旧校舎。
学園のはずれにある古びた木造建築の学び舎は夕暮れ時という事も相まって学園の七不思議に数えられてもおかしく無さそうな雰囲気を醸し出していた。
(さーて…どうすっかな…)
「幹也君、大丈夫かい?さっきから一言も喋らないけど…」
「いきなり呼び出しくらって怪しげな建物に連行されれば、そりゃあ口数も減るだろうよ。」
前を歩く木場の言葉に、険のある声で返す。
「……ごめんね。本当に。」
「…………」
意外にも、返ってきたのはか細い謝罪だった。
(なるほど…一枚岩じゃ無いって訳か…)
「最近、部長の様子が少し変でね…前よりその…ワガママになっちゃってね。」
「最近……ね。」
それは兵藤一誠が現れた時期か?とは、聞かなかった。否、聞くまでも無かった。
「祐斗先輩。」
旧校舎の入り口に差し掛かった時、横から呼びかけられる。
白髪の小柄な少女。
「やぁ、小猫ちゃん。」
小猫、と呼ばれた少女は幹也を見ると、伏し目がちに頭を下げる。
「初めまして、私は塔城小猫といいます。」
「月野幹也だ。」
短く返す幹也。平静を装ってはいるものの、内心は少し動揺していた。
(よく見ると目元とかそっくりだな…それにしても、この二人…)
幹也が二人を見た第一印象は、
(苦労人、だな。)
完全にリアス・グレモリーの傀儡、というわけでは無いようだ。
(いや、兵藤一誠の、と言うべきか…)
取り敢えずまともな存在がいる事に胸を撫で下ろす幹也。
「着いたよ」
気が付けば、三人は一際大きな両開きの扉の前にたどり着いていた。
(ん?これは…)
扉の前に立った幹也は違和感に気付いた。
或いは気配と言うべきか。
「……⁉︎」
「これは…⁉︎」
二人も気付いたのか、顔色が変わる。
(反応を見る限り、この二人も知らなかったのか?)
となると、この来客はグレモリー眷属そのものにとって予期せぬ事態なのだろう。
(そこに兵藤一誠が含まれているかは怪しい所だが……ここで考えていてもしょうがないか…)
僅かに息を吐き、肩の力を抜く。そして。
「木場。開けてくれ」
「いいのかい?」
「構わない。頼む」
扉が開く。ここまでくれば引き返す事は出来無い。
(引き返す?ハッ、何を考えてんだか…)
幹也は自身の頭によぎった考えを鼻で笑い飛ばす。
最初から、不退転の覚悟でここまで進んで来たのだ。
(悔いの無いように生きる)
目的は何も変わって無い。ただそのために、幹也は躊躇いなくその一歩を踏み出した。
最初に目に入ったのは趣味の悪い内装だった。
壁一面の魔方陣。仄暗い部屋。部屋を照らす蝋燭の火が揺らめいているせいか、神秘的というよりは、何処か不気味という雰囲気を醸し出していた。
目の前には、四人の男女。
紅髪の女性、リアス・グレモリー。
金髪の少女、アーシア・アルジェント。
青い髪の女性、ティアマット。
そして茶髪の青年、兵藤一誠。
窓の左を見ると、黒髪の女性を中心にした男女が規則正しく並んでいた。
(なるほど…気配の正体はこいつらか…)
生徒会。
グレモリー眷属が夜を守るのであれば、彼等は昼。
会長、支取蒼那──本名ソーナ・シトリーを王に据える、シトリー眷属である。
(……ん?)
ふと、幹也はある事に気付く。
グレモリー眷属とシトリー眷属との違い。
(敵意…というよりは不信感か?)
グレモリー眷属の一部を除いた女性が兵藤一誠に対し熱い視線を送っているのに対し、シトリー眷属は王であるソーナ・シトリーを含めた全員が兵藤一誠に何処か鋭い視線を送っているのだ。
つまりこれは、
(ソーナ・シトリーは気づいてる…兵藤一誠の異質さに)
若手随一の切れ者、という風評は伊達では無い。
幹也はそれを再認識した。
「初めまして。月野幹也君?」
ソーナ・シトリーに意識を向けていると、正面のリアス・グレモリーがそう切り出した。
「どうも」
対して、幹也は素っ気なく返す。
「あなたに対して、言いたい事や聞きたい事は山ほどあるけど───先ずは歓迎するわ」
にっこりと、彼女は赤いチェスの駒を顔の前に持って来て、
「悪魔としてね」
そう告げた。
対して。
そんなリアス・グレモリーに幹也もまた、にへら、と表情を緩めて、
「願い下げだ馬鹿野郎」
そう切り返した。
かくして。
リアス・グレモリーと月野幹也の舌戦が、幕を開けようとしていた
肉弾バトルより、こういうのの方が割合高い気がする…
肉弾バトルをお待ちの方、しばしお待ち下さい。