人生はままならない   作:んみふり

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大変お待たせ致しました!
更新が遅れた理由は活動報告の方に書かせて頂きましたので、是非お読み下さい。


彼の答えと彼女の推察

秘匿度、というものはどれほど些細な情報でも必ず設定されている。

国家機密から近所の井戸端会議に至るまで、必ず特定の場所、或いは人物に対して制限がかけられる。

とりわけ、幹也が抱えている情報は最高ランクの秘匿度が設定されている。

今回のリアス・グレモリーとの交渉において、その差が、その決定的な違いが幹也が劣勢であると言える根拠である。

リアスのようにある程度事情を知る人間になら喋っても大丈夫、という融通が効く立場に幹也はいないのだ。

これが、例えばまだ真面目な領主としてのリアス・グレモリーであったならば、幹也も考えただろう。

だが、現状、兵藤一誠に狂い、そしてその兵藤一誠自身もまた油断ならない人物である以上、全てを話すわけにはいかない、

というのが幹也の考えだった。

(和平に向けて勢力がデリケートな状態にある今、引っ掻き回される訳にはいかない…)

何より、兵藤一誠は朱乃だけでなく、黒歌やガブリエルにまで手をだしかねない。

そんなことになれば、今度こそ幹也は自分を抑えられる自信が無かった。

(我ながらなんとまぁ…)

こんなにも独占欲の強い人間だったとは、と自嘲する。

しかしそれも一瞬。

即座に頭を切り替え、目の前の交渉に専念する。

(長期戦になればこっちのボロが出そうだな…シトリー辺りならもう気付いてそうだが…まだ具体的な確証は得られてないのだろう。)

ならば、と幹也は考えを固める。

(些か性急だが、決めに行くか。幸いにも、『今の』リアス・グレモリーは視野が狭い。だったら目の前にニンジンをぶら下げれば必ず食い付く筈)

そして幹也は意を決して口を開く。

「やめよう」

 

 

 

 

 

 

 

「やめよう」

一瞬、生徒会を含めた全員が呆気にとられた表情をする。

そんな様子を幹也は気にせず、気だるそうに口を開く。

「もうやめにしよう、痛くもない腹の探り合いはうんざりだ。そろそろ帰りたいから、こっちの要求を言わせてもらうぞ。」

周りが何かを言いかけたが、それを視線で封殺しながら幹也は告げる。

「まず一つ。俺の行動に文句を言わないこと。具体的には、あんたらを通さずはぐれ悪魔を狩ったりする事だな。人命がかかってるのにあんたらのお伺いを立てている暇はないからな。」

ぴっ、と二本目の指を立て、続ける。

「二つ。はぐれ悪魔以外の件でこの街に何かしらの異常があった場合は協力する。協力が不要でも勝手に動く。俺が守りたいのは貴様らでは無く無力な者達だ。ちょこまかされるのが嫌なら、有事の際には素直に情報を共有する事をお勧めする。ただしこれはあくまで領土の運営に関することだけだ。他の事については俺は頼まれても介入しない。」

半ば脅迫に近いが、しかし同時に効果的でもある、とソーナは一人感心していた。

リアスは渋々といった様子だったが。

(いえ、渋々でも納得できているのなら、まだ目はありますか…)

ここで意地になって拒絶するようなら領主としての器は無かった、否、失われたと言わざるを得ないだろう。

領主ならば、領主では無くとも大勢の民草の命を預かるならば、自らの意地を捨てでも最善を選ぶ。

清濁合わせて抱え込む器がなくてはならない。

(少なくとも今のリアスには最低限ですが、まだ領主としての自覚がある。これ以上彼に入れ込み過ぎなければ良いのですが…)

親友への心配をしながらも、ソーナは目の前の交渉に集中する。

「あなたの条件はわかったわ。でも、それを私達が飲むメリットはどこにあるのかしら?」

酷く加虐的な笑みで問いかけるリアス。

それに対し幹也は

「はぁ?今のはむしろお前らのための条件みたいなもんだろうが。」

「………は?」

本当になんのことだか理解していない様子でリアスは間の抜けた声を漏らす。

「今上げた条件を飲めば、お前らは有事の際に自由に動かせる戦力を得る。加えて、人間や多種族との交友を深めようとする魔王の方針にも合うだろう?お前はこう評価される筈だ。魔王の思いを汲み、尚且つ人間と分け隔てなく交友関係を持てる手腕を持つ、有能な若手だ、ってな。

俺は気兼ねなく活動ができ、お前は高い評価と円滑な領地の運営が可能になる。お互いに悪い話じゃない筈だ。」

ぐらり、と何かが傾く音が聞こえた気がした。

変わる。

流れが、明確に変化する。

そしてこの流れは

(覆せない。これはもう、決まりだ。)

この感覚を、ソーナは知っている。

「……純血主義のはんかんをかいそうなものだけれど?」

「時代は変わる。いかに大きな権力者であろうとも、大きな流れには逆らえない。お前はその先駆けになれるチャンスを掴める立ち位置にいるんだぜ?理解してない訳じゃないんだろう?」

最後の抵抗すら徒労に終わる。

そして

(チェックメイト)

ソーナにとっては慣れ親しんだ『詰み』の感覚。

「………いいでしょう。あなたの条件を飲むわ。」

皮肉な話だが。

 

 

 

 

 

────決め手は悪魔の囁きだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そうそう、言い忘れたんだが、これは条件じゃなく警告だ。俺の知り合いなんかを人質にして言う事を聞かせよう、なんて考えるなよ?

もしそんな事になれば、俺はお前らに一切の容赦はしない。』

そう言い残し、幹也は部室を後にしようとしたのだが、ここで思わぬ人物が校門までの見送りを申し出たのだ。

「意外だな。お前は一番俺の事を嫌っていると考えてたんだが、それともここで俺と決着をつけるつもりか?────兵藤一誠。」

「そう身構えなくても、ここで君と事を構えるつもりは無いよ。」

そう、グレモリー眷属の女王、兵藤一誠である。

「信用ならんな。お供のティアマットも連れずに一人でお見送りとは、何のつもりだ?」

現在、兵藤一誠に護衛役のティアマットは付いていない。

「酷いなぁ、ぼくは君に親近感を覚えているんだけど?」

「笑えない冗談だな。」

「いやぁ、何の冗談でも無いよ。だって君────僕と同じ転生者でしょ?」

「─────あ?」

思考に、誤魔化しようの無い空白が生まれる。

「全く、お互い大変だよね、あの『女神』、いきなり呼び出しておいて、『お前は死んだが妾が転生させてやる』とか偉そうに…まぁおかげで僕は良い思いが出来てるから構わないんだけどね。」

思考が追いつかない。

兵藤一誠の言葉だけが自身の体を通過していく。

「おまけに『原作』と所々違うから何事かと思ったら別の転生者がいると来た。黒歌の指名手配が解除されたのも君の仕業かな?全く、他にもいるなら最初に言っておけって話だよ」

兵藤一誠の言葉がグルグルと頭の中で回り続け、その場で立ち尽くすしかない幹也。

しかし

「本当、君さえいなければ朱乃さんは僕の牝奴隷だったのに。」

その言葉だけは、聞き流すことは出来なかった。

「───黙れ下郎。」

気が付けば、幹也は鋒を向けていた。

「貴様が何を考えてるかは知らんがな、それでも、彼女に手を出すのならばその時は容赦なく斬るぞ……!」

「いいのかい?今ここで僕の側につけば君はもっといい思いができるかもしれないよ?」

「結構だ!俺は悔いの無い生き方をすると決めた。お前のいいなりになるつもりは無い!」

その返答に、兵藤は僅かに表情を曇らせ、

「残念だ。まぁでも少なくとも今はまだお互い敵対関係にある訳じゃ無いんだ、お互い、味方である内に友好的な関係を築いていきたいものだね。」

それだけを言い残し、兵藤は踵を返し、旧校舎へと戻っていった。

冷たい夜風だけを残して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

「お帰りなさい幹也さん。」

ぐったりと帰宅した幹也を出迎えたのはエプロン姿のガブリエルだった。

ガブリエルはそのままソファに倒れこむ幹也を優しく受け止める。

「だいぶお疲れのようですね……」

「ちょっとな……けど、今回の交渉での成果はでかい。少なくとも今までより動きやすくなるはずだ。」

「それよりも私は、幹也さんが無事でいてくれる事の方が大切です。」

優しく、幹也を胸に抱きながら話すガブリエルに、幹也は少し体の力を抜く。

「そうか…ありがとな…」

「お礼には及びませんわ。疲れたのでしょう?夕食が出来るまで、まだ時間があります。このまま少しお休みになって下さい。料理が出来たら起こしますから。」

「そう、だな。そうさせてもらうよ…」

重くなる瞼を自覚しながら幹也は目を閉じる。

直後にガブリエルは翼を広げ、幹也を繭のように優しく包んだ。

「おやすみなさい。どうかあなたに、安らぎがありますように…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、生徒会室ではソーナとソーナの女王であり、生徒会副会長である真羅椿姫と、兵士である匙元士郎の三人が今回の交渉を振り返っていた。

「彼の手腕は凄まじかったですね。およそ交渉、或いは外交という面でも彼ほどのやり手はそういないでしょう。」

ソーナの言葉に椿姫も首肯する。

「そうですね。加えて戦闘能力も高いと思われます。現に彼ははぐれ悪魔を何体も撃破しているようですし。」

頭が回り腕も立つ。

味方であれば頼もしいが…

(だからこそ扱いが難しい。下手に地雷を踏めば、今の戦力では太刀打ち出来ない…)

ソーナがそう考えていると、今度は匙が口を開く。

「しかし俺としては、兵藤のやつが女王だったことに驚きでしたけどね。だって女王って一番の側近、懐刀って事ですし。」

「確かに。問題はリアスがそれほど彼に傾倒してる事ですが───ッ!」

何かが、ソーナの中で引っかかる。

(何?私は何かを見落としている⁉︎)

思い出す。

視界が色を失うほどの集中の中で、ソーナは今日の幹也をの言葉を記憶から引っ張り出す。

(そうだ、彼はあの時なんと言っていた?)

引っかかるのはあの場面。

幹也が悪魔の内情に詳し過ぎると疑念を抱いたあの瞬間。

あの少年はなんと答えた?

 

『はぐれ悪魔がそんな感じの事を喚いてたんだよ。』

 

 

「───なんて事。」

「会長?」

「どうかしたんですか?」

突然顔色を変えたソーナを心配して、声をかける二人。

ソーナはそんな二人に

「やられました……!」

そう告げた。

「どういう意味ですか会長?」

「いいですか二人とも。上位の個体を除いて、はぐれ悪魔は理性を失い、欲望や本能のままに生きています。それは二人も知っていますね?」

ソーナの問いに二人は頷く。

「しかしそれでも、最低限の会話は可能です。でも、」

そこで、わずかに言葉を区切り、ソーナは言う。

「はぐれ悪魔は、主人を殺す、或いは主人の元から脱走した者達です。故に彼らは、かつての身分(、、、、、、)を一番嫌う。」

だからこそ。

幹也の言葉はあり得ない。

「え、ええと、つまりどう言う事なんです?」

首をかしげる匙に、ソーナは簡潔に答えた。

「これは推測ですが」

そう前振りした上で、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おそらく彼は、三大勢力のいずれか、或いは三大勢力全てと通じています」


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