落第騎士の師匠《グランドマスター》   作:Wbook

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今回は完全なるギャグであり、何なら飛ばしてしまっても構わない
というか、ギャグとかあり得んわとか意味分からんこんなもんいらねーと思う人はぜひ飛ばしてくれ


諸行無常

「——ぐはっ!?」

「砕城! みんな、砕城が死んだっ!」

 

 

 死んでない。

 

 

「くっ……おのれあのインチキ侍……!」

「流石に、洒落ににゃらない強されすね……!」

 

 

 挑み掛かる学生騎士達、その誰もが一角の実力者であったが……なんにせよ、相手が悪かった。

 《浪速の星》と《雷切》に加え。彼らには一歩劣るものの、やはり強者である破軍学園生徒会役員と武曲学園代表の二人。その他、野次馬の日下部加々美。

 

 彼ら全員を相手に大立ち回りを繰り広げる男とは当然……。

 

 

「ふっ、砂利どもめ……。拙者の拳は今宵、血に飢えてござるよ」

 

 

 ——非常に残念なことに、佐々木小次郎その人であった。

 

 

「やい、大人気ないぞぉっ!!」

「そうやそうや! 真っ先に《観測不能》を始末して勝ち目を削るなんて本気過ぎるやろ!!」

 

 

 非難の声もどこ吹く風。

 その手には、物干し竿の代わりにビール瓶が握られていた。

 

 ちなみに、御祓泡沫も別に殺されてない。

 

 

「……どうして、こうなっちゃったのかな……」

 

 

 一人、店の前で争う彼らを死んだ目で見つめる少年。

 馬鹿騒ぎは馬鹿騒ぎであったのだが、乱闘騒ぎではなかったはず……それを、諦観の混じった瞳で訝しんでいた。

 

 時は、さほど遡らない。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

「いい加減、諦めて私達と戦ってくらはいよ〜!」

「せやで! 往生際が悪いんやおまへんか?」

 

 

 じりじりと小次郎を追い詰めるのは、東堂刀華と諸星雄大……だけでは無かった。

 

 

「ちっ、数に頼るとは……騎士の風上にもおけぬ奴らよ」

 

 

 この狭い店内で刀華と諸星を加えた総勢九名。店を荒らさずに逃げるには少々手間であった。

 

 飲んでは逃げ、食べては逃げ。……しかし、それにも限界は来る。

 

 学生騎士達はアルコールを大量に摂取し、中には呂律の回らない者も居るにも関わらず、平時のそれと大して変わらぬ動きを見せたのだ。

 常在戦場と言えば聞こえはいいが、遺憾ながら……この状況では無駄という他ない技量の高さ、隙の無さ。

 

 これこそは、後の悲劇の伏線である。

 

 小次郎含めた全員が常に動き回っていた。そう、アルコールを摂取した状態で……いや、むしろ過剰なほどに摂取しながら、やたらめったら右往左往していたのである。

 

 当然ながら——酔いは、加速度的に深くなっていく。

 

 

「ええいっ、鬱陶しい」

 

 

 袋小路に追い詰められた小次郎は、いよいよ店の外へと逃げ出した。

 

 

「追えぇ! 絶対逃すんやないぞ!」

「あははははは! 大捕物れすね、武曲に負けてられまへんよ、みなはん!」

 

 

 これまで一度の反撃も無かったことから、無警戒に小次郎を追いかけ、店外へ続く。それが、悪手とも知らずに。

 

 ——そこに、地獄があるとも知らずに。

 

 

「あれ……?」

「……どこ行きよった?」

 

 

 ばたり、と倒れる影が一つ。

 

 

「ウタくん!?」

「——《観測不能》。因果干渉系は油断ならぬからなぁ……」

 

 

 ゆらり。ゆらり。

 

 不穏な空気を纏った男が姿を見せる。どうしてか、彼を追っていたはずの一同の背後から。

 

 

「い、いつの間に……」

「お前達は、お好み焼き屋という地の利を自ら捨てた。この佐々木小次郎を甘く見たな」

 

 

 店の外に出て走り抜けた後。

 追いかけてきた者達の目を置き去りにする超速のバックステップで背後に回り込んだ小次郎は、万が一を起こし得る御祓泡沫を葬った。……いや、まあ息はあるのだが、数時間は目覚めないだろう。

 

 

「お前達は、このような場で戯れに霊装を抜けぬであろう。故に、合わせる。某も徒手空拳で相手をしてやろう」

 

 

 小次郎が赤ら顔で笑みを浮かべる中、ほぼ全員の酔いが醒めた。——こいつはやばい、そう……本能で察したのである。

 

 

「さあ、暇潰しに強敵(とも)の記憶を頼って覚えた八極拳と燕青拳……その最初の犠牲者となるがいい。我が拳の錆となれ……!」

 

 

 当然ながら両者の足元にも及ばぬが。手本が手本だけにその辺の拳法家など及びもつかない次元で習得していたソレは、もはや凶器。

 打たれ弱いとはいえ一応は英雄クラスの身体、部位鍛錬とか必要なかった。

 

 剣武祭を終えてようやく一息……そんな矢先。学生騎士達は、呆れ返るほど馬鹿らしい脅威に晒される羽目に陥る。

 

 そしてやはり、最も割りを食っているのは。

 

 

「何なんだろうなぁ……これ……」

 

 

 ……主役たる、彼なのだろう。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 話は再び、砕城が張っ倒された辺りに戻る。

 

 素手という土俵において、兎丸恋々以外は敵味方ともに不慣れであったが、なんだかんだ誰も彼も達人であったので加々美以外は戦えていた。

 真っ先にやられた砕城は不運という他ない。

 

 

「この酔いちくれめ……砕城のカタキだぁっ!」

「馬鹿かキミは、あまり先行すると——!」

 

 

 《速度中毒》の名に恥じぬ、見事な特攻であった。

 

 

「ふはは、遅いな。出鼻を抑えたならば如何にそなたとてノロマな亀よ」

 

 

 待ってましたとばかりに彼女を直撃する崩拳。

 不幸中の幸いというべきか、加速が足りていなかったおかげで強烈なカウンターとは成り得なかった。とはいえ威力は十分。見事な縦二回転を決めて後頭部での着地フィニッシュ。

 

 点数をつけるなら、十点中八点といったところか。

 

 

「あいたたた……って、うっぷ……」

 

 

 忘れてはならないが、ここに居る連中はどいつもこいつも酔っ払い。先ほど小次郎を罵った恋々もまた、同じ穴のムジナであった。

 多少正気に戻ったとはいえ、いまだアルコールは体内に残っている。縦回転など決めて無事で済むはずがない。

 

 顔を青くして口元を押さえた彼女は『一番星』へと駆け込んでいった。

 

 

「……あいつ……もう戻ってこんやろうな……」

「……そうれすね……」

「なんて言ってる場合じゃないから!? 早くあの人なんとかしないと!?」

 

 

 悪ノリして小次郎を追いかけ回していた加々美だが、いまはとても後悔していた。戦闘能力の乏しい彼女にしてみれば、この状況では周りに縋る他ないのだから無理もないが。

 

 

「くそ……東堂! ワイらが引き付ける……お前がやれや!」

「ひゃい、まかへてくらはい! カナちゃんも諸星さんに協力を!」

 

 

 刀華と諸星は互いに競い合うように飲んでいたばかりに、酒気も群を抜いていたが、それでも他の者達より頭一つ抜いた実力者。しかも、破軍と武曲……それぞれのまとめ役。

 すぐさまリーダーシップを発揮し、小次郎打倒のために手を組んだ。

 

 刀を持っているならいざ知らず。

 素手の小次郎など、金棒を持たぬ鬼。薙刀のない弁慶。ヌンチャクを忘れたブルース・リー。

 

 ——つまり、恐るるに足らず。

 

 

「いくで皆の衆! あのござる侍にここで引導を渡すんやぁぁぁあああ!!!」

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

「んな……アホな……」

 

 

 結果は見ての通り。もはや立っている者は諸星と刀華の二人だけ。後者が泥酔状態で、そろそろ意識の危ういことを考えれば実質一人といったところか。

 それでもよく保った方で、一時間は経過している。チームワークの賜物であった。

 

 しかし、金棒は無くても鬼は鬼。薙刀は持たずとも武蔵坊。ヌンチャクが無くとも燃えるドラゴン。

 

 刀を用いずとも、小次郎は小次郎。山育ちの農民であった。

 

 

「残るは二人……よく粘ったが、未熟は未熟。拙者に及ぶには、少々年月が足りなかったな」

 

 

 六つの屍を積み上げて君臨する頂点剣士、佐々木小次郎は不敵な笑みを隠そうともしない。

 まさに、先達たる強者の様相。その立ち姿は、この場が酔った末の乱痴気騒ぎで無ければ最高に格好良かったのだが。

 

 無駄に才覚を発揮して素手での立ち回りまで覚えてしまう辺り、本当に天才なのだろう。一生涯かかったとはいえ、実戦無しで魔法の領域に辿り着くだけのことはある。

 

 

「さて——辞世の句は読んだか」

 

 

 こういう悪ふざけさえしなければ、イメージは保たれたはずなのだが、もはや諸星その他に彼への尊敬はそんなに無い。

 酒の力とは恐ろしい。耽美なる《魔剣士》を、単なる愉快な兄ちゃんに変えてしまうのだから。

 

 

「へっ、ただでは死なへんで……!」

「刺し違へてでも、みんなのカタキはとりまふ……!」

「やってみるがいい、若人よ。その悉くを凌駕してしんぜよう!」

 

 

 くどいようだが、死者は別に居ない。

 

 同時に駆け出した三人の伐刀者たち。既に、酔いは限界を超過していた。倒れ伏した連中もダメージで起き上がれないというよりは酒が回りすぎて起きたく無いというのが正しい。御祓泡沫と砕城雷は除くが。

 

 肉体はとうに限界を超えており、テンションだけで保たせていた。最高潮に達したボルテージが霧散した瞬間、彼らは一様に最後を迎えるだろう。

 

 いずれにせよ、長くは続かない……のだが。それよりも早く、“彼女”の我慢こそが限界を迎えていた。

 

 ——パリィンッ!

 

 

「「!?」」

 

 

 小次郎は地面に突っ伏したまま、ピクリとも動かなくなった。

 

 その背後には——“カツラを脱ぎ捨て、右手に割れた一升瓶を、左手に中身の入った“ニ升瓶”を持った薬師雪”の姿が。

 美しい白銀の髪をなびかせ、白い肌を真っ赤に染めた彼女。幾ら酔って居ても間違えるはずはなく。

 

 

「「ひ、《比翼》のエーデルワイス……!?」」

「ははっ、もうどうにでもなればいい」

 

 

 だが、周囲の驚愕などまるで無視。否、気づいてすらいない。

 彼女は倒れた小次郎を見下ろしつつ、ニ升瓶をラッパ飲みして酒気を吐く。

 

 

「——貴方は、私を放っておいて何を遊んでいるのですか?」

 

 

 ニ升瓶の中身が既に四分の一以下になっている辺り、かなり不機嫌でやけ酒した様子が窺い知れる。

 

 小次郎を目的として来た彼女から見れば、視界のうちで騒いでいるならいざ知らず。

 店外に逃げるわ子供達と戯れて自分を放置するわで……怒りのボルテージを上げるには十分な理由があった。もはや、彼女に自制心はさほど残っていない。

 

 エーデルワイスは、倒れた小次郎の首根っこを引っ掴んでズルズルと引きずり、夜の大阪の街へと消えていった。

 

 

「お、おい……黒鉄、お前のお師匠さん……《比翼》にどっか連れていかれ——」

「いいですよ、もう……放っておきましょう。知りませんよ、もう……何なんですか、もう……」

 

 

 この際、これまでの珍事は脇に置いておくとして。

 今日もっとも正しい怒りを露わにしているのは、間違いなくこの少年だろうと、断言しておこう。

 

 やけ酒の一つくらい、許して然るべきでは無かろうか——。




ギャグだから。野暮なツッコミはいらない。

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