僕と千歌、時々みかん。   作:猫の缶詰(新品)

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最初の一歩、確かな決意・4

 翌日、昼までの授業過程を終わらせて向かった沼津駅。

 内浦と比べるとやはり沼津の街は人通りも賑わいも段違いで、昼過ぎの時間もあってか行き交う人の多くは学生。それも、女子高生ばかり。

 

「東京に比べると人は少ないけど、やっぱり都会ね」

 

 駅から出てすぐ、身体を伸ばしながら桜内さんはそう言うと、じっくりと周りを見渡していた。

 

「そろそろ部活終わった人たちが来る頃だよね」

 

 タイミング的には今がベスト……だが、以前チラシ配りをした時と比べて今回は難易度が高い。

 

 配る相手は右も左も知らぬ新一年生ではなく、見知らぬ高校の女子達。

 話しかけて、いきなりキモいとか言われないか心配だ。

 そんな事言われた日には立ち直れない……。

 そんなネガティブ思考に走る僕とは対極的に、千歌ちゃんは拳を突き上げて元気よく掛け声を上げた。

 

「よーしっ! 気合入れて配ろう!」

 

 こうして始まった、第二次チラシ配り。

 取り敢えず、きゃぴきゃぴした感じの人よりも、こう……地味めな人を狙おう。

 

 と、丁度良く黒髪おさげの眼鏡女子がこちらへ向かっているではないか。

 ──これはチャンスだ。

 

 勇気を出して一歩を踏み出し、彼女の前へ。

「ちょっと! ……今良いですか?」

 

 ビクッと身体を震わせた彼女は、怯えたような瞳をしながら僕を見上げる。

 

 ──こういうのは、第一印象が大事だ。

 自分の精一杯のイケメンスマイルを見せて、言葉を続ける。

 

「今度、僕の高校のスクールアイドル達がライブやるんですけど、良かったら是非!」

 

 チラシを手渡し、笑顔を意識。

 

「……は、はい。わかり、ました」

 

 引いてはいない……けど、少し顔が赤い。

 具合でも悪いのだろうか。

 

「大丈夫ですか? 熱でもあるんじゃ……」

 ソッとおでこに手を当てて、熱を確かめた。

 若干熱い気もするけど、そこまで酷くはなさそうだ。

 

「だ、だだ大丈夫ですっ!」

 

 そう言って、彼女は逃げるように走り去っていった。

 

「……えぇ?」

 まぁ、あれだけ走れるのなら大丈夫か。

 

 気を取り直して、次──と、振り返ると、なにやら千歌ちゃんがジト目で僕を見ている。

 

 あぁ、逃げたのを見てたのか。

「大丈夫ですよ。チラシは受け取ってもらいましたから」

「……ふんっ」

 

「え、あの……千歌ちゃん?」

 

 しっかり渡したというのに。何故怒ってるんだ?

「春太くん……あなたって、結構アレね」

「アレ?」

 

 呆れた眼差しを僕に向けて、桜内さんはため息を吐いた。

「アレはアレよ。それより……意外と難しいものね」

「ですよね。イマイチ声を掛けるタイミングがちょっと……」

 

 悩む僕らを他所に、曜ちゃんは恥じらいを一切感じさせない通った声でチラシ配りをしていた。

 

「ライブのお知らせでーす! よろしくお願いしまーす!」

 

 屈託の無い笑顔と、ハキハキとした声。

 持ち前の明るさをフルに使い、二人の女子高生の前へと躍り出た。

 

「ライブ?」

「はいっ!」

 

 驚きつつも、その笑顔につられて彼女達も笑顔になる。

「もしかして、あなたが歌うの?」

「はい! 来てくださいっ!」

 

 ビシッ! と敬礼ポーズを決めて、ウィンク。

 

「日曜か?行ってみる?」 

「うん、いいよ」

 

 二人は行くことを決め、手を振りながらその場を後に。

 

「よろしくお願いしまーすっ!」

 

 最後まで笑顔を絶やさず、完璧なまでの勧誘を見せた曜ちゃん。僕は思わず、拍手を送っていた。

 

「すごい……!」

 

 いつの間にか隣に居た千歌ちゃんは曜ちゃんのその姿に感銘を受け、私も! と一人の女子高生へ駆け寄った。

 

「ライブやります、ぜひ!」

 

 目の前にチラシを突き出し、ジリジリと壁際へ追い込む。

 

「え……でも……」

 

 やばい。相手が怯えている。

 

 そんな事はお構い無しに、ダンッ! と強く壁に手を当て、退路を断った。アレが俗に言う壁ドン、というやつか。本来の意味は違うらしいけど、今ではああいう意味で使われることが多い。……そんな事は置いといて。

 

「──ぜひ!」

 眼前にまで迫り、キメ顔。 

 

「あっ……ど、どうも!」

 

 遂にチラシを受け取り、逃げた女子高生。

 その姿を見届けて、千歌ちゃんは自信満々にガッツポーズ。

 

「勝った!」    

「もう……勝負してどうするの?」

 

 呆れた桜内さんの手を取り、肩を取り。

「次、梨子ちゃんだよ!」

「え゛……わ、私?」

 

 露骨に嫌そうな顔をして、後退り。

 

「当たり前でしょ?」

「う……それは分かってるけど……」

 

 でなければ来た意味がない。 

 気持ちは分かるが、腹を括らないと。

 

 と、何を思ったのか桜内さんはスタスタと、映画の広告ポスターへと向かう。

 

「あの! ライブやります。来てね!」 

「……何やってるの?」

 

 桜内さんって、意外とアホなのか……?

 マトモそうな見た目に反して、時折妙な行動を取るし。海に飛び込んだり、今みたいにポスターに勧誘したり。

 

「練習よ! れ、ん、しゅ、う!」

「もう! 練習してる暇なんてないの! さあ!」

 

 何故かドヤ顔の桜内さんの背を強引に押して、何やら怪しい格好の女性の方へと送り出した。

 

「千歌ちゃん! ちょ、待って! ちょ……あ……ちょっと!」

 

 軽くぶつかり、互いに距離を取る二人。

 水色のコートにマスクとサングラス。およそ職質されそうなその格好の女性は、よく分からない構えを取り、警戒していた。

 

「あ……あのっ! お願いします!」

 そんな彼女に、桜内さんは半ばヤケクソになりながらチラシを手渡した。

 

「あう……っ!」

 

 不審な格好の彼女はたじろぎ、けれどチラシを引ったくるように受け取るとあっという間に遠くへと行ってしまった。

 

「あ、あれ、やった?」

 桜内さんはこちらに振り返り、嬉しそうな笑顔を見せた。だが、まだ一枚目。残りはまだまだある。

 

 ──こりゃ当分帰れそうにないな。

 

 いつもの様に青い空を仰ぎ、頬を叩いて気合を入れる。よし、続きを始めよう。

 

 僕等は再び、勧誘を再開した。

 

 

 

 




最近短くてすいません…
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