僕と千歌、時々みかん。   作:猫の缶詰(新品)

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その下着、桜色につき・2

 ──昼休み、校舎の中庭。

 

 桜の木の下、ベンチに腰掛けていた僕の前で、千歌さんと渡辺さんは流していた曲に合わせて一定のリズムを刻むように左右に動いていた。

 

「ワン、ツー、ワン、ツー……」

「ね、またダメだったの?」

 

 それを聞くのは野暮だと思うけど、千歌さんを見るに手応えはまぁまぁありそうな感じ。

 

「うん……。でも、あと一歩、あと一押しっ! て感じかな!」

 

 動きは止めず、自身有りげに笑う千歌さんを、苦笑いで見る渡辺さん。

 

「本当かなあ……?」

 

 僕も渡辺さんと同意見で、あまり好印象を受けている感じにはとてもじゃないが見えない。 

 

「あ、春太くん、それ止めてくれる?」

「はい」

 

 ベンチに置いていたスマホを手に取り、曲を停止。

 

「ふぅ……」

 

 一息つき、隣に腰掛ける千歌さんと、渡辺さん。

 

「だってね、最初は──『ごめんなさい』だったのが、最近は『う……ごめんなさい……』になってきたし!」

 

 拳を握り、うんうんと頷く。 

 

「えぇ……嫌がってるようにしか思えないんだけど……」

 

 全くその通りだ。ていうか関係ないけど声真似上手いな。

 

「大丈夫!いざとなったら! ……ほい! 何とかするし!」

 

 一体どこに隠していたのか、昨日持っていたおんがくと書かれた如何にも低学年向けの教科書を取り出して、満面の笑み。

 

「それは……あんまり考えない方がいいかも知れない……」

「ぼ、僕もそう思います……」

 

 やはり頼りはピアノ経験者の桜内さんだけ。

 けど、今の様子じゃ無理そうだしな……。

 

「それより、曜ちゃんの方は?」

「あ! 描いてきたよっ!」

 

 描いてきた? なんの事なのか分からないまま、教室へと向かう彼女達についていく。

 

 教室につくと、机の中から一冊のノートを取り出し、渡辺さんが僕らに見せてきた。

 そのノートには、恐らく千歌さんがモデルであろう絵が描かれていた。

 それも、鉄道員らしき制服を着ている。

 

「おお……」

「どう?」

 

 素直に上手いと思う。

 だがこれは何の絵なんだろう。コスプレ?

 あ、違うな。アイドルの衣装か。

 

「すごいね……でも、衣装というより制服に近いような……その、スカートとかないの?」

 

「あるよ!はい!」

 

 次のページには、ミニスカポリス風の絵。

 これもまた制服だし、アイドルらしくは無い。

 確かにスカートではあるが。

 

「え、いや、これも衣装っていうか……もうちょっとこう……かわいいのは……?」

 

「だったらこれかな?ほい!」

 

 可愛いというリクエストに答えるべく、次に出した絵。それは見るからにミリタリー系の衣装だった。

 おまけに、ライフル銃らしき物騒なモノまで描かれている。

 

「武器持っちゃった!」

 

 ツッコミを入れ、頭を抱える千歌さん。

 頭を抱えたくなるのも分かる。

 

「かわいいよね!」

「かわいくないよ! むしろ怖いよ!」

 

 流石に銃を持つアイドルは無い。

「春太くんもダメだと思う?」

「え、えぇ……銃はアウトかと」

 

 それ以前にミリタリー系の服装のアイドルはちょっとアレかと思う。

 

「もう……もっとかわいいスクールアイドルっぽい服だよ!」

「っと思って、それも描いてみたよ! ほい!」

 

 一体いくつストックがあるのか。

 次に出した絵は、みかん色のいかにもアイドルらしいヒラヒラした可愛いらしい衣装だった。

 

「わーっ! すごい! キラキラしてる!」

 

 目を輝かせ、絵に釘付けになる千歌さん。

 どうやら、気に入ったようだ。

 

「でしょ!?」

 その様子を見て喜ぶ渡辺さん。

 

「こんな衣装作れるの?」

「うん! もちろん、何とかなる!」

 

 絵も描けて、更には衣装まで作れるなんて……。

「凄いですね……」

「え、あははっ。こんなの普通だよ」

 

 少しだけ頬を朱に染め、頭をかく。

 とても普通とは思えないが、彼女にとってそれは普通の事なんだろう。

 

「よーし! じゃあ挫けてるわけにはいかない!」

 

 思い立ったら吉日、勢い良く立ち上がった千歌さんが向かった場所は、生徒会室。

 

 

「──お断りしますわ!」

 

 開口一番、室内に響き渡る生徒会長の声。

 

「こっちも?」

 

 項垂れる千歌さんと、やっぱり……、と落胆する渡辺さん。僕はというと、余計な口を挟まないよう突っ立っていた。

 

 

「私は五人必要だと言ったはずです。それ以前に、作曲はどうなったのです?」

 

 痛い所を突かれた。

 今まさに直面している問題であり、どうにも解決出来そうに無い。

 

「それは……たぶん、いずれ、きっと! 可能性は無限大!」

 

 大袈裟なジェスチャーと共に、そんな曖昧な解答を生徒会長に述べる千歌さん。

 だがそれは、苦し紛れの言い訳にしか聞こえない。

 

「で、でも……最初は三人しかいなくて大変だったんですよね、u's(ユーズ)も……」

 

 ん? 今、μ's(ミューズ)じゃなくてu's(ユーズ)って言わなかったか?

 

 ふと、いくつかの書類にサインを書いていた生徒会長の手が止まる。

 心なしか、震えているようにも見えた。

 

「知りませんか? 第二回ラブライブ優勝──音ノ木坂学院スクールアイドル──u's(ユーズ)!」

 

 二度目の間違い。

 その言葉を聞くと同時に、生徒会長の持つペンが真っ二つに折れた。

 

 い、嫌な予感がする。

 

「……それはもしかして、μ's(ミューズ)のことを言ってるのではありませんですわよね」

 

 椅子から立ち上がり、こちらに背を向けた。

 その背中からは、異様なプレッシャーを感じる。

 

「あっ……もしかしてあれ……ミューズって読む──」

「おだまらっしゃーいっ!!」

 

 訂正を入れようとした千歌さんの言葉を遮る生徒会長の怒号。

 

 それから始まったのは、スクールアイドルガチ勢の言葉の応酬だった。

 

 

「言うに事欠いて! 名前を間違えてるですって! ああん!?」

 

 一歩ずつ、鬼の形相の生徒会長が千歌さんに詰め寄る。それを僕と渡辺さんはただただ見ているだけだった。

 

「μ'sはスクールアイドルたちにとっての伝説、聖域、聖典──宇宙にも等しき生命の源ですわよ! その名前を間違えるとは! 片腹痛いですわ!」

 

 更に詰め寄り、放送器具の置かれた机まで千歌さんを追い詰めて、力説する。

 

「ち、近くないですか……」

 

 鼻先が付く位、顔を寄せた生徒会長。

 相当ご立腹なようだ。

 

「ふん! その浅い知識だと、偶々見つけたから軽い気持ちで真似をしてみようかと思ったのですね」

 

「そんなこと……」

 途端に曇る表情。

 僕は彼女がスクールアイドルに掛ける気持ちが軽いものではないと知っている。

 だからこそ、言葉が勝手に口から飛び出した。

 

「お言葉ですが生徒会長、千歌さんは遊びでスクールアイドルになろうとしているわけじゃありません」

 

 驚いたように、目を開く千歌さん。

 僕がこんな事を言うとは思ってなかったのだろう。

 

「ならば……μ'sが最初に9人で歌った曲、答えられますか?」

 

 試すように、生徒会長が千歌さんに問い掛けた。

 その問いは初歩的な問題に思える。

 けれど──。

 

「え、えっと……あ……」

 慌てた様子の千歌さんは、答えることが出来なかった。テンパってしまい、頭の中が混雑したのだろう。

 

「ぶー! ですわっ! 正解は『僕らのLIVE、君とのLIFE』、通称ボラララ」

 

 略称まで答え、次の問いに移る。

 

「次、第二回ラブライブ予選で、μ'sがA-RISEと一緒にステージに選んだ場所は?」

 

 次は曲名ではなくて、ライブのステージ。

 これはあまり知識のない人には答えるのがツラい。

 案の定、千歌さんはキョトンとしていた。

 

「ス、ステージ?」

「ブッブー、ですわ! 正解は秋葉原UTX屋上。あの伝説と言われるA-RISEとの予選ですわ!」

 

 生徒会長の解説に熱が入る。

 その熱気冷めやらぬまま次へ。

 

「次、ラブライブ第二回決勝、μ'sがアンコールで歌った曲は……」

 

 問いの途中、素早く手を挙げる。

 

「知ってる! 『僕らは今のなかで』!」

 これには自信があるようで、千歌さんは胸を張って答えた。

 

「──ですが……曲の冒頭スキップしている四名は誰?」

 

 まさかの引っ掛け問題。というか最後まで聞くべきだった。しかもかなりマニアックな問題だし。

 

「ブッブッブー、ですわ! 絢瀬(あやせ) 絵里(えり)東條(とうじょう) (のぞみ)星空(ほしぞら) (りん)西木野(にしきの) 真姫(まき)! こんなの基本中の基本ですわよ!」

 

 一瞬の静寂。

 基本とは言うが、それはきっとかなりのファンでしか分からないであろう答え。

 それを堂々と答えた生徒会長は、筋金入りのμ'sファンなのだろう。

 

「す、すごい……!」

 

 それまで黙っていた渡辺さんが、拍手を交えて言葉を漏らしていた。

 

「生徒会長って、もしかして……μ'sのファン?」

 

 核心を突くような千歌さんの一言に、躊躇(ためら)いもなく生徒会長は答えた。

 

「当たり前ですわ!私を誰だと……い……一般教養ですわ一般教養!」

 

 急に顔を赤らめて、言葉を切り替える。

 

 ──あぁ、そうか。生徒会長はスクールアイドルが嫌いではなく、大好きなのだ。でもそれを隠している。

 何故かは知らないけど。

 

「えー??」

 

 二人は疑うような視線をぶつけ、その視線に耐えられなくなった生徒会長は目線を逸らす。

 

「と、とにかく、スクールアイドル部は認めません!」

 

 そう言い放つと、僕らは強制的に生徒会室を追い出された。

 

 正式に認めてもらえはしなかったが、一つだけ分かったことがある。それは、嫌いだから認めない訳ではないということ。

 

 これは大きな発見だ、と。僕は思い、渋々教室に戻る千歌さんの背中を押しながら、その場を後にした。

 




アニメではダイヤさんの質問の時に合間合間にルビィと花丸との会話等が挟まれていますが、ちょっと表現し辛かったので別々に書くことにしています
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