僕と千歌、時々みかん。   作:猫の缶詰(新品)

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その下着、桜色につき・5

 太陽が燦々と輝く今日の空を見上げ、あくびを一つ。

 僕は今、果南さんのお父さんが経営するダイビングショップの船に乗り、ウエットスーツに身を包み海にぷかぷかと浮かぶ三人を見ていた。

 

「ほんとに君は潜らないで良いの?」

 

 隣で一緒に眺めていた果南さんは、勿体無いと言いたげに訊ねてくる。

「えぇ。僕は泳ぐの苦手なので」

「じゃあ教えてあげよっか?」

 

 ニコッと笑い、僕を見る果南さん。

「いや……遠慮しておきます」

 

 何となくだけど、果南さんはスパルタ教師的な雰囲気があるから、習うにしても地獄の特訓を強いられそうだし。

 

「そっか。海に潜るのは気持ちいいんだけどなぁ」

「でも怖く無いんですか? その、サメとかクラゲとか」

 

 僕は正直怖い。泳ぐのが苦手なのもあるけど、昔クラゲにやられて痛い思いをしたから、それ以来海が苦手になった。

 

「サメは……ここらじゃ見ないからわかんないけどクラゲは気を付ければ大丈夫だよ。だから、泳いでみない?」

「……遠慮します」

 

 隙あらば泳ぐ方向に持っていこうとする。

 まるでスクールアイドルに勧誘する千歌ちゃんのようだ。

 

「えー。ま、いいや。そういえば、あの子……梨子ちゃん、だっけ? 別の学校から来たんでしょ?」

「東京の音の木坂って学校ですよ。知ってます?」

 

「名前はね。どんな学校かは知らないけど」

 ふいと目を逸らし、海に潜り始めた三人の姿を見つめる。

 

 ……前から思っていたことが一つある。

 果南さんは、スクールアイドルの話題に関して避けるような傾向があるように思える。

 以前も、千歌ちゃんがスクールアイドルに誘おうとした時も、意図的に話を打ち切ったように見えたし。

 

 ──ちょっとカマを掛けてみるか。

「μ'sっていうスクールアイドルが居た学校です。ほんとに知りませんか?」

 

「……そんなに有名なの?」

「はい。とはいえ、桜内さんは知らなかったみたいですけど」

 

 そこが今も謎だ。あれだけ大きな功績を残したというのに、同じ学校に居て名前すら知らないなんて。

 まぁ、桜内さんがピアノ一筋で他に興味が無かったからってのはあるだろうけど。

 

「私は──」

 

 と、三人が海中から戻ってきた。

「はぁ……はぁ…、どう? 聞こえた?」

「……ううん」

 

「ま、水中では、人間の耳には音は届きにくいからね。

ただ、見えてるものからイメージすることはできると思う」

 

 音ではなく、見えたイメージを音として捉える、か。

 一筋縄ではいきそうにない。

 

「簡単じゃないですね……景色は真っ暗だし……」

「真っ暗?」

 

 その言葉にピンと来たのか、千歌ちゃんと曜ちゃんが顔を合わせて、一度頷く。

 

「そっか、分かった。もう一回いい?」

 

 再び潜る三人。

 

「音、聞けそうですかね」

「んー。多分、大丈夫じゃないかな? 千歌と曜は何かに気付いたみたいだし。それより、千歌達と何かあった?」

 

「え? 何かって?」

「呼び方だよ。前までは千歌さんだったのに、今は千歌ちゃんって」

「あ、あぁ……それは、その。成り行きと言いますか」

 

 探るような視線をこちらに向ける果南さん。

 心の中を見透かされそうな感じがして、少しムズムズする。

 

「成り行き、ねぇ?」

「……えっと。実は──」

 

 隠すのもあれなので、その時の事を単純に説明。

 すると、なーんだ。とつまらなそうにため息を吐いた。

 

「てっきり、関係が進んだのかと思ったよ」

「それは無いですよ。友達には、なったみたいですけど」

 

 それ以上の関係になるなど、考えられない。

 出来ればこのまま、普通の友達としていたいのだから。

 

「ふーん? 君ってさ、草食系男子ってやつ?」

「……さぁ?」

 

 考えた事もない。まぁ、人並みに性欲はあるから草食系ではなさそうだけど。

 

「春太くんは見た目も悪くないし、押せばいけそうだけどね。特に千歌は」

「……な、何言ってるんですか」

「ふふっ、ごめんごめん。冗談だよ」

 

 果南さんは意外と意地悪な人だと分かった所で、ここから見える太陽の光の下、三人が顔を出した。

 

「ぷは……っ、聞こえた?」

「はぁ……はぁ、うん!」

「私も、聞こえた気がする!」

「本当? 私も!」

 

 遠目に見える、笑い合う三人の姿。

 桜内さんに至っては、さっきまでの暗かった表情とは比べ物にならない位、良い笑顔に変わっていた。

 どうやら、海の音とやらが聞こえたらしい。

 

「成果はあったみたいだね」

「……そうみたいですね」

 

 自然と、笑みが溢れた。

 それを見た果南さんにイジられたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 そして翌朝、桜内さんから告げられた言葉に千歌ちゃんと曜ちゃんは歓喜した。

 

「えっ! 嘘っ!」

「本当に?」

 

 信じられない、と言った風に目を見開き、互いに顔を合わせた二人。

 

「ええ!」

 

 ──まさか、彼女が曲作りを手伝ってくれるとは。

 素直に驚いた。

 

「ありがとう……! ありがとーうっ!」

 喜びのあまり、抱きつこうと駆け出した千歌ちゃん。

 

 それを華麗に交わし、桜内さんが口を開く。

「待って。何か勘違いしてない?」

「えっ?」

 

「私は曲作りを手伝う、って言ったのよ。スクールアイドルにはなるとは言ってないわ」

 

「えぇっ!?」

 

 千歌ちゃんはともかく、曜ちゃんもちゃんと話を聞いてなかったのか……。

「……ピアノの事がありますし、仕方ないですよ」

 

「そう、だよね……」

 一気にテンションが下り、自分の席に戻る千歌ちゃん。可愛そうだけど、これは仕方ない。

 

「じゃあ、詞をちょうだい?」

 スッと手を出し、詞を出すよう促した。

 

 けれど、二人はなんの事かと辺りを見渡して、千歌ちゃんが一言。

 

「し、って何?」

「あ……もしかして、歌詞?」

 

 ……これは、やはり無理かもしれない。

 その反応を見て頭を抱えた桜内さんと同じ気持ちになり、僕も頭を抱えた。

 

 

 

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