雨の中、金属音が鳴り響く。
幾度と無く火花を散らす二つの剣。
狂気と憤怒、聖剣と魔剣が雨粒を吹き散らしながらぶつかり合う。
そんな中、魔剣を振るう金髪の青年───木場裕斗は、自らの復讐心が再燃した理由を思い返していた。
きっかけは兵藤家に集まって行った部活動で見た一枚の写真だった。
聖剣。
かつて己から全てを奪った、忌々しい剣。
その写真を見た時、木場は自らの在り方を思い出したのだ。
それからの木場は日に日に自分の中の炎が内側から身を焦がしていくのを感じていた。
同時に、日常への鬱陶しさも。
「どうしたんだい、木場?僕でよければ力になろうか?」
うるさい。女を貪る事しか脳がない奴が。
「どうしたの裕斗?貴方最近変よ?」
うるさい。王の責務を碌に果たさず、男に入れ込む女が。
うるさい、うるさい、うるさい、うるさい。
何もかもが鬱陶しくて、振り切るように夜の中へと駆け出した。
降り注ぐ雨粒が、余計に苛立ちを募らせる。
このまま全てを置き去りにして、走り去ってしまえればどんなに楽か。
理性を飛ばして、ただ憎悪に身を委ねて剣を振るえればどれ程良いか。
けれど、脳裏を掠めるのは死んでいった仲間の顔。
そして、自分の身を案じてくれていた、白い後輩の女の子の姿だった。
「アレアレェ〜⁉︎ムカつく優男がいると思ったらいつぞやの悪魔君じゃないデスカぁー‼︎」
雨音に負けないくらい耳障りな声が正面から響く。
見ればそこにはいつか見たはぐれ祓魔師である、白髪の青年が立っていた。
名は確か…
「フリード、セルゼン…!」
「そうそう!クソ悪魔にしてはいい記憶力してるじゃないですかァ〜!」
フリードの軽口を無視し、木場は彼の右手を注視する。
「その剣…」
「これ?すごいっしょ⁉︎
最早言葉は要らなかった。
標的へ向けて、箍の外れた魔剣使いが解き放たれた。
騎士という駒の特性は圧倒的な速度、これに尽きる。
速度をつけて正面からの突進、或いは撹乱して死角から攻撃など、その戦術の幅は広い。
この時の木場は、怒りと復讐への執念が頭を支配していたとはいえ、動きに精彩を欠いていたかと言えばそうではない。
だというのに。
(押し負ける…っ!)
力に差があるわけではない。
技量が極端に離れているわけでもない。
「オラオラァ‼︎さっきまでの威勢はどうしたんだよクソ悪魔ァ‼︎」
(速い!)
速度の差。
自身の本領となる領域で敗北したのは初めての経験だった。
「くそッ!」
悪態をつきながら横薙ぎに剣を振るう。
しかしそれは虚しく空を切る。
向こうの速度の方が上な以上、間合いの取り方に明らかに差がでる。
加えて、一撃離脱という極めて単純な戦術を取って来るあたり、態度の割に戦い方に遊びがない。
おまけに聖剣の性質上、掠っただけで致命傷になりかねない。
(なんて厄介な…!)
「ほーら、そろそろヤっちゃうよん!」
言葉と共に大きく踏み込むフリード。
このまま貰えば間違いなく即死。しかし同時にチャンスでもある。
(この大振りに、カウンターを合わせる!)
袈裟に振るわれる一撃を受け流し、そのまま剣を持つ右腕を斬り落とす。
頭で描いた通りに体が動く。
しかし、
ドダン‼︎
という音と共にまたも剣が空を切る。
「な……」
「ざぁーんねん‼︎こっちだよぉ〜‼︎」
声は後ろから。
何故、と思うより早く答えは出ていた。
(あの音!地面と壁を蹴って跳んだのか‼︎)
天閃の聖剣の性質は速度の上昇。
フリードはそれを利用し、木場の魔剣を回避する為に横に跳び、そのままの勢いで壁を蹴り、三角飛びの要領で背後に回ったのだ。
「ほーら、おしまい‼︎」
対処が間に合わない。
防御も回避も不可能。
フリードの腕から考えて、仕損じるなどいう奇跡はまず起きない。
故に、敗北という結末は必定だ。
(ちくしょう…)
終わる。
何も成せず。
(ちくしょう)
負ける。
何も出来ず。
(ちくしょう‼︎)
死ぬ。
何も掴めぬまま。
(ごめん…みんな…)
そして剣は
ガキリ‼︎
という音と共に止められた。
「ぇ…」
「あ?」
煌々と輝く剣を止めるのは純黒の刃。
ともすれば夜、或いは影そのものと見紛うその出で立ちを、木場は知っていた。
それは気怠そうに口を開く。
「夜中に大声で喚いてんじゃねぇよ。近所迷惑だろうが。」
───月野幹也。
かつて五大龍王の一角を退けた男の参戦であった