を取られて、近くの重大人物に気づかなかった事に、歯噛みする幹也。
「それで?貴方は何者なのかしら?」
リアスの問いにそろそろ無視出来なくなってきた幹也は渋々答える。
「ボランティアだよ。」
「……なんですって?」
「ボランティア。慈善団体…いや、個人か…。まぁ、この辺はどうでもいいだろ。俺の目的はここに潜んだ堕天使共の排除だ。それが済んだ今、もうここに用はない。帰らせてもらう。」
「…帰すと思うのかしら?」
幹也の返答に殺気すら滲ませてリアスは幹也を睨みつける。
気づけば、幹也の後ろには、囲むように白髪の少女と金髪の青年が立っていた。
(他の眷属か…)
「さぁ、この状況であなたはどう逃げるつもりなのかしら?」
勝ち誇った様に告げるリアスに、幹也は淡々と返す。
「ふむ───。そろそろか。」
直後。
幹也の直上から、幹也を囲む様に雷撃が降り注ぐ。
『‼︎』
驚く全員を嘲笑う様に黒い風が包囲の隙間を吹き抜け、雷撃を透過し幹也へとまとわりつく。
「ッ!」
雷撃が収まり、黒い風が霧散する。
そこにはもう、幹也の姿はなかった。
「すまん二人とも。助かった。」
廃教会から場所は移り、幹也は自宅にいた。
先程の騒ぎから、時間は十分も経ってはいない。
実はあらかじめ、幹也の後方に退路を確保する係として、朱乃と黒歌を潜ませていたのだ。
「構いませんわ。幹也君の為ならなんでもしますもの…それこそ…その…なんでも…」
「そうか。落ち着け。黒歌もありがとう。助かった。」
いきなりトリップしだした朱乃を冷静に斬り捨て、黒歌に礼を言う幹也。
しかし、
「……」
「…黒歌。」
反応が鈍い。いや、原因はわかっている。
「妹…か?」
「にゃあ。いるのはわかってたんだけど…やっぱり直に見るとちょっとね。」
様々な誤解や事情があったにせよ、実の妹を置いて離れたのだ。
「……大丈夫か?」
「大丈夫にゃ。和平が成れば、こそこそする必要も無くなる。そうすれば、またあの子に…白音に堂々と会える。いっぱい怒られるかもしれにゃいけど…沢山謝って、必ず仲直りするにゃ。」
「……そうか。」
かくして。
新たな決意と共に、一連の騒動は幕を閉じた。
或いは、始まったのかもしれない。
これから巻き起こる、大いなる戦いへの、カウントダウンが。
しかし幹也達はそんな事など知る由もなく、ぐっすりと眠るのだった。
以下、三大勢力首脳陣に送付された報告書より抜粋。
はぐれ堕天使、並びにはぐれ祓魔師の企てた神器強奪事件は無事解決。
シスターであるアーシア・アルジェントはグレモリー眷属に保護され、後に
『僧侶』として眷属へと転生した。
尚、はぐれ堕天使の首謀者、
カラワーナ
ミッテルト
ドーナシーク
以上三名の死亡を確認。
はぐれ祓魔師であるフリード・セルゼンは依然逃亡中である。
以上で旧校舎のディアボロスはおしまいです。
次はフェニックスだぁ。なるべく早く投稿したいと思っておりますので、
みなさましばしお待ちください。