愛している。けれどこの言葉をそのまま額面通りに受け取る人間はきっと少ない。
だって人間は究極的には一人なのだから。
どれだけ群れようと、どれだけ人と関わろうと、どれだけ他者を受け入れようと。
人は結局、『個人』という枠組みから脱する事など出来はしないのだから。
学校から帰った幹也は、朱乃に膝枕をしていた。
「……」
「ふふ、幹也君の膝枕…」
今朝の不機嫌な様子は何処へやら。
朱乃は満足そうに幹也の膝を堪能していた。
(まぁ、喜んでくれるならいいか…)
とりあえず電撃は避けられたという事実に胸を撫で下ろしていると、黒い着物を大胆に着崩した女性、黒歌がアイスを片手に二階から降りてくる。
「あ!朱乃ばっかりずるいにゃ!私にもするにゃ幹也‼︎」
「構わないけど、それ俺が買ったアイスじゃね?」
「知らんにゃ。」
「お前…」
三人が騒いでいると、台所からエプロン姿のガブリエルが出てくる。
「三人ともはしたないですよ?年頃の男女がそんなにくっついてはいけません。ちゃんと順序を踏まえないとダメです!あ、幹也君、後で私にも膝枕、お願いします。」
「説得力って知ってるか?」
欲望ダダ漏れに大天使。
一体何故堕天しないのか不思議に思う幹也だった。
しばらくして、幹也が自室でくつろいでいると、通信用の魔方陣が浮かび上がる。
数は三。
それはつまり────
「珍しいな、三大勢力のトップが揃い踏みとは。」
『ええ、お久しぶりですね、幹也君。』
『悪いな、くつろいでいる所に。』
『どうしても伝えなくてはいけない事があってね。』
そこに映し出されたのは、天使、堕天使、悪魔の長。
金色の翼を生やした、青年にしか見えない大天使、ミカエル。
堕天使の総督である、アザゼル。
紅髮の魔王、サーゼクスの三人だった。
「俺に話が回って来たって事は、それなりに緊急って事か?」
その問いに、サーゼクスが頷き、残る二人は、苦い顔をする。
「…一体何が?」
二人の表情から只事では無いと感じた幹也は先を促す。
『実は、駒王町にはぐれ堕天使が潜入した。』
「!」
サーゼクスの言葉に眉を顰める幹也。
「目的は?」
『現状では不明。だが、恐らくあまり良いものでは無いのは確かだ。』
幹也はアザゼルが顔色を変えた理由を察するが、あえて口にはしなかった。
「…ミカエル、あんたまでそんな顔をするのはなんでなんだ?」
『………実は、はぐれ堕天使の側に、追放されたエクソシストとシスターがいると連絡が入りました。』
成る程、と幹也は頷く。
『すまねぇ。これは完璧に俺達の監督不行き届きだ。』
『面目次第もありません…』
二人はそう言って頭を下げる。
『二人とも、今は頭を上げてくれ。幹也君が困っているだろう?……さて、幹也君、君の任務は』
「潜入した堕天使とエクソシスト、シスターの排除、もしくは捕縛だな?」
『その事なのですが…シスターの方は保護をして頂けませんか?』
「?構わないが…何でだ。」
『おそらく彼女は、騙されているのだと思います。彼女は悪業などを忌み嫌うシスターでしたから。』
「なんで追放されたんだ?」
『……悪魔を治療した為だと聞いています。』
「………早く和平を結ばないとな。」
その言葉に、三人はしっかりと頷いた。
翌日、学校が終わり、朱乃と二人で幹也は帰路へついていた。
「はぐれ堕天使…」
「ああ、だから、今日からまたしばらく夜は家を空けると思う。」
「…まだ私達を連れて行ってくれないのですわね?」
「あぁ、万が一の為にも、三人には後方支援に回って欲しい。」
「わかりましたわ。けど…」
「わかってる。いざという時には、三人をしっかり頼るから、安心して欲しい。」
その言葉に、朱乃は力強く頷くのだった。
(さて、こいつは長丁場になるかもな……)
そう予想する幹也。
しかし、翌日、事態は急転する事を、この時幹也はまだ知らなかった。
────────すべてが始まるまで、後一日。