僕と千歌、時々みかん。   作:猫の缶詰(新品)

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ちか散歩

本日の天気は晴れ。雲一つ無く澄んだ青空。

太陽の陽射しも丁度良い位に温かくて、つまりは絶好の散歩日和。

 

「んー……っ、はぁ。良い天気だね!」

身体を伸ばし、クルリとこちらに振り返る。

 

「えぇ、この天気なら雨の心配も無さそうですし」

 

澄みきった空。その美しさに負けず劣らず、目の前に広がる内浦の海。それを眺めていると、千歌さんが視界に割り込んできた。

 

「綺麗でしょ、内浦の海!」

ニコッと笑い掛け、海を見た。

 

「私はこの景色を小さい頃からずっと見てきたけど、いつも思うの。綺麗だなぁ、広いなぁって。それでね、悩み事があればこの海を見て、心を落ち着かせるの」

 

淡々と語る千歌さんの隣に並び、話に耳を傾ける。

 

「どんな悩みもね、この海に比べればちっぽけで、悩んでるのがバカらしくなって……そしたらいつの間にか、心がすっきりしてるんだ。だからね、春太くんも悩み事があったら海を見てみて! きっと悩み事も無くなるから!」

 

「……そうですね。その時は、そうさせてもらいます」

「うん! よーし、じゃあそろそろ行こっか!」

「はい。案内、お願いします」

 

こうして始まった千歌さんとの散歩兼、街案内。

余り予算は無いので、そう遠くは行けない事を踏まえて、今回は内浦を主に回ることに。

 

まず始めに、三津シーパラダイス。

旅館からそう遠くないこの場所は、沼津に来たら是非とも足を運んで欲しい場所の一つと、千歌さんはその魅力について目を輝かせて語り始めた。

 

「みとしーを語るには外せないのが歴史──ここは何と、日本で二番目に歴史の長い水族館なんだよ!

詳しくは……あんまり分かんないけど、とにかくすごーく長いの! で、次にイルカショー! 触れ合うことも出来るし、何よりイルカが可愛いの!

他にもアシカのショーや、セイウチのお食事を見れたり、色んなお魚さんとか、ペンギン、カワウソ……後、最初は気持ち悪く見えるけど、慣れてきたら可愛く見えるダイオウグソクムシっていう大きなダンゴムシみたいなのもいるの! ……とまぁ、こんな感じで魅力あふれるスポットの一つなのだ!」

 

「な、なるほど……」

流れるような説明とその勢いに若干気圧(けお)されてしまったが、伝えたいことは何となく分かった。

 

「本当は直に見た方が良いんだけど、今日は他にも回る所あるからまた今度、一緒に行こうね!」

 

少し残念そうに、けれど笑顔は絶やさずに。

千歌さんは僕の返事を待たずして、次の場所へ歩き始めた。

それから旅館方面の道を軽く雑談をしながら進んで行くと、千歌さんは『松月』というカフェの前で立ち止まる。

 

「次はここ、松月です! 早速行ってみよー」

 

内装は、外観同様に落ち着きのあるもので、自分としては結構好きな雰囲気だ。

ちらほらと客が居るなか、一番奥の席へと向かう。

 

千歌さんの向かいに座り、一息吐く。

「オススメってありますか?」

「えっとね、私のオススメはやっぱりみかんパウンドケーキかな? 後、みかんどら焼でしょ? それとみかんのタルトかな」

「な、なるほど」

 

見事にみかんづくし。

きっと彼女はみかんの精霊みたいなものなのだろう。

うん。多分。

 

メニューを一通り見て、

「じゃあ……僕はみかんパウンドケーキと、コーヒーで」

「え、春太くんコーヒー飲めるの?」

 

目を(しばたた)かせて僕を見る。

そんなに不思議なことだろうか?

 

「大好きというわけではないんですけど、甘いものを食べるならコーヒーかな、と」

流石に甘いものに甘いものは無理だ。

どっちかというと辛党だし。

 

「……な、なら私も同じやつにする!」

「みかんジュースじゃなくて良いんですか?」

 

すると、ムッとした顔をして目線をテーブルに落とした。

「だって、曜ちゃんも果南ちゃんも皆コーヒー飲むし、私だけみかんジュースとか……子供みたいじゃん」

 

何だか良くわからないが、自分だけ飲めないのが嫌らしい。

 

「別に、飲めるから大人と言うわけじゃ……」

「いいの! 飲めるもん!」

 

 

 

 

少ししてやって来たコーヒーを前に、眉間に皺を寄せていた。

確かめるように身を屈め、湯気立つカップに顔を近付ける。

「に、匂いは……大丈夫。うん」

 

「本当に大丈夫ですか?」

その様子が余りにも可笑しかったので、ちょっと笑いそうになった。きっと、笑ったら怒られるだろうな。

 

「へーきだよ! 私、大人だし」

胸を張り、その一言で自信がついたのか、カップを持ち上げて口に運んだ。

 

目を見開き、顔をしかめ、震えだした。

「……」

ゆっくりと、カップを置く。

その間、一切の言葉は無く目尻には涙のようなものが見える。

 

あぁ、やっぱり無理だったんだなと、そう察した僕は彼女のみかんパウンドケーキを一口サイズに切り、口に持っていく。

 

「あー……んっ」

パクッ、と。

短い咀嚼(そしゃく)の後、すぐに笑顔になった。

 

それを見て、僕も自分のみかんパウンドケーキを一口。

「……美味しいですね、これ」

パウンドケーキというものを普段食べないからか、何だか新鮮な感じがする。

甘さもしつこくなく、舌触りはしっとりとしていてコーヒーに絶妙にマッチしていた。

 

「コーヒーは……うん、あげる」

「もう飲まないんですか?」

まぁ、無理だとは思ったけど。けど捨てるのはあれだしな。

 

「その……飲めそうになくて」

「じゃあそれ、僕が貰います。代わりに、みかんジュース頼んどきますね」

「うぅ……ごめんなさい……って、え!?」

 

いきなり素っ頓狂な声を上げたかと思うと、取ろうとしたカップを持ち上げた。

「だ、ダメ!」

「え? 捨てるくらいなら僕が飲みますよ。勿体無いですし」

「そういう問題じゃ無くて……はぁ」

 

呆れたようにため息を一つ、渋々とカップを渡してきた。

心なしか、顔が赤い気がするが……。

 

 

 

結局、その理由は分からないまま松月を出た。

今の時間は、午後3時。

まだ日は高いが、「なんか疲れたから続きはまた今度」という事で今日は解散となった。

 

 

あれから千歌さんが顔を合わせようとしないのが気になるが、怒らせるようなことでもしたのかな。

それはさておき、明日は始業式。

 

あぁ……不安で一杯だ。

なにせ、女学院だし。

 

 

 

 

 

 

 

 




今年の目標は、沼津に行って聖地巡礼することです。
追記:うちっちーのこと忘れてた……今度加筆修正します。
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