人生はままならない   作:んみふり

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大変長らくお待たせしました!すいません!


彼女の道

フリードとの戦いから一夜明け、幹也は旧校舎にあるオカルト研究会の部室にいた。

理由は一つ。今回の事件を収拾すべく、教会から使者が送られてきたからだ。

故に今日は、この旧校舎の部室において、重要な話し合いが行われる、筈だった。

(…………なんだこれ。)

「イッセーくん!久しぶり!」

「ちょっと!私のイッセーにひっつかないでちょうだい!」

蓋を開けてみれば、始まったのは兵藤一誠の取り合いだった。

どうやら教会の使者の1人である紫藤イリナは兵藤一誠の幼なじみだったらしく、顔を合わせるや否や即座に腕を絡め、引っ付く始末。話し合いが始まる気配がまるで無かった。

「………おい、そろそろ話し合いを始めたいのだが。」

そう切り出したのは幹也ではなく、もう一人の教会の使者である少女。

名をゼノヴィアというらしい。

彼女はうんざりした様子で相方を一瞥すると、もはや引き剥がすのも面倒と感じたのだろう、幹也へと視線を向け話し始める。

「コカビエルが聖剣を盗んだ話は聞いているな?我々はそれを取り返しに来た。」

「それで、僕たちにはこの件に手を出すなと言いに来たのかい?」

淡々と告げるゼノヴィアに言葉を返したのは幹也ではなく、意外にも兵藤一誠の方であった。

(驚いた。こいつ話を聞いてたんだな…)

内心わずかに驚きつつ、幹也は会話の続きを目で促す。

「そうだ。上層部は悪魔と堕天使は結託する可能性を考慮している。故に、万が一その兆候が見えた場合、我々は即座に君達を滅する許可も得ている。」

(面倒だな……この一大事に面子だの陰謀だのを持ち込んでる場合じゃないだろうに…)

実際、戦術面から鑑みて結託を警戒するのは間違いではない。

しかしおそらくそれだけではない(・・・・・・・・)

内部の派閥争いのような物も関係しているのだろう。

(神話の怪物と聖剣相手に送ってきたのはただ二人。加えて悪魔との連携…とまではいかなくとも、参戦すら許さないとはな…保身優先でもやり過ぎだ。この事件、もう一捻りあるのか…?)

そもそも根本的に聖剣を盗んだ理由すら明確では無いのだ。

迂闊に踏み込んだ先が伏魔殿という事もある。

「なるほど…話は分かったよ。」

その話を聞いた兵藤一誠は別段訝しむ様子もなく頷いた。

まるでこの展開が分かっていたかのように。

「……随分物分かりがいいんだな?」

「教会が悪魔を警戒するのは当然だよ。」

けれど、とそこ兵藤一誠は言葉を区切った。

そして直後に、僅かだが纏う空気が変わる。

「君はそれでいいのかな?」

「何?」

「相手はコカビエルだ。神話の怪物、この上ない強敵に、たった二人で立ち向かうのはあまりに無謀だよ。まして、そんな死地に幼なじみを送り出す訳にはいかないな。」

その言葉にイリナは目を潤ませ、頬を赤らめる。まさに虜と言った様子だ。

「何が言いたいんだ?」

「簡単だよ。悪魔全体がダメなら、僕個人として、赤き龍として君に協力させてくれないかな?」

瞬間。異様な気配が放たれる。

それは明確にゼノヴィアへと向けられた物だと理解するのに時間は必要なかった。

(これは、魔術行使⁉︎精神干渉系か!)

気付いたが遅い。

すでに魔術はゼノヴィアに向けて放たれている。

おそらくは『魅了』の魔術。

兵藤一誠の狙いは、ゼノヴィアを傀儡とする事─────!

「──────甘いな。」

放たれた魔術は、しかしゼノヴィアには届かなかった。

否、届く前に斬られたのだ。

物理的に剣を振るった訳でも、切断系の術式を使った訳でも無い。

おそらくは剣気。あまりにも鋭い気迫で這い寄る魔術を両断したのだ。

「………‼︎⁉︎」

「生憎と、私はソレに流されるほどヤワじゃないよ。」

声と視線は、先ほどよりも幾分か冷たい。

軽蔑、或いは嫌悪か。どうあれ良い感情が含まれていないのは確かだった。

「さて、それじゃあ私は失礼する。行くぞイリナ。」

「うーっ!イッセー君!またね!」

さっさと行こうとするゼノヴィアと、名残惜しそうに離れるイリナをなんとも言えない表情で見送る兵藤一誠。

と、その時ゼノヴィアの足が止まった。

「君は、アーシア・アルジェントか?」

視線の先にいるのは、金髪の少女。かつて教会を追放されたシスターだった者。

名を呼ばれたアーシアは驚き、怯えたように顔を下げる。

「……怯えなくていい。一つ聞きたいだけさ。」

「…なんでしょうか?」

「君はまだ、神を信じているのか?」

その問いかけは、あまりにも静かだった。或いは、ゼノヴィアが一切の音を許してないのか。現に、何か口を開きかけたイリナと兵藤一誠に睨みを効かせて封殺している。

「……はい。ずっと、信じていましたから。」

「そうか。君は一途なんだな。」

そう言って、彼女は歩き出す。

「けど今君は、本当に自分で立っているのかな?」

その疑問を、小さく呟きながら。

そのまま扉を開けて出ようとした時。

数本の魔剣が、ゼノヴィアと扉の間に割り込んだ。

「……穏やかじゃないね。」

「驚いた。これだけ殺気を飛ばしてるのに、ずっと無視されるとは思わなかったよ。」

声は右から。扉の横の壁に背を預けていた木場が自身の神器を使い、魔剣を出現させて道を塞いだのだ。

「すまないな。殺気を飛ばされる理由に、心当たりが無くてね。」

「聖剣計画と言えばわかるかな?一応君の先輩に当たるんだよ。失敗作のね…!」

怒りが膨張する。創られる魔剣はその怒りに呼応して妖しさを増していく。

「それで?君は何に怒っている?何が憎い?」

「決まっているだろう!僕は聖剣が憎い‼︎」

叫びと共に魔剣が握られる。

まさに一触即発。いつ斬り合いが始まってもおかしくない状況で、しかしゼノヴィアの声はあまりにも冷静だった。

「聖剣が憎い…か。」

「ああそうだ‼︎‼︎」

「ならば何故、君の瞳は揺れている?」

「!」

まるで全てを、見透かしているような。

「何故鋒が震えている?何故君はそんなにも何かを食いしばる様な顔をしているんだ。」

「そ、れは、」

動揺する木場に、しかしゼノヴィアは容赦しない。

「曇った剣に鈍った刃。それで一体何が斬れるというんだ。」

ゼノヴィアは落ち着いた様子で木場の持つ魔剣を素手で掴むと、あっさりと握り潰した。

「な、あっ…⁉︎」

「芯がない…いや、ブレているのか。だからこうしてすぐに砕け散る。」

言って、今度は扉の前に突き刺さる魔剣を、腕の一振りで全て叩き砕く。

「大方誰かに指摘されたのだろう?その憎しみの在処をどうするか揺れている。だから君は今、こんなにも脆い。」

扉を開け、部屋から出て行くゼノヴィアは最後にこう告げる。

「剣を振るい、前へ進むのはいつだって己だ。その理由の核に、他人を置いちゃダメなんだよ。」

その言葉に、木場は何一つ返す事ができなかった。


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