いやほんと、すいません。
向かい合う二つの視線。
片や聖剣を担うフリード・セルゼン。
片や神刀を携える月野幹也。
「なぁんだテメェ?クソ悪魔に与するなら人間でもバラすっすよぉ?」
狂気と殺意に満ちたその眼光を、
「………うっせ」
面倒くさそうに受け流す幹也。
直後に剣が弾かれる。
甲高い金属音が雨音と共に響き渡る。
(おぉ⁉︎なんだこいつ、俺様の聖剣を手首のスナップだけで弾きやがったぁ⁉︎)
「おら、行くぞ。」
黒刀が胴体目掛けて横薙ぎに振るわれる。別段特筆する技巧はないが、しかしそれでも、その鋭さは木場の比ではない。
(僕の剣速より、速い!)
それは、鍛え上げられた剣士の目をもってしても霞んで見えるほど。
「うあだぁ!?」
驚愕にまみれた声を上げながら、フリードはしかし辛うじて刃を防ぐ。
しかし当然ながら、一撃で幹也が終わらせる筈もなく、上下左右、様々な方向から斬撃を放り込む。
宵闇を斬り刻むかのような太刀筋に、木場は一瞬、呼吸を忘れた。
(すごい…)
弾かれる雨粒は、虚空に斬撃の軌跡を描く。
舞い散る火花はこの世で最も物騒な星空そのものだ。
(ダメだヤベェ。これは今のままじゃ勝てねぇ!)
狂気に満ち溢れながら、しかしフリードの思考は冷静に目の前の脅威を捉えていた。
撃破は不可能。
となると取りうる手段は撤退のみ。
即座に思考をまとめたフリードは大きくバックステップ。
そしてポケットに入っていた閃光弾を取り出す。
「ここは引かせてもらいやーす!!ハイチャラ───」
ダンッッ!!
と、音がした。
音源は幹也の右足。
フリードが閃光弾を使うより早く、幹也が踏み込み、フリードの左腕を掴んだのだ。
「逃がさねぇ……!」
万力のような握力に、フリードの左腕が軋み出す。
「オイマジか…!?」
「寝てろ!」
フリードの鳩尾に鈍い痛みが走る。
幹也が刀の柄の部分をめり込ませたのだ。
「お、ゲェ…!」
強烈な一撃により、フリードの意識は一撃で沈んだ。
べしゃり、と力無く地面に崩れ落ちるフリード。しかし意識を失ってなお聖剣を手放さないあたり、この男の執念を感じる。
「さて、色々聞きたいことがある。木場、お前も来て───!?」
直後。
フリードの体が淡く光り出す。
徐々に強くなる光に、木場は身構え、幹也は刀を振り下ろす。
(自爆かなんかか!?どうあれ、発動前に術者を仕留めれば!)
しかしこの時、幹也の考えは外れていた。
振り下ろした刀は硬い音とともに、地面にぶつかり、僅かに火花を散らすのみ。
見れば、フリードの体は消え失せていた。
「やられた…」
自身の意識消失をトリガーにした転移術式。
どうやら想像以上に用意周到な男だったらしい。
「くそ、振り出しか。木場、無事か?」
頭をかきながら、木場の安否を確認する。
「………」
「木場?」
返答が返って来ない事に不安を覚えた幹也は、木場に近づく。
しかし、その前に木場は立ち上がり、幹也に鋭い眼光を向ける。
「別に、助けて欲しいなんて、言った覚えは無いよ。」
「………」
自身の言葉に、自己嫌悪しながら、しかし木場は言葉を放つ。
それが自分に出来るケジメだと思って。
「これは僕の戦いだ。君の手は借りない、だから」
「ああ、とりあえず後で話すか。」
一瞬、目の前から幹也の姿が消え失せる。
「ぇ───。」
声を発する間もなかった。
腹部に痛みを感じた瞬間、木場の意識は遠のいていくのだった。
「はっ!?」
「お、起きたか。」
目を覚ました木場が、最初にめにしたのは、見知らぬ天井だった。
「ここは…」
「俺の家のリビング。」
言われて、木場は思い出す。あの後、幹也によって木場は気絶させられたのだと。
「ほれ、コーヒー。服と体は、魔法で乾かしといたから。」
俺じゃ無いけど、とは、心の中で付け足しておく。
「……礼は言わないよ。」
「いらねぇよ。こっちも仕事だ。」
「……」
沈黙が重い。
そう感じてるのは、木場だけかもしれないが。
そんな彼の心中を、知ってか知らずか、口を開いたのは幹也だった。
「復讐、か。」
「!」
「調べたよ。聖剣計画。人工的に聖剣に適合する人間を作り上げる人体実験。
その唯一の生き残りなんだってな、お前は。」
静かに、滔々と喋る幹也に、木場もまた口を開く。
「……そうだよ、僕達は、教会の勝手な都合で失敗作といわれ、廃棄と称して殺された。だから僕は、仲間の無念を───、」
「言い訳だよ、それは。」
斬り捨てるように、幹也は木場の言葉を一蹴した。
「…何?」
「お前はさ、仲間を理由にして、自身の行いを正当化しようとしてるだけ。お前は死んだ人間に、言い訳してるだけなんだよ。」
今度こそ。
木場の理性は吹き飛んだ。
何かを言う前に、魔剣を生成。幹也に向かって斬りかかる。
しかし
「馬鹿。ブレてるよ未熟者。」
あっさりと腕を掴まれ、足払いで地面へと転がり、組み伏せられる。
「くそ!!」
「落ち着けよ、少年。」
上の階で殺気立つ気配を、剣気で抑えながら幹也は木場に言う。
「図星突かれて怒んなよ。」
「ふざけるな!!僕は言い訳なんてしてない!!」
「だとすればお前の仲間は最低だな。」
「なんだと!?」
「事実だろ。唯一生き残ったお前の幸せを願うのでは無く、復讐の道に落ちるのを願ってんだろ?どこが優しい仲間なんだ?」
「知ったような口を…!」
「まだわかんないのか?他ならぬお前が、その仲間とやらを貶めてんだぞ!!」
「……な」
突然口調を荒げた幹也に、木場は思わず動きを止める。
「お前の仲間とやらは、一度でもお前に、自分たちの無念を晴らして欲しいと言ったのか?その一生を復讐に費やして欲しいと言ったのか?」
「それは…」
「お前の仲間は、友達の幸せよりも、自身の憎悪を優先するような奴らだったのか?」
「違う!そんな事…」
「じゃあ、仲間の無念とやらを口にするな。お前が託されたものは、きっとそんな冷たいものじゃ無いはずだ。」
「────、」
「それでも聖剣が許せないのなら、お前自身の怒りで進め。仲間を理由にするな。死人を理由にするな!他人の意思を勝手に語るな!!」
「………僕は」
何かを言おうとして、しかし言葉にならない木場。
そんな木場を見て、幹也はさらに言葉を紡ぐ。
「死者の声はな、よっぽどの奇跡がない限り、届く事は無いんだ。今際の際に何を願っていたか、何を思っていたかなんてのは、誰にも知りようが無い。」
それは、幹也の奥底から溢れた声だった。
「寂しい、怖い、痛い、助けて、色んな感情が渦巻いて。」
それはあの日、車にはねられた少年の最期の記憶。
「悔しい、辛い、寒い、許して、でも言葉にならなくて。」
それは、唐突に終わりを迎えてしまった少年の末期の思い。
「でもな。」
それは。
「それでも最後に浮かぶのはきっと、大切な誰かの幸せだと、俺は思うんだよ」
彼が最期に願った、届く事のない祈りの言葉。
「俺は復讐を否定しない。けどせめてこの戦いを、修羅の道の一歩ではなく、お前がお前の道を歩く為の一歩に、胸を張って日が当たる道を歩く為のものにしてくれねぇか?」
「──────。」
幹也は木場を放し、リビングから出て行く。
「今日は泊まっていけ。」
パタン、と扉を閉める音が響く。
ただ一人残された木場は、じっと天井を見つめていた。
夜の町を、睥睨する男がいる。
名をハルパー・ガリレイ。
皆殺しの大司教と呼ばれる彼は、来たる聖剣の復活を前に、胸を躍らせていた。
(もう少しだ、もう少しで我が悲願が───)
「やぁ。」
「!?」
後ろから、声をかけられる。
しかしハルパーには、この声に聞き覚えが無かった。
慌てて振り返ると、そこには黒いローブでは身を覆った何者かが立っていた。
「な、なんだ、誰だ!?」
「敵ではない、とだけ言っておこう、ハルパー・ガリレイ。」
その、恐らくは男は。
「真の聖剣、その輝きを望む者よ。貴殿の手助けをしてやろう。」
妖しく、嗤った。
さて、久々の投稿、いかがでしたでしょうか?
よくある転生ものでは意外と描写されない主人公の最期を描きたくて、やってみました。お楽しみ頂けたなら幸いです。
ではまた次回をお待ちください!
ところで幹也、腹パンしすぎじゃね…?