人生はままならない   作:んみふり

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大変遅れました。そして導入なので短いです。


英霊顕現
争乱の足音


その一報は、あまりにも急だった。

「聖剣が…⁉︎」

通信魔術越しにそう聞き返した幹也の言葉に、ミカエルは重々しく頷いた。

『ええ、情けの無い話ですが…』

聖剣。

かつてブリテンの騎士王が持っていた星の聖剣。

勝利を約束されたその黄金の剣は、数々の争乱を経て、七つに別たれた。

そして七つの破片を新たな剣として再構築した物を教会が管理していたのだが…

「奪われたのは何本だ?」

『以前強奪された一本と担い手が見つかった物を除けば…四本です。』

「ごっそり持っていかれたな…犯人の目星は?」

『それについては俺から言おう。』

次に口を開いたのはアザゼルだった。

「……堕天使か」

『ああ、俺も焼きが回ったな。部下の手綱一つ、握れねぇとは…』

苦虫を噛み潰したように吐き捨てるアザゼルに、幹也は質問する。

「人数は何人だ?」

教会への殴り込みに、聖剣の奪取。

恐らくはかなり訓練された集団と判断した幹也の質問に、しかし返って来たのは意外な答えだった。

『一人だ。』

「…な、」

一瞬、言葉に詰まる。

一人。

つまりこれ程大胆かつ大規模な犯行を単独で行ったのだ。

個人としての実力はあまりにも飛び抜けている。

「…誰だ、そんな馬鹿げた事をやったやつは…⁉︎」

唸るような問いに、アザゼルもまた重々しく返す。

『コカビエルだ』

「大物だな…」

コカビエル。

聖書にも名を残す、強力な堕天使の一人。

戦いに取り憑かれた、悍ましき御使の成れの果て。

「んで、対処はどうすれば良い?」

『コカビエルに関してはもう酌量の余地は無い。きついかもしれねぇが…』

「…わかった。俺が始末する。」

幹也の返答に、アザゼルは重く頷く。

「ミカエル、教会の動きは?」

『残りのエクスカリバー使いの二人を投入したそうです。ですが…』

「戦力としては心許ない、か…わかった。上手くフォローするよ。それと、まだ『あの事』は言ってないんだよな?」

幹也の問いに、ミカエルは目を伏せる。

『はい、まだ…』

「そうか…仕方ないとはいえ、いつかツケは回ってくる。頭を下げて、ぶん殴られる覚悟はしておけよ。」

『重々承知しています。』

その後、いくつかの話をして、通信を切り上げる。

幹也は自室からリビングに降りると、黒歌、朱乃、ガブリエルの三人に経緯を話した。

「そうですか…コカビエルが…」

三人の中で一番ショックを受けたのはやはり、一番付き合いが長かったガブリエルだ。

朱乃はあまり話した事が無く、黒歌に関しては接点が一つもない。

「それと、今回に関しては、行動の大部分を現場の判断に任せるそうだ。場合によっては俺たちの素性を明かすことも構わないとよ。」

それは、つまり今までの戦いとは一線を画すという事。

かつて無い熾烈な戦いを予感し、四人は表情を引き締めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───夢を見る。

そこには何もなくて、自分以外の全てが純白に塗りつぶされている。

 

───前を見た。

一人、顔立ちの整った見覚えの無い青年が、見覚えのある剣の前で何かを喚いている。

 

───足を運ぶ。

一歩、また一歩。しかし届かない。手を伸ばせば届きそうなその距離が縮まらない。

 

───声を出す。

お前は誰だ、何故ここにいる。そんな問いを投げかけるようとしても、声が言葉にならない。

 

───けれど、この感情は理解できる。

ああ、これはきっと憧憬だ。私はこの目の前の見知らぬ青年に、追いつきたいと心から願っている。

 

 

 

 

 

 

 

───目が覚めた。

窓の外を見ると、なんだか殺風景な景色が広がっている。

それが空港の滑走路だと気づくのに、一秒もかからなかった。

「あ、やっと起きた!もう、そろそろ行くわよ!」

「……ああ。」

席から立ち上がる。

彼女達は任務を果たす為にこの国に来た。

いや、そう思っているのは自分だけかもしれない。

横にいる小うるさい相棒は昔の幼馴染に会う事で頭がいっぱいのようだ。

内心、溜息をつく。

本当にこんな調子で大丈夫なのだろうかと。

(いや、私も人の事は言えないな)

責任感はある。信仰心も、任務を終えれば、達成感だってってちゃんとある。

けれど、それだけしか無くて。

それだけでは何故だか足りなくて。

ただ、憧憬に向かって走れない自分が、酷く窮屈で。

(────なんなんだろうな、これは。)

その答えが、この任務で見つかるような予感が、少しだけある気がして。

(勘違いじゃ無ければ良いのだが…全く、剣を振るう身で、邪念が多いな、これは…)

彼女──ゼノヴィア・クァルタは、そんないつも通りのまとまらない思考に、意味の無い自嘲をしながら目的地へと歩をすすめるのだった




さてやっと入れた聖剣の章、つまりFate章‼︎
そして重大なお知らせ。
この物語は、後二章、つまり会談の次の章が最終章となっております!
どうか皆様、最後まで、この稚拙な小説に、お付き合いくださいませ。

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