僕と千歌、時々みかん。   作:猫の缶詰(新品)

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自己紹介、その日の夜~翌朝

「食い過ぎた……」

 

僕は今、二階にある空き部屋に居る。

今日から自室となる部屋ではあるが、室内は段ボール箱だらけで中々に狭苦しい。

今日はもう遅いし、明日片付けよう。うん。

 

ちなみに、隣の部屋は千歌さんの部屋。

何やら騒がしいけれど、見に行く気力がない。

というかお腹が重くて動けない。

 

「……恵理さんに、志満さん、美渡さんと千歌さん。賑やかな人達だったな」

 

そんな家庭に産まれていたら、きっと僕も明るい性格だったのだろう。

ひとりっ子だからか、ああやって賑やかな所を見ると正直羨ましく思ってしまう。

 

兄妹がいれば。

そんなこと、今更望んだってしょうがないけど。

 

寝返りを打ち、畳の匂いを目一杯肺に取り入れる。

フローリングも良いけれど、やっぱり畳は落ち着く。

 

「もう寝よう。まだ明日は春休みだし」

瞼を閉じて、体の力を抜く。

段々と感覚が薄れてきて、意識は微睡みの中へ。

 

 

 

 

──お母さん、父さんは?

 

「……お仕事よ。遠い所で……頑張ってるわ」

 

母さんはそう言って僕を強く、強く抱き締める。

震えていた。弱々しく、涙を流しながら。

 

それは母さんが吐いた最初の嘘。優しい嘘だった。

 

それから時が経ち、小学生になった頃。

母さんは帰りが段々と遅くなるようになった。

目元の隈が酷くて、帰ってくるとすぐに寝ていた。

 

小さいながらに大変なんだと理解した僕は、余り口を挟まないようにした。

その生活が一年くらい続いた辺りで、転勤生活が始まった。

一年、長くて二年に一回転勤。

僕もそれについていって、その度に転校を繰り返した。

 

最初は楽しかった。色んな街に行けて、遊んだり出来て。けれど、転校の度に友達と別れてはまた作り、別れてはまた作り。

いつしか僕は友達も作らず、一人で居ることが増えた。

 

友達を作ることに意味を見出だせなくなっていた。

どうせまた、一年そこらで転校する。

なら、友達を作るだけ辛いだけじゃないかって。

 

だから、今回も僕は友達を作らないでいよう。

そうすれば、別れも辛くないから──。

 

 

ゆらゆらと、身体が揺れる。

いや、揺らされているのか。

 

薄目を開けて、前を見る。

アホ毛が見えた。千歌さんだ。

「春太くん。朝だよー、起きてー……って、あれ」

 

ふと、僕を揺らす手を止めた。

「ん……おはよう、ございます」

のっそりと起き上がり、寝ぼけ眼を擦る。

 

「う、うん。……何か怖い夢でも見てたの?」

恐る恐るといった風に、千歌さんが言う。

 

「いや、怖い夢は見てないですよ」

「でも……その、泣いてたから」

 

泣いていた? 僕が?

「あ、あー。多分、見たんだと思います。でもほら、夢って大抵覚えてないものじゃないですか。だから大丈夫ですよ」

 

僕は嘘を吐いた。さっき見た夢を、僕ははっきりと覚えている。

 

「そっか……うん、なら大丈夫! だね?」

「はい。それで、何か用でもありましたか?」

 

わざわざ朝起こしに来るぐらいだ。

何かあったのだろう。

 

「朝ごはん出来たから、お母さんが起こしてきてって」

「朝、ごはん?」

 

……そうか。人の家なんだし、そんなの当たり前か。

いつも朝ごはんは適当にパンとか買ってたから忘れてた。

 

「どしたの? あ、もしかしてダイエット中とか? ダメだよー? 朝抜いたら逆に太っちゃうって美渡ねぇ言ってたし!」

「は、はい。分かりました」

 

朝抜いたら、か。何だか別の意味にも聞こえてしまう僕が思春期だからなのか。そうなのか。

 

「……? どうかした?」

「何てもないです。先、行っててもらえますか? 着替えるので」

「あっ、ご、ごめんね!」

 

千歌さんは慌てた様子で部屋を出ていった。

柑橘系の香水を付けていたのか、そんな感じの香りがして理性が少し危ぶまれる。

考えてみれば、僕以外は女性……つまり、完全アウェーということだ。千歌さん達のお父さんはどこに居るのだろうか。居てくれなければある意味辛い。

 

「……そんなことより、朝ごはんだ」

急いで七分丈のシャツとジーパンというラフな格好に着替えて一階のリビングへ向かう。

と、僕を見てすぐに、

 

「あ、遅いぞ春坊(はるぼう)。あんまり遅いからお前の分のししゃも一尾食べちゃったじゃんか」

 

何という言い掛かり……しかも春坊って僕のアダ名なのか?

「えぇ……?」

 

「大丈夫よ春くん。また焼いたから」

極悪非道な美渡さんに対し、女神のように優しく慈愛に満ちた微笑みを浮かべて、僕の皿にししゃもを追加する志満さん。

ていうか打ち解けるの早くないですか?

僕が遅いだけなんでしょうか?

 

「もう、美渡ねぇったら! そんなんだから太るんだよ!」

「……はぁ? 千歌あんた今なんつった!」

 

鬼の形相で千歌さんに詰め寄る美渡さん。

どうやら、美渡さんに体重の話は厳禁らしい。

 

「ほらほら、春くんが困ってるじゃない。二人とも早くイスに戻りなさい」

 

手慣れたように手を鳴らし、飼い慣らされた犬のごとく二人は各々の席に戻っていく。

志満さんはまるでお母さんのようだ。

 

それから少しして。

「じゃ、仕切り直して……いただきます」

 

ようやく朝ごはんに手をつけた。

旅館だからか、白ご飯とししゃも、お味噌汁に玉子焼きと和風な朝ごはん。

それと、何故かみかんが一つ。

 

「あの、このみかんは?」

「デザートだよ! みかんはね、身体にも良いし美味しいし、それにねそれにね……」

目を輝かせて語り出した千歌さんを、美渡さんが止めた。

 

「千歌、長い。みかんはみかん。それで良いじゃん」

「全然違うよ美渡ねぇ! ……全く、美渡ねぇは何にも分かってないんだから」

 

頬を膨らませて、みかんを撫でていた。

どうやら、千歌さんはみかんが好きなようだ。

「あ、もうこんな時間だ。じゃ、いってきまーす」

 

壁掛け時計を見て、美渡さんは床に置いていた鞄を手に取るとさっさと家を出ていった。

 

「後片付けしなさいっていつも言ってるのに」

「全くだよ!」

 

相槌を打つ千歌さんを、志満さんが軽く小突いた。

「いたっ!」

「千歌ちゃんも、よ?」

「ごめんなさいぃ……」

 

……千歌さんも同じなのか。

 

 

「ごちそうさまでした」

皿を運び、志満さんの皿洗いを軽く手伝った後、自室へと戻ろうとした時、後ろから声を掛けられた。

 

「春太くん、今日って暇?」

「暇って言われれば暇ですけど……何かありました?」

「ほんと? やったぁ! じゃあ、私の友達呼ぶから、三人で遊ぼ!」

 

そうと決まれば、とスマホを取り出して誰かに連絡を取り始めた。

 

まだ遊ぶとは言ってないのに……と思いながらも、嬉しそうな千歌さんの笑顔を見ると、何だかどうでも良くなった。

 

この際、人見知りを克服しようかな。なんて僕は思いながら、自室へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前よりは文字数増えたかな…。
次から、曜ちゃんが出ます。

アニメの第一話に入るのは、後二、三話くらい後かもです。
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