僕と千歌、時々みかん。   作:猫の缶詰(新品)

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初日の災難

目覚ましをセットした時間の5分前──朝の6時55分。ふと目が覚めて、薄暗い部屋の天井を仰ぎ見る。

 

あぁ、朝が来た。来てしまったようだ。

 

「……まだ、5分あるし。寝よ」

 

現実から逃げるように、瞼を閉じる。

──カチ、コチ、カチ、コチ。

だが、やけに大きく秒針の音が耳に届いて眠れない。

緊張や不安が入り雑じる中、時間は無慈悲にも過ぎていく。

 

 

 

「春太くん、朝だよー」

扉越しの千歌さんの声。

扉が開き、目を擦りながらこちらを覗き込むその顔は、まだ眠そうだった。

 

 

場所は変わり、一階リビング。

顔を洗い、新品の制服に袖を通した後、寝癖を直しつつイスに座る。

一つ思ったのだが、女学院だというのになぜ男子の制服があるのだろうか。

もしやと思うが、特注品?

……いや、あんまり深く考えなくてもいいか。

 

「ふわぁ~……っ。眠い……」

隣のイスを引き、未だに眠そうな制服姿の千歌さんが腰を下ろした。

そういえば、制服姿の千歌さんを見るのはこれが初めてだ。

淡い黄色のジャケットに、真っ赤なリボン。

スカートや襟、袖は灰色に白のラインが入っていて、素直に可愛いと思えるデザインになっている。

僕が今着ている制服と似通っている点としては、ネクタイの赤い色とズボンが灰色だというところか。

ちなみにブレザーは濃いめの青。

 

「な、何か付いてる?」

 

そんなことを考えていたせいか、しばらく見つめてしまっていた。

「あぁ、いえ。制服姿を見るのは初めてだなぁって」

 

適当に口から出たその言葉に、あぁ、と納得する千歌さん。

「可愛いでしょ? 田舎にしては、だけどね」

「そうですね。僕は良いと思います」

「えへへ……あ、そうだ。今から曜ちゃん来るから、後で私の部屋に集合ね!」

「はい? 何かするんですか?」

 

ふっふっふ……と、悪巧みをするような笑い方をして、紙を一枚どこからか取り出した。

 

それは、先日見せてもらった下書きの完成版。

『スクールアイドル部(仮)大募集』と書かれており、今日の入学式で訪れる新入生達に向けて宣伝するという。

 

「で、それを手伝えと。僕は約束したので構いませんが、渡辺さんは良いんですか?」

「曜ちゃんにも言ってるから大丈夫だよ! 部員の方は無理っぽいけど……あはは」

 

困ったように笑い、けど! と拳を握る。

 

「今日の勧誘で部員をゲットしてみせる!」

「随分と張り切ってますね」

「当然だよ! ほら、何事も初めが肝心って言うし!」

 

僕はその時、熱意に溢れる彼女の姿を見て、意外と上手くいけるんじゃないかと思った。

──けれど、現実はそう甘くない。

 

満開の桜の木の下、校舎前で他の部活生達の勧誘に負けじとメガホン片手に、大きな声で部の宣伝をしていた千歌さんだったが、どうやら一向に見向きもしない一年生達に心が折れたようで。

 

「スクールアイドル部でーす……」

 

声に張りが無くなり、隣で勧誘を続けていた渡辺さんも力尽き、みかんの箱の上に二人してへたり込んだ。

 

その間僕はというと、何故男子がここに? という奇異な物を見るような眼差しに耐えかねて、比較的声を出さなくて済む紙を渡す係に徹した。

 

「……人、集まりませんね」

三人揃って肩を落とし、諦めて教室へ向かおうとした時。

 

千歌さんが声を上げた。

「か、かわいい~……!」

 

彼女の目線を辿るとそこには、二人の少女が。

一人は赤髪をツインテールに纏めた子、もう一人は黄色いカーディガンを羽織る茶髪ロングの子。

どちらも遠目でも分かる可愛さ。

気付けば千歌さんは走り出していた。

それを追い掛けるように、僕と渡辺さんも後についていく。

「あのっ! あの!」

ロックオンしたのは、茶髪ロングの子。

突然目の前に現れた千歌さんに驚き、後退り。

 

「スクールアイドル、やりませんか!?」

いつの間にか僕の手からかっさらっていった紙を片手に、迫る千歌さん。

 

すると。

「ずらっ!?」

と、何処かの方言のようなリアクションをして、口をポカーンと開けていた。

 

「大丈夫! 悪いようにはしないから!」

千歌さん、それはどう考えても詐欺師の常套句です。

 

一方後ろの赤髪の子はというと、声を上げることなく、スクールアイドル部の紙を凝視している。

「ラ、ライブとかあるんですか!」

 

おぉ、食い付いたぞ?

「ううん、これから始めるところなの! だからね、あなたみたいな可愛い子に是非!」

 そう言って、千歌さんは赤髪の子の手に触れた。

 

 瞬間、青ざめる赤髪の子の顔。

 何かを察し、茶髪ロングの子は耳を塞いだ。

 

「ピギャァァァアァァッ!!」

 半端ない声量の叫び声を上げ、その場に居た全員が耳を塞いだ。

 

 声デカすぎだろ……!

 

「きゃぁぁぁあっ!」

 連鎖するように、今度は桜の木から誰かが降ってきた。

 次から次へと何なんだ一体……。

 

 結構な高さから落ちたし、足は大丈夫なのだろうか。

 しかも、よく見ればかなりの美人。

 青みがかった長髪に、お団子の様な感じで右側にまとめた不思議な髪型をした彼女は不気味に笑いながら周りを見渡した。

 

「ふ……ふふっ、ここは地上? ということは、あなた達は下劣で下等な人間ということですか?」

「えっ」

 

 その場にいた全員が同じように声を上げ、目を細める。

「あ、足大丈夫?」

 千歌さんは足を心配するが、彼女の場合は足よりも頭の心配をした方がいい気がする。

 

「いっ……たいわけないじゃない。この身体は単なる器なのだから」

 

 あぁ、なるほど。彼女はあれか、中二病か。

 

「ヨハネにとってこの姿は仮の姿……おっと、名前を言ってしまいましたね。堕天使ヨハネと」

 

 それも、かなり重度な中二病だ。

 どう拗らせたらこんなことになるのだろうか。

 

 ドン引きする面々。

 だが、茶髪ロングの子は違った。

「……善子ちゃん?」 

「え゛っ」

 

 彼女の表情が固まる。

「やっぱり善子ちゃんだ! 花丸だよ、覚えてる? 幼稚園以来だね!」

「は、な、ま、るぅ!? ……に、人間風情が何を言って」

 

 急に焦り出した彼女の言葉を遮るように、花丸と呼ばれた子が手を上げた。

「じゃーんけーん、ぽい!」

 

 咄嗟に中二病の子が出したのは、小指と中指を折った変な形。

「このチョキ……やっぱり善子ちゃん!」

 なるほど、あれは彼女なりのチョキなのか。

 

 表情に余裕が無くなり、ついにボロが出た。  

「よ、善子言うな! いい? 私はヨハネ! ヨハネなんだからねーっ!」

 

 そのまま逃げるように走り出した。

「待って善子ちゃん!」 

「あっ、まるちゃん!」

 それを追い掛ける二人。

 

 何だか賑やかな子達だったな。

「あの子達……後でスカウトに行こう!」

 

 何かを確信したように、拳を固く握る千歌さん。

 個性豊かな子達だし、それに可愛い。

 アイドルにはピッタリだろう。

 

「──あなたですの? この紙を配っていたのは」

 ふと、背後から声を掛けられ三人が同時に振り返り、その声の主を見る。

 

 大和撫子の雰囲気漂う黒の長髪の、これまた美人さん。

「いつ何時(なんどき)、スクールアイドル部なる物がこの学校に出来たのです?」

 

「あなたも一年生?」 

 首を傾げ、訊ねた千歌さんの肩を取る渡辺さん。

 その顔には焦りが見えた。

 

「ち、違うよ千歌ちゃん……! この人は新入生じゃなくて三年生、しかも……」

 

 耳元で囁き、それを聞いた千歌さんは驚いて声を上げた。

「嘘っ! ……生徒会長?」

 

 生徒会長はニッコリと微笑み、千歌さんを見ていた。

 ただ、その目は笑っていなかった。




とりあえず一話は2つに分けて投稿します。
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