「──つまり、設立の許可どころか申請もしていないうちに、勝手に部員集めをしていた、というわけ?」
両手を頭の後ろで組みながら、あははと笑う千歌さん。生徒会長はそんな千歌さんを机に両肘を立てて寄りかかり、両手を口元に持って来て見上げる。
その表情は若干呆れているように見えた。
「悪気はないんです……ただ、みんな勧誘してたんでついでと言うか……焦ったと言うか……」
机の上には、一枚の部活申請書。
部員名を記入する欄に、千歌さんの名前が書かれている。
「部員は何人いるんですの? ここには一人しか書かれていませんが……」
「今のところは……一人です」
すると生徒会長は目を細め、口を開く。
「……部の申請は最低五人は必要と言うのは知っていますわよね」
確認するように、そう訊ねた。
対し、千歌さんはヘラヘラと笑い、
「だーから誘ってたんじゃないですかぁ〜」と。
その態度はやばい。そんな事を隣で思っていると──案の定、生徒会長の逆鱗に触れたようで。
バンッ!! と、激しく机を叩いた。
「……いったぁ〜……」
思ったよりも強く叩き過ぎたらしく、手を擦りながら身を屈めた。案外抜けているようだ。
「……ふふっ」
堪らず千歌さんは笑い、それにつられて僕も噴き出した。
「っ、笑える立場ですのっ!?」
勢い良く指をこちらに向け、怒りを顕にする生徒会長。しまった。笑うのはヤバかったか。
「すいません……」
「とにかく、こんな不備だらけの申請書は受け取れませんわ」
まぁ、それは当然のことだ。
申請するに当たって、条件の五人にすら達してない時点で通らないのは明白。
だがそれならば、集めればいいだけの事。
ここは素直に引き下がるのが得策だ。
けど、千歌さんは納得いってないご様子。
「えぇ〜……?」
「千歌さん。ここは一旦下がりましょう。ルールはルールですし」
「うぅ……じゃあ、五人集めてまた来ます!」
渋々了解し、キッ! と力強く生徒会長を見た。
これなら文句はないだろう、と。そう思った矢先、生徒会長はとんでもないことを告げた。
「別に構いませんけど、例えそれでも承認は致しかねますがね」
「……どうしてです?」
納得いかない。そう言いたい気持ちを抑えて、僕は口を開く。
「私が生徒会長でいる限り、スクールアイドル部は認めないからです!」
瞬間、生徒会長の背後の開かれた扉から、突風が吹き荒れた。
それは、頑なに認めないという生徒会長の意志の表れでもあった。
▽
場所は変わり、船の上。
夕陽の浮かぶ空と、それに照らされてみかん色に染まる海。心地良い風を受けながら、波に揺られていた。
ちなみに行く先は聞いてない。
あの後、結局何を言おうと認めないの一点張りで埒が明かず、遅れて始業式に向かった僕達。
しかも僕は女学院唯一の男子。当然、遅れた上に男子だと言う事で否応なしに集まる視線。
正直、もう学校に行きたくなくなった。
まぁ、行かなければ留年だから行かないといけないけど。
「ね、そういえば春太くん始業式後に生徒会長に呼ばれてたけど、何だったの?」
渡辺さんが隣に並び、そう訊ねてくる。
「あぁ、それは──」
個人的に呼び出された理由は一つ。
僕自身の事についてだ。
『──本来であれば男性である貴方の入学を認めることは出来ません。が、新理事長なるお方が、廃校寸前にまで追いやられている現状を打開する為に共学にする、と。そういった理由で、貴方はその先駆けとして入学を特別に認められたというわけです』
『
『聞こえは悪いかもしれませんが、つまりはそういう事ですわ。貴方に取ってこれが幸か不幸かは捉え方次第ですが、くれぐれも問題だけは起こさないように。約束ですわよ?』
僕は元より問題を起こす気は更々ない。
なるべく注目を浴びず、静かにひっそりと一年を終えたいのだから。
『はい、分かりました』
そんな会話を思い出しつつ、出来るだけ簡潔丁寧に渡辺さんに伝えた。
「──と、いうわけなんです」
「それで、浦の星に入学することになったんだね……ていうか、当たり前のように一緒に学校に来たから違和感なかったけど、春太くん男の子だもんね」
そう思えば、千歌さんも渡辺さんも僕が女学院に来てるのにツッコミもしなかったな。
まさか男と認識されていなかったとは。
「ははは……」
「あ、いや別に男らしくないとか言う訳じゃないよ? ただ、余りにも自然過ぎてってだけ!」
慌ててフォローを入れてくれた優しい渡辺さん。
ただその優しさは逆に刺さる。
「い、いいですよ。そんな気を遣わなくても。というか千歌さん元気無いみたいですけど、大丈夫でしょうか?」
餅のように船尾に項垂れる千歌さんを見る。
スクールアイドル部を承認しないという事実が重くのしかかっているようで、いつもの元気がない。
「はぁ……あーあ。失敗したなぁ」
ため息を溢し、更に深く項垂れる。
「でもどうしてスクールアイドル部はだめなんて言うんだろう?」
クルリと寝返りをうつように空を仰ぐ。
沈みゆく夕陽。笑顔のない横顔を見て、何だか声が掛け辛い。
と、渡辺さんが呟くように一言。
「嫌い……みたい……」
「うん?」
「……クラスの子が前に作りたいって言いに行った時も断られたって……」
目線を逸らし、バツが悪い顔をした。
「えっ!曜ちゃん知ってたの?」
両手の平を合わせ、頭を下げる渡辺さん。
「ごめん!」
「それならそうと、先に言ってよ……」
「だって千歌ちゃん夢中だったし……その、言い出しにくくて……。とにかく、生徒会長の家、網元で結構古風な家らしくて……だから、ああいうチャラチャラした感じの物は嫌ってるんじゃないかって噂があるし……」
そこまで聞いて、千歌さんは短くため息。
再び空を見上げてボソリと呟いた。
「チャラチャラじゃないのにな……」
僕はその時、彼女に声を掛けることは出来なかった。
同調したかったけれど、だからと言って慰めになるわけではない。
心にモヤモヤを抱えたまま、船は目的の場所へと辿り着いた。
次で初日の災難は終わりです。