僕と千歌、時々みかん。   作:猫の缶詰(新品)

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初日の災難・3

「よっ、と。着いた!」

 

 先程までの暗い表情は何処へやら、一転して明るく船着き場に飛び移る千歌さん。

 どうやら彼女は切り替えが早いようだ。

 

 それにしても、ここは……。

 辺りを見渡して、目の止まった一つの施設。

 酸素ボンベのようなものがいくつも並べられていて、傍らにはウェットスーツ姿の女性。

 恐らく、ダイビングショップのような所なのだろう。

 

 と、その女性に向かい、千歌さんは大声を上げて手を振った。

「おーいっ! 果南ちゃーん!」

 

 果南と呼ばれた彼女はポニーテールを揺らし、こちらに振り向くと小さく手を振り、ニコッと笑った。

 

 大人びた雰囲気がある彼女もまた、美人。

 沼津は美人しかいないのだろうか……なんて思いながら、頭を下げる。

 

「さ、行こっか」

 そう言って僕の背中を押す渡辺さん。

 

 これでまた一人、知り合いができる。できてしまう。

 こんなに何人も知り合う事なんて、今まで一度も無かった。それも皆、美人や美少女で……何となくだけど、居心地が悪かった。

 僕はここに居て良いのだろうか。邪魔ではないだろうか、なんて。

 ついそんな事を考えてしまう。

 考え過ぎだろうか。

 

「どうしたの?」

 

 どうやら僕は歩みを止めていたらしく、僕の背中を押していた渡辺さんが、顔を下から覗き込んでいた。

 

「……な、何でもないですよ。待ってますし、行きましょう」

 

 笑顔を作り、今度は僕が渡辺さんの背中を押した。

 

 

 

 

パラソルの下、海の家によくある白いプラスチックのイスとテーブル。僕ら三人はそこに腰掛けて、せっせと酸素ボンベを運び、バルブを閉める彼女を見る。

 

「遅かったね。今日は入学式だけでしょ?」

 彼女は振り返り、確認するように千歌さんに問い掛けた。

 

「うん…それがいろいろと……後、はい! 回覧板とお母さんから」

 

 鞄から取り出した回覧板と袋を手渡して、それを受け取り中身を見ずに彼女は一言。

 

「どうせまたみかんでしょ?」

 

 どうやら毎度同じ中身らしい。

 

「むー、文句ならお母さんに言ってよ!」

 頬を膨らませ、抗議する千歌さん。

 

 

「ふふっ……よっ、と」

 会話の合間にも作業の手を止めることなく、一つ、また一つとボンベを運ぶ。

 一段落したようで、額の汗を拭い空いた席に腰を下ろした。

 

「ふぅ……。それで、君は?」

 

 目が合い一瞬、心臓が高鳴りを覚える。

 真っ直ぐで綺麗な瞳は、僕の瞳を捉えて離さなかった。

 

「彼は春太くん。こっちに越して来て、今は私の家に居るんだ。えーっと……居候? って言うのかな?」

 

 説明を代弁してくれた千歌さんだったが、居候という言葉が合ってるのか僕に確認を求めてきた。

 

「それで合ってますよ」

「へぇ、そうなんだ。その制服、ここらじゃ見ないけど……前の学校の?」

「いえ、これは浦の星女学院の男性用制服……みたいです」

 

 目を白黒させ、ポカーンと口を開く果南さん。

「……えっと。え、つまりどういうこと?」

 

 状況がいまいち飲み込めないようで、首を傾げていた果南さんにこの経緯をかいつまんで説明をした。

 

「それは……凄いね。流石に私もビックリしたよ。でも、大丈夫なの? 周りみんな女の子だけど」

 

「まぁ、大丈夫ですよ」

 

 環境は今までと違うけど、僕の立ち位置はいつも同じ。目立たないようひっそりと。

 だから、周りが女子だけだとしても変わらない。

 最初は目立つけど、きっと徐々に忘れて行くはずだ。

 これまでだって、そうだったのだから。 

 

「そっか。ま、何か困ったことがあったら頼りな? 私も千歌も、曜もいることだし」

「……は、はい。その時は」

 

 うんうん、と頷く千歌さんと渡辺さん。

「友達同士、助け合うのが一番だよ!」

 

 ──友達か。その響きが何だか懐かしく感じられた。

 転校ばかりする前は、彼女達のように友達同士で笑い合って、時には喧嘩もしたりして……その上、助け合う事は当たり前、なんて関係を僕も築いていたんだ。

 

 今となっては、そんな関係に興味も沸かない。

 どうせ消えてなくなる。だからそうなる前に冷たく突き放すべきなんだ。

 けど……。

 

「……そう、ですね」

 友達じゃない、と。言うことが出来なかった。

 どうして? 嫌われたくないから?

 ……分からない。何でだろう。

 

「あ、そうだ、果南ちゃんは新学期から学校来れそう?」

 ふと、思い出したように千歌さんが果南さんに問い掛けた。

 

「うーん。まだ家の手伝いも結構あってね……父さんの骨折ももうちょっと掛かりそうだし……」

 

 果南さんも色々と大変そうだ。

 

「そっかぁ……果南ちゃんも誘いたかったな……」

 遠い目をして、背もたれにもたれ掛かる。

 

 

「誘う、って?」

 興味ありげに千歌さんを見て、返答を待つ果南さん。

 僕と渡辺さんは、その間千歌さんの鞄に入っていたみかんを分けて食べていた。

 

 寿太郎みかん、だったよな。

 絶妙に甘くて旨い。これなら何個でもいけそうだ。 

 

 

「うん!私ね、スクールアイドルやるんだ!」

 

 スクールアイドル。その単語を聞いた途端、僅かながらに表情が変わった。

 様々な感情が入り混じった、どことなく複雑な表情に。

 

「へぇ……。まあ……でも私は千歌たちと違って三年生だしね……」

 すると果南さんは立ち上がり、何かを取りに行った。

 

「知ってる?すっごいんだよ!」

 その表情の変化に気付かなかったようで、千歌さんは話を続けようと立ち上がるが──

 

「はい!お返し!」

 言葉を遮るように顔に干物を押し付けられ、嫌そうな顔をしていた。

 

「うぅ……また干物……」

どうやら干物も毎度同じらしい。

 

「文句はお母さんに言ってよ。ふふっ……ま、そういうわけで、もうちょっと休学続くから、学校で何かあったら教えて!」

 

 強引に話を打ち切ると、ふと上の方から大きな音──ヘリのプロペラの音が聞こえてきた。

 

 その音に釣られて、皆が一斉に空を見る。

 

「あれ、なんだろう……?」

 濃いピンクと、白のカラーが特徴的なそのヘリ。

 

 果南さんは一人、神妙な面持ちで一言。

 

「……小原家でしょ」

 

 その言葉に含まれている感情。それは分からないが、少なくとも良い感情ではなさそうだった。

 

 




すいません、やっぱり後一話続きます……
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