人生はままならない   作:んみふり

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戦闘校舎のフェニックス 裏
白昼の襲撃者


事件から一夜明けた翌日。

幹也は普通に学校に登校して居た。

(……グレモリー眷属、か……)

頭に思い浮かぶのは昨夜の光景。赤龍帝と五大龍王との交戦。

(どうにも不自然だ…明らかに裏がある…)

赤龍帝はまだわかる。神器持ちは世界中に存在するが、どの神器が現在しているかを把握しているのは、天界のデータベースやグリゴリの情報網ぐらい。しかしそれでも、正確に把握しているかと言えばそうでは無い。情報そのものが大雑把な物であるし、予期せぬイレギュラーや、まだ神器が覚醒してないという場合もあり得る為、兵藤一誠が赤龍帝だという『偶然』があったとしても何らおかしくは無い。

(だが、それはあくまでも所持の話だ。まさか覚醒から数日で禁手に至るってのは幾ら何でも異常…アザゼルに聞いたら眼を見開いていたし…)

しかしこれも、細かい疑問に目を瞑るのであれば、稀少な素質があった、で済む話だ。しかし

(ティアマットだけが解らない…あれはどのタイミングでこの街に来て眷属になった?いやそもそも、何故奴の忠誠心はリアス・グレモリーでは無く兵藤一誠に向いている?)

接点が無い。そして、あの忠義はどこから起因する物なのか解らない。

考えられるとすれば、兵藤一誠とティアマットは眷属になる前から何らかの関わりがあったという事。

(だが、だとすれば、今度は兵藤一誠が解らない。それとも、これもまた何らかの偶然が重なったのか?こんなにも都合のいい偶然が重なるものなのか?)

思考がぐるぐると回り始める。

その時、横からふにゅりと柔らかい感触。最早慣れてしまったその感触は…

「幹也君?また考え事ですか?」

姫島朱乃だった。

「あ、すいません。昨日の夜の事で、ちょっと…」

「昨日の夜…私との熱い夜戦のことですか?」

「違います。というかそんな事実はございません。」

「むぅ、最近はもう胸を当てる程度では動揺しなくなってしまいましたね…」

「毎日やられればさすがに慣れますよ…」

「じゃぁ、違う柔らかさを当ててみますか…」

「違う柔らかさ?」

「ハイ…具体的には、お腹の下の方です。」

「朝っぱらから何を仰ってるんです⁉︎」

「ちょっと水っぽいですけど、こればっかりは…」

「いい!当てんでいい!頼むから正気に戻れ‼︎」

「え?…そんな、○器を弄れなんて…」

「どんな聞き間違いだあぁぁぁ‼︎」

この二人、今日も今日とて平常運転である。

 

 

 

 

 

 

昼休み。幹也は購買へと向かっていた。

昨夜の疲れか、少し寝過ごしてしまい、朱乃の分しか弁当を作れなかったのである。

(今日はパンでいいか…廊下ガラガラだし、購買もそんなに混んでは───⁉︎)

この学園の購買はかなり評判がいい。それこそ、昼休みには購買めがけて多くの生徒がなだれ込む程に。なのに。

(廊下には誰一人居ない…⁉︎どうなっている⁉︎)

幹也はすぐにその答えに辿り着く。

それは極めて初歩的な魔術の一つ。

(『人払い』の魔術…!)

「やぁ。」

その思考に行き着いた瞬間、後ろから声をかけられた。

「月野幹也君…だよね?」

「あぁ、そうだけど?兵藤一誠君。」

背後に立って居たのは、赤龍帝、兵藤一誠だった。

「なんか用かな。俺、君と話した事なかったと思うんだけど…」

あくまで幹也は一般人を装う。

しかし、

「ティアマット、やれ。」

「承知」

振り返った幹也の背後から、ティアマットが飛び掛かる。

(嘘だろ⁉︎こんな白昼堂々仕掛けてくんのかよ‼︎)

幹也は体を捻り、背後からの奇襲を回避。即座に後ろへと跳び、二人を正面に捉える。

「節操とかねぇのかお前ら…」

「勿論持ち合わせているさ。僕らが本気を出したら、あっという間に校舎が吹き飛んじゃうからね。」

「………」

兵藤の軽口には付き合わず、幹也は無言で刀を取り出し構える。

「その刀…やっぱり君があの時の人か。」

「だったら何だよ。」

「いや、昨日の件でうちの部長が少しご機嫌斜めでね。よければ放課後、部室に来てくれないかな?」

「…嫌だと言ったら?」

「そうだね…姫島朱乃を攫うとか?」

「──────。」

一瞬。

立場も何もかも忘れて、幹也は目の前の肉塊を斬り刻みたいという衝動に駆られそうになる。

しかし、

(落ち着け…落ち着け…!)

自身を慕ってくれている三人の顔が脳裏を掠める。

僅かに残った理性が辛うじて刀を抜く手を止めていた。

「……随分物騒だな。いつから悪魔というのは人攫いに成り下がったんだ?」

「唯の人じゃ無いだろう?」

絞り出すような挑発に、思いもよらぬ返答が来る。

その一言で、幹也は今度こそ正気を取り戻した。

(堕天使とのハーフだということに気付いている…?いや、確かに気配を探れば分かる事ではあるが…)

あくまで、幹也と朱乃は隠密の立場に位置している。故に、気配を隠す、或いは誤認させるなどの初歩的な技術はもちろん、そもそもどれだけ悪目立ちしようとも悪魔などの三大勢力に属する者には気取られない為の技法などを日常的に使っている為、そもそもバレる事などそうそうありはしないのだ。考えられるとすれば、自身よりも高いレベルの技量を持つ者に見抜かれる事ぐらいだろうが…

(成り立ての転生悪魔にはまず無理だ。だとすれば、五大龍王、ティアマットが見抜いたのか?)

つくづく厄介だ、と幹也は内心吐き捨て、

「人じゃ無い?どういう事だ?」

とぼける事にした。

「つまらない芝居はよしなよ。彼女が堕天使とのハーフで、『母親が殺されている』事も知ってるよ。」

「……」

とぼける事で、情報経路を零してくれる事を期待したのだが、代わりに別の情報が得られた。否、情報というよりは疑問だが。

(こいつも全部把握しているわけじゃ無い…このズレが何なのか知りたい所だが…揺さぶり方を変えてみるか。上手くいけばこいつの本性も暴けるかもだし。)

やり方を切り替える為、幹也はわざとらしい程不可解そうな態度を取る。

「母親が殺されている?朱乃さんのお袋さんは生きてるぜ?今日もお袋さんに弁当を作って貰ったと嬉しそうに言ってたし。」

虚実を織り交ぜる事で、相手の出方を伺う幹也。対して、兵藤は得意げに、いっそ嘲笑を浮かべて幹也に言う。

「君、信用されてないんじゃ無いかい?或いは、君の能力を利用する為に擦り寄ってるとか。」

その言葉に、しかし幹也は動じない。

(仕掛けるとすればここか。)

幹也は肩を竦め、

「うーむ、それは無いと思うがなぁ…あの女が寝床で嘘をつけるような器用さを持っているとは考えられん。」

「………なんだって?」

爆弾を落とす事した。

「いや、彼女は清楚で貞淑だが、性根は淫蕩そのものだぞ?最初こそお互い不慣れで苦労したが、今では毎晩シーツを変えねばならん程に乱れるから水道代がかさむかさむ…」

幹也の言葉が続くにつれ、兵藤の表情が凍りついていく。

(存外、わかりやすい男だったな。)

幹也の評価はそんな所だった。

「嘘だ…あり得ない…彼女は僕の…」

ぶつぶつと何かを呟く兵藤の姿は、どこか狂気を感じさせた。

「主人…そろそろ『人払い』の効果が…」

「あ、あぁ、そうだね…ありがとうティアマット。じゃあ、月野君…放課後に。」

「行くとは言ってないぞ」

「来てもらうよ…必ずね。」

最後の一言にだけ、凍りつくような殺気が込められていた。

二人が立ち去り、同時に辺りに喧騒が戻って来る。

「朱乃さん、聞いてましたか?」

「はい。しっかりと。」

いつの間にか、幹也の後ろには朱乃が立っていた。

「それで、これからどうするのですか?」

「こうなった以上、向こうの申し出にのるしか無いですね。断れば何をしでかすかわからないので。」

「私は?」

「今日は急いで帰って下さい。念のため、外に黒歌とガブリエルを待機させておきます。」

ガブリエルを動かすのはリスクが大きい。しかし相手が赤龍帝と龍王ならば、話が別だ。出し惜しみすれば、一気に飲み込まれる事もあり得る。

「……わかりましたわ。」

渋々、と言った様子で頷く朱乃。しかし直後に頬を赤らめ、

「所で、さっきの話ですけど…そんな乱れるプレイがお好みなのですか?」

「………」

この時ばかりは、流石に言葉が出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。

昼休みの窮地(主に朱乃)をなんとか脱し(というかチャイムに救われた)た幹也は、帰りのホームルームを終えると、足早に教室を出る。

「……何だ、迎えが来るならそう言ってくれればよかったのに、つくづく気の利かない連中だな。」

「申し訳ないね、連絡不足で…」

廊下に出て早々、幹也の視界に入ったのは金髪の似合う美青年。

「構わないさ木場祐斗。」

木場祐斗。

この駒王学園の生徒であり、同時に彼もまた、オカルト研究部の部員である。

「んじゃ、さっさと行くとしようぜ。手早く終わらせて帰りたい」

「そうだね。それじゃあ、付いて来てもらえるかい?」

木場の先導で、二人はオカルト研究部の部室、旧校舎へと歩き始める。

(さて…どうなることやら…)

頬を撫でる風とは裏腹に、陰鬱な物を感じなら、幹也は旧校舎を見据えるのであった。

 

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