人生はままならない   作:んみふり

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若干趣味が入りました。ごみんなさい。


交渉戦 前編

冥界。

悪魔の住む世界であるそこは、実はあまり人間の都市部と大差は無い。

これは現四大魔王が人間の文化に肯定的であり、感銘を受けているからである。

領地や爵位などの古風な文化は未だ廃れてはいないが、しかし新たな物を拒絶しない寛容、或いは自由といったような魔王の気質があらわれていた。

「ふぅ…」

そんな冥界にある執務室で、紅髮の青年は書類仕事を終えて一息をついていた。

青年…にしか見えないが、その紅髮の青年こそ四大魔王の一人にして現魔王のリーダー的な存在である。

「サーゼクス様、お疲れの様ですね。」

「ああ、グレイフィア、やっと書類の整理が終わってね。一息ついていた所なんだ。」

サーゼクス、と呼ばれた青年は執務室に紅茶を持って入ってきたメイド、グレイフィアに疲れた様な笑みを向ける。

「大変、ですね。」

「ああ。けど、サボるわけには行かないさ。現状では停戦となっているが、一触即発には変わりがない。だからこそ、勢力内部の『洗浄』と他勢力とのパイプ作りを徹底しなくてはならないからね。」

「サーゼクス様、どうかご無理はなさらないようにして下さい。」

「わかっているよ、グレイフィア。ところで、今は二人きりなんだし、様付けは無しでも良いんじゃないかい?」

「公私は分けているので。」

「うぅ…僕の嫁はしっかり者だけど厳しいなぁ…」

「何か?」

「なんでもありません。」

魔王とメイド、という立場であっても、嫁には頭が上がらないサーゼクスだった。

 

 

 

そんな時、サーゼクスの前に一つの通信型魔方陣が浮かび上がる。

「ん?これは…」

魔方陣から立体映像が浮かび上がる。そこには

「ガブリエル?」

「えぇ、お久しぶりですね、サーゼクス、それにグレイフィアも。」

柔和な笑みを浮かべる、ガブリエルだった。

「お久しぶりです、ガブリエル様。」

「久しぶりだね、ガブリエル。」

「えぇ、相変わらずグレイフィアには頭が上がらないようね、サーゼクス。

それにグレイフィア、私達は友人なのだから敬称は不要よ?」

「そうはいきません、ガブリエル様。貴方程の方がわざわざ直通の魔方陣を使って来たのです。何か重要な事があるのでしょう?」

「ふむ、確かに言われてみれば…何かあったのかい?ガブリエル。」

「はい。では、本題に入りましょう、SS級はぐれ悪魔、黒歌についてです。」

柔和な笑みを消し、そう告げるガブリエルに、場の空気が変わる。

「続けてくれ。」

「はい…と言っても、これは私の口より、本人に直接話してもらった方がよろしいですね。」

「本人?」

「えぇ、黒歌の身柄を確保した『人間』に。」

「「‼︎」」

ガブリエルの言葉に思わず息を呑む二人。

今彼女はなんと言った?はぐれ悪魔の中でも最大級の危険度を誇るSS級の悪魔を人間が捕らえた?

冗談を言っている様子では無いし、何より彼女はそんな冗談を好まない。

思わず身構える二人は、魔方陣に映った人物を見て、更に驚愕する。

「子供…⁉︎」

「お初にお目にかかります、魔王サーゼクス・ルシファー殿。」

目の前の十歳程の少年は、その年齢に沿わない恭しい態度で頭を下げる。

「私は月野幹也。今回、はぐれ悪魔である黒歌を捕獲した者でございます。」

「…あ、あぁ、失敬、少々取り乱してしまったみたいだ。」

「構いません、自分の容姿は把握しておりますから。」

「そうか…」

合わない。あまりにも目の前の少年は大人びている。しかしこれ以上動揺しては魔王の名折れ、そして目の前の少年に失礼だと考え、気を取り直す。

「それで、話というのは?」

「はい、今回、お話したいのは、黒歌の処遇についてです。」

「処遇…」

「はい。主人殺しは悪魔の中では大罪。死刑が常と聞いております。ですが、そこには一切の情状酌量の余地は無いのでしょうか?」

「というと?」

「自衛、或いは近親者の為に殺さざるを得なかった場合はどうなるのか…?という事です。」

「⁉︎まさか彼女は…⁉︎」

聞き返すサーゼクスに、幹也はしっかりと頷き、

「詳しい事は未だ聞いておりませんが、彼女いわく、自らの主人が非道な行いをして来たので、そうするしか方法が無かった…と言っております。それも一度や二度では無く、日常的にだそうです。」

「………」

その言葉に、サーゼクスは沈黙する。

しばらく考えたのちサーゼクスは再び口を開いた。

「彼女が嘘を言っている…とは考えなかったのかい?」

「その可能性を消す為に、サーゼクス殿に連絡を取らせて頂きました。」

「成る程…証拠を探して欲しい…と。」

「はい。」

「仮に…本当に仮にだが、証拠が見つからずに黒歌の処刑が決定したら…君はどうする?仮にも悪魔…魔王に頼み事をしたんだ、対価は払わなくてはならないよ?」

我ながら意地の悪い質問だ、と、サーゼクスは内心吐き捨てる。どれだけ大人びていようと子供に話す内容では無いし、こんな事を言っても明確な返答などある筈が…

「その時は、この命を対価として差し出します。」

「───!」

今度こそ、サーゼクスは完全に意表を突かれた。

目の前の少年は何の躊躇いもなく自らの命を対価として差し出すといったのだ。

これには冷静なグレイフィアも目を見開いている。

「本気で言っているのかい?」

「はい。」

絞り出すような問いに、淡々と即答する幹也。

「それに私自身、黒歌を捕縛する際、討伐に来た悪魔を攻撃してしまったので、命を差し出すのは妥当なのでは無いかと。」

「何故攻撃を?」

「暴漢が迫っているようにしか見えなかったので。」

「成る程…」

あっさりと納得するサーゼクス。

事実、悪魔の中には、そういった下劣な悪魔も存在することを認識していたからである。

もっとも、容認したわけでは無いが。

「わかった。すぐに捜査に取り掛かるとしよう。」

「お願いします、サーゼクス。」

「任せてくれ。グレイフィア、頼む。」

「承知致しました。」

指示を受けたグレイフィアは即答に魔方陣を使い転移していった。

(さて…取り敢えずは予定通りだな。)

その様子を見ていた幹也は内心息を吐く。

実の所、この状況に持ち込めた段階で幹也の交渉における勝利は確定したも同然だった。

 

 

 

 

本当に魔王がガブリエルの話す通りの性格なら、確実に上手くいく。

それがガブリエルからサーゼクスの話を聞いた幹也の所感だった。

人間への友好的なスタンス。

差別をしない公平さ。

そして統治者たる思考の速さ。

それらを本当に兼ね備えているならば、必ず気付く。この交渉における最善の落とし所と、最悪のシナリオに。

 

 

 

サーゼクスは思考する。この交渉の結末を。

(証拠はグレイフィアに任せておけば問題は無い…彼女なら不正もせずに必ず結果を出す……結果?)

結果。

その言葉には、良くも悪くも、という枕言葉がつく事にサーゼクスは気付いた。

(結果…それはどんな結果だ?それによってこの交渉は左右されると言っても過言では無い。なら、どんな結果なら最善を選び取れる?)

サーゼクスの頭に幾つかの選択肢が浮かび上がる。

(一番可能性が高く、同時に最高のシナリオは証拠が見つかるという事だ。感情の機微に聡いガブリエルの目をそう簡単にごまかせるとは思えない。仮にごまかせたとしても、嘘を見抜く為の魔法術式が存在する以上、必ず真実が明かされる。)

最も、そういった審問用の術式を使える悪魔は限られているが。

(仮に黒歌が嘘をついていたとしても、これで解決する。何より嘘ならば証拠が見つからない。存在しないのだから…)

そう、ガブリエルの目を抜けたとしても、結局捜査の手が入った以上、誤魔化すという選択肢はそもそも存在しないのだ。

(大丈夫だ…それに、あの少年の命だって受け取らなくて済む。黒歌を捕縛したという実績を盾にすればいい。彼と交戦した悪魔には私から話をつける。それで───)

ふと、ここまで考えて、サーゼクスは何かを見落とした感覚に襲われる。

(何だ?何かを見落としてる?何か重大な見落としが…)

もう一度サーゼクスは自らの考えを反芻する。

しかし、何処にも見落としなど───

(あ。)

あった。一つだけ。

最悪の展開が。

(気付いたな。)

サーゼクスの顔色が変わるのを見て、幹也は気付いたと確信した。

 

 

ここで改めておさらいしよう。

仮に証拠が見つからなかったとして。

黒歌が嘘をついていたならばそれはそのまま悪魔の法に基づき罰を受ける。

しかし証拠が見つかったなら、黒歌の言ったことが真実だった事になり、黒歌の罪は、軽減され、監視はつくだろうが、実質無罪と変わらなくなる。

じゃあ、仮に。

本当に仮に。

黒歌が──、

 

 

黒歌が真実を言っていたのに(、、、、、、、、、、、、、)証拠が見つからなかった時(、、、、、、、、、、、、)は、一体どうなる……⁉︎)

 

それはサーゼクスが考えついた最悪の可能性。

(っあ、駄目だ、それは駄目だ!もしそうなれば、SS級はぐれ悪魔だった黒歌や、人間差別をしている悪魔への発言力を持たない彼は真っ先に殺される!)

仮に今サーゼクスが幹也だけを見逃しても、何のお咎めも無しでは確実に報復され、同時にサーゼクスの能力を疑われて、制御出来ない状態に陥る。

そうなれば、内戦という形で今度こそ悪魔は滅びるだろう。

嘘を見抜く術式を使って黒歌の言葉が真実だと証明されたとしても、肝心の物証が無ければ、その結果の効力も弱くなる。

そうなるとどうなるか。最悪の場合

(何の罪もない者が二人も死ぬ!しかも一人は子供だ!)

魔王として、何よりサーゼクスという一人の男として、それだけは絶対に避けたいシナリオだった。

更にガブリエルの存在が事態をより深刻化させる。

仮にガブリエルを押し切って二人の身柄を抑え、処罰を強行した場合、ガブリエルだけでなく、天界の幹部から疑念を向けられる。もしそうなれば

(兼ねてから考えていた三大勢力の和平が難しくなる!いや、不可能と言っても良いだろう、それだけ彼らの人間への思いは大きいのだから…!)

額から汗を流すサーゼクスを見た幹也は勝ちを確信した。

サーゼクスが最悪の可能性に気付いた時にどうなるか。

幹也はそこまで計算していたのだ。

(ここまで考えれば必ず手は抜かない。もし証拠が見つからなかったとしても、無罪の者を裁くのはサーゼクスという個人は許さない。ならどうするか?答えは簡単だ…魔王という立場に縛られてもできる措置は…)

サーゼクスもまた、その思考にたどり着く。

(妥協案。SS級はぐれ悪魔と、それを捕縛できるその戦力を利用する…という名目で彼らを生かす!それしかない!)

と、そこまで気付いた時に、執務室に魔方陣が現れる。

「戻りました、サーゼクス様。」

「どうだった?」

その場に居た全員が息を呑んで返答を待つ。

そして。

「クロです。黒歌の主人、およびそれに加担した貴族の家から、多くの不正の証拠を確認しました。」

『!』

それを聞いたサーゼクスとガブリエル。そして幹也から安堵の息が溢れる。

「そうか…ありがとうグレイフィア。少し休んでくれ。さて、幹也君だったね?」

「はい。」

「黒歌の無罪は証明された。これで解決──」

「ちょっと待って欲しいですにゃ。」

全てがひと段落、それに待ったをかけた人物が居た。

それは他ならぬ黒歌本人であった。

「魔王様、お願いがありますにゃ。」

「なんだい?」

「私を主人殺しの罰として、幹也の使い魔になる事を許可して欲しいですにゃ!」

「…はぁ⁉︎」

驚いたのは幹也だ。

何故なら事前の打ち合わせではこんな事は話し合って居なかったのだから。

「おまえ、何を言って…」

「今後を考えると、こっちの方が都合が良いでしょ?」

「それは…」

「今後?」

サーゼクスは二人の会話の内容に首を傾げる。

「今後とは、どういう事だい?」

「えーと…」

暫く考え、意を決したように口を開く。

「実は魔王様にお願いがございまして…」

「お願いとは?」

「その、今回の件で交戦した悪魔に今後目をつけられるかもしれません。私個人ならやりようはいくらでもあるのですが、私は孤児院に住んでおりまして…」

「孤児院が報復として襲撃されるかもしれない…と?」

「はい。ですので、魔王様には孤児院を守って頂きたく思いまして。」

「成る程…」

「勿論、対価は払います。」

「具体的には何を払うつもりだい?」

「戦力。」

それは、サーゼクスにとっては予想外だったらしく、思わず口を開けて驚いていた。

(…ひょっとして、この交渉の最善の結末に気付いてなかったのか?)

そう考え、幹也はサーゼクスをかなりのお人好しだと思った。

今回の交渉における最善とは何か?

早い話がギブアンドテイクの関係を構築する事である。

幹也が対価を払い要求を通す。

サーゼクスが対価を受け取り、要求を聞き受ける。

対価と要求が同数でなくとも大きな対価を一つ払う事で、いくつかの要求で釣り合いを取るという関係を成り立たせるという事が幹也の狙いだったのだ。

きちんと悪魔のルールに則った取引なので、他の勢力や内部の悪魔にとやかく言われる事の無い関係なのだ。

「成る程…」

サーゼクスは幹也の対価を聞いて頷く。

「無論、それだけではありません。」

「というと?」

「和平交渉の補助と、内部の悪魔への牽制。簡単に言えば、フットワークの軽さを活かして他の勢力へのコネを作り、それらの実績を持って、魔王に対して不信感を持つ内部勢力へのポーズにします。」

その提案は、まさしくサーゼクスが現在抱えている問題を解決するものであった。

「では改めまして、こちらの要求は孤児院の保護と、私が生活出来る環境の確保。はぐれ悪魔への討伐権。そして…黒歌を使い魔として私の補助をしてもらう事。」

「幹也…」

本当に嬉しそうに幹也を見る黒歌。その頬はわずかに赤みを帯びていた。

「対して、払う対価は三大勢力、および必要に応じた他勢力への交渉の為の材料、および実績の獲得と、悪魔勢力、並びに和平がなった際の三大勢力への助力。…こんな所ですかね。」

さて、と、幹也はサーゼクスを真っ直ぐに見据える。

「魔王様。返答は如何に?」

その言葉に、サーゼクスは笑う。

「断る理由が無い。是非、契約させていただこう。」

「では、契約成立ですね?魔王様。」

「ああ。それと、私の事はサーゼクスで構わないよ、幹也君。君の要求は可及的速やかに叶えるとしよう。だが、場合によってはその街から引っ越してしまうかもしれないが…」

「問題ありません。」

「わかった。後ほどまた連絡する。どうかゆっくり休んでくれ。」

そう言って、サーゼクスは通信を切った。

「ふぅ…」

椅子にもたれかかり、息をつくサーゼクス。

「お疲れ様です。サーゼクス様。」

「ありがとうグレイフィア。にしてもすごかったな…あの子は。あの交渉全てが彼の手の内だと思うとゾッとするよ。」

「ええ、ですが…」

「ああ。同時にあれほど頼もしい味方はいない。今回の交渉はとても身になったと言える。悪魔にとっても、他の勢力にとってもね。」

そう言って、サーゼクスは少し笑う。

それは魔王では無く、サーゼクスという一人の男の笑み。

「月野幹也君、か…」

面白くなりそうだ、とサーゼクスは独りごちた。

 

 

 

 

 

一方その頃、幹也またぐったりとしていた。

「あーしんどい。」

「お疲れ様です。」

「お疲れにゃ。」

「あいよ。というか黒歌、ああいうのは事前に言っといてくれよ。びっくりしただろ?」

「ごめんにゃ。」

ニコニコと笑いながら謝られては幹也もそれ以上何も言えなかった。

「んじゃ、もう一軒行っとくか。」

そう言うと幹也は立ち上がり、ガブリエルに通信魔方陣の準備を頼む。

「まだどこかに交渉するのですか?」

「ああ、こういうのはサクサク済ませた方が良いからな。」

「次は天界に?」

「いや。」

幹也は首を鳴らした後、答えを告げる。

「堕天使領。総督アザゼルと話をつける。」

交渉戦、第二ラウンド、開始。

 




ハイ、という訳で幹也君はまず悪魔勢力を味方につけました!
次はいよいよ堕天使領、アザゼルさんとの交渉戦です!
…早く投稿できるといいな。
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