僕と千歌、時々みかん。   作:猫の缶詰(新品)

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最初の一歩、確かな決意・3

中庭の見える渡り廊下を抜けて、辿り着いたそこは体育館。

 

 年季が入った建物ではあるものの、広さとしては申し分ない。むしろ、無名のスクールアイドルが初めてのライブをするにはちょっとばかし広い気がする。

 

「ここで?」

「はい! 見事ここを満員にできたら、人数に関わらず部として承認してあげます!」

 

 ここを満員……。グルリと見渡して、目を伏せる。

 少なくとも、百人以上は必要だ。

 だが、それを乗り越えれば正式な部として認められる。厳しい条件ではあるが、どうだろうか。

 

 

「うーん……」

「部として認められたら部費も使えるけど……」

 

 悩む千歌ちゃんと曜ちゃんを横目に、マリーさんへ質問を、と手を上げた桜内さん。

 

「もし、満員にできなければ?」

 

 ニヤリ、と意地悪な笑みを浮かべる。

「その時は、解散してもらうほかありませんネ」

 

 失敗すれば解散。

 重い条件を前にして、千歌ちゃんは言葉を失った。

 

「え……」

「嫌なら断ってもらっても結構ですけど? どうします?」

 

 簡単に頷けるような条件ではない。

 失敗すれば則、解散。けれど、受けなければ部として認められずに終わる。

 つまる所、受ける他に道は無いということ。

 

「どうって……」

 千歌ちゃんは目線を床に落とし、返答に困っていた。

 そんな千歌ちゃんに発破を掛けるように、曜ちゃんが問い掛ける。

 

「結構広いよね、ここ……どうする? 止める?」

 

 それは、曜ちゃんがいつもの様に千歌ちゃんへ投げ掛けるお決まりの言葉。 

 

「……やるしかないよ! ほかに手があるわけじゃないんだし……」

 

 ムッとして、顔を上げる。その顔には、ここで諦める訳にはいかないのだという意思が強く現れていた。

 

「そうだよね!」

 曜ちゃんは微笑むと、マリーさんを見た。

 

「オーケー、行うということでいいのね?」

両手を合わせ、最後の確認。

 僕らはゆっくりと頷き、その条件を呑むことにした。

 

 

「──さて、これからどうします?」

「あ、待って!」

 

 それまで黙っていた桜内さんが声を上げ、体育館を出ようとした僕らを呼び止める。

 

「ん、どうしたの?」

「……この学校の生徒って全部で何人?」

 

 曜ちゃんは顎に手を当てて、思考の海に浸る。

 と、答えが出たようで。

 

「──あっ!?」

 

 それとほぼ同時に、僕も桜内さんの言いたい事を理解した。迂闊だった。

 過疎化もありこの学校は生徒が極端に少ない。

 これまで居た学校のように多くは無いのだ。

 つまり……。

 

「そう。例え全校生徒全員来ても、ここは……満員にならない……」

 

「まさか、マリさんはそれを分かってて……」

 

 だとしたら、あの人は最初から認める気などなかったというわけだ。

 それが本意なら相当性格の悪い人だが、そうは思えない。きっと、これくらいどうにかできなきゃこの先勝ち残れないって事を伝えたいんだろう。

 

 だとしても、打開する策は……あるのだろうか。

 

 

 

 

 帰りのバス車内。僕と千歌ちゃん、その後ろに曜ちゃんと桜内さんという席順で、誰も一言も発せずただ流れていく外の景色を眺めていた。

 

 「……どうしよ」

 

 ふと、千歌ちゃんが呟きを洩らす。

 

「……でも、マリさんの言うことも分かる。そのくらいできなきゃ、この先もだめということでしょ?」

 

 

「けど! ……やっと曲ができたばかりなんだよ? ダンスも、まだまだだし……」

 

 始まってすらいないのに、諦められるわけがない。

 そう言いたげに、千歌ちゃんはスカートの裾を強く握り締めた。

 

 

「じゃ、諦める?」

 曜ちゃんはいつもの様に、問い掛ける。

 

「諦めない!」

 

 ムッとして、曜ちゃんを睨んで千歌ちゃんは唇を尖らせた。

 

「……ね、なんでそんな言い方するの?」

 

 内緒話のように声を潜ませる桜内さんに、曜ちゃんはニッと笑いながらこう答えた。

 

「こう言ってあげたほうが、千歌ちゃん燃えるから」

 

 要は、負けず嫌いなのか。

 僕はそう解釈し、目を伏せて揺れる車内に身を委ねる。

 

 ──次は、伊豆三津シーパラダイス。伊豆三津シーパラダイスでございます。

 

 次の到着場所を知らせる車内アナウンス。

 と、それを聞いた千歌ちゃんは突然声を上げた。

 

「そうだ!」

 

 ぱあっと表情を明るくして、千歌ちゃんが出した提案。それは──。

 

 

 

「──お願いっ!いるでしょ?従業員」

 

 拝むように両手の平を合わせ、用意したプリンを渡す千歌ちゃん。

 その相手は、伊豆三津シーパラダイス従業員の一人であり、千歌ちゃんの姉の美渡さん。

 

「そりゃ、いることはいるよ」

「な、何人くらい?」

 

「んー……本社を入れると、200人くらい?」

 

 予想以上の数に、驚き声を上げた千歌ちゃん。

「200人!?」

 

 そんなに居れば、後は全校生徒を集めるだけ。

 全員が来ればの話だが。

 

「あ、あのね! 私たち来月の初めにスクールアイドルとしてライブを行うことにしたの!」

 

「……スクールアイドル? あんたが?」

 

 ピクッと、スクールアイドルという言葉に反応し、それまでテレビを見ていた美渡さんがこちらを見る。

 

「でね、お姉ちゃんにも来て欲しいなって思って…会社の人200人ほど誘って……ま、満員にしないと学校の公認がもらえないの! だからお願いっ!」

 

「お願いします……!」

 

 床に頭をつけて、必死に頼み込む。

 そんな僕らに返ってきた答えは言葉ではなく、おでこに文字を書かれる感覚だった。

 

 

 場所は変わり、千歌ちゃんの部屋。

 

 

「う……おかしい! 完璧な作戦のはずだったのに!」

 

 手鏡とにらめっこしながら、おでこに書かれた『バカチカ』という文字を拭き取る千歌ちゃん。

 僕も同じく『バカハル』と書かれ、それを必死にとっていた。

 まさか油性ペンで書くとは。やはり悪魔だ。

 

 

「お姉さんの気持ちも、分かるけどねぇ」

 ライブ用の衣装を作りながら、曜ちゃん。

 

「え!? 曜ちゃんお姉ちゃん派?」

 

 今の言い方だと、そう聞こえてもおかしくはない。

 けど、曜ちゃんは美渡さんを味方してそう言ったわけじゃなくて、あくまで美渡さんの立場に立って考えてみた時の事を言ったまでのこと。

 

「ん? そういえば梨子ちゃんは?」

 思い出したように、周りを見渡す千歌ちゃん。

 確かに、部屋に戻ってきてから桜内さんの姿が見当たらない。

 

「梨子ちゃんなら、お手洗い行くって言ってたけど?」

 話しながらも、ちくちくと手際よく縫い続ける。

 今縫っているモノの色はみかん色。

 多分、千歌ちゃんの衣装だ。

 

 他にも水色と、桜色の二つがあり、それぞれが誰なのかすぐに分かった。    

 

「それより、まずは人を集める方法でしょ?」

「うーん、そうだよね……何か考えないと」

 

 美渡さんの手助けが期待できないとなると、後は自力で集める他ない。

 そこで、曜ちゃんが一つ提案。

 

「町内放送で呼びかけたら? 頼めばできると思うよ」

 

 町内放送……僕もたまに聞いたことがある。

 あれなら街全体に呼びかけられるから存在を知ってもらうにはうってつけだろう。

 

「後は……沼津かな? 向こうには高校いっぱいあるから、スクールアイドルに興味がある高校生もいると思うし」

 

 現状を打開する案としては申し分ない。

 善は急げ、ということで、明日その作戦でいくことを決めた僕らは、その後ゲッソリとした顔で帰ってきた桜内さんと日が落ちるまでチラシ作りに励んだ。

 

 

 




更新遅れました…いやぁ、Horizon ZeroDawn面白いっす
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